ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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今回は幕間のお話になります。



幕間 ミコトのバイト

 

 

 

 ゲヘナ学園、本校舎前。

 

 ミコトを始めとした不良達が円を描くようにヤンキー座りで駄弁っていた。

 

「ミコちゃん。次はどこのどいつを〆るの?」

「まだ決まってねぇ」

 

 先の生徒会長の政権が倒れ、校内は荒れに荒れていた。

 ゲヘナで誰がテッペンを取るのか。ゲヘナは大不良時代を迎えていた。

 ただ、下馬評ではミコトが断トツの一位を独走していた。

 

「ガッコで暴れんのもいいっすけど、うちのシマで暴れてる調子こいた連中を〆るのもいいんじゃないんすか?」

「ああ、最近多いらしいな」

 

 最近多い、というより元に戻りつつある、と言った方が正しかった。

 前生徒会長によって抑圧されていた不良達の溜まり場は、鬱憤を晴らすように不良天国へと拡大していった。

 

「カツアゲとか、誘拐に手を出してる奴も居るって聞くっすよ」

「ゲヘナは俺らのシマだ。マジで舐めてね?」

「ミコちゃんとうちのチームがゲヘナのテッペンだって、分からせた方がいいよね」

 

 そうと決まったら、彼女らは膝を叩いて立ち上がった。

 

「んじゃ、情報屋に聞きに行こうぜ」

「いいんすか? 万魔殿の情報部を勝手に使って」

「良いんだよ、こう言うのは有効活用って言うんだぜ」

 

 彼女らの方針が固まったところだった。

 足音が、彼女達に近づく。

 

「……風紀委員が何の用だよ」

 

 彼女らの前に現れたのは、風紀委員の制服を纏った生徒だった。

 

「ちょっと話があるんだけど、いい?」

 

 彼女はその場に居る全員を睨みつけるように一瞥する。

 

「ああん、なにガン飛ばしてんだ、てめぇ!!」

「風紀委員のお利口さんが私らに話しかけてんじゃねえよ!!」

 

 不良と風紀委員は水と油。

 特に理由が無くても敵同士なのである。

 

「……ッ、ミコちゃん、こいつ風紀委員のアサシンっすよ」

「アサシン? 暗殺とかやってんのか?」

「違いますよ、あの顔絶対何人か殺してるって噂だから、アサシンって呼ばれてるんすよ」

「マジかよ、実際どうなんだよ」

 

 真顔でミコトは風紀委員に問うた。

 

「いちいち訂正するのも面倒くさい……。そんなバカな噂なんて信じる奴なんて居ないでしょ」

「でもメッチャ良い声してんな。その声で後ろから耳元で殺しに来たって言われたら、マジでアサシンって信じちまうかもしれねぇ」

「それって褒めてるの?」

「褒めてんだよ」

「そう、ありがと」

 

 ミコトの仲間たちが、これってどういう話だっけ、となっていると。

 

「カヨコさん!!」

 

 向こうから、新しい風紀委員が走ってきた。

 

「本当にこいつらのところに居たんですね!!

 まさかあの話を真に受けたんですか!!」

「アコ、なんで来たの?」

「また風紀委員が増えたぞ」

「めんどくさ、バックレるか?」

 

 そっすね、とミコトの仲間たちが応じると、ミコト達は踵を返す。

 

「まあ待ってよ。あなた達、バイトをしない?」

「バイトだって?」

 

 アサシン……いや、カヨコと呼ばれた風紀委員が彼女らを呼び止める。

 

「知らないの? 風紀委員に一般生徒が協力したら、報酬が出るんだ。

 今は私達も猫の手を借りたいほど忙しいんだ」

「カヨコさん!! だからってこんな奴らの手を借りるなんて!!」

「だからアコ、あんたが居ると話がややこしくなるからあっち行ってよ」

「いいえ、カヨコさん!! 風紀委員の行政官とあろう者が、よりにもよって不良と繋がるなんて、スキャンダルですよ!!」

「誰がすっぱ抜くのさ、そんなネタ」

 

「バイトだって、どうするよ?」

「知ってるっすよ、こう言うの。リガイノイッチって言う奴っすよ」

「だけどさ、私ら別にカネ目的でツッパってるわけじゃなくね?」

「だよなー。カネで動くと思われてんのって、つまり舐められてるってことじゃね?」

「んじゃ、〆るか」

 

 不良たちの結論は出た。

 その会話は当然、風紀委員の二人にも聞こえていた。

 

