ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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政治の時間

 

 

 

 正直言うとな、徹底抗戦されると思ったんだよ。

 

 トリニティの兵隊なんてまだまだ幾らでも居たしな。

 つーか、それが普通だろ?

 俺らがトリニティに同じことされたら徹底抗戦するだろうしな。

 

 それについて総長に後で聞いたんだが。

 

「時期が悪かった」

「時期?」

「我々は丁度、次代への政権を移行する手続きの最中だった。

 その政治的ないざこざの上で、お前が生徒会室に立てこもって、あいつを人質にでもされたら面倒だ。

 要するに、損切だ。さっさと負けを認めてパニックを収めたい。混乱が広がればそれだけ、学園の運営に支障をきたす。

 少数による電撃戦で正面突破なんて、我々も想定していなかった。良い教訓を得たよ」

 

 つまり、これぐらいで心の底から負けたとは思ってないってことだろう。

 戦術と戦略の違いって奴なんじゃねえのか、知らねえけど。

 

「それなら、油断させて囲んでボコればいいじゃねえか」

「喉元にまで迫られたのは事実だ。

 本陣強襲は立派な戦術だよ。我々は一時間足らずで生徒会室を落とされた。

 それを陽動と考え、各部隊に指示を送る必要もあった。宣戦布告の事実を万魔殿に確認する必要もな。

 正義実現委員会を直接指揮できる私でも対応できなかったんだ。歴代の誰もが対応できなかっただろう。

 まったく、正門から本校舎まで組織的な抵抗が全くできなかったのは大問題だ。訓練計画から何までやり直しだ」

「俺の宣戦布告はハスミに報告されてたんじゃなかったのか?」

「その手の悪戯が日に何十件もあるんだよ、トリニティには」

 

 総長は疲れた顔をしてそう言った。

 

「俺のはイタズラじゃねえよ」

「ああ、だから体制の見直しを迫られたよ、ありがとう!!」

「どういたしまして」

 

 とまあ、あとでそんな話をしたんだよ。

 やっぱ頭良い奴は色々考えてんだな。

 トリニティじゃ手続きが大事だって言ってたし、総長の動きはマジでトリニティじゃ早い方だったんだとよ。

 

 

 生徒会室を落とした俺とお嬢は、放送室で両陣営に戦闘の終了を告げた。

 

 正門前じゃハルナの連れてきた援軍と、正義実現委員会が睨み合っててな。

 俺とお嬢はそいつらの前に出て、喧嘩は終わったと直接宣言したんだ。

 

 歓声に湧き上がる俺らゲヘナ生。

 悲嘆と途方に暮れるトリニティ生。

 

 俺は言った。

 

「お前ら、テッペン取ったぞ!!」

 

 そう言うと、仲間たちが俺の周りに群がって胴上げを始めた。

 それが終わった頃になって、救護騎士団が駆けつけて来たんだ。

 

 その後、ちょっと困ったことになった。

 

「なあ、マコトパイセンは? 政治はあいつの領分だろ?」

「それが、さっき救急医療部に搬送されていきました」

「えー、マジかよ。それじゃあ誰が政治をやるんだよ」

 

 後始末をマコちゃんがやるもんだと思ってた俺は、腕を組んで悩んでしまった。

 

「ミコトさん、あなたがやればよろしいのでは?」

 

 そこで、ハルナがそんなことを言いやがった。

 

「俺が?」

「ええ、演説をして、勝利した我々ゲヘナの振る舞いを伝えるのです」

 

 つまり今後どうするかってそう言う話だった。

 まあそれぐらいなら俺でも大丈夫かなって思ったのよ。

 

 この時、ハルナは勘違いしてたんだが。

 あいつ、俺が万魔殿の一員だって思ってたんだよ。今回のカチコミを主導してたからな。

 色々あったから、まだ俺に万魔殿の制服が届いてないって、勝手に解釈してたんだ。

 

「んじゃあ、ちゅうもーく!!」

 

 正門から本校舎への間に、デカい噴水があるだろ?

 俺はそこの淵に立って、集められた生徒共に呼びかけた。

 

 戦闘が終わったからって、素直に集まった奴ばかりじゃなかった。

 当然だよな、俺ら不良だし。遠目から不安そうに見てる奴もいっぱいいた。

 

「今日からトリニティの自治区は俺らの縄張りになった!!

