ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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side:報道部 「トリニティの悪夢 後半」

 

 

 

 トリニティとの演習は、放送されることになっていた。

 そこでは、ミコトが放送するのを丸投げする奴らが存在していた。

 

 クロノススクールである。

 その学校自体は大したことのない学園だが、その知名度だけは他の中小規模の学校の中では群を抜いていた。

 

 そう、報道部。その発信力はマスコミとして絶大で、大人たちの報道機関と比べても遜色は無かった。

 

 彼女らはミコトがトリニティと演習という名の戦争をすると聞くと、取材にすっ飛んで行った。

 

「ミコト議長代理!! 取材をさせてください!!」

「いいぜ、見慣れた顔ぶれだな」

 

 実はミコト、彼女らに取材されることは初めてではない。

 と言うか、お互いに利用し合う関係という奴だった。

 

 ミコトはアナログ指向なくせに、今の時代は発信力こそ強さであると理解しているのである。

 要するに、メディアを操ることも己の“強さ”の一部だと考えているのである。

 

「では早速。この度はトリニティと大規模な演習を行うとのことですが、わざわざ宣戦布告する意図を教えてください!!」

 

 取材担当のマイが尋ねた。シノンはカメラを構えて相棒を補佐する。

 

「んなの簡単だ。どっちが強ぇかハッキリさせるためだ。俺らゲヘナと、トリニティ以外にも」

「なるほど!! しかしそれは政治的確執を招く恐れがあるのでは?」

「かもな。だがよ、そいつは仕方ねぇよ。

 そうなった時は、トリニティがゲヘナの舎弟になったってことだ。

 対等だった俺らが、完全に格上として君臨したってことになる」

 

 それは、強い言葉だった。報道部の面々が欲しい、センセーショナルな言葉だった。

 それを分かっていて、ミコトは口にしているのだろう。

 

「演習は今回だけじゃねえ。俺が飽きるまで続ける。

 そして、トリニティが俺を楽しませなくなった瞬間、演習は──実戦になるだろうな」

「それは、完全にトリニティを支配すると言うことでしょうか?」

「んなつまんねぇことしねぇよ。舎弟として守ってやるだけだ。なあ、イロハ?」

「そうですね。そうなった場合、とりあえず万魔殿の兵力の常駐をするべきでしょうね。議長代理」

「まあ、そういうこった」

 

 議長代理の後ろに控えるイロハが、秘書のようにそう言った。

 勿論、他国の戦力が自国に常駐するなど、それは実行支配というのである。

 そうなった場合、トリニティにとってはこれ以上無い、歴代の先輩達にも、今後入学する後輩たちにとっても顔に泥を塗る、歴史的な屈辱となるだろう。

 

「トリニティは俺を満足させる義務があんだよ」

 

 酷く傲慢な、パフォーマンスを含んだ物言いだった。

 

「しかし、議長代理はあくまで代理。それはマコト議長の意志なのでしょうか?」

 

 マイは当然のことを聞き返した。

 

「バーカ。俺にとって生徒会のトップなんざ、駄菓子屋に寄って大人買いするのと同じなんだよ」

 

 マコト達をクソ舐めてる発言だった。流石にイロハもイラっとした。

 

「やろうと思えばいつでもヘッドになんざなれんだ。

 飽きたらマコちゃんに返してやる。マコちゃん以上にゲヘナの生徒会長に相応しい奴はいねぇからな」

 

 これはパフォーマンスやお世辞ではなく、本心からの発言だった。

 

「だから、トリニティに()きたら潰す。簡単なこったろ?」

 

 それはこの後、クロノス報道部のアカウントに掲載されるこの動画を見るトリニティの生徒全てに向けた恫喝だった。

 

「も、もし仮に、トリニティを制した場合、その後の展望は……?」

「んなの決まってるだろ」

 

 ケダモノのように、ミコトは笑って答えた。

 

「ゲヘナ・トリニティ連合軍と、連邦生徒会の召集したそれ以外の学校とでの大喧嘩よ。

 俺はマコちゃんに、キヴォトスのテッペンの景色を見せてやんだ」

 

