ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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side:ヒナ  「トリニティの悪夢 前編」

 

 

 

 

 ミコト議長代理の宣戦布告は、瞬く間にゲヘナに響き渡った。

 ヒナが風紀委員会に復帰して三日目のことだった。

 

「あ、あのバカ、本当にやったのですか……」

 

 アコは眩暈を覚えながら、頭を抱えていた。

 

「嘆くよりも、マコトはどうなったの?

 予定では今日復帰する筈だったと聞いているけど」

「あの大馬鹿議長代理の自称演習が終わるまで、仮病を決め込むらしいです……」

「何かあっても全部押し付けるつもりなのね」

 

 仮に議長代理の任命責任を追及されても、知らんぷりを決め込む構えなのだろう。

 マコトのことだから被害者面でもするのかもしれない、とヒナは思った。

 

「ヒナ委員長、これは万魔殿……生徒会の暴走では?」

 

 クソ真面目なイオリが、ヒナに進言した。

 

「あんな奴を議長代理に据えておくのは、校益を損なうだろう。

 私達風紀委員会には、それを止める義務がある筈だ」

「その議長代理が、私達も演習に参加しないかと打診してきているわ」

「まさか、委員長……それを受けるつもりですか?」

「それこそまさかよ」

 

 風紀委員会はあくまで、校内や自治区の治安維持を目的とした組織。

 如何に演習といえども、むしろ他校へ侵攻という状況設定だからこそ、風紀委員会が参加してはいけないのだ。

 

「私も勿論、抗議したわ。この演習は学校間関係を悪化させるって」

「先方はなんと?」

 

 アコが尋ねると、ヒナはため息交じりにこう言った。

 

「演習で負けたらキレるなんて、ダサいことするならトリニティはその程度の学校だったってことだ、そうよ」

「あの無責任女が……」

「……私は、風紀委員会は参加するべきだと思うわ」

「委員長!! 正気ですか!?」

「落ち着いて、アコ。参加者と言う意味ではないわ。運営側として、ということよ」

 

 発狂寸前みたいな表情をしているアコに、ヒナはそう語った。

 

「これがミレニアムの二学校演習運営委員会から届いた演習のルールよ」

 

 ヒナは数ページに渡る、戦争ごっこのルールブックをテーブルに置いた。

 

「ここには使用する弾薬はペイント弾に限り、水性のモノを使用すると書かれている。

 でも、うちの生徒がそれを守ると思う? ペンキやスプレー缶を持ち出して、向こうの建物を滅茶苦茶にするのは目に見えている」

「そんなことをしたら、トリニティとの関係は完全に断絶します……」

「我々が最後の一線になるのよ。

 私達がルールを守るからこそ、トリニティもルールを守る意義が生じるの」

 

 実際、ミレニアムが審判として機能するには、不正を止める武力が必要だろう。

 風紀委員会の運営側の参加は向こうとしても渡りに船だろう。

 

「私は反対です!! それではまるで、私達があのバカ女の手伝いをしているみたいになるじゃないですか!!」

「これは個人的にはだけど、私は今回の演習を反対できない」

「なぜですか!!」

「ミコトはゲヘナとトリニティがお互いに高め合う関係にしたいのだと思うわ。

 これまでのような、暗黙の不可侵ではなく……」

 

 ヒナはミコトの動向を逐一監視している。

 あのバカがまた何かやらかさないか、情報部と連絡を密にしている。

 

 そうして彼女を観察していると、時折不可解な場所に赴く。

 例えば連邦生徒会管轄の立ち入り禁止の遺跡に、ミレニアムの調査隊の護衛か何かで出入りしているらしいことを、ヒナは知っていた。

 

 だからヒナはこう考察している。

 ミレニアムとミコトは連邦生徒会長から密命を受けて行動をしている、と。

 

 その推論を後押しする材料が、此度の演習だった。

 演習とは言うが、トリニティにとっては半分くらい奇襲も同然だ。

 今頃トリニティではゲヘナの迎撃の準備で大騒ぎしているだろう。

 もうこの時点で、調停室辺りの部署が止めに入る案件なのだ。

 