「ほら、やっぱり言わんこっちゃないじゃないですか!!」

「はあ……やっぱりダメか」

 

 交渉は決裂した。

 

 のだが。

 

「あ、あの……ミコちゃん」

「なんだよ、シノちゃん」

「あ、あたし、実はカネなくて、寮を追い出されそうで……!!」

「はあ!? お前、なんでそれ言わなかったんだよ!!」

 

 これにはミコトも驚いた。

 それを告げた彼女の仲間は弱々しく震えていた。

 

「そうだよシノちゃん、水臭いじゃん!!」

「カネぐらいならウチも貸したのによ」

「でも、うちのチームってカネの貸し借り禁止だってミコちゃんが言ってたし……。

 前のバイトはレジスタンス活動で辞めちゃったし……」

 

 ミコトが現在つるんでる仲間は、かつてのレジスタンスのメンバーが大半だ。

 やりたいことを見つけた者も居て全員ではないが、半数以上が彼女の元に残っていた。

 

「はー、しょうがねえな。

 ……いくら貰えんだ?」

「不良グループ一つ検挙するごとに、これだけ支払うよ」

 

 カヨコはスマホの電卓アプリで金額を提示した。

 ミコト達は思わず顔を見合わせた。

 

「……マジかよ、うちのバイト一か月分より高いじゃん」

「でも俺らが風紀委員の犬みたいに言われるのは嫌じゃね?」

「だけどミコちゃん、ツッパるにもカネがいるじゃん」

「それとこれとは別つーか」

「じゃあ引き渡しはこっちの者がやればいい? あなた達はただ不良を倒すだけ。通報したのは善意の他人ってことで」

 

 丸聞こえのひそひそ話をしてる不良たちに、カヨコが助け舟を出した。

 

「しゃーねえなぁ!! ダチの為だ!!」

「おうおう風紀委員ども、うちらを良いように使えるとおもうんじゃねーぞ!!」

「いつか〆てやるから覚悟しとけ!!」

 

 虚勢を張る金欠ども。

 悲しきかな、この世は資本主義社会。

 お金が無ければ不良もただの浮浪者なのだ。

 

「じゃあ、こちらから指示を送るから。頼むよ」

「おう、番号交換しとくぞ」

「それじゃあ、活躍を期待してるから」

 

 行くぞ野郎ども、とミコト達はどかどかと去って行った。

 

「カヨコさん!! やっぱりあんな連中を大金で雇うなんて!!」

「大金? あいつらを十年使い倒しても、戦車一台分にもならないよ」

 

 カヨコは早速交換したミコトのスマホに、情報を送信し始めた。

 

「それに賞金首を引き渡されたら、こっちがヴァルキューレに送り届ければいい。それで報奨金はこっちが丸儲け。収支はプラスだ。

 ああいうのは上手く使いなよ、アコ」

「流石、やり手の行政官ですね、カヨコさん!!」

「まだまだ仕事は残ってる。早く終わらせるよ」

 

 そうして、二人も仕事に戻る。

 風紀委員の仕事は、山のように積み上がり続けるのだから。

 

 

 

 

 一週間後。

 ミコト達の目の前には札束が積み重なった。

 

 この一週間で彼女達はそれはもう暴れまわった。

 ゲヘナ自治区内の悪質不良集団や犯罪グループにとって、彼女達は災害そのものだった。

 

「ど、どうするこれ?」

「とりあえず、山分けでいいな?」

 

 唾を飲む仲間たちはミコトに頷いて見せた。

 

「全員分の単車を買っても全然残るよな」

「それに、生意気な連中はまた湧いて出てくるだろ? やべえシノギだな、これは」

「やっぱ風紀委員みたいなエリートはカネ持ってんだな……」

 

 ゲヘナ自治区内の不良たちはミコト達を恐れ、鳴りを潜めた。

 彼女達が通るだけで、不良たちは背筋を伸ばして頭を下げるまでになった。

 

「ゲヘナのテッペンは取った。

 次はトリニティを〆んぞ」

「……ミコちゃん、桜花祭のあれマジだったの?」

「当然だろ。トリニティを〆たら、それだけでキヴォトス最強だぜ?」

 

 キヴォトス最強、という言葉に皆は顔を見合わせる。

 不良なら、誰しも最強を目指すものだ。それが若さである。

 

「いよっしゃ、どこまでも付いてくぜミコちゃん!!」

「私らのチームが最強にか……夢みたいだなぁ」

「中等部の頃の自分に言っても信じないだろうなぁ」

 

