作者が忘れないように、二年生編のやるべきエピソードをここに記しておきます。
・便利屋結成
・清楚な頃のハナコ
・ミコトの会社経営?
・黒服の実験
うん、当初は心配していた二年生編のボリュームも書き起こしてみれば大丈夫そうですね!!
今回は過去編に戻ろうかと思いましたが、イベントを片付けた方がいいかと思ったので、そっちにしました。
それでは本編どうぞ!!
06:感謝の気持ち
アズサ達、アリウスの生徒達は戦場を転々とし奮戦した。
「うわー、逃げろー!!」
「あいつら、強いよッ!!」
「正義実現委員会かも、撤退だ撤退!!」
この演習に、被弾についての制限はない。
サバイバルゲームとかならば、被弾したなら脱落したりするものだが、ここはキヴォトス。
実弾は痛くても、致命傷にはならない。
ペイント弾なんて、雪合戦の雪玉みたいなものだ。
しかし、この演習で被弾に限界が無くても、弾薬には限界がある。
一般的に、アサルトライフルを主兵装にする歩兵が携行する弾薬は、200発前後とされる。だがキヴォトスの生徒はそれより少ないだろう。
自販機やコンビニで缶ジュース感覚で弾薬が補充できるキヴォトスでは自衛以上の弾薬は重りにしかならない。
数人で銃撃戦をしていたら、誰かがコンビニに駆けこんで弾を買ってくればいいのだから。
この演習はそう言うところでバランスを取っているらしく、ペイント弾を撃ち尽くしたらその生徒は何もできなくなる。
勿論、ペイント弾なんて特殊な弾薬はホームセンターやガンショップなどにしか売っていないだろう。少なくとも、自販機には売っていないだろう。
なので、ペイント弾を撃ち尽くしたら逃げるしかない。実弾の使用は厳禁なのだ。
しかもゲヘナの生徒はそこらの壁や生徒に撃ちまくって浪費している。
つまり、効果的な作戦行動は敵兵の撃破ではなく、補給基地の破壊や補給線の寸断である。
この演習は一種の陣取りゲームの要素もあり、ゲヘナ側は侵攻状態に応じて弾薬の補給所を用意することになる。
ゲヘナ生はそこから弾薬を取りに行って、前進する形なのだ。
防衛側のトリニティはそれらを奪取することで、ゲヘナの進行を食い止めることになる。
しかしそれらを考えるのはもっぱら、お互いの武力組織である。
特に役職の無いアリウスの面々は、救援に回っていた。
「いけ、捕らえろ!!」
「逃がすな!!」
被弾に対した意味は無くても、銃撃戦が身体に染みついているのがキヴォトスの生徒。遮蔽物に隠れて律儀に撃ち合っている。
たまに目立ちたいのか特攻をする生徒も居るが、そんな輩はこちらも前に出て拘束すれば良いだけの話である。
アリウスの生徒達は相手に弾薬を浪費させる消耗戦を強いて、撤退したところを後ろから強襲する戦術を取って、戦果を挙げていた。
「よし、捕まえた!!」
「うわーん、捕まったぁ」
アリウス生が、ゲヘナ生を捕まえた。
そのまま彼女は流れるように首に腕を回した。
このまま気道を圧迫すれば、ゲヘナ生は死ぬだろう。
しかし、アリウス生はハッとしてゲヘナ生を放した。
アリウス分校で叩き込まれた殺人術。
如何にヘイローがあろうとも、生徒を殺す方法が頭をよぎったのだ。
「くっそぉ、あなた強いね!! はい、手錠」
「……」
負けを認めたゲヘナ生は、あっさりと両手を差し出した。
「……残念だが、こちらの用意していた結束バンドが尽きた。見逃すしかない」