 だが、連邦生徒会は何も言わないどころか、ゲヘナの蛮行を許可した。

 普通許可などでない。許可を出すというより、連邦生徒会は二大学校が衝突するとなれば当然どう対応するかの会議を行政委員会が始める筈なのだ。

 ミコトの行動力に連邦生徒会が対応できないのは、以前の騒動で実証済み。

 

 では、誰が許可したのか? ここまで考察すれば、もはや答えるまでもない。

 

 トリニティ、ゲヘナ、そしてミレニアム。

 この三つの学校を結び、強さを高め合うことを望むものがミコト以外に居ることを示唆していた。

 

「トリニティとミレニアムに連絡を入れて。

 先行して戦場でミコト達に目を光らせるわ」

「わ、わかりました」

 

 ヒナの采配に、アコは頷くしかなかった。

 

 

 

 §§§

 

 

 そしてついに、演習当日が来てしまった。

 

 早朝。ヒナ率いる風紀委員会と、正義実現委員会が相対した。

 

「此度はうちのバカ共が、本当に申し訳ない」

 

 なぜかヒナがゲヘナを代表して謝る羽目になっていた。

 

「そちらも苦労しているのですね……」

 

 ハスミは遠い目でそう言った。

 普通ならゲヘナの生徒が、しかもゲヘナ屈指の戦闘集団がトリニティに踏み入るなんて有ってはならない事態である。

 しかしもう、四の五の言っている場合ではない。

 普段、ミコトのバカに振り回されている者同士のシンパシーがあった。

 

「事前の通達通り、我々風紀委員会は運営側として、お互いのルール違反に対して拘束や戦闘の停止を行う。

 この判断は運営本部のミレニアムの生徒が行うことになっている」

 

 ヒナはあくまで自分たちは中立の立場であると、明言した。政治である。

 そう、これは政治だった。

 

「待ってほしい」

「部長?」

 

 当時の正義実現委員会の部長が、待ったを掛けた。

 

「ゲヘナの生徒の審判など、信用できない。トリニティは我々だけで守る」

「私達は貴女達を守るわけじゃない。ルール、即ちこの演習の風紀を守るために来ている。結果的に、あなた達も守られるというだけ」

 

 ヒナは即座に反論した。

 この程度の反発は予想していた。

 

「お前達がゲヘナの生徒を贔屓しない理由がない」

「その懸念は理解できるけど、演習の域を超えた時点で私達も不利益を被る。

 それとも、私達が風紀委員会の制服を脱いで、演習に参加した方がよかったのかしら?」

「詭弁だ。いずれにせよ、お前たちの助力など必要無い」

「私達は、どちらにも助力するつもりは無い。それが運営側としての立場よ」

 

 お互いの長同士の会話に、両陣営の生徒が息を呑んでいると。

 ドローンが空から降りてきた。

 

『まあまあ、御両人。お互いに立場はございましょう。

 正義実現委員会の皆さんも、不服なのは理解出来ます。

 しからば、改めてティーパーティーの皆様方に連絡してお上方が御命令あそばせばよろしいかと』

 

 今回の審判役の運営委員会を任されたミレニアムの生徒がドローンごしにそう告げた。

 

「そうね。そちらがルールを守らない姿勢を見せて、ミコトが暴力を解禁して本当に困るのはそちらであるし」

「……わかった。しかし、こちらの重要施設には決して近づくな」

「ええ、それぐらいの配慮は受け入れるわ」

 

 向こうの部長が折れて、ヒナは頷き返した。

 これには、両生徒もほっと息を吐いた。

 

「開始時刻は迫っているわ。各員、配置を指示するからそこで待機して」

 

 ヒナの指示に、風紀委員達は移動を開始した。

 

 

 

 実はこの演習。放送されることになっていた。

 

「万魔殿所属の全兵員、傾聴。

 諸君、朝が来た。無敵の上級生諸君、最強の新入生諸君。演習の朝へようこそ」

 