 遊んだり食い歩きにくっから、よろしくぅ~」

 

 トリニティの連中はなにそれって顔してたが、ゲヘナの仲間は沸き上がった。

 これはハルナとの約束でな。

 トリニティを〆たらトリニティの内部を歩けるようにしてくれって。

 

「あー、そういや、俺らが歩くと治安が下がるんだっけ?

 じゃあ何か俺らの仲間が馬鹿なことをしたら、俺に言えよな!!

 俺がそいつを〆っから。お前ら、調子こいてメーワクかけんじゃねーぞ。それで文句ねえよな?

 あと、そーだな、何を言えば良いんだ?」

 

 他に何を言うか迷ってると。

 

「今後のトリニティとの関係性についてなど如何でしょう」

 

 インテリのハルナが助け舟を出してくれたんだよ。

 

「ああ、そうだ!!

 なあお前ら、トリニティの連中はどうだった!?」

 

 俺はトリニティの連中と一緒に演説を聞いている仲間たちに聞いた。

 

「誰だよ、ひ弱なお嬢様ばかりだって。めっちゃ強かったじゃねえか!!」

 

 俺の仲間たちは何を言いたいのかわからないようだった。

 

「パイセン達はトリニティの連中なんてお茶を飲んでうふふおほほって笑ってるようなつまんない奴らって言ってたが、実際はどうだ?

 今日戦った正義実現委員会の奴らなんてスゲー気合入ってた。

 なんでどっちもお互いに見下してんだ?

 俺はどっちの学校の奴らもスゲー奴らだと思った。

 俺らとこいつらが同格だってのはマジだったんだよ!!」

 

 俺は今日の喧嘩が楽しくて楽しくて、思わず早口でそう言っちまった。

 

「俺はこいつらをリスペクトするぞ!!

 俺は誰も見下さない!! 相手を下に見た瞬間、向上心を失うからだ!!

 だから俺は俺と戦った相手をダチにする!!

 トリニティの連中は俺のダチだ、俺達はテッペンを取ったが、それは上下関係じゃねえ!!

 お前ら、何かあったら俺を呼べよ!! 俺の仲間と一緒に、お前らを守ってやる!!」

 

 トリニティの連中はみんなポカンとしてたのは見物だったぜ。

 俺の仲間はわいわい騒いでたがよ。

 

「それは同盟ということでしょうか?」

「おう、多分それだ」

 

 俺の言いたいことをハルナが言語化してくれたんだ。

 

「ど、同盟ですって? そんなの、貴女が居る間しか守られる保証はないではないですか!?」

 

 すると、俺の近くに居たお嬢がそう言った。

 俺はこう答えた。

 

「それでいいじゃねえか」

「なんですって?」

「俺が卒業した後にテッペン取りたいって言うなら、そうすればいい。

 そんなダサい頂上で良いなら、そうすりゃいい」

「そんなの、もはや同盟とすら言えませんわ……」

「んじゃ、違う名目にすりゃいいだろ。元々無いもんだったんだから、あるだけ儲けもんだろうが」

 

 そんな行き当たりばったりな、とお嬢は呻いた。

 

「……まあ良いじゃないか、我が盟友よ。

 同盟と言うのは期限付きの方が守るようにお互いに努力するものだ」

 

 すると、歴女がやってきてそう言った。

 

「しかし……」

「元々存在しない物を得られたんだ。負け戦にしては重畳だろう。

 それに、我々も変わるべきだろう。でなければ……」

 

 そう言って、歴女は俺を見た。

 

「この嵐を、我々は乗り切れない」

「……道理ですわね」

 

 こうして、ゲヘナはトリニティとダチになった。

 

 ──……だがよ、この後が最高に面白かったんだ。

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

 ある日、元補習授業部の四人は某自治区で取り行われるペロロライブに来ていた。

 熱烈に他の三人を誘うヒフミの熱意に折れた形である。

 

「開演まであとどれくらいでしょうか!!」

「あと三十分ほどですね」

 

 スマホを見ながらハナコがヒフミに答えた。

 彼女は『ペロロ様LOVE』と書かれたタスキに団扇まで完備し、開演前だと言うのに目を輝かせている。

 

「はあ、私ったら正義実現委員会の仕事を休んでまで何しに来たんだろう……」

「そう言うな、コハル。こうして来た以上、楽しまない理由は無いはずだ」

「その楽しみを見出せないのよ……」

 