「えー、ラッキー!! それじゃあ、また遊ぼうね!!」
その光景を見ていたアズサがそう言うと、ゲヘナ生は笑顔のまま立ち去った。
結束バンドを切らしたのは本当だ。
多めに五百人分貰っていた結束バンドが、多少戦闘で紛失したりしても全てを使い果たした。
この近くの牢獄エリアはゲヘナ生でぎゅうぎゅう詰めだった。
普通に大戦果であった。
これまで戦う相手が悪かっただけで、彼女達はただの道中の雑魚キャラではない証左だった。
だが、歓喜は無かった。
「なあ、アズサ」
「どうした。ノッチ」
「本当に、私達はトリニティに居場所はあるんだろうか」
アズサが愛称で呼んだアリウス生は、ガスマスクを下ろした。
トリニティに来てから、ずっと不安そうにしていた彼女達。
でも、彼女の表情はその中でも最たるものだった。
「ならば、価値を示すしかない。今回の演習は、いい機会だと思う」
「そうかもな……」
彼女はガスマスクを被り直して、頷いた。
後退するゲヘナ生の追撃に出ていた面々が戻ると、休戦タイムになっていた。
未だ財産と呼べるものを持っていないアリウス生たちは、大聖堂での炊き出しを貰うことになる。
これは防衛線に参加した全員を対象としたもので、彼女達が特別というわけではなかった。
「あ、アリウスの人達だ!!」
「すごかったね、大活躍だって聞いたよ!!」
そこに集まっていた生徒達が、アリウスの面々をみてそんなことを言い始めた。
「私も見てたよ!! こっちも助けてもらったし、ほんと助かったよぉ」
「ホントホント、ゲヘナの奴らってば容赦がないからね」
「正義実現委員会もあの死神の相手に大半の戦力を割いてるからさ、こっちが割を食うんだよね」
トリニティの生徒達からの、無垢な笑顔と感謝。
それが余計に、彼女達の疎外感を抱かせるのだ。
住む世界が違ったのだ。
嬉しさよりも遠慮が先に来る。彼女達を害する為に磨いた暴力を、他ならぬ彼女達に称えられる。
居た堪れないとはこのことだった。
何も知らないくせに彼女達を憎んで、それを拠り所にしてきたくせに今度は彼女達に頼って暮らしている。
まともに勉強なんてしてこなかった彼女達が、同じ教室で勉強できるはずもない。
まともな交流なんて無かった。
いや、彼女達と交流すればするほど、自分達の罪が浮き彫りになる。
彼女達はようやく、自分達から袂を分かったかつての同胞の気持ちを理解できたのだ。
「ねえねえ、今度は私達と一緒に戦おうよ!!」
「あ、ズルい!! ねえ、私達と一緒に打って出ようよ!!」
クラス単位だったり、部活単位だったり、或いは仲良しグループだったりから彼女達は引っ張りだこだった。
日頃から訓練をしているわけでもない彼女達は、文字通り銃を撃てるだけの生徒達だった。
先生が指揮でもしなければまともな戦力にもならない数合わせだ。
彼女達はトリニティに来てそれを実感した。
あのコハルでさえ、この中では一兵卒なのである。
だから彼女達が戸惑っていると。
「“大活躍みたいだね、アズサ”」
「ああ、先生。無事だったか」
唯一、どう行動するべきか悩んでいたアズサに、先生が戻って来て声を掛けた。
一応顔のラクガキは何とか落としてきたらしい。
「“とりあえず、これからどうするか考えようか”」
先生は居心地の悪そうにしているアリウス生たちを見て、そう言った。
07:ビースト降臨!?
