今回はホシノとの決闘の筈でしたが、順番的にこっちが先かと思ったのでこうなりました。あしからず。
事の発端は、こんな感じだったという。
「集まりがワリーな」
春休みも終わりが差し掛かった頃、いつものたまり場に居る面子を見てミコトがそう言った。
「しょうがないわ。今年は遅めのインフルエンザが大流行中だと聞くわ」
と、校舎の壁に背を預けているユエが言った。
「ウイルスなんざに負けるなんて、気合が足りてねえんじゃねーのか?」
「無茶苦茶言わないでよ、ミコちゃん……」
普段の半分も居ないたまり場に集う不良仲間が、ミコトの理不尽にそう返した。
「こういう時こそ、喧嘩だよ。喧嘩。
今年はまだデカい喧嘩してないからよ。こんなダウナーな空気にこそ派手な喧嘩してみてーぜ」
「ダウナーの意味わかって無さそう」
「うるせぇ。ユエ、なんか案だせよ」
「そう言われてもねぇ」
さてどうしたものかと、首をひねるユエ。
ミコトの望みを叶えてあげようとした、その時である。
彼女の脳内に
丁度、恐らく今年の新入生らしい不良の中学生達が、わいわいと校門から現れたのである。
「なあ、うちらも今年からゲヘナに入るんだ、近くに来たついでにかましてやろうぜ!!」
「ぎゃはは!! あたしらが指折りのワルだって教えてやろうぜ!!」
とかなんとか言いながら、校門にスプレー缶とかでラクガキを始める悪ガキたち。
ミコトは無言でヤンキー座りから立ち上がった。
あーあ、と言う表情をしている彼女の仲間たち。
一分後。
「ご、ごめんなさいぃ!!」
「許して、ごぼぼぼ──」
「
洗剤水塗れの悪ガキ二人で、ミコトはラクガキされた校門をごしごしと掃除していた。
「てめーら二人は入学したらスポンジ係な。
ラクガキを見つけたらてめーらを呼び出して掃除する。お前らがするんじゃねえ、俺がするんだ。嬉しいだろ?」
「いだいだいだい!! じゃりじゃりしてるところ痛い!!」
「もうじまぜん、ゆるじでぐだざい、ぜんばいぃ」
校門が彼女達の擦過傷で真っ赤になった頃、ミコトは不良達を放り捨てた。
べちゃり、と塗料と自分の血でぐちゃぐちゃになった悪ガキ二人が、すすり泣き始めた。
ついでに倒された彼女達の仲間は、腰を抜かして震えている。
「ここは不良学校のテッペンだ。ゲヘナ舐めんじゃねぇ」
「ひぃ~~!! 御赦しを!!」
仲間を連れて、彼女達は逃げ去った。
「あーあ、あいつら入学式に来ますかねぇ」
「高校生活フケるとツライからねぇ」
守衛室のおじさんからホースを借りて、血まみれの校門に放水を開始するミコトの仲間たちはそんなことを言い始めた。
「この程度でビビるならゲヘナの生徒なんざ無理だっての」
「まあ、確かにそうだよね」
ゲヘナの生徒は悪さをしても、そう簡単にへこたれない。
今日の出来事を笑い飛ばせるくらいでなければ、ゲヘナで不良なんて気取れないのである。
「……閃いたわ」
「あん、なんだよ、ユエ」
「トリニティと派手に大喧嘩する方法よ。それも、何度もね」
ユエは妖しく微笑んでそう言った。
「なんだそれ、マジかよ!!」
「ええ、しかも政治的に彼女らは受けざるを得ないわ。
逆に我々ゲヘナの人間を説得するのも容易でしょう」
「相変わらず、お前の頭はどうなってんだ。詳しく聞かせろよ」
「ええ」
ミコトの仲間たちはそんな方法が本当にあるのかと懐疑的だったが、その時である。
「ミコトさん!!」
万魔殿の制服を着た生徒が、駆け足で現れたのである。
「あん? お前、マコちゃんのところの奴だよな」
「はい、実はマコト議長がインフルエンザで寝込んでおりまして」
「おいおい、マジかよ。もうすぐ入学式じゃねーか、大丈夫かよ。後で見舞いにでも行くか……」
「勿論大丈夫じゃありません!!