 マコトである。彼女は病床に居ることにしたのだが、それでは目立てないと言うことで、急遽議長に復帰していた。

 

「それでは皆さん、お手元のしおりを。

『ゲヘナ・トリニティ間大演習作戦』の二ページをご覧ください」

 

 マコトの前に整列した兵員たちが、一斉にしおりを開いた。

 

「……なあ、マコちゃん。俺、しおりなんて貰ってないぞ」

 

 マコトの立ち台の後ろで整列している議員達と一緒に居るミコトがそう言った。

 

「知るか。ユエに見せて貰え」

「ほら、ミコト」

「おうサンキュー」

 

 ミコトは隣のユエが開いたしおりに目を向けた。

 

「と言うか、私はちゃんと手渡したはずですけど……」

「そうか? 報告書か何かかと思って捨てちまったのかもしれねぇな」

 

 衝撃の事実に、イロハは宇宙の彼方を見上げた。

 

「目標はトリニティ総合学園。

 そして全兵力の打倒だ!!

 ヒナ!! ヒナ風紀委員長!!」

 

 放送を見ていたヒナは自分が呼ばれたことに目を見開いた。

 そして、マコトの前に彼女は現れた。

 

「はぁ。御前に、マコト議長……」

 

 無表情のヒナのお面を付けた、ピンク髪のジェネリックヒナがマコトの前に現れた。

 

「貴様に一個中隊を与える!!

 麾下中隊は正義実現委員会の本部に強襲し、我々本隊と敵戦力の分断をしたまえ」

 

 マコトの言葉に、謎の生徒……偽ヒナは懐からカンペを取り出し台詞を読み上げた。

 

「えー、剣先ツルギが居ない正義実現委員会など赤子同然だわ」

「奴の参謀が居る。甘く見ないことだ」

 

 マコトがそう言うと、ミコトが声を挙げた。

 

「そうだ、正義実現委員会を、ハスミを甘く見るな!!

 奴らは俺相手でも一歩も引かなかった!!

 最後の最後の一人まで戦い抜いた!!

 キヴォトス最強と歌われてるお前ら風紀委員会とも、互角かもしれねぇ。

 お前ら風紀委員会の宿敵に相応しいだろうぜ!!

 ツルギは俺がやる。お前は風紀委員会のライバルを出迎えに行け」

「了解でーす、議長代理」

 

 自分の出番が終わった偽ヒナは適当に頭を下げた。

 その間に、マコトも次の台詞のカンペを見ていた。

 

「よし、では舵を切れ!!

 長年の因縁の決着に向けて舵を取れ、諸君!!

 第一目標はトリニティ自治区全域!!

 トリニティスクエア、議事堂!! ビッグタワー、生徒会役員用宿舎!!

 内外務舎棟、救護騎士団本部、情報局本部!!

 パテル、フィリウス、サンクトゥスの集会場!!

 トリニティ本校舎、生徒会室、本会議室!! 音楽堂を始めとした全ての部活の部室!!」

「議長殿、大聖堂を忘れていますよ」

 

 ユエが楽しげに笑ってそう言った。

 

「泥団子でも投げつけてやれ、シスターどもも清貧を喜ぶだろう」

「なあ、ここにある大博物館はどうする、マコちゃん」

「ひとつ残らず我々で染め上げてやれ、当然だ!!」

「議長殿、トリニティスクエアの噴水広場はどうでしょう!!」

 

 万魔殿の兵隊の一人が言った。

 

「当然、茶色に染め上げてやれ。奴らはそれを茶として飲むかもしれん。

 大図書館も、他の聖堂も全て泥まみれにしてやれ、不愉快だ」

「ビックブリッジはどうしましょう!!」

「今日は通行止めだ。大作を描いてやれ」

「公会議記念館はどうしましょう!!」

「当然、絵の具塗れだ。かつての自分達の無秩序さを思い出させてやれ」

 

 トリニティの名所や有名どころを列挙し終えると、マコトはこう言った。

 

「諸君、構うことはない。目につく建物を片っ端から絵の具塗れにしろ。

 目についたトリニティの生徒は片っ端から玩具にし、存分に演習を楽しめ!!」

 

 マコトの演説は最高潮に達し、兵員たちは興奮のまま叫び出した。

 

「ぎゃはははははは!!」

 

 立ち台のマコトを蹴り飛ばし、ミコトが笑いながらカメラの前に立った。

 

「つーわけで、万魔殿はこの俺、ミコト様が乗っ取った!!

