ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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今回は挿絵が有ります!!
人物は書いてないので、各キャラのイメージは損なわれないかと。

今回はいよいよ、ホシノとの決闘です。ようやくこの話を賭けました!!
では、本編どうぞ。


side:ホシノ 「決闘」

 

 

 

 

「ホシノ、お前ヒナ役をやれよ」

 

 突然のミコトの命令。勿論ホシノは拒否した。

 

「いや、私はゲヘナの生徒じゃないんだけど」

「なんだよ、ノリが悪ぃ。一緒にトリニティと喧嘩するんだろうが」

「そもそも私はあんたのバカ騒ぎに参加するなんて言ってないんだけど」

 

 いい加減そろそろ帰りたいのがホシノの本音だった。

 しかし今アビドスに帰ろうものなら、ミコトだけでなくミネまで救護(てき)に回りそうだったので、何も言えなかったのだ。

 

「ふーん、まあいいぜ。

 それより、お前俺との約束は覚えてるよな」

「……まあ、覚えてるけど」

「そろそろ引き延ばすのは終わりにしようや」

 

 ついに、この時が来たか、とホシノは思った。

 

「お前ら、決闘だ!! 俺とホシノのどっちが強ぇか、ハッキリさせんぞ!!」

 

 ピークを乗り越え、大分縮小できた校庭のテント群に向けて、ミコトはそう声を挙げた。

 その言葉に、なんだなんだ、とゲヘナ生たちはどよめき始めた。

 

「決闘って、大げさな……」

「大袈裟でも何でもねぇよ」

 

 ミコトはゆったりと笑っていた。

 

「決闘ってのは、喧嘩の最上位版だろうが。

 俺はお前と、ヘイローが割れる寸前まで戦いてぇのよ」

「もし、私がイヤだって言ったら?」

「ケジメ取らせる。俺の楽しみを台無しにしやがったんだから、当然だ」

 

 ミコトはホシノを見ながら、ニヤニヤと嗤っている。

 

「それは勿論、てめぇが本気じゃねぇって俺が思っても同じだ。

 そうだな、誰か一人、お前のダチから選べや」

「……選ぶって、なにをさ」

 

 ホシノの心臓の鼓動が、早くなる。

 それは焦燥であり、緊張でもあった。

 

「連帯保証人だよ。今回の決闘で、負けた方の人差し指を切り落とす権利を得るってことにしようぜ」

「み、ミコト、お前!!」

「お前が一番イヤなことをしてやるって言ってんだ。

 お前が傷つくんじゃねぇ、お前の所為でお前のダチが傷つくんだ」

 

 だから選べ、とミコトは言った。

 ホシノから逃げ場を奪いながら。

 

「ユエ!!」

「なにかしら?」

 

 ミコトの大声に、ユエが現れる。

 

「ホシノとの決闘に、ダチの指を賭けることにした。

 俺が負けたらお前が指を落とせ。良いよな?」

「ええ。ミコトが負けるわけ無いもの」

 

 ユエは常と同じ微笑みのまま、即答した。

 

「勿論、指を落とす権利だけだ。行使するのも勝者の自由ってわけよ」

「ふ、ふざけるなよ、お前!!」

「ふざけてこんなこと言うかよ。

 それともダチが居ねぇって言いてえのか?

 ならユメだ。俺らが卒業したらあいつの指を貰いに行く。それとも違う奴が良いってのか?」

 

 ミコトは宣言通り、ホシノの一番イヤなことをするようだった。

 即ち、自分が傷つくことよりも、自分のせいで他人が傷つくということを。

 

「言ったでしょう、ミコトは何をするかわからないって」

 

 くすくす、と呆然としているホシノにユエはそう言った。

 

「ユメがイヤなら、今すぐスマホでダチに連絡を入れろ。

 利き手の人差し指だ。お前がキヴォトスで二度とまともに銃を撃てない身体にする相手を、お前が選べ」

 

 ミコトが大声で叫んだものだから、周囲には人だかりができていた。

 マジで指賭けるの、決闘って本気なの、と言った声が周囲から聞こえる。

 

「……私が、逃げると思うの?」

「俺が冗談を言うと思うか?」

 

 いつの間にか、ホシノの視線の質が変わっていた。

 それはミコトも知らない、彼女がユメと出会った頃の、触れる者誰もを切り裂きそうな、ナイフのような敵意だった。

 ミコトの表情が、ケダモノのように変わっていた。

 