 狂気だった。ミコトの欲望に、満足に終わりはない。

 

「ご、ご協力、あ、ありがとうございます」

 

 それ以外の学校に、クロノススクールも入っていることにマイは震えていた。

 このバカは本気でそう言っているのだ。

 

 しかし彼女達は聞くのを忘れていた。

 

 ──連邦生徒会を両学校で倒した後は、どうするのか、と。

 

 ゲヘナが正真正銘、キヴォトスの支配者になったその時。

 ミコトは夢想する。

 そう、マコトがキヴォトスのトップに君臨した時、真っ先にするだろうことをミコトは理解していた。

 

 

 ────マコトが率いるキヴォトスの全てと、自分(ミコト)との超大喧嘩!!

 

 

 マコトは必ず、ミコトを抹殺しようとするだろう。

 ミコトが、マコトをマブダチ扱いする、その全ての理由だった!!

 

「ぎゃはッ、ぎゃはははははは!!」

 

 最終的に全員叩き潰す為に。ミコトにとって、マコトこそが自分の最強を証明してくれる、最愛の親友なのだ。

 

 

 

 §§§

 

 

 そして当日、演習運営本部。

 

「──CMも明けまして実況は引き続き川流シノンがお送りいたします!!」

 

 今回の演習の報道において一方的に報道部はミコトに呼びつけられて、ノリノリで実況をしていた。

 

 数十台のドローンでルール違反の監視体制を構築しているミレニアムの生徒の横で、おこぼれを与っている形であった。

 

「はてさて、ゲヘナ学園は飛行船による強襲作戦を敢行!!

 多くのゲヘナ生徒が各地に散り、正義実現委員会も懸命に対応している模様です!!」

 

 放送用のモニターを見ながら、シノンは実況をする。

 すると、横で良い感じのシーンを探しているマイが彼女の肩を叩いて、モニターの画面を切り替える。

 

「おっと、どうやら此度の演習の大一番!!

 トリニティが正義実現委員会の誇る剣先ツルギさんと、ゲヘナ学園の大災厄、逢坂ミコトさんが接触しました!!」

 

 ドローンから音声を拾うようにして、シノンは大一番を前に言葉を控えた。

 

 

「よう、ツルギ」

「……ミコト」

 

 まるで知り合いの家に遊びに来たかのような気軽さで、ミコトはツルギの前に現れた。

 

「……お前は何を考えている。こんな大騒ぎをしてまで」

「別に何も。俺は楽しけりゃそれでいい」

 

 ミコトはその場の勢いで常に行動してきた。

 何の計画性も無いし、悪びれもしない。

 

「トリニティとゲヘナの均衡を崩してまで、何をしたいんだ」

「それだよ。今のトリニティとゲヘナのにらみ合いに、なんも意味なんてねぇ」

「なに?」

「昔はバチバチにやりあってたんだろ? いいじゃねえか、俺達の関係なんざ、それで」

 

 銃を肩に担いだミコトは笑ってそう言った。

 

「去年、同盟をしただろ? だけど誰もがしっくり来てなかった。

 つまり、そう言うことだろ。俺達ゲヘナと、お前らトリニティと仲良しこよしなんて誰も望んじゃいねぇ。

 だったらよ、喧嘩しかねぇだろ!! 恨みや憎しみでの殺し合いなんかじゃねえ、皆で仲良く喧嘩しようや!!

 キヴォトスのテッペンの学校二つに相応しいように、お互いの強さを証明し続けんだよ!!」

「……」

 

 ツルギは彼女の言葉を脳内で咀嚼し終えると、こう答えた。

 

「トリニティがそれを望んでいなくてもか?」

「ならどうして、去年義勇軍なんてもんが出来たんだ?

 嘘を吐くなよ。本当はお前らだって、俺らを叩き潰したくてたまらないんだろ!!