そこで、マコト議長は隊長が快復するまでの間、ミコトさんに議長代理をお願いしたいとのことです!!」
これにはこの場に居る全員が驚いた。
事務仕事なんてからっきしな上に飽きっぽいミコトに、そんなことを頼むなんてどうかしているからである。
「え? マコちゃんの代理? いいぜ、やるやる」
しかしミコトは快諾した。
これには彼女の仲間も仰天した。
「それでは、引継ぎを行いますのでこちらにどうぞ」
「おうよ。おいユエ、さっきの話は後にしてくれ」
「……ええ、わかったわ」
喧嘩以外に興味のないミコトが、喧嘩以外を優先した。
これにはユエも目を見開いて驚いていた。
去って行くミコトと、万魔殿の生徒。
彼女の仲間たちはその背を見送ることしか出来なかった。
二日後、暫定ミコト政権は表面上は問題なく稼働していた。
「今回ほどじゃなかったけどよ、去年のインフルエンザもヤバかったよな」
「今回の三分の一以下でしたが、まあ確かに我が校の感染対策は杜撰極まりないですね」
「なあ、この際だからその辺も見直ししようぜ」
「その意見は賛成ですが、うちの生徒はいい加減な人間が多いので……」
「では意識改革が必要ですね」
校庭でミコトとイロハが意見を交わしていると、ぬっとミネが話に入ってきた。
「ゲヘナの生徒の方々とお話を交えたところ、行動の制限をされるのを極端に嫌う傾向があるようです。
であれば、発想を変えましょう。病気こそが、真に自由を奪う敵である、と」
「なるほど、そうやって団結を促す方向性に持っていくわけですか。
風紀委員会辺りが広報をすれば、うちの生徒でも聞く耳は持つかもしれません」
「それが良いでしょう。信じられないことに、議長代理が以前から生徒会長だったと思っている生徒も大勢いたくらいですから」
ミネにとって、まさにカルチャーショックである。
トリニティであれば、各派閥の生徒会長の名前くらい初等部の生徒でも言えるはずである。
ゲヘナの生徒は余りにも政治に無関心だった。
「マコちゃん、広報活動が足りてねえんじゃねえのか……」
「あれで目立ちたがり屋なんで、いろいろやってはいるんですよ……」
呆れたようなミコトの言葉に、イロハは遠い目になってそう言った。
その広報活動があまりにも馬鹿馬鹿しく、成果が出ていないというのをその口から言うのは憚られたのである。
「次の生徒会選挙に向けて、投票用紙の名前をミをマとして扱うみたいな校則を作ったり、その努力の方向性を何とかしてほしいです……」
そうして大量の無効票を取り込むアホな作戦を、大真面目でやるのがマコトと言う生徒会長なのである。
「なるほどな、つまり政治って奴か……」
ミコトはよくわかってないので納得した振りをした。
ミネも意味が分からなかったし、救護に関係ないのでスルーした。
「ミコト。時間は空いてるかしら」
「おうユエ。解熱剤は出来たか?」
「ええ、飛び切り効く奴を調合しておいたわ」
「ああ……」
最近健康の為にユエ特製の健康ドリンクを飲み始めたミコトは、微笑むユエにたじろいだ。
効果は抜群なのは身を以て知っているが、味や飲みやすさも抜群に最悪なのを彼女は知っていた。
「それよりミコト、無報酬でこの仕事を引き受けるなんていけないわ」
「おい、俺がカネでやってると思ってんのか?」
「いいえ。ほら、昨日言ってたこと、覚えている?」
「……ああ、何度もトリニティと喧嘩できるって奴か!!」
ぱん、と手を叩いてミコトは喜色を浮かべた。
「あの、どういうことですか?」
「トリニティと喧嘩とはどういうことでしょう?」
当然、そこに居るイロハとミネが尋ねてきた。
「ミコト、演習という形にするのよ。
勿論、連邦生徒会にも話を通せば良いわ」
「……トリニティと合同演習をしようということですか?」
「ええ、学校全体を巻き込んでね」
ユエは小首を傾げているミネにそう言った。
「しかも実弾ではないわ。ペイント弾を使いましょう」
「なんだそれ、面白そうだな!!」
「ええ、ミコトは以前、トリニティの街並みを破壊するのは躊躇っていたでしょう?
ペイント弾ならその必要はないわ」
ペイント弾なんて、キヴォトスでは水鉄砲みたいなものである。
まさに妙案であった。
「名目はそうね、ミコトが万魔殿や生徒の皆を脅してトリニティを攻撃するなんてどうかしら?