 完全に巻き添えのコハルは、アズサを見やる。

 彼女はスカルマンを模したフードを被り、ウェーブキャットのぬいぐるみを首に巻いて完全にエンジョイしていた。

 

「まあまあコハルちゃん、こうしてせっかく一緒に来たんです。

 一緒に全身が火照ってしまうまで盛り上がらなければ損ですよ」

「ほ、火照るってなにするつもりよ!!」

「うふふ」

 

 過剰に反応するコハルの表情を楽しみながら、ハナコは彼女にペンライトを渡した。

 

「あうう、あと三十分が長いです」

「では何か世間話でもして時間を潰そう」

 

 そう言えば、とアズサは言った。

 

「最近はアリウス分校の皆の受け入れが進んでいるらしいな」

「そうですね。皆さん、基礎教育から始めていくそうですよ」

「徐々に受け入れていけるといいですね」

 

 と、ヒフミとハナコが応じた。

 

「たしかアリウスの解放には先生以外にも、かの死神が関わっていたらしいな。

 彼女が、マダムを……」

 

 アズサは仮にも育ての親だった大人の末路に、感慨を見せたが。

 

「どうした、三人共」

 

 その話題になった瞬間、三人の表情が引きつったのをアズサは見た。

 

「あの方、逢坂ミコトさんですよね」

「ああ、そう言う名前らしいな」

「あ、あはは……すごい方ですよね」

「ああ。我々があの合宿所で防衛線を敷いた時、彼女も暗殺しろと別動隊が動いていたくらいだからな」

 

 あの大人、ゲマトリアのベアトリーチェが名指しで始末しろと指令を送った相手。

 彼女はそれで自らの首を絞めた。彼女の関心を、買ってしまったのだから。

 

「どうせ全滅したんでしょ、その別動隊やらは」

「そうらしいな」

「そうでしょうね。あいつに私達トリニティは去年も、おととしも、煮え湯を飲まされたんだから」

「そうなのか?」

 

 無垢にアズサは首を傾げた。

 

「おととしのあの日、私は本校舎に居たの。クラスの提出物を届けに行った帰りに、ゲヘナの連中が襲撃してきたのよ」

「ああ、コハルちゃん、あの場に居たんですか。それは、お気の毒に……」

 

 ハナコが不憫そうにコハルを見やる。

 

「私は遠くの分校舎で授業を受けていたので、教室に待機していましたが……」

「私もです。本校舎から中等部の校舎は離れてますし」

「なるほど、まさに伝説の瞬間を目撃したわけだな」

 

 どこがよ、とコハルはアズサの反応に対して吐き捨てるようにそう言った。

 

「あいつ、私達を一方的に襲撃しておいて、私達を友ダチだとか言い始めたのよ!!」

「それはポピュラーな展開ではないのか?

 先日読んだ週刊誌のマンガには、喧嘩の後はライバル同士は仲間になっていたが」

「普通、そう言うのは頭がおかしい奴なのよ!!」

 

 そうなのか、とアズサは他の二人に意見を求める。

 しかし、ヒフミとハナコも曖昧に笑うだけだった。

 

「で、でもッ」

「でも?」

「本当に頭がおかしいのは、その後だった……」

 

 コハルは未だに脳裏に焼き付いて離れない。

 あの時の、あの光景を。

 

 

 

 

 

 私は事態が理解できなかった。

 今より幼かったし、ゲヘナの連中が突然来て怖かったし。

 

 それに襲撃に巻き込まれて、銃弾を受けた額がじんじんって痛かったし。

 その時はただ、集められた噴水の前で怯えているしかできなかった。

 ただ同盟だとかなんだとか、偉い人の話が終わったのは理解できた。

 

 少なくとも、あいつはこれ以上の悪さをするつもりは無い、それだけは私にもわかったんだけど。

 

「ふざけないでくださいまし、何がダチよ!! そんな言葉で私達が絆されるとお思いですか!!」

「そうですわよ、野蛮なゲヘナの分際で!!」

 

 突然そんな声が上がったの。

 正直言うと、びっくりしたわ。

 だってすぐ真横にゲヘナの人達が居るのよ?

 戦いになるかもしれないし、逆上されるかもしれないじゃない。

 せっかく、話がまとまりかけたのに。

 

「生徒会長!! 各部隊は集結しつつあります!!