 上品ぶってんじゃねえよ、昔はお互いに殺し合いをしてたんだろうが!!」

「そんな時代はとっくに終わっている」

「なら、俺が始めるだけだ。いや、もう始めてんだよ」

 

 ミコトはケダモノのように笑った。

 

「俺達で新しい時代を始めようぜ、ツルギ!!」

「……良いだろう」

 

 元より、正義実現委員会はあまり政治に関与しない。

 ツルギが何かを言ったところで、ミコトもティーパーティーも動かせない。

 彼女はそう言うところを弁えていた。

 

「おい、実弾を持ってこい!!」

 

 ミコトが近くに待機している風紀委員に言った。

 

「あ、あの、ミコトさん、それはルール違反で……」

「なに言ってやがる」

 

 ミコトは突然の要求に狼狽える風紀委員にこう告げた。

 

「俺がルールだ」

 

 これには彼女も絶句した。

 

「そんな顔するんじゃねぇ。俺と、ツルギがやり合う時は例外だってだけだ。

 その為にこの演習を始めたんだ。おい運営!! 文句あるか!!」

『……えー、ツルギさんの方はどうでしょうか?』

 

 ドローンが両者に近づいて行き、運営のミレニアム生が確認を取った。

 

「私は、構わない」

『えーと、そういうことなら……本当に、これ以外の例外は認めませんよ? 良いですねミコトさん、破ったら問答無用でゲヘナの負けにしますからね?』

「分かってる、うだうだ言ってんな。これは決闘だ」

『わかりました……』

 

 

 

「ななな、なんと!! 実弾使用での一騎打ち!!

 まさに決闘!! 熱い展開に胸を打たれそうです!!」

 

 ミコト達の会話を聞き終え、シノンがそう言った。

 

「えー、お二方の決闘は実弾を用意するので、少々お待ちを。……ん? なになに?」

 

 マイがモニターの一つを指差すと、シノンはニヤリと笑ってモニターの画像を切り替えた。

 

「どうやら、大聖堂の方で何やら動きがあったご様子!! そちらの状況をどうぞ!!」

 

 

 

 さて、大聖堂の方にゲヘナの生徒が来ている、という話ではなかった。

 

「お願いです、シスターフッドの皆さん!! 前線への救援をお願いします!!」

 

 生徒会の制服の生徒が、大聖堂の前で陣取っているシスターたちにそう訴えかけていた。

 

「なりません」

 

 しかし、そこを守るシスターはそう答えた。

 

「そんな!! これは演習とは名ばかりのゲヘナの侵攻!!

 全ての戦闘可能な組織の力を結集しなければならない、校難ですよ!!」

「我々は大聖堂を守らなければなりません。

 ここは校内の生徒の信仰の拠り所。ゲヘナの生徒に穢されるわけにはいきません」

「……彼女達がここに来るのは時間の問題ですよ」

 

 まるで協力をする姿勢を見せないシスターフッドの面々に、生徒会の生徒は恨めしそうにそう言った。

 

「ええ、我々の身は我々で守ります」

 

 シスターたちは、そう言って頷き返した。

 

 

 

「おっと、これはトリニティ内部で内輪もめでしょうか!!」

 

 シノンはそのように実況した。

 まさに野次馬根性、マスコミが大好きそうなネタであった。

 

「しかし、残念ながらそんなことをしている状況ではなくなっているぞ!!」

 

 戦略図に記されたゲヘナの侵攻具合を見ながら、そんなことを言うシノンだった。

 

 

 

「くすくす……みんな!! 攻撃開始!!」

 

 その時だった。

 数多くの水風船が大聖堂前の防衛陣地に降り注いだのだ。

 

 水風船が割れ、色とりどりの色水が周囲にはじけ飛ぶ。

 水風船を榴弾に見立てた攻撃に、シスターたちは阿鼻叫喚だった。

 

「きゃあ!? ベールが真っ赤っかに!?」

「攻撃、ゲヘナの攻撃です!!」

「遅かったか……」

 

 大聖堂はちょっとした階段の上に存在している。

 生徒会の生徒は眼下から投石器みたいな物体で水風船を投じてくるゲヘナの生徒を見て己の失態を悟った。

 

「こちらは、ミレニアムで開発された最新式の投石器です!!