これなら、政治なんて関係無いでしょう?」
「……政治なんて関係ないなんて、よく言えますね」
イロハが目を細めて、ユエにそう言った。
「それ程の規模となれば、演習とは言え実際に両学校が衝突した際の戦力評価が大雑把に把握できるでしょう。
つまり、明確に勝敗が学校の格と優劣に影響する」
「なに言ってんだ、勝敗が無けりゃ喧嘩の意味がないだろ!!」
ミコトはもうやる気である。
それを見て、イロハは溜め息を吐いた。
「ミコト先輩が去年トリニティに攻めこんだ件について、トリニティだけでなく我々も同様のことが起こった際について検討を行いました。
そして両校は思い知ったのです。我々は、平和ボケしていると」
本当に長い間、両校は平和だった。お互いに、お互いの生徒がどんな者たちなのか忘れるほどに。
アビドス高校が失墜し、二大学校は天下を二分していた。
これ以上は、戦っても得る物よりも失うものが多い、と。
「強大な軍事学校が、何十年振りに戦ってみたら旧体制然としていて全く機能していなかった、なんて話は実際に有ります。
実際に戦って時代や科学の進歩に全く適応できないなんて事例は、今現在ミレニアムの台頭を思えば笑い話にならないでしょう」
時代は、一年前とは全く変わりつつあるとイロハは考えていた。
ほんの半年前まで、ドローン技術に誰も見向きもしていなかった。
だが、戦闘可能なドローンは驚くべき速さで完成度が上がっている。
ドローンが戦場を支配する未来は、もうすぐそこまで来ているのだ。
「私は賛成です、ミコト先輩。非常に面倒ですが」
「おお、お前が賛成ってことは、ゲヘナはやるってことだな?」
「過分な評価を感謝致します」
ミコトはイロハがゲヘナの頭脳であるのを理解していた。
「ミネも賛成だよな? 練習をしねぇと本番で怪我するぜ」
「……演習でも怪我人はでますし、私が賛成したところでティーパーティーの意向に関与は出来ませんが」
ミネはそう答えつつも、脳内にそれは救護か否かを判定し。
「それが両校の不和を招き、救護が必要になるのならば反対せざるを得ません」
「わかった、じゃあそうならないようにしようぜ」
「ルールを決めましょう。何度も出来るように」
「おう、任せたわ」
そして、ミコトはユエに丸投げした。出来そうなやつに全部任せるのがミコト流である。
「そもそも、そちらの議長は了承するのですか?」
「恐らく、マコト先輩は……」
そんな疑問を投げかけるミネに、イロハはこう言った。
「なに? トリニティの連中を叩き潰せるだと!? 面白い、やるぞ!!」
と、話を聞いたマコトは言った。横で療養中のヒナはドン引きしていた。
「──そんな感じで賛成すると思います」
「……そうですか」
ミネは思った。逆に、トリニティの生徒がゲヘナの校風をその身で知らないのは危険なのでは、と。
むしろこの演習は救護なのでは、と思い始めた。
「ミネ!! 今回も宣戦布告の翌日に攻撃すっからよ!! それまでお前黙ってろよ」
「より実戦形式で行うと言うことですね、分かりました」
「じゃあ私は両学校で使用するペイント弾を調達して、連邦生徒会に話を通して、ついでにミレニアムに審判を依頼してくるわ」
そんな感じで、ユエは演習実現の為に行動を開始した。
「じょ、冗談でしょ……」
なお、一連の話し合いをホシノがすぐそこで唖然と聞いていた。
「よおホシノ、お前も一緒にカチコミしようぜ!! 楽しい喧嘩になりそうだ!!」
「なんで、私まで……」
「バーカ、こう言うのは大人数で楽しんだもんが勝ちなんだよ」
ミコトはゲヘナの校風を体現していた。
誰も議長代理に就いても異議を唱えない、その理由そのものだった。
「勝ちゃ最高だが、負けてもまた勝つためにやれば良い。もう一度、キヴォトスのテッペンの学校はゲヘナだって知らしめてやろうぜ!!」
「これで校益に寄与してるのが一番厄介なところですよね」
ウキウキしているミコトを見て、イロハはそうぼやくのだった。
そしてこの一件こそが、ユエがゲヘナの魔女と呼ばれる由縁たる出来事になるのだった。
まずユエは、連邦生徒会にアポを取った。
さてどの部署に話を通すべきか、彼女は悩んだ。
学校間のすり合わせを行う調停室が鉄板だろうが、ユエはピピッと電波を受信した。
「ここは防衛室にしましょう」
二大学校の演習結果はキヴォトスの安全保障に関わるとして、そちらに話を通すことにした。
「二大学校の、軍事演習ですか?」
「そう言う名目で、ミコトは喧嘩したいらしいわ」
ミコト議長代理の名代ということでアポを取ると、即日で会談の席が用意された。
「ミコトさんがゲヘナで議長代理に就任したと聞いた時から、イヤな予感はしていましたが……」
防衛室長のカヤは、自分の執務室から見える見晴らしのいい景色を見ながら現実から僅かに逃避した。
「連邦生徒会からの承認が欲しいわ。あなた達の、お墨付きがね」
「……なるほど。調停室ではなく、だから我々防衛室に話を持って来たのですね」
「ええ。二大学校の実力は把握しておきたいでしょう? 有事の際の為にも、ね」
「……」
カヤは一瞬それは連邦生徒会への叛意を交渉材料にしているのかと考えたが、その可能性を切って捨てた。
「我々の承認を得たところで、そちらに何の利益があるのでしょう?