 今のマコちゃんの演説は予定に無かったが、えーと、パフォーマンス? まあ政治って奴だ。

 さあトリニティども、喧嘩をするぞ。喧嘩をする為に喧嘩をするぞ!!

 次の喧嘩の為に、次の次の喧嘩の為に、どっちがテッペンか改めて決めようじゃねーか」

 

 ミコトの言葉に、兵員たちも口笛を吹いたりしながら大盛り上がりである。

 

「どっちが勝っても恨みっこ無しだ。まあ? お前らが負け惜しみでこっちを恨むガキみてーな奴らってことなら、そいつも仕方ねぇ。

 俺らは勝者として、格下のお前らの怒りを受け止めてやっからよ」

「楽しみね、ミコト」

「ああ、そうだな!! ああ、あとマコちゃんはああ言ったが建物の中に入るのはトリニティの生徒会本棟以外は禁止な。

 風紀委員会から止められたら、それに従えよな」

 

 俺のお楽しみを台無しにしたらぶっ殺す、とミコトは念を押してそう言った。

 

「それじゃあお前ら、始めっぞ」

 

 放送が終わる。

 

「な、なにをやっているのよ、小鳥遊ホシノ……」

 

 ヒナの呟きに答える者は居なかった。

 

 

 

 トリニティ自治区内に、飛行船が侵入した。

 万魔殿の兵隊と、ミコト達を連れて。

 

「おのれ、ゲヘナめ!! 我々を舐め腐りおって!!」

 

 ゲヘナは堂々と、トリニティに攻めこんできている。

 負けたらお前らが悪いと周囲に喧伝しながら。

 

「部長、大変です!! ゲヘナ自治区から隣接する全ての橋から、ゲヘナの生徒が押し寄せています!!」

 

 ハスミは正門の内側に設置された本部に、報告に来た。

 

「なに!? 飛行船は陽動だというのか!?」

「いえ違います、一般生徒です!! 一般生徒が大勢押し寄せてきています!!」

「なんだと!?」

 

 この時、ティーパーティーも正義実現委員会も、勘違いしていた。

 全面戦争とは、お互いの兵力をすべて投入するという意味である、と。

 これはお互いの武力集団同士の演習である、と。

 

 違ったのだ。

 ゲヘナ学園は、戦うことのできる一般生徒全てを動員してきたのだ。

 勿論、ルール上何の問題も無い。参加者の立場や地位に、制限など無いのだから。

 

「大変です部長!! ゲヘナの生徒が、自治区中を手あたり次第荒らしまわっています!!」

「……」

 

 部長は絶句していた。

 もうこれは、戦いではない。

 

 蹂躙だった。

 

 

 

 

 

 

「あはははは!! それそれ撃て撃て!!」

「くらえ、色水風船爆弾!!」

 

「奴らをこれ以上好きにさせるな!!」

「だ、ダメです、数が多すぎますッ!!」

 

 ゲヘナの生徒が、濁流のように自治区内に押し寄せてくる。

 防衛線を広く浅く張っていた正義実現委員会の生徒は、自分達の十数倍もの相手に、瞬く間に呑み込まれた。

 

 地獄だった。

 トリニティに地獄が顕現した。

 

「甘く見ていた……」

 

 ヒナは呟いた。

 風紀委員会も、正義実現委員会も、完全にキャパシティを超えている物量だった。

 

 ゲヘナの生徒達は、正義実現委員会の生徒を物量で押しつぶすと、思い出したかのように誰かがロープや結束バンドで拘束する。

 