 投石器なのに最新式? と思われますが、なんと個人で携帯も可能で、軽量でかさばらない!!

 手榴弾を遠くに飛ばす自信の無いあなたも、これがあれば今日から擲弾兵に早変わりです!!」

 

 シノンは今回協賛先のミレニアムの発明品を視聴者に紹介していた。

 

「私達はシスターフッドの足止めが目的だったんだけど、どうやらその必要は無かったみたいね」

「でも制圧は必要じゃん? 不格納要素は排除しろっていうじゃん?」

「バーカ、それを言うなら不確定要素だっての!!」

 

 ユエは、いつもミコトとつるんでいるチームの面々と大聖堂の攻略に来ていたのだ。

 

「ゲヘナめ、神聖なる大聖堂には指一本触れさせませんわ!!」

「ポイントマン、前へ」

 

 ユエの指示に、ライオットシールドを持った不良達が前に出て、シスターたちの銃撃を防いだ。

 

「みんな、攻撃目標変更。標的は、後方の大聖堂そのものよ」

 

 ユエがニヤリと笑ってそう言うと、投石器を操作していた不良たちもニヤリと笑った。

 

「マコト議長からの贈り物よ。

 泥水風船爆弾、投射!!」

 

 彼女の指示で、水風船が次々と投射される。

 それは大きく弧を描くように、シスター達の上を通り過ぎ、大聖堂の正面に炸裂する。

 

 その中身は彼女の言った通り、泥水だった。

 正面の荘厳なステンドグラスが泥まみれになった。

 

「あああ、なんてことを!!」

「か、神様もお怒りになりますよ、なんて罰当たりな!!」

「お願いですから、やめてください!!」

 

 狼狽えたり、お怒りのシスターたちを見て、ゲヘナ生達は指を差して大笑いしている。

 

「神、ねぇ。ねえ知っている? 騎士道って言うのは、同じ信仰や価値観を持つ相手にしか適用されないのよ?」

 

 神も恐れぬ所業を行う魔女とその仲間たち。

 もはや組織的に戦うことが出来ないでいる彼女達に、ユエは言った。

 

「あなた達が私達に対して、幾ら罵詈雑言を吐いたところで、どんな卑怯で卑劣なことをしたところで、それは正当化されるの。

 だって、信仰の違う相手って言うのは、人間じゃないんだもの」

 

 くすくすと、魔女は自分の独り言なんて誰も聞いていないと分かりつつも、笑いながら嘯いた。

 

「次の演習の時は、私達に遠慮なんてしなくていいように、徹底的に辱めてあげましょう。

 神の意志の代行だの、神罰だの言いながら、私達に怒りと憎しみをぶつけられるようにね」

 

 そんな人間の醜さが大好物の魔女は、涙目になっている清楚なシスターたちを見て笑っていた。

 

 

 

「トリニティ自治区内の各地で、大小様々なドラマが巻き起こっております!!」

 

 

「なんで、こんなことに……」

 

 商店街の路地裏で、トリニティの一般生徒が隠れていた。

 表は我が物顔でゲヘナ生が練り歩いている。

 その時。

 

「ミンちゃん!!」

 

 路地裏に、駆けつけてくる生徒が彼女を助けに現れたのだ。

 トリニティの生徒ではない、ゲヘナ生だった。

 

「モモトーク見たよ、助けに来た!!

 何でよりによって今日に出歩いてるのさ!!」

「だって、今日新作のアロマの発売日で、ちょっとお店に行って帰ってくれば良いかなって……」

 

 彼女は以前、ミコトにトリニティの生徒と友達になったと言っていたゲヘナ生だった。

 

「とりあえず、私が捕まえたってことにしておくから、あっちの牢獄エリアに避難しよう?