「先生、皆に友達ができるにはどうすればいいだろうか」
先生と防衛線に戻りつつ、アズサはそう言った。
「私が補習授業部で皆と共に困難を乗り越えたように、彼女達もきっと友達が出来れば私と同じように前を向けると思うんだ」
「“アズサらしいね”」
「その為にも、もっと多くの戦果が必要だろう。
しかし、我々の力を何よりも恐れているのは我々だった」
アズサは、先ほどの光景を思い出し独白する。
「“どんな力でも、正しいことに使えば、きっと認められるよ。みんなも、自分達も”」
先生は、アビドスでの経験を思い返しそう言った。
「正しいこと、か」
アズサが思案に耽っていると、先生は言った。
「“さっき、ミコトに会ったんだけどね”」
「あの死神に?」
先生は、頷いてその時の事を話した。
「ツルギの奴、更に腕を上げてやがった。
次こそタイマンで決着付けてやる」
「じゃあ、お邪魔虫をこちらに引き付けるわ。ミコトは安心して心行くまで戦えばいいわ」
「おう、任せたわ」
先生は、ミコトと一緒にユエの用意した重箱のお弁当を食べていた。
「“ねえ……ミコト”」
「何だ、先生」
「“もし君が窮地に陥った友達二人の、どちらか片方しか助けられないという状況に置かれたらどうする?”」
「簡単な文章問題だな」
どこか気落ちしている先生の問いを、ミコトは鼻で笑った。
「敵が強い方に俺が向かう。そうじゃない方はダチを呼んで手伝わせる。100点満点の回答だな」
「“……うん、そうだね”」
「急になんでそんな問題を出すんだ?」
「ミコト。先生には大人のしがらみと言う奴があるのよ。大人になる、年を取るのは不自由になるってことなのよ」
「ふーん、でも先生って世間じゃ勝ち組ってことになるんだろ? じゃあ先生より自由な俺の方が勝ってるってことじゃねーか?」
「そうかもね」
ミコトの暴論にユエは適当に頷いた。
「“いや、本当にミコトには敵わないよ”」
「先生、悩んだらダチに頼れば良いんだよ。あんたには生徒が幾らでもいるだろうが。
頭脳労働ならリオに丸投げすれば大体解決するしよ」
「ミコトは何もしないじゃない」
「なに言ってやがる。俺は敵をぶっ潰す担当だろうが。分業は社会の発展の基本だぜ」
そう言って、ミコトは笑った。
「悩んだら友達に頼る、か」
「“アズサにも心強い友達がいるよね?”」
先生の言葉に、アズサもハッとなった。
「そうか。そんな簡単な事だったんだな……」
アズサの得た気づき。それを見計らったように。
「アズサ、ここに居たのね!!」
「その声は、コハルか?」
雨合羽にガスマスクを付けた正義実現委員会の戦力の一部が、こちらに合流したのだ。
「ゲヘナ側が戦略兵器を投入するってリークがあったの!!
戦力をこっちに集中するようにって。対象には実弾の使用も許可されたわ!!」
「実弾の使用許可される、戦略兵器だって!?」
「“ヒナでも来るのかな……”」
「いや、ゲヘナの風紀委員会はあくまで自治区の風紀を維持する組織。
だから基本的に風紀委員会が参加していないはずだ」
とにかく、実弾の使用が許可されたとのことで、各々携帯している銃弾を装填していると。
「コハルちゃん、アズサちゃん!!」
「こちらも援軍に来ましたよ」
「ヒフミに、ハナコまで。これは心強いな」
ついには校内の中央広場を一般生徒の戦力の大半が集結していた。
それとほぼ同時に、休戦タイムが終わる。
ゲヘナ生たちが、一斉にわらわらと現れ始めた。
「やはり、先に雑兵を差し向けてきましたね。それとも戦略兵器の情報は、こちらをかく乱させる為のブラフでしょうか?」
「“みんな、彼女達をお願い!!”」