「えっへっへ、どうしようかな」

「や、止めて……」

「ラクガキだぁ!!」

 

 捕まった正義実現委員会の生徒は、油性ペンで顔中に落書きをされていた。

 油性のペンキなどの使用を禁じられているのは建物だけで、人物には適用されていない。ルールの穴を突く悪ガキの賢しさだった。

 

 そして、ゲヘナ生たちはしばらくはその場に留まって、周辺の建物に落書きを始めるのだ。

 

「あ、あなた達、これ以上の狼藉は許せません!!」

 

 ここに自警団の生徒が現れた。

 彼女達は事前に参加の表明などしていなかったが、それはゲヘナ生も同じだった。なのでルール違反ではなかった。

 

 しかし、それは被害者を増やすだけだった。

 

「なあ、あいつ、白いよ!!」

「ホントだホントだ!!」

「染め上げろー!!」

 

 この演習、初回なので参加者は雨合羽を着るなどのノウハウが無かった。

 自警団は特に制服があるわけでもないので、白いトリニティの制服は悪ガキどもにとって白紙の画用紙に過ぎないのだ。

 

 ここで、更に悪い連鎖が起こる。

 

「も、もう見てられませんわ!!」

「ゲヘナの侵略を許すな!!」

 

 自宅待機などを命じられたトリニティの一般生徒が、同胞の惨状に怒りを覚えて室内から飛び出してきたのである。

 

「いたッ!? ああ、あいつ、実弾使ってるよ!!」

「ホントだ、ルール違反だ!!」

 

 そしてそうして飛び出してきた彼女達は戦力として数えられていないので、ペイント弾が配られているわけもなく。

 

「そこのお前!! 此度の演習で実弾の使用は禁止されている!!」

 

 発砲したトリニティ生の周辺に、風紀委員会の生徒が現れる。

 

「そんな!! こんな有様なのに、見ているだけなんてできませんわ!!」

「この演習に置いて、建物にマーキングする行為は、そこを制圧したとしてみなされる。気持ちはわかるが、ルール上は問題ない行為だ……」

 

 風紀委員会の生徒もトリニティ生に言いづらそうにそう言った。

 

「ルールとか言って、あなた達も結局ゲヘナを贔屓しているんでしょう!!」

「そうですわ!! だってあなた達もゲヘナの生徒ですもの!!」

「誹謗中傷は止めて貰おう。

 そのような意見が主流となって、困るのはそちらだぞ!!」

 

 感情的になるトリニティ生に、風紀委員会の生徒はそう返した。

 結局、初回以降は風紀委員会の参加は運営側としても見送られる結果になった。

 もはや損得では無いのだ。

 

 そして、外に出たと言うことは。

 

「きゃあ!!」

「そんな、制服が!?」

 

 悪ガキたちの標的になったと言うことだった。

 

「それ、塗れ塗れ!!」

「捕まえて塗っちゃえ!!」

「あははははは!!」

 

 トリニティ生の悲鳴は、ゲヘナ生たちの笑い声に塗りつぶされた。

 

 

 そして飛行船が、トリニティ自治区の広場に着陸する。

 

 ミコトを先頭に、万魔殿の兵隊が大勢現れる。

 

「ふう、楽しかったな、空の旅は。

 万魔殿が飛行船を持ってるって聞いて、乗ってみたかったんだ!!」

「議長代理、それでは我々はヒナ委員長と共に正義実現委員会の本棟に襲撃を掛けます。ご武運を」

「おう、お前らも楽しめ」

 

 ミコトと受け答えした彼女達の士気は高い。

 長年に渡り、万魔殿とティーパーティーはお互いにいがみ合っていた。

 彼女達もまさか、自分達が直接彼女らを叩きのめせる機会に恵まれるとは思っていなかっただろう。

 まさに、長年の悲願。自分たちが彼女達に優越する絶好の機会なのだ。

 