勿論、これは演習という名目なだけで、実質的な学校間の戦争ではない、と予防線を張れるでしょうが」
だが実際のところ、他所の自治区から非難されたところでそれがどうしたと言うのだ。
ゲヘナと言う学校はそんなバッシングなんて、誰も気にしない。
「利益? そんなの単純だわ」
「単純ですと?」
「私達が楽しいわ。その楽しみから、無粋な要素を排除したいだけよ」
これにはカヤも絶句した。
「晄輪大祭みたいな催しがひとつ増えるみたいなものよ。
もっとも、その頻度は二年に一度なんてものではないでしょうけど」
「……いいでしょう。ミコトさんの機嫌を取るのも、キヴォトスの安全保障の一環と言えるでしょうし」
個人の判断で連邦生徒会と敵対できる生徒が存在するなんて、防衛室からすればたまったものではない。
ミコトの動向は、カヤとしても無視できない。
「カヤ室長。私とあなたは仲良くできると思うの」
「何が言いたいのですか?」
「言葉通りの意味よ? 私は貴女のような人間が好きだから」
くすくす、とユエは笑う。
未だ野心など無い、優秀な官僚でしかないカヤを見て。
「私が調停室ではなく、防衛室に話を通したのは、きっと貴女と会いたかったからに違いないわ」
「……意味が分かりませんね」
「ミコトもきっと、貴女を気に入ると思うわ」
それじゃあね、とユエは来賓用のソファから立ち上がった。
「機会があれば、一緒に仕事をしましょう」
そう言って立ち去るユエから、カヤは得体のしれない何かを感じ取るしかなかった。
次にユエが向かったのは、ミレニアムの会長室だった。
「トリニティとゲヘナの大規模演習?」
「ええ、ミコトが発案して計画しているの」
「あなたが、の間違いでしょう」
リオの指摘に、ユエはくすくすと笑うだけだった。
「両学校から審判役を出したら揉めるでしょう?
だからミレニアムから人員を出してほしいの」
「一体なにが目的なのかしら?」
「私達が楽しいからそうしているのよ。キヴォトスでそれ以上の理由なんて必要あるかしら?」
「……」
リオにとって、ユエは友人の友人でしかなかった。
常にミコトの後ろを歩く彼女は、ミコトの協力者としか見ていなかったのだ。
あと、暴走気味のミコトのストッパーとして、有難くは思っていた。
しかしミコトと同じく、ユエの思考はリオと言う天才からしても未知そのものだった。
「出来ればルールとかも決めてくれたら嬉しいわ。私はそう言うのは疎いから」
「ミレニアムから二大学校の演習に観戦武官を派遣して欲しいという理由は?」
「私はただ、皆で仲良くしたいだけよ。そして、ミコトの望みを叶えてあげたいだけ」
ユエの言葉に、嘘偽りなど無かった。
それが彼女の目的であり、全てだった。
問題は、それを額面通りに受け取る者など皆無であることか。
「……なるほど、各学園との連携の強化と、練度の向上を目的としているわけね」
「流石リオ会長。理解が早くて助かるわ」
「いずれ来る、予言された災厄……それと戦うには二大学校の戦力は不可欠と言うわけね」
「貴女たちミレニアムもよ。どのような形でも、団結が必要になる時がくるわ。
いざとなった時、お互いにできることが分からないでは連携なんて取れない」
「先に連邦生徒会に話を通したのも、連邦生徒会長にそのことを伝える為ね?」
「ええ、我々は同志だもの」
リオはユエの思惑の裏側を読み取り、その端正な唇に指を当てて考えこんだ。
「本当なら、ヒマリさんも同胞に迎え入れたかったのだけれど」
「……彼女は昔から、私との折り合いが悪いもの。仕方がないわ」
ユエの言葉に、リオは端的に答えた。
ヒマリはリオの秘密主義で中央集権的なやり方に迎合することを拒否していた。ヴェリタスという部活は、まさにその象徴だ。
その代わり、特異現象捜査部の部活と部室を与えられ、独自に動いている。