「お前との勝負に負けて、私が()ける指は、これだよ」

 

 ホシノは、自身の利き手の人差し指を示した。

 そう、友人ではないが、別に自分の指を賭けてはいけないとはミコトは言っていない。

 本質は、ホシノが本気になるか否かなのだから。

 

「救護は必要ですか?」

 

 そこに、スッとミネが現れた。

 

「私としては、切り落とされた指の処置はしたくはありませんが」

 

 決闘はどちらかというとトリニティの文化である。

 脳筋でインテリでもあるミネは、一応常識を弁えているので止めようかと思案していたが。

 

「これは俺とホシノの問題だ。邪魔すんならトリニティで好きなだけ救護させてやるが、どうする?」

「……はあ。私の一存で負傷者を増やす訳にもいきませんね」

 

 これもトリアージでしょうか、とミネは納得することにした。

 彼女もトリニティでミコトに際限なく大暴れされても困るのだ。救護の必要のない相手を増やす訳にはいかないのだから。

 

「その代わり、お前は決闘の立会人だ。どっちかが殺しそうになったらお前が止めろ」

「……良いでしょう。ゲヘナの事情に無関係な私が適任でしょうから」

 

 小さな溜め息を吐きながら、ミネは結果的に一番怪我人が少なくなる選択をする羽目になった。

 

「デスマッチをすんぞ。リングを用意しろ」

 

 そう言って、ミコトは万魔殿の制服を翻した。

 

 

 

 §§§

 

 

 

「立会人として、決闘のルールを決めさせて頂きました」

 

(カスミを捕まえて)突貫工事で建てられた四方防弾ガラスの壁で囲まれた、一辺20メートルのデスマッチのリング。

 

 中に居るのは審判役のミネと、ミコトとホシノだけだった。

 

「10分三本勝負。二本先取した方が勝ちとします。

 銃器を地面に落とし十秒経過したり、破損した場合、その者がラウンドを落とします。

 各々は各ラウンドごと五分のインターバルの後、銃器の整備や弾薬の補充、休憩を挟みます」

「時間切れで判定勝ちの概念があるってこと?」

「そのラウンドでどちらがダメージが大きいかは、私が判断します。

 私がノックアウトと判断した場合、その場で勝者が確定します」

 

 ミネはホシノの質問に淀みなく答えた。

 ルールの形式としてはボクシングに近い。

 だがこれは、それ以外の殆ど何も決められていない、何でもあり(バーリトゥード)のデスマッチ。

 

 手榴弾ほか、各種武器銃器持ち込みアリ、殴る蹴るアリ、禁じ手引き分け無し。

 明確に勝者を決める、決闘だった。

 

「それでは両者、正々堂々と立ち合ってください」

 

 ミネが防弾ガラスの外に目配せをする。

 周囲は、大勢の病状から恢復したゲヘナ生たちが取り囲んでおり、ユエがどこからか持ってきたゴングを鳴らした。

 

 カーン!! デスマッチが、始まりを告げたのだ。

 

 

「一言だけ言わせてもらって良い?」

「おう、好きにしろ。どうせ無駄口を叩く暇は無くなる」

 

 決闘が始まったのに、両者は静かな佇まいだった。

 ミコトはホシノとのやり取りを味わうように、ねっとりとした笑顔をしていた。

 

「初めて会った時から、あんたのことが大嫌いだった。容赦なんて期待しないでね」

 

 それはホシノの偽らざる本音だった。

 

「お前こそ、どういう風の吹き回しだ?」

「なにが?」

「お前が本音で語ることなんてあるんだな」

 

 返答は、銃声だった。

 図星だった。彼女のイヤな事と言い、本当にミコトはホシノのことをよく理解していた。

 

「この程度で心乱すんじゃねぇよ……」

「うるさい!!」

「いや、違うな」

 

 ホシノの銃口から発せられた散弾を受け止め、ミコトはただただ笑っていた。

 

「心技体の、心を欠いてなお、お前はその強さというわけか。

 お前は今以上に強くなれんのかよ!!」

 

 ヒトの笑顔から、ケダモノの笑顔に変わる。

 極上の獲物の前に、舌なめずりする獣へと。

 