 やはり今すぐゲヘナの連中を追い出しましょう!!」

 

 それを言ったのは、多分制服からして生徒会の人だと思う。

 

「お止めなさい!! 何のためにわたくしが苦渋を飲んだと!!」

 

 その時の生徒会長様が声を挙げても、ダメそうだった。

 ここに居た殆ど全員が、そうだそうだ、と声を挙げ始めたの。

 

「お、なんだ、やんのか?」

「おもしれぇ、私達はまだ暴れ足りないんだ!!」

「やっちゃいましょうよ、ミコトさん!!」

 

 案の定、ゲヘナの連中は殺気立った。

 

 

「……そうか、そうなのか」

 

 でも、あいつは違ったのよ。

 

「わかった。わかったぞ、これはおもてなしって奴だな?」

「ミコトさん?」

「知ってるぞ」

 

 そいつは、笑ってた。

 

「そんなにもお前たちは、──俺を愛しているんだな!!」

 

 瞳孔が開いてた。

 歯茎をむき出しにしながら、チャシャネコみたいに唇を釣り上げて。

 あいつの端正な顔立ちが台無しになるような、気持ち悪い笑顔だった。

 

 トリニティの皆も、ゲヘナの連中も、絶句してた。

 

「知ってるぞ、知ってるぞ!!

 お前達は、隣人に愛を与えるんだろ!?

 だから俺の大好きな、大好きで大好きで大好きで仕方ない、戦いを与えてくれるんだろう!!

 そうか、だからか!! ゲヘナはトリニティの隣人!!

 だからお前らはこんなにも昔から俺達に愛を与えようとしていたんだな!!

 ようやく分かった、お前たちは見下してたんじゃない、俺達を愛そうとしてたんだな!!

 わかった、わかった、わかったぞ、俺もお前たちが大好きだ!! 愛してやる、愛してやるぞ!!」

 

 ……狂気だったわ。

 

「明日から、いやこの後からずっと、ずっと、寝る間も惜しんでお前達に戦いを挑んでやるよ!!

 お前達が眠る暇もないほど、俺はお前達を愛してやる!!

 毎日毎日爆弾を用意して、毎日毎日戦える奴も戦えない奴も関係無く襲ってやるよ!!

 だって俺がしてくれると嬉しいことをしてくれるんだよな!! それがお前らの愛なんだろ!!

 どうしたらこの愛をお前達に返せるだろうか!!

 ああ、そうだ、良いこと思いついた!!」

 

 ……あいつは、おもむろに生徒会長様の羽根を毟ったのよ。

 

「ちょうど、お気に入りの枕がくたびれてたところなんだ。

 お前達の羽根を毟って、枕に詰めて毎日抱きしめて寝てやろう!!

 どうせまた生えてくるからいいよな!! 全員だ、全員!!

 トリニティの生徒の全員の羽根を詰めて、枕にしてやる、毛布にしてやる、布団にしてやる!!」

 

 それは、その内傷は塞がるから皮膚を剥いでも良いよなって言ってるのと同じだった。

 私は思わず、自分の羽根を抱きしめた。

 それは他の皆も同じだった。ゲヘナの子もそうだった。

 

「そうか、だからか、だからあいつはあんなになるまで俺と戦ってくれたのか!! あれは俺を愛そうとしてくれたのか!!

 俺もお前達を愛するぞ!! あいつにそうしたように、両手両足の骨を折って、動けなくなるまで銃弾を浴びせ、気絶するまで殴って蹴ってやる!!

 俺の愛は無限だぞ!! お前たちが大好きなように、俺も戦い続けるぞ!!」

 

 あいつが、噴水の淵から降りた。

 全員が、後退った。

 

「さあ、誰だ、誰から俺に愛されたいんだ!! 誰から俺を愛してくれるんだ!!」

 

 あいつが、一歩足を踏み出す。

 

 皆、腰を抜かしてた。

 あいつは、私達が理解できないバケモノなのよ。

 

 私達は、そんな化け物をトリニティに解き放とうとしてしまったの。

 

 でも、その時だった。

 

「私がやります」

 

 その場に、救護騎士団の制服を着た人が、現れたの。

 

「私が、あなたを救護(あい)します」

 

 そう、まだ一年生の頃の、ミネ団長だったわ。

 

 

 

 

 

 

 




トリカス、迫真の逆効果。

トリカスムーブが通用したのはミカが優しかったからってハッキリわかんだね。

あと、まさかこんなに高評価とお気に入りが増えるなんて予想外です!!
嬉しいからもっと書きます、応援よろしくお願いします!! 感想とか全部丁寧にお返しします!!
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