「きっとヒマリさんのことですから、私のことも口汚く罵ってくれるのかもしれませんね♪」
「なんで嬉しそうなの……」
「それはともかく、演習の審判役の件、お願いしますわ」
「ええ。それは承ったわ。
ついでにペイント弾の調達も請け負いましょう。
その上で、こちらの開発中の武器のデータも取れれば効率的ね」
「流石リオ会長。抜け目がないわね」
「運営としての役割を得られれば、ミコトの無鉄砲もこちらである程度制御できるもの」
リオは溜め息を吐いてそう言った。
ミコトはとりあえず頭脳労働をリオに投げれば全部解決すると思っているのだ。
その全てに律儀に答えて、完璧に投げ返すのだからリオも割と悪いと、ユエは思っていた。
「それじゃあ、あとで予算書を提出するわね」
「ええ、お願いするわ」
そうして、ユエは次の場所に出向いた。
ミコトが三億円を突き返して宣戦布告した翌日。
一台の3tトラックがトリニティの校門に取り付いた。
「演習の備品の納品に来ました」
「あ、お疲れ様です。交付された書類を見せてください」
かつて、ハスミもやっていた校門の警備をしている正義実現委員会の生徒は、トラックを運転していたユエに書類の提示を求めたのだが。
「ごめんなさい。昨日決まったことだから、そう言うのは無いわ」
「えー、それは困ります!!」
「ハスミさんを呼んでくれますか? 彼女には話が通っているはずですが」
「あ、わかりました!!」
彼女が電話で連絡をすると、去年より体格が良くなったハスミが翼をばさばさとさせながら走ってきた。
「ゆ、ユエさん!! ミコトがまた攻め込んでくるとは本当ですか!?」
「ええ、そう言う設定の演習を行うことを、ミコトが決めたのよ」
運転席からそんなことを言われて、ハスミは開いた口がふさがらなかった。
「そ、それは、こちらの生徒会との協議の末に決定とかは……」
「ハスミさん。これは戦争の演習よ。そんなことするわけないじゃない」
くすくす、とユエは混乱するハスミを見下ろし笑っていた。
「これは演習って名目だから、それで使用するペイント弾を納品しに来たの」
「……こちらが実弾で応戦した場合は?」
「そちらがミコトに大暴れする口実を与えたいのなら、好きにすればいいわ。私は困らないモノ」
余りにも一方的。攻める側が攻められる方の事情を考慮しないという身勝手の極みだった。
「ミコトは宣戦布告した翌日にやりたかったみたいだけど、そちらに審判役のミレニアムからのルールの通達やペイント弾とかの納品があるから、明日攻めることになったわ。
こっちもゲヘナの生徒が大勢インフルエンザでダウンしてるけど、動ける生徒はみんな参加するってワクワクしてるわ。全面戦争よ」
「ど、どいつもこいつも、勝手すぎませんか!!」
「ミコトが勝手じゃない時なんてなかったでしょ? それに急じゃないとリアルじゃないじゃない。本気でやるからこそ、遊びは楽しいのよ」
あまりにも酷すぎる言い分である。ハスミはめまいを覚えた。
「私達とあなた達の違いなんて、大して無いと思うけれど。文句があるならそちらも勝手をすればいいじゃない」
「──ああ、ああもうッ、あああああああ!!!」
ユエの言葉に、ついにハスミは怒りを爆発させた。
「……はあはあ、逆に言えば、こちらがそちらを正々堂々叩きのめす機会、ということですね?」
「ええそうよ」
「わかりました。もうこちらも頭に来ました!!
ゲヘナの連中とミコトに、我々の力を思い知らせてやります!!」
「じゃあ、備品は置いておくわね」
ユエはそう言ってトラックの運転席から降りて、そのまま歩いて立ち去った。
「正義実現委員会の全部隊に通達!!
対演習用装備が到着しました、ゲヘナの侵攻に備えてください!!」
ハスミは無線で、全ての正義実現委員会の生徒にそう言うのだった。
今日は用事があるので感想の返信は夜中に致しますね。
それではまた、次回!!