 狩猟用としても広く普及しているホシノのショットガンが火を噴く。

 ミコトのアサルトライフルもまた、キヴォトスの生徒が十人居たら一人は持っているくらいの派生モデルのある絶大な信頼性と操作性を持つ、互換性にも優れた名銃中の名銃だ。*1

 

 お互いに横に移動しながら銃を連射し始めた。

 

 このリングは20メートル四方の近距離戦を強いるフィールドだ。

 真ん中あたりに障害物が三か所ずつ、計六か所、カバーして撃ち合いが出来るように置かれている。

 

 ショットガンの有効射程は約50メートル。つまり、大体の人間がその射程から逃れるには全力疾走で十秒前後の時間が必要だ。テレビゲームのようにちょっと離れただけで威力が下がるなんて、ファンタジーなのである。銃器が如何に恐ろしい兵器か、それだけでも十分すぎるくらいだ。

 つまり、ホシノの銃弾はこの囲まれた壁の中では全てキルゾーン。

 最も破壊力が出る近距離の、ホシノに有利な地形だった。

 

 だが欠点もある、構造上ショットガンの装弾数は薬室に一発、ホシノの銃はマガジンに四発。

 対して、ミコトのアサルトライフルは三十発撃てる。一発ずつ撃ったら息切れするのはホシノの方だ。

 

 そしてホシノはミコトの近接格闘能力が優れているのをよく知っている。

 ホシノは自分が最も警戒するのは、リロードの隙であると理解していた。

 

 しかし、この距離、敵の数では距離を取って撃ち合うなんて愚策である。

 その判断をしたのは、ホシノよりミコトの方が早かった。

 

 アサルトライフルをフルオートで乱射し、ホシノより早く弾倉を空っぽにしながら距離を詰めてきた。

 

 ホシノの目にはミコトの銃の安全装置のレバーがフルオートに切り替わっているのが映っていたので、即座に近くの遮蔽物にスライディングで滑り込んだ。

 

 一秒未満で全弾吐き出したアサルトライフルを下ろし、ミコトが至近距離へと迫る。

 ホシノが障害物の下からミコトを迎撃に出た。

 

 散弾の全弾命中。しかしミコトは怯まない。

 後ろに下がりながら、ホシノはミコトの銃身の先にある銃剣の切っ先を回避した。

 

 もう一発。更にもう一発。

 散弾を厭うようにミコトは身体を捻る。

 

 その瞬間、ホシノは感じた。

 

「ッ!?」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 それは、悪寒だった。

 

 

 偶然だった。

 散弾のひとつがミコトの片目に当たったのだ。

 

 ホシノの鼻先を、ミコトの靴のつま先が過ぎった。

 

 ミコト必殺の、回し蹴りだった。

 その威力は容易く戦車をひっくり返す。

 

 足技の威力は拳の三倍とまで言われるが、ミコトに関してはそれは事実のようだった。

 

 今の偶然が無ければ、ミコトの回し蹴りはホシノの頭を捉えていただろう。

 これまで殆ど対物相手にしか使用してこなかった、即死技を。

 

 ホシノの頭上に銃剣が振り下ろされる。

 弾切れになったショットガンの銃身でそれを受け止め、ホシノはローキックをかました。

 

 鍔迫り合いを容易く放棄し、ミコトは数歩距離を取る。

 

 いや、それは距離ではなく、助走だった。

 銃剣の切っ先が、ホシノの頭部を捉える。

 

 ホシノはすぐに悟った。銃剣突撃だ!!

 

 剣術において、最も危険な技は何か? それは刺突である。

 例え木刀であろうとも、刺突は剣技で最大の危険性を有する。

 

 ミコトはそれをホシノに使うことを躊躇わなかった。

 

 咄嗟にホシノは軸をずらして刺突を回避した。

 ミコトの笑みが、すぐそこにあった。

 

「つかまえた」

 

 ミコトの片腕が、蛇のようにホシノの首に纏わりついた。

 そのまま伏せるように、ミコトはホシノを地面に引きずり倒した。

 

 ミコトとホシノ、その両者の間には絶対的かつ努力でどうにもできない差が存在する。

 それは、──体格差だ。

 

 三年生時点での話になるが、ミコトの身長は163㎝、ホシノは145㎝。

 18㎝の体格差は次元、階級が違う。

 体重にして約20㎏前後も違うのだ。

 

 首を抑え込まれたホシノは、もうどうしようもなかった。

 質量という自然の絶対的な差が、目の前にのしかかっていた。

 