 ミコトの仲間たちは、意気揚々と、或いは感慨深くそう言った。

 そうして、トリニティ攻略の準備は着々と進むことになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 そして、これはそれから半年後のことである。

 

「あなた達、何をしたんですか!!」

 

 学校の訓練施設でトレーニングをしながら教科書を読んでいたミコトに、怒鳴りつける声があった。

 

「あん? お前はカヨコの腰ぎんちゃくじゃねえか」

「天雨アコです!! いい加減覚えてください!!」

「名前覚えんの苦手なんだよ」

 

 犬のように吠えるアコを、ミコトはうっとうしそうに見やった。

 

「あなた、カヨコさんに何をしたんですか!!」

「なにって、何をだよ」

「とぼけないでください!! 彼女、ここしばらくずっと寮から出ないんです!!」

「いや、知らねえよ」

 

 実際、ミコトは預かり知らぬことであった。

 

「どうせまたどこかで暴れたんでしょう!!

 ありとあらゆる学校から苦情が来る身にもなって下さい!!

 カヨコさんも万魔殿から仕事を大量に割り振られて、ふらふらしてたんですからね!!」

「そりゃあ、悪かったな……」

 

 ここまで悪しざまに罵られては、ミコトと言えど罪悪感はあった。

 一応迷惑をかけている自覚はあるのだ。

 

「後で顔見てくるよ。

 もしかしたらどっか悪いのかもしれねぇし、ちょっと診てやるよ。

 俺もミネの救護に対抗して、救急医療部で救護を教わったんだよ」

「は? 救護? 対抗?」

「おう、ミネって看護師だろ? だから俺は医者に救護を教わったんだよ。つまり、俺の方が強いんだよ」

「???」

「外科って医者だろ? 手術するらしいし。つまり俺の救護が上ってことだ。その内確かめるから、期待しとけよ、えーと、アッコ?」

「誰が芸能人ですか!! 意味が分かりません!!」

「風紀委員のエリートのくせにわかんねぇのかよ」

 

 ミコトはおもむろに懐からメスを取り出し、投げた。

 ウォーターサーバーの横に放置されていた紙コップをメスが貫いた。

 

「これが俺の救護だ」

「やっぱり意味が分からないんですけど……」

「この教科書暗記したらカヨコのとこ行くから、今はトレーニングの邪魔すんな」

「くッ、さりげない天才アピールがムカつく……その知能を全く有効活用しないところも!!」

「活用してっから、この間の期末満点だったんだよ」

「くぅ……いつか覚えてなさい!!」

 

 テストの順位で目の前の不良より下に居た絶望を思い返し、アコは奮起しながら去って行った。

 

「……あとで顔見に行くか」

 

 ミコトはそう呟いて、トレーニングを再開した。

 

 

 

 

「おーいカヨコ、パイセーン!!

 ちょっと面貸せよ」

 

 校内にある生徒向けの学生寮に、ミコトはその日の午後に来ていた。

 カヨコの部屋を寮監に聞いて、ドアを叩くが反応は無い。

 事前にスマホでメッセージを送ったが、同様に返事も無かった。

 

「出ねえとドアぶち破んぞ!!」

 

 しかしドアノブを破壊しようと回すと、ドアは呆気なく開いた。

 鍵は掛かってなかったのだ。

 

「……留守なのか?」

 

 彼女の呟きはすぐに否定される。

 室内に踏み込んですぐそこにあるベッドに、カヨコは横たわっていた。

 

 眠っているのではない。ただぼーっと天井を見ていた。

 

「おい、大丈夫かよ。ビョーキか?」

「なに勝手に入ってるの」

「アッコ? が心配してっぞ。てか、風紀委員の仕事どうすんだよ」

「なんか」

 

 カヨコは言った。

 

「全部もうどうでもいいかなって。

 そう思ったら、朝から体を動かす気力がなくなったんだ」

 

 ミコトは脳内にインプットした医学書から症状をピックアップして、病名を推測した。

 

「それ、鬱じゃね? マジで病院いった方が良い奴じゃねーか」

「そうかもね。でも行く気力もないし」

「俺が連れてってやるよ。救急医療部は外科だし……ミネに良い病院聞くか」

 

 ミコトがメッセージを送ると、二秒で『どこですか?』『すぐそちらに向かいます』『救護は必要ですか?』と連続でメッセージが来た。

 

「だから良い病院教えろって、と」

 

 ミコトがそう返すと、すぐにトリニティ自治区にある心療内科のある病院の住所のマップが添付された。

 

「おし、行くぞ」

「ごめん、ありがと」

「気にすんな。お前には世話になったしな」

 

 ミコトはカヨコを担いで、単車で病院へと向かった。

 

 

 

「お医者さんは、しばらく仕事は休んだ方がいいって言ってた。働き過ぎだって」

「そうか、だろうな」

 

 病院の帰り、いくつかの薬を処方され、カヨコは帰宅した。

 

「毎日山のような書類を書いてんだろ?