 何もされてないと怪しまれるから、水性ペン買って来たよ」

「……ううう、ありがとう」

「気にしないで。友達じゃん!!」

 

 ゲヘナ生は水性ペンで、適当なラクガキをトリニティ生の顔に書いた。

 

「ほら、行こう。風紀委員も居るから、事情を説明すれば守ってくれるかもしれないし」

 

 こうして、学校を超えた友情に寄って一人の生徒が無事に避難に成功した。

 

 

 

 

「くッ、強い!! 本当に空崎ヒナなのですか!?」

 

 正義実現委員会の本部棟前。

 トリニティの正門を突破し、万魔殿の兵隊を引き連れた偽ヒナが彼女らの本陣の制圧を完了した。

 

「えー、そうヒナよ。私、ヒナ。ヒーナヒナヒナ!!

 それじゃあみんな、彼女達を拘束するヒナよ」

「キャラづくりが雑過ぎる!?」

 

 余りにも解像度の低すぎるヒナの物まねに、思わずハスミはツッコミを入れた。

 

「ヒナ委員長、マコト議長率いる本隊が本校舎に突入した模様です!!」

 

 あくまで彼女をヒナとして扱う万魔殿の正規兵たちは、そのように報告した。

 

「オーケー、もう増援は来ないし、勝敗は決したかな」

「……無念です」

「じゃあ、仕事はしたし。ヒナは帰るヒナ」

「お疲れ様でーす!!」

「バイバーイ」

 

 まさに定時で帰るサラリーマンの如く、偽ヒナは帰路に就いた。

 

「はー、なんでこんなことしてるんだろう、私」

「……」

 

 自己嫌悪に陥っている偽物を、本物が複雑そうに見ていたとかなんとか。

 

 

 そんな偽ヒナが正門を正面突破し、トリニティ校内に数多くのゲヘナ生が雪崩れ込んだ。

 

 そんな彼女達が、救援騎士団の本拠点がある分校舎に差し迫っていた。

 

「こ、ここは怪我人の搬入もされる場所です!!

 ど、どうか、攻撃しないでください!!」

 

 そこを守っていた救護騎士団の団員が、自分達の数十倍の数で押し寄せるゲヘナ生たちに向け賢明にそう言った。

 

「……どうする?」

「いや、どうするって、あの制服ってミネさんのいる部活じゃん」

「私ら、ミネさん達に世話になったしなぁ」

「私も。あの人の連れてきた団員の人達も、一晩中側で看病してくれたし……何なら、友達になった子もいるし……」

「じゃ、別のところにする?」

「そうしよう。ミネさんを敵に回したら怖いし」

 

 ぞろぞろと、まるで濁流が意志を持って流れを変えるように、ゲヘナ生たちは救護騎士団の防衛陣地を素通りして行った。

 あのゲヘナの悪ガキどもでさえ、悪ふざけの一つもせずに通り過ぎて行った。

 

「た、助かった……?」

「向こうでも副団長が活躍してたみたいね」

「流石はミネさんだわ……向こうでゲヘナの生徒も制したのね」

 

 まさにミネの人徳によって、彼女らは戦わずに勝利した。

 ゲヘナへ救護に向かわず待機していた彼女達は、ますますミネに心酔するのであった。

 

 

 

「おっと、どうやら、マコト議長率いる本隊が本校舎に突入したようです!! これはもはや、お昼の休戦タイムを待つまでもなく、勝敗が決しようとしています!!」

 

 

 

 シノンの実況の通り、マコトは部隊を引き連れ本校舎に突入していた。

 

 パテル派の決死の抵抗も空しく、彼女は一年前と異なり、自らの足で生徒会室へと王手を掛けた。

 

「お前達はここで待機しろ」

 

 生徒会室前を制圧し、兵員に待機を命じてマコトはその両開きのドアを開け放った。

 

「ふん、こんな時でもお茶か」

 

 がらりとした広い生徒会室を、マコトはイロハを伴って、こつこつと歩いて行く。

 生徒会室に侵入を許す。それがトリニティ側の敗北条件。

 この時点でマコトは、勝利していたのだ。

 

 三人の生徒会長は、丸テーブルを囲んで静かに彼女を待っていた。

 彼女らを守る者など、一人も居なかった。それは人払いなのか、彼女達以外全員が戦いで散ったのか。

 

「ようこそ、ゲヘナの生徒会長」

「そちらは病床に伏していたのではなかったのかね?」

 