「10,9,8,7──」

 

 当然、銃は地面に接地している。ミネはカウントダウンを開始した。

 対してミコトは勝利を宣言するように、己の銃器を片腕で掲げていた。

 

「6!! 5!! 4!!──」

 

 決闘を見ていた周囲の大勢の生徒達が、ミネのカウントダウンに追従する。

 

「3,2,1──」

 

 ホシノがもがく。

 だが如何にキヴォトスでも最大の神秘を有すると謳われても、体格差という現実を覆す理由にはならなかった。

 

「──ゼロ。第一ラウンド、ミコトの勝利です」

 

 ミネが厳然と、その事実を告げた。

 カンカンカーン、と終了を知らせるゴングが鳴った。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 ミコトの身体が離れる。

 新鮮な空気と共に、ホシノの心を屈辱が支配する。

 

 ボクシングやレスリングを始めとした、格闘技のルールであればホシノは完全に敗北していた。

 

 ミコトは周囲にラウンドの先取をアピールし、観衆は盛り上がっている。

 完全にホシノにアウェーだった。

 

「各自、武器弾薬の補充をしてください」

 

 ミネが対照的な二人に告げる。

 ホシノは立ち上がり、壁に寄って弾丸をリロードした。

 

 有志から募ったセコンド役の生徒が、壁に設けられたドアから入って来てペットボトルを渡した。

 

「すごいねー、ミコト先輩にあそこまで戦えるなんて♪」

 

 セコンドの生徒が、最前列の方を見やる。

 

「きゃー!! ミコト様!! カッコいい!! 最高!!」

 

 そこでは他の生徒と一緒に声援を飛ばすアルが居た。

 

「折角三ラウンドあるんだし、次のラウンドで負けちゃわないでね。応援してるよ」

「……ありがとう」

 

 最後にもう一口ペットボトルの水を口に含み、ホシノはそれを彼女に返した。

 それを間近で見て、セコンドの少女──ムツキは面白そうに笑っていた。

 

「五分が経過しました。第二ラウンドを始めます」

 

 ミコトも弾薬のリロードと、水分補給を済ませたようだ。

 距離を取って、再び両者は相対した。

 

「それでは、第二ラウンドを始めてください」

 

 ミネがそう宣言すると、両者は銃を構えた。

 カーン、と始まりのゴングが鳴った。

 

 お互いに銃弾を撃ちだし、前に駆けだした。

 

「て、めッ!?」

 

 が、ショットガンの弾が命中したミコトはたたらを踏んだ。

 散弾ではない。ホシノがリロードしたのはスラッグ弾だ。

 

 ミコトは散弾を躱さないし、大したダメージにもなっていない。

 目に当たってようやく怯む程度なのだから、散弾は効果が無いとしてスラッグ弾に弾種を変えるのは合理的な判断だった。

 

 弾薬の使い分けができるのが、ショットガンの利点の一つだ。

 そしてスラッグ弾は、散弾よりも圧倒的に威力も精度も高い。銃身を換装すれば100メートルくらいなら精密射撃も可能だ。

 

 ホシノは走りながらもう一発のスラッグ弾を撃ちだした。

 しかしミコトは避けずに、手で弾丸を掴んだ。

 とんでもない動体視力だった。

 

 しかし、ホシノはすぐ目の前に迫っていた。

 彼女はミコトの必殺の間合いに、自ら飛び込んだのだ。

 

 たとえ弾丸を掴んだとして、その運動エネルギーまで消すことはできない。

 ほんの僅かのその隙を、ホシノは見逃さなかった。

 そして銃弾を掴んだと言うことは、片腕でしか銃を持っていないと言うことだった。

 

 鈍器として振るわれるミコトのアサルトライフルを、ホシノは身体で受け止めた。

 が、ホシノは殴り飛ばされなかった。何という体幹か。

 ミコトの笑みに、焦りが浮かぶ。

 ホシノは脇でミコトの銃身を受け止め、固めたのだ。

 

 この超至近距離では、拳も蹴りも威力が半減する。

 しかし、ショットガンの弾丸はそうではなかった。

 

 ダン、という発砲音。

 観衆から悲鳴が巻き起こる。

 

 ほぼ密着状態でのショットガンの接射なんて痛いどころではないという、小指をタンスの角にぶつけたみたいな苦痛の共感であった。

 