生徒相手に実弾はNGである。
戦略兵器の相手なんて一般生徒にさせられないので、彼女達はペイント弾でゲヘナ生を迎え撃つ。
指揮を行う先生の横で、ハナコが相手の出方を考えていると。
戦場に、ヘリコプターの音が聞こえた。
それは、巨大なコンテナを吊り下げていた。
両者の戦場の真ん中に、コンテナが投下された。
それを見たゲヘナ生たちが、歓喜の声を挙げた。
「ついに来たぞ!! トリニティめ。ゲヘナの恐怖を思い知れ!!」
「怪物だ、怪物が来たぞ!!」
がたん、とコンテナの扉が吹き飛び、中から異形の怪物が現れる。
毒々しい紫色の肌、緑色の粘液をまとった七本の触手を持つ怪物。
「ぱ、パンケーキのオバケですわ!!」
トリニティの生徒がその怪物を見て叫び声をあげた。
「“えぇ……”」
見覚えのある怪物に、先生は遠い目になった。
「ふふふ、先生。この子はタダのパンケーキのモンスターではありませんよ」
「“タダのパンケーキのモンスターって……パワーワードすぎる”」
咆哮? を挙げる怪物の横に、ユエが現われてそう言った。
「この子はタナトス。カイザー傘下の製薬会社とゲマトリアと私のインスピレーションで調剤したゾンビパウダーを配合したパンケーキミックスを、何も知らないジュリさんに調理させた不死のモンスターなのです!!」
「“タナトスって、語感がアウト過ぎる……”」
「この子はスターz、じゃなくて、補習授業部を狙うようにインプットされているのです」
「“やっぱりアウト、アウトだよ!!”」
「行きなさい、ネメし──じゃなかった、タナトス!!」
「“せめてもうちょっと取り繕って!!”」
タナトスの触手が伸びる。
迎撃を行うアリウス生や正義実現委員会の銃弾を物ともせず、ひょいとコハルの腰に触手が巻き付いた。
「きゃ、きゃああぁぁぁ!! 助けてええ!!」
「コハルちゃん!!」
触手で空中に持ち上げられたコハルに、ヒフミが声を挙げるが。
タナトスの触手は、ひょいひょい、とコハルのガスマスクや雨合羽を外した。
「え、え、なにを──ぎゃあ!?」
そしてなぜか怪物は粘液を飛ばして、コハルを粘液塗れにした。
「な、なにこれぇ、べたべたしてる、気持ち悪い……」
「なるほど、コハルさんはこの手のシチュエーションは守備範囲外、と。しかし、これはこれで需要がありますね」
緑色のシロップ塗れになっているコハルを暢気に撮影しているユエ。
「な、なんてことを、コハルちゃんの貞操が触手に!!」
「次は貴女です」
「え、きゃ、きゃあ!!」
今度はハナコが触手に捕まった。
「せ、先生、お願いです、助けてください──きゃあ!!」
すかさずタナトスはハナコをシロップ塗れにした。
「まるで破瓜を目の前にした生娘のような可愛らしい悲鳴ですね。ハナコさんが実際にエロい目にあったらどのような反応をするか。長年の疑問の解が得られました」
ユエはまるでゲマトリアの連中みたいな謎の探求結果に満足げに頷いた。
ゲヘナ生はそんな彼女らの痴態に大笑いし、トリニティ生は慄いていた。
「え、こ、これって、エッチなことなの!? 止めて、放して、このエロ触手!!」
「せ、せめて、コハルちゃんは許してあげてください……」
じたばたするコハルに、諦めて半泣きになっているハナコ。
先生もちょっとグッと来たのは内緒である。
「“ユエ、彼女達を放して!!”」
「……えい☆」
ユエの指示に、タナトスは従った。
まだ五本もある触手の一つを、先生に差し向けたのである。
「“え、な、なんで私まで!?”」
「先生。とりあえず先生と言うだけでキヴォトスの生徒には需要のあるコンテンツなのですよ」