 まったく歓迎していない声音で言うナギサと、開幕早々嫌味をぶつけるセイア。

 

「キキキ!! これも情報戦と言う奴だ」

「下らないことを言うんだね。あなた達のせいで、学校中は滅茶苦茶だよ。

 この有様の責任、どう取るの?」

 

 ミカの刺々しい言葉に、マコトはこう言った。

 

「知らん」

 

 ただそれだけだった。

 本当にそれだけなので、他の言葉を待っていた三人と彼女の間に静寂が落ちた。

 

「え、いや、だから、あるでしょう?

 今回の騒ぎの責任を取るの。私達は強く抗議するよ?」

「そうだな。ミコトに取って貰え、あいつが始めたことだ」

「でも生徒会長はあなたじゃない!!」

「そうだな。だが私が失脚して、後釜に据えられるのは恐らくあのバカだぞ」

 

 マコトはその表情に何の楽しさも浮かべていない。

 ここまで来れたのを、自分の力だと思っていないからだ。

 

「ではこのマコト様がミコトに責任を取らせるか?

 うむうむ、そうだな、とりあえず退学にでもなって貰おうか。

 おっと、しまった。それは去年やっているのだった!!

 連邦生徒会からはあのバカを退学にして野放しにするなと言われているのだった!!」

 

 道化のように、マコトはキキキと笑った。

 目はちっとも笑っていなかった。

 

「……お前達が感じている屈辱を、この私は感じていないと思うか?」

 

 ゲヘナとトリニティの生徒会長の直接対談という、歴史的な瞬間にも関わらず、お互いに抱いている感情は同じだった。

 

「あいつに責任を取らせたいのなら、お前たちが勝手にやれ。

 お前達はあいつのオモチャなのだ。お前達が壊れれば、本気で奴はキヴォトスを混沌に叩き落す。精々あのバカの卒業まで、長持ちすることだ」

 

 マコトは、この悪夢に終わりはないと告げていた。

 お互いの学校の政治を全て叩き壊して、過ぎ去っていく嵐が何度でも狙って発生するのだ、と。

 

「それで、ティーパーティーというのは客人に茶も出さないのか?」

 

 そして最後にふてぶてしく、マコトはそう言ったのだ。

 

 

 

 その十分後くらいだった。

 

「よう」

 

 生徒会室に、ミコトが現れたのは。

 

「なんだなんだよ、お前ら!!

 全然なっちゃいないだろうが!! この様で本当に俺と戦う訓練してたってのかよ!! 先代たちが泣くぜ!!」

 

 ずけずけ、と彼女はナギサたちの前に歩み寄った。

 

「泣きたいのはこちらなのですが」

「それよりマコちゃんはどこだ?」

 

 ナギサの批難を、ミコトはまるで無視した。

 

「こっちだ、バカものめ。

 それにしても、これが本当に高い紅茶なのか? ペットボトルの紅茶の方が美味いぞ」

「それはマコト先輩が馬鹿舌なだけでは?」

 

 遠くの方の来賓用ソファーで、イロハと一緒にくつろいでいた。

 

「ふーん、まあいいや、勝利宣言をしに来たぜ」

「ミコト。せっかくだから降伏を勧告しろ。全面降伏をだ」

「オーケー、マコちゃん!! そう言うわけだ、全面降伏しろ」

 

 一応この演習、というか戦争を始めた者として、ミコトは三人にそう言った。

 

「……はあ、わかりました。

 なので、これ以上我が学園を汚さないでください」

 

 全面降伏と言っても、これは所詮演習だ。

 普通、全面降伏というのは、無条件降伏とも言う。

 相手の言い分を全て受け入れる、という敗北宣言なのである。

 

 とは言え、演習と言う体なのでトリニティも何一つ差し出すつもりはなかったのだが。

 

「よーし、折角勝ったんだから記念品でも貰おうぜ!!」

「……え?」

「お前のその羽根、綺麗だよな」

 

 ミコトは、おもむろにナギサの羽根の一枚を毟り取った。

 

「なあユエ、これ羽ペンにしようぜ!!」

「それは良いわね」

 

 ミコトが振り返ると、ユエが当たり前のようにそこに居て微笑んだ。

 

「な、な、何をするんですか!!」

「べつに一年もすれば生え変わるだろ、髪の毛みたいに毎日抜け落ちるんだから、一個ぐらいいいだろ」

 

 涙目になるナギサに、無遠慮にミコトはそう言った。

 かくしてナギサは、先代共々同じ辱めを受けることになった。

 

「な、ナギちゃん!? こっちは降伏したんだよ!?