「ほら、ヒナ。お前も行け」

「はぁ……わかったよ」

 

 ヒナのお面と風紀委員会の制服を身に纏った生徒は、彼女達に付いて行った。

 

「さーて、ツルギの奴はどこかなぁーっと」

「……ミコト」

「あれ、ヒナ。早く行ってこいってつってるだろ」

「私は本物よ」

 

 飛行船の着陸を見て、ヒナがやってきていたのだ。

 

「ああ、本当だ。ヒナ一号だ」

「その言い方は止めて、なんなの、あれは……」

「おう、風紀委員会も俺がボコして参加させたって想定なんだよ。別にルール違反じゃねーだろ?」

「ミコト、彼女は代役が力不足なのが不満なのかもよ」

 

 ミコトの後ろの定位置に付いたユエがそんな的外れなことを微笑みながら言った。

 

「ああ、それは大丈夫だ。丁度ホシノの奴がうちに来ててな。

 お前の代役をして貰ってんだ」

「さしずめ、代理ヒナと言ったところかしら。

 いいえ、小鳥遊ホシノと空崎ヒナが同時に存在し、融合した存在……小鳥崎ヒナノと言った方が良いかしら。

 私が提案しておいてなんだけど、最強の生物を産み出してしまったかもしれないわね……」

 

 ユエの悪ふざけの極みだった。飛行船のマコトの演説の下りからしてもそうである。

 とんだキメラの誕生だと、ヒナは思った。

 

「ヤベーなそれ!! ヒナ、お前ホシノと合体しろよ、ミレニアムの技術力で何とかしてさ!!

 伝説のスーパーキヴォトス人ってところか、それを倒せれば俺は間違いなくキヴォトス最強だな」

「もう付き合いきれないわ……」

 

 ミコトは絶妙に冗談とは思っていなさそうなところがヒナは嫌だった。

 

「今度リオやエンジニア部の連中に、合体させられないか聞いてみるか……」

「止めて、特に後者は嬉々としてやりそうだから」

「あら、本当に良いのかしら」

 

 妙な重たい感情をホシノに向けてるっぽいのを察して、ユエはヒナにそんなことを言った。

 

「……それより、剣先ツルギはあちらで待機しているわ。

 向こうは貴女の挑戦を受けて立つそうよ」

「おう、ありがとよ。流石ツルギだぜ、それじゃあ行ってくるか」

 

 ミコトはヒナの指差す先へと歩き出した。

 

 そして、万魔殿の全員が飛行船から降りると、マコト達万魔殿の連中も降りてきた。

 

「キキキ!! 圧倒的ではないか、我が校は!!」

「やはり物量に勝る作戦はありませんからね」

「自らの辞書に不可能は無い、と言った稀代の名将も、自分は常に相手より多くの人数で戦ったから勝てたと言ったそうだ。

 つまり、我々の勝利は実戦だったとしても確定的に明らかと言うことだ!!」

「ええ、いいデータが取れそうです」

 

 上機嫌そうなマコトの横で、トリニティ自治区の有様を見渡しイロハが妖し気に笑っていた。長年の宿敵の無様な姿が、楽しくて仕方ないのだ。

 

「諸君!! トリニティ本校舎に攻め入るぞ!!

 目が痛いくらい真っ白なトリニティどもを、お前たちの色で染め上げてしまえ!!」

 

 マコトの号令に、万魔殿の兵員だけでなく、周囲で落書きをしていたゲヘナ生たちもなんだなんだと追従していく。

 

「もうメチャクチャよ……」

 

 ヒナがすぐそこに居たのにまるで気づいた様子の無かったマコト達を見送り、ヒナはただただこれ以上学校間の関係が悪化しないよう祈る他なかった。

 

 

 

 

 

 

 




今回はやりたいことが多かったので、誰視点でやるのか悩んでたので、結果的に難産でした。
しかしその分、パロディもキレてます。

あの演説が有名ですが、その後の演説も好きなんですよね、少佐。

それではまた次回。今度はトリニティ側で書きたいと思っています。


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