 風紀委員のダチが言ってた」

 

 風紀委員の仕事はかなり過酷だ。

 不良だらけのゲヘナの自治区はただでさえ広大で、広範囲に広がるスラムを根城にする犯罪グループは数えきれない。

 風紀委員会は千人近く頭数があるのに、それでも全く手が足りないのだ。

 

「……なんかあったのか? マコちゃんにイジメられてんのか?」

「違うよ」

 

 カヨコは端的に、無気力に否定した。

 

「毎日世話してた猫がね、道端で車に轢かれて死んでたんだ」

「……そっか」

「それを見たらさ、なんかどうでもよくなって……」

 

 ミコトにはかける言葉が無かった。

 

「風紀委員、辞めるよ。

 元々前の生徒会長に宛がわれた仕事だったし。

 しかたなく続けてただけだし……」

「学校はどうすんだ?」

「わからない……でもお医者さんは何か月も治療に掛かる場合もあるって」

「そうだよなぁ」

 

 ミコトの脳内の医学書も同じ答えを吐き出している。

 今彼女にできることは、そっとしておくことだけだった。

 

「時々、なんかメシとか買ってきてやるよ。

 だから重りを持って海に飛び込むとか、やめろよな」

「そんなことしないよ」

「衝動的にそうしちまったりするんだよ。舎弟共に部屋の前を見張らせとくかんな、わかったな?」

 

 そう釘を刺して、ミコトはじゃあなと言って部屋から去って行った。

 

「…………………………寝よ」

 

 カヨコは何の感慨も湧かなかった。

 何もかも空虚で、人生は虚しい。

 

 ……彼女の青春に光が差すのは、まだ少し先のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、アコの助。調子はどうだ?」

「なんですか、いきなり話しかけて」

 

 あくる日、食堂で偶々見かけたアコに声をかけつつ、ミコトは対面の席に座った。

 

「……カヨコの奴、しばらくはダメそうだ」

「聞いてます。診断書も提出されましたから。おかげでこっちにまでしわ寄せが来てます。いい迷惑ですよ」

 

 と言いつつも、アコはどこか落胆している様子だった。

 有能な先輩として慕っていた相手がドロップアウトして、ショックなのかもしれなかった。

 

「しかもですよ? 幹部候補として委員長が情報部から引き抜いてきたのはちんちくりんですよ。信じられません、風紀委員会に多大な貢献をしている私を差し置いて!! あの毛玉、いつか蹴落としてやります」

「そうか。頑張れよ」

 

 ふふふ、と邪悪な笑みを浮かべているアコをミコトは軽くスルーした。

 

「……あなたは風紀委員に興味ないのですか?」

「なんだ、急に。俺みたいな不良にはふさわしくないんじゃないのか?」

「……そうですね、忘れてください。気の迷いでした」

 

 ところで、とアコは言うと。

 

「アコの助ってなんですか!! どこから出て来たんですか!!」

「なんだよ、今更かよ」

「前々から思っていましたけど、あなた私の事軽んじてますよね!!」

「だって弱いだろ?」

「貴女に比べれば人類の99%以上が弱いでしょうね!!」

「ちゃんと訓練してんのか? その肉付きで」

「仕方ないでしょう、最近は書類仕事が多いんですから!!」

「はー、出世って面倒なんだな」

 

 もう既にアコとの会話に興味を失ったミコトは、今日の昼食を食べ始めた。

 

「聞いてるんですか、私の話はまだ終わってませんよ!!」

「はいはい……」

 

 ただ、この時アコは知らなかった。

 ミコトの興味を引いてやまなくなる存在が、もう自分のすぐそばに居ることに。

 

 

 

 

 




評価バーに色が付きました!! ありがとうございます!!
お気に入りももうすぐ百人になりそうですし、昨日ちょっとだけ日間ランキングに乗ったのを確認した時心臓が飛び跳ねそうになりました。望外の喜びです!!

アコとカヨコの関係が、こんなかんじで湿度が高かったら良いなと思っております。

それでは、高評価や感想があればお待ちしております!! よろしくお願いします!!
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