「“た、助けて、みんな!!”」
先生がシロップを丁寧に塗りたくられている様子を、愉悦の笑みでユエは撮影している。
「マズい、先生や二人を取り戻すんだ!!」
「はい、これ以上はなんだかその、青少年の何らかが危ないので!!」
アズサとヒフミは各々決意を胸に、パンケーキの怪物に戦いを挑む。
「先生、そこからでいいから指揮を頼む!!」
「“な、なんとかやってみる!!”」
こうして、至上最も下らないバトルパートが始まった。
「や、やったか?」
バトルパートが終わり、タナトスが沈黙する。
三人はシロップ塗れになった床から這い出てきた。
「“ゆ、ユエ、お、お説教だよ……”」
「まあ。生徒達を震えあがらせる先生のお説教がどんな内容か、実は気になっていたのですよ」
こいつ無敵か、と周囲は思った。
「とはいえ、此度のわたくしめはヴィラン。
──タナトス、いつまで寝ているのですか?」
すると、ぐったりと沈黙していたパンケーキの怪物が身体を震わせ、起き上がる。
「そんな、倒したはずなのに!!」
「言ったはずです。タナトスは不死のモンスターだと」
驚愕するアズサに、ユエはその表情を撮影しながらそう言った。
「しかもまだ、タナトスは第二形態を残しているのです」
「だ、第二形態!?」
「ここに何も知らなかったジュリさんが作ったホイップクリームがあります」
「“ジュリ……”」
「これをほい、っと」
慄くヒフミたちを他所に、ユエはタナトスの最上段にホイップクリームを投げ入れた。
すると、何だか物理的な質量を無視して、ホイップクリームが泡立ちとぐろを巻くように膨れ上がったではないか。
それはまるで、王冠のような威容を示した。
タナトス第二形態が、身体を震わす。
「あ、危ない!!」
ヒフミが呆気に取られるアズサを突き飛ばした。
彼女は飛来してきた白くべたつくクリームの餌食になった。
とんでもない量のクリーム攻撃に、トリニティの生徒たちは次々とホイップ塗れになった。
「び、ビーストですわ。黙示録の獣が現れたんですの!!」
「七つのツノに王冠……聖典に記された竜だ!! ……竜?」
なんかちょっと違う気もするが、トリニティの生徒達は不死身にして難攻不落の怪物に暴虐に成す術はなかった。
「よ、よくもヒフミを!! 私が処刑してやる、このエロモンスター!!」
なんとか体勢を立て直したコハルが銃弾を乱射する。
だが触手は的確に、クリームをコハルの顔面に飛ばした。
「うえぇ、甘い、べたべたする……」
白濁としたホイップ塗れになったコハルが膝を突いた。
「く、このままではジリ貧だ……」
アズサは打つ手がなく、歯噛みする。
タナトスは紳士的に演習のルールを守ってこちらにシロップとクリームでしか攻撃していないが、それはそれで色々な問題が発生していた。
「“だ、大丈夫かい、ハナコ?”」
「う、うう、すみません、先生……」
よわよわになってただの美少女と化しているハナコを介抱しながら、先生も戦況は良くないと判断していた。
タナトスは別に侵攻なんてしなくてもいいのだ。
ただここの中央広場に、一般生徒の戦力を釘付けにしていればそれだけで仕事をこなしている。
陽動としては最強の運用だった。
通常兵装なんてタナトスには通用しない。
倒せてもまた復活するだろう。
まさに万事休すである。
しかし、その時だった。
「ロケットランチャー部隊、発射だよ!!」
直後、ロケット弾の雨がタナトスに飛来した。
無数の爆音に、怪物がたじろいだ。
「コハルちゃん、皆!! 助けに来たよ!!」
ティーパーティーのパテル派閥を率い、聖園ミカが戦場に現われたのだ!!
08:魔女対決!?