 堪らず、ミコトが後退る。

 彼女の愛銃は、ホシノの腕の中にあった。

 

 ホシノはミコトの双眸が彼女を捉えた瞬間にフッと笑って、それを後ろにポイ捨てした。

 

「10,9──」

 

 ミコトの銃は地面にある。ミネがカウントダウンを始めた。

 彼女はすぐに走り出した。

 

 しかしミコトと彼女の銃の間には、壁が有った。

 恐らくはキヴォトスで最も分厚く、強大な壁が。

 

 ピンク色の断崖が、ミコトの前に現れる。

 

 ホシノの初弾を回避し、ミコトの拳が彼女に迫る。

 壁もぶち破るミコトのパンチ。

 それをギリギリで、ホシノは回避した。

 

 その瞬間、一瞬ミコトは視界が潰された。

 

「これは、てめぇ!?」

 

 その正体は、水だった。

 第二ラウンドが始まってからホシノがずっと口に含んでいた代物だ。

 毒霧だ、とプロレス好きらしい観衆の生徒が叫んだ。

 

 堪らずミコトは目元を拭った。

 そして、ミコトの視界に、ホシノはいなかった。

 

「上だ!!」

 

 観衆の生徒の誰かが言った。

 咄嗟にミコトが上を見上げる。

 

「──!?」

 

 太陽だった。

 その輝きを背に、矮躯がミコトに強襲を仕掛けた。

 

 ホシノは一瞬で壁を駆けあがり、天井の無い壁の天辺を踏みしめ、ミコトに全体重でムーンサルトをかましたのである。

 何と言う軽業か。その姿はまさしく──。

 

「暁の、ホルス……」

 

 風紀委員会の本棟の窓から決闘を見下ろしていたヒナが、そう呟いた。

 何と言う身のこなし、ハヤブサの如き俊敏性と、抜群の戦闘センス。

 ヒナが戦闘の天才とさえ思っているミコトに、一歩も引いていない。

 

 如何に矮躯と言えど、全力の疾走からの全体重の乗った落下攻撃に、ミコトは地面に縫い付けられた。

 

「3,2,1。ゼロ」

 

 ミネのカウントダウンが終わる。

 ユエが楽しそうにゴングを鳴らした。

 

 カンカンカーン!!

 

 ミコトが呻く。

 ホシノは悠々と立ち上がった。

 

 わぁー、っと歓声が立ち昇る。

 誰もがこの矮躯の少女の強さを認めたのだ。

 自分達の学校の頂点と戦うにふさわしい強者(ツワモノ)であると。

 

 もはや、ここはホシノのアウェーではなかった。

 ゲヘナとは、そう言う学校なのだ。

 

 

「楽しいぜ」

 

 強者との凌ぎ合い。

 自分の強さを確認する為の戦い。

 その全てが、ミコトの愉悦だった。

 

「楽しいぜ!!」

 

 ホシノはこれまで戦ってきた強者の中でも、指折りの強敵だった。

 これだった、ミコトが求めていたものは。

 

「ぎゃは、ぎゃはははははは!!」

 

 だが、まだ足りない。

 もっともっと、ホシノという最高級の食材を味わい尽くしたい。

 

「ホシノぉ……お前を寝かせて熟させた甲斐があったぜ」

 

 第三ラウンドが、始まろうとしていた。

 

 

「……」

 

 ホシノにとって、ゲヘナという学校は苦痛だった。

 ミコトの本拠地にして、伝説の始まりの地。

 

 ミコトのような単純なバカを、大勢が慕っている。

 ホシノはここ数日でそれを嫌というほど見てきた。

 

 気に食わなかった。

 こんな大きな学校の、生徒会長の代理をあっさりと受けて、それに誰も文句を言わない。

 それどころか、それが普通のように当人も振る舞い、生徒達も受け入れている。

 

 その器が、ミコトには有った。

 

 惨めだった。

 あんな馬鹿と自分を比較する、己の小ささが。

 あんな何も考えていない、暴力だけが取り柄のバカ女が居てくれたらと、ここ半年で何度も思った自分の弱さが。

 

 例え何に裏切られ、騙されても、笑って歩みを止めないだろうミコトを、羨ましく思う自分が居ることを否定したかった。

 