 こ、これ以上酷いことするなら!!」

「酷いことするなら、なんだ?」

 

 ミコトは笑いながら、ミカの羽根に飾り付けられているアクセサリーを一つ奪い取った。

 

「取り返してみろよ。いや、取り返しに来い。それまで大事に取っておいてやる」

 

 獰猛に笑うミコトに、ミカは絶句した。

 

「よく覚えておけ、これがゲヘナだ。これが混沌だ、これが自由だ!!

 その中にはな、お前らも入ってんだ!!」

 

 ぎゃははははは!!!

 トリニティの終わらぬ悪夢が、哄笑を挙げる。

 

 そしてその視線が、セイアに向けられた。

 

「や、止めたまえ、私には羽根はないぞ!?」

「……なあイロハ。そう言えば、当面の授業は教科書の範囲をしないんだったよな」

「ええ、そうですね。とりあえずインフルエンザの生徒の大半が快復するまで、例えば国語なら書道の授業などでお茶を濁すことになっています」

 

 怯えるセイアを無視して、ミコトはイロハに尋ねた。

 

「書道か。ああいうのって、最後に作品を提出するよな」

「ええ、そうですね」

「おい、誰か墨汁と紙持ってこい!!」

 

 そして。

 

「だ、誰か助けてくれ……」

「えーと、なんて書こうか?」

「花の名前とか良いんじゃないかしら」

「それはいいな。ワビサビって奴だ」

 

 セイアを小脇に抱え、その長い尻尾の毛先を掴んで墨汁に浸しているミコトがユエと会話を繰り広げる。

 

「……そうだわ、ユメさんの苗字は、梔子だったわね。あれも花の名前だったわね」

「そうだな。じゃあそれにするか」

 

 くち、なし、とミコトはその粗暴さからは想像も出来ない達筆で、一筆したためた。

 それを見ていたマコトとイロハは大爆笑である。

 

「マコちゃん!! これ、生徒会室に飾ろうぜ!!」

「キハハッ、貴様にしては愉快な提案だな!!」

 

 こうして、生徒会長三人から記念品を徴収したミコトは、意気揚々と帰って行った。

 

 そして演習が終わり残ったのは、汚れまくった自治区と、辱められた生徒会長三人と生徒達だった。

 

 かくして、トリニティの上層部の心は一つになった。

 あの邪知暴虐のゲヘナ学園(クソガキども)を、赦してはおけぬ、と。

 

 結局のところ、どう頑張ったって学園レベルでゲヘナとトリニティが仲良くするなんて不可能だということだった。

 ある意味では、正しい両学園の形と言えた。

 

 しかし、こうして浮き彫りになった両学園の確執を見かね、連邦生徒会長が重い腰を上げる。

 

 即ち、こうした演習の悲劇を現実のものとしない為の提案。

 

 ────“エデン条約”の開始であった。

 

 

 

 

 




こうして二章第一部、トリニティの悪夢編が終了しました。思ったより長くなってしまいました。
対SRT戦でも思ったのですが、やっぱり私はバトルシーンが苦手です。露骨に評価が少ないですし。これからはもっと大雑把にします。

とは言え、ミコトは散々ああいうキャラクターだって描写したつもりなのですが、久々に前回低評価貰って凹みました。
まあ、仕方ないですよね!!

これに挫けず、頑張って次回も執筆致します!!
こうやって自分を奮い立たせないと甘えてしまいますので、こうして文字にしております。ご了承ください。
それでは、また次回!!
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