「うーん、ミカさんですか。彼女も彼女で需要はありますけど、彼女の場合は純愛路線の方が私は好みでしょうか」
十分に堪能したユエは、スマホをしまった。
「みんな、いつまで笑っているんですか。早く攻撃をしてください」
ユエはタナトスに任せて後ろで笑い転げている面々に呼びかけた。
「み、ミカ様だわ!!」
「ミカさんが助けに来てくれたわ!!」
最終防衛ラインの守りを担っている筈のミカの部隊が、中央広場の戦線にまで応援に来てくれたのだ。
「このままあのオバケを倒さないと、私達の負けだからね!!
もう二度と、セイアちゃんの尻尾で書初めさせたり、ナギちゃんの羽根で羽ペンとか作らせないから!!」
ぷんすか、とミカは怒りを示しながらそう言った。
「黙示録の獣め、それに乗る魔女も終わりだ!! ミカさんが来てくれたんだから!!」
「おや、その獣の上に乗るのはそちらのミカさんでは?」*1
「かっちーん。もう怒っちゃったもんね!!」
こう見えてちゃんと教養のあるミカは、ユエの煽りにキレた。
「それでは第二回戦と参りましょうか」
タナトスの触手がユエの腰に纏わりつき、己の頭上へと乗せる。
紫の競泳水着と赤い雨合羽を纏った魔女が、怪物の上から微笑んでいた。
再び、バトルパートが始まった!!
バトルパートが終わり、背景は夕暮れに差し掛かる。
タナトスはまさしく、脅威の不死のモンスター。
無尽蔵の再生と復活を繰り返し、ゲヘナ生達を守るように、トリニティ生達の注意を引きながらシロップやクリーム塗れにして大暴れする。
最早、お互いのペイント弾も撃ち尽くした。
最後に残ったのは、タナトスと戦うミカとその一派、そしてアリウスの生徒達だけだった。
「ダメです、あの化け物を完全に殺しきるには、高射砲でもなければ!!」
「そんなの校内で使えるわけないじゃん!!」
パテル分派の生徒の声に、怪物の眼前で戦うミカが大声で返した。
「“ミカ、無理をしないでね!!”」
「えへへ、大丈夫だよ先生!! って、ああ!!」
ナギサが見ていたら、言わんこっちゃない、と言う態度を取っただろう。
ミカは地面のシロップに足を滑らせ、すっ転んでしまった。
「あ、ダメ……」
七本の触手が、ミカに殺到する。
このままではこのゲームのレーティングが上昇してしまう!!
そんな危機的状況で、校内放送が響いた。
『えー、今回の大規模演習の結果ですが、引き分けになりましたー。
両校の生徒は、壁や床の清掃を始めてください』
ぴたり、とタナトスの触手がミカに触れる前に停止した。
「あら、残念です」
ユエがタナトスの頭上から降りてそう言った。
どうやら、どちらの陣営も勝利条件を満たさなかったようだった。
「“ハナコの言う通り、正義実現委員会の方にペイント弾を集約した結果だね”」
「ええ、ツルギ委員長なら耐えきれると思っていました」
ハナコの策略で、ここに居る一般生徒のペイント弾を、密かにミコトと戦っている正義実現委員会の方へと輸送していたのである。
ゲヘナで一番恐ろしいのは、ミコトが何をするか分からない点である。
そんな彼女をツルギがタイマンで釘付けにする。それが正義実現委員会の作戦だった。
「戦術的には勝利しましたが、戦略的には敗北と言ったところでしょうか」
トリニティ校内の中央広場にまで攻め込まれたのは戦術的勝利だった。だが、勝ちきれなかったという意味ではゲヘナ側の負けだった。
とは言え、引き分けは引き分けである。
「あー、楽しかった」
「次はいつだろうねー」
「ねえねえ、掃除道具貸してよー」
「うちらもうちらも。道具持って来てなくてさ」
攻め込んできておいてゲヘナ生のこの態度である。
トリニティの生徒もイラっとした者は居たが、大人の対応をした。