 自分は足を止めた。逃げた。逃げた先で何もなしえなかった。

 ミコトは進んだ。進んだ先で全ての障害を殴り倒した。そして、ホシノ達を置いて行った。

 

 そしてクルリと振り返って、今度はホシノの前に歩いてきた。

 ホシノを障害物として、退ける為に。

 

 こんなふざけた話は無い。こんな身勝手なことが許されるだろうか。

 

 誰もが、その背中に魅せられる。

 誰も彼も、その後ろに追いすがろうとする。

 

 そしてミコトは置いて行く。ミコトにとって、アビドスとはその程度の価値しかないのだ。

 

 ユメや、ホシノや、在校生たちを放り捨てて、平気な顔をしているミコトが許せなかった。

 自分が大事だと思ったモノを、躊躇わず置いて行けるミコトがホシノは許せなかった。

 

 そして何より、また戻ってくれば置いて行ったモノを手にすることが出来ると思っているだろうことが、バカにしていると言うのだ。

 

 ホシノはそれが出来なかった。過去は全てを置いてきた。

 魅せつけられる。自分との違いを。

 乖離する、彼女の成した偉業と自分の現実。

 

 この決闘は、もしかしたらミコト以上にホシノが望んでいたのかもしれない。

 

 アビドスは、ミコトと決別しなければならない。

 アビドスは、ミコトに甘え続けるなんてあってはならない。

 

 今やホシノは、アビドスそのものなのだから。

 アビドスを置いて行ったことを、後悔させねばならないのだから。

 

 

 第三ラウンドは、泥沼の戦いにもつれ込んだ。

 

 誰もが息を呑んで、戦いの行く末を見守っている。

 最初は決闘と言うことで賭けをしていた者達も居たが、そんな彼女達も賭けを忘れて見入っていた。

 

 殴り合い、潰し合い、叩きのめす。

 お互いに銃弾を撃ち尽くし、銃を棒にして振り回す。

 

 子供の喧嘩だった。

 子供の喧嘩と言うには、壮絶だった。

 

 お互いに蓄積したダメージで体力が尽き掛け、技術も何も無い戦いになっていた。

 

 これ以上は無駄に怪我を増やすだけだと、ミネが中断に入って仕切り直しをすべきか頭に過ったその時だった。

 

 ミコトの拳が、ホシノの腹部を捉えた。

 誰がどう見てもクリーンヒットだった。

 

 大の字になって、ホシノが倒れた。

 そんな彼女を、ミコトは見下ろしていた。

 

「俺の勝ちだ」

 

 戦いを終え、己の強さを証明し、全ての望みを叶えたミコトは。

 何の感慨も読み取れない表情で、ホシノを見ていた。

 

「ああ、負けちゃった……」

 

 ホシノの目元には、乾いた涙の痕が有った。

 彼女は後半、涙を流しながら戦っていた。

 

「負けたくなかったなぁ」

 

 涙の痕に、新たな涙の軌跡が伝う。

 

「おめぇはもっと強くなれる。

 お前が本当の強さを手に入れた時まで、その指は預けとく」

 

 ミコトが踵を返す。

 また行く。行ってしまう。ホシノを置いて。

 

「勝者、ミコト!!」

 

 戦いに圧倒され、遅れてミネがそう宣言した。

 決闘の終わりを告げるゴングの音が遠い。

 

 すぐに救護騎士団の生徒が駆けつけてくる。

 

「……遠いなぁ」

 

 ミコトは、ホシノが欠いているモノを手にすると信じていた。

 いつか全てを手にした彼女を、ミコトは待っている。

 

 ホシノは、足を止めたミコトの背中を見て、そう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ミコトの愛銃はカラシニコフのシリーズのどれかを想定している設定である。




AIがあれば、簡単に挿絵が作れる。良い時代になったものです。
そして長々と表示していたアンケートを、ようやく終了できそうです。

ちなみに、引き分けの票が最多だった場合、ミコトの覚醒イベントが起こる予定でした。

うーん、ミコトやユエのイメージイラストを、AIで描いてみた方が良いのでしょうか。
キャラストーリーでメモロビみたいなことしたいし。でもそう言うの嫌いな人もいるでしょうし。

よし、次回アンケートを取りますね!!
それではまた次回!!

ホシノ「ねえ、皆はどっちが勝つと思う?」

  • ホシノが勝つ
  • ミコトが勝つ
  • ???(引き分け)
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