こうして、大掃除が始まったのである。
エピローグ:まだ見ぬ明日へ
「タナちゃん、そっちの高いところも拭いて」
「ねえねえ、そっちで高い高いしてよ!!」
巨大パンケーキの怪物は、器用に触手で掃除しながらゲヘナ生に高い高いをしていた。
トリニティの生徒はドン引きしながらその光景を遠巻きに見ていた。
「酷い目に遭ったわ……」
「本当ですね……」
どさくさに紛れてセクハラの限りを尽くされたコハルとヒフミはげんなりしながらシロップ塗れの地面を掃除していた。
「コハル!!」
「あ、ハスミ先輩!!」
そこに、ハスミ達正義実現委員会が片付けの手伝いにやってきた。
「聞きましたよ、勇敢に戦ったそうですね!!」
「い、いえ、そんな」
「それにしてもゲヘナめ、あんな怪物を従えているとは!!」
ハスミがタナトスの方を向いた瞬間だった。
彼女に触手が伸びて、空中に持ち上げられた。
「あら、随分とこの子の好みだったみたいね、ハスミさん」
「は、放しなさい!! この化け物!! き、きゃあ!!」
クリームの塊がハスミの顔に直撃し、べったりと跡を残してずり落ちる。
「な、何をするのよこのエロパンケーキ!! 死刑よ、死刑!!」
抗議を始めたコハルだったが、そんな彼女の背後から触手の影が忍び寄る。
思いがけないサービスシーンに大笑いするゲヘナ生たち。
トリニティの生徒達はもう害はないとして無視することにした。
「おう、面白そうなことしてるな」
「何を遊んでいるんだ、ハスミ」
そこに、ミコトとツルギが歩いてきた。
「これが、遊んでいるように見えますか!! 襲われているのです!!」
「誰か、助けてぇ!!」
「ぎゃははは!! パンの助の愛情表現って奴だ。大丈夫だ、その内飽きる」
触手に囚われている二人を見て、ミコトも大笑いした。
「アリウスの皆も、大活躍したそうだな」
「俺の舎弟の方も、ハスミ達とずっとやり合ってたしな。こいつら使えるだろ?」
「ふむ。もしよければ、正義実現委員会の訓練に参加しないか?」
ツルギの提案に、アリウスの生徒は困惑した。
「正義実現委員会はティーパーティー直属の組織だ。
うちと一緒に訓練をすれば、それだけで手当てが発生する。
いずれうちの部隊の一つとして運用したいが、それはお前たち次第だな」
「へえ、ツルギ。お前が部長らしい所してるの初めて見たぜ」
「お前が居なければ、ハスミが部長になる筈だったんだ」
「ああ、俺もハスミが部長になるもんだと思ってたぜ」
なら早く助けてくださいよと、頭上から声がしたが二人は無視した。
「……皆。いろいろと思うところはあるだろうが、私達の力の使い方は正しいものにしていけば、いずれ皆も受け入れてくれるはずだ」
アズサは、どうしようか迷っている同胞たちにそう言った。
「それに、何かあれば、私に相談してくれ。
私には、私の力になってくれる友達が、沢山いるからな」
彼女の言葉に、ヒフミやハナコが頷いた。いいからあんた達助けなさいよ、というコハルの同意の声もあった。
「少しづつ、私達も歩み寄って行こう」
アリウスの生徒達に、トリニティの生徒が近づいて行く数枚の紙芝居のスチルと共に、この催しは幕を閉じた。
その光景を、先生は温かく微笑んで見守っているのだった。
露骨な、サービスシーン多めなイベントでしたww
最近は感想が多くて作者も返信が雑になっていないか心配です。
逆に、最近は高評価の方はパッタリなので、もしかしてクオリティが落ちていないかこれも心配なのです。
ミコトが相対する敵をバッタバッタと倒すだけという、単純なストーリーから離れつつあるのが原因でしょうか。
ともかく、作者の精神衛生とモチベーションの為にも、できれば清き高評価をお待ちしております。
それでは、また次回!!