ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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前回のあとがきで、ソラナギの元ネタの空亡を、間違って亡空って書いてしまいました。お恥ずかしいww

それでは本編どうぞ。



side:被害者 「ソラナギ 後編」

 

 

 

 被害者その1。陰陽部。

 

 彼女達は百鬼夜行連合学園の実質的な生徒会として、問題が起こった時に対応するために、運営本部に詰めていた。

 具体的には、お茶をシバいていた。

 

「ふぅ。知ってますか、カホ。このお茶、トリニティにも卸しとるらしいですわぁ。

 せやから、私らもお嬢様みたいな気分になりませんか?」

「馬鹿言わないでください」

 

 ニヤの言葉を、カホは切って捨てた。

 

「先ほど、最後の山車が出発しました。

 今回は大したトラブルもなく、終わりそうですね」

「せやなぁ。百花繚乱が出張るまでもなく、暴れとった連中も観光客が勝手に鎮圧しとったって話やし」

「たまたま居合わせた観光客に対応させるなど、恥ずべきことです」

「丸く収まったのならええやないの。カホは真面目やねぇ」

「貴女が不真面目なだけです」

 

 はあ、とカホは溜め息を吐いた。

 

「とは言え、彼女らの気持ちもわかります……」

 

 今回のお祭りの内容の変更。それは陰陽部の、彼女達の先輩達の判断だった。

 

「ソラナギ役の件ですか?

 あれは無駄が多すぎます。当然の判断やと思いますけど」

「お祭りとは、パフォーマンスも含まれているものですよ。

 しかし時代が違うとはいえ、大昔の演劇の内容を大々的に行うのは不適切だと言うのも分かります」

 

 演目“ソラナギ”の成り立ちは、はるか昔に遡る。

 それは百花繚乱紛争調停委員会が発足する以前、百鬼夜行連合学院が連合になる前の話になる。

 

 当時戦乱状態だった各派閥の戦いに、嫌気が差した生徒がその役を演じたとされる。

 その内容は、戦乱で友を失った生徒が復讐の鬼と化して、争いを続ける学校を滅ぼすという、社会風刺的な話なのだ。

 

 古典的なダークヒーロー物であり、当時の百鬼夜行学園の人々に大うけしたと言う。

 誰もが戦乱に疲れていたと言う証左なのだろう。

 

 そしてその脚本は加筆を続けられ、演出も派手になり、演劇の枠を超えてこうしてお祭りになるほど大人気になった。

 

 今では百鬼夜行の生徒が各々手作りの山車を披露し、最後に破壊して楽しむお祭りという形になった。

 二人の先輩達は、要するにそこから政治色を排除したかったのだ。

 

 学校に反目するダークヒーローに、憧れられても困ると言う話である。

 

「カホも、ソラナギは大好きやもんねぇ」

「何を言っているんですか。ソラナギが嫌いな百鬼夜行の生徒なんて居ませんよ!!」

 

 ニヤのまったりとした物言いに、カホは力説してそう語った。

 

「今では百鬼夜行だけに留まらず、マンガ、ドラマ、小説、数々の創作の元ネタになっています。

 みんなから愛されている主役を、我々が奪うことになるなんて……」

「その代わり、お祭りの間に演劇として公演しとるやありませんか」

 

 ばりぼり、とお煎餅を食べながらニヤは言った。

 

「感情は、代替できるものではありませんよ」

 

 カホは次期部長にそう言った。

 そして、日が落ちるのを、太陽が沈むのを遠目に見やった。

 

「なんやろなぁ。風が薙いで来とる。

 祭りの最中やのに、空気が淀んでるみたいですわぁ」

「……黒い、日の丸」

「なんやて?」

「黒い日の丸です!!」

 

 カホが慌てて、沈みゆく太陽を指差した。

 ニヤがそこに目を向けると、太陽を背に気球がこちらに向かってきていた。

 

 白い生地に、黒点。黒い太陽。――ソラナギの、シンボルだった。

 

 

 

 観光客たちも、山車を背負って行進する生徒達も、それに気づいた。

 

「ねえ、あれって!!」

「嘘ッ!? たしか今回から、あれは無くなったはず!!」

 

 生徒達にざわめきと動揺が走る。

 

「なんだなんだ、今年は無いって聞いてがっかりしてたのに!!」

「なんだ、結局あるんじゃないか。サプライズか?」

 

 観光客たちが騒ぎ始める。

 

 どこからともなく、ぴーひょろろ、と篠笛が鳴る。

 ひとつではない、無数にだ。

 

 祭りの騒がしさが、喧騒が、静まり返る。

 

 魑魅一座だ。彼女らが篠笛を吹きながら、現れる。

 

 

「皆の衆、皆の衆!! 此度のお祭り、トリを務めますのは、皆さまもご存じのかの御方!!」

「我ら魑魅魍魎の葬列を見よ、死にたくば見よ!! 見よ!!」

「そして、我らの終わりも見よ!! 死なば諸共、死なば諸共!!」

 

 魑魅一座が囃し立てる。

 

 伝承曰く、百鬼夜行を見た者は死ぬと言う。

 そして今。そんなあやかし達の終焉が訪れようとしていた。

 

「――――ソラナギだぁ!!」

 

 誰かが、そう言った。

 

 それと同時に、最後に出発した山車の上に、気球から誰かが飛びおりてきた。

 落下の衝撃で、それを運んでいた生徒達は吹っ飛び、山車が粉々に砕け散った。

 その姿は、あからさまに忍者だった!!

 その面貌には、「妖」「滅」の二文字。

 

「わっしょい!!」

 

 

 妖怪たちの、死神が訪れたのだ。

 

 

 

 §§§

 

 

 被害者その2。百花繚乱紛争調停委員会。

 

「わっしょい!!」

「「「わっしょいッ!!」」」

 

 ソラナギが山車を破壊する。

 その掛け声に、観衆が応じる。

 

 彼女の回し蹴りで、山車が砕け散る。

 それを運んでいた生徒達は、とっくに逃げ出している。

 

 まるで走る地上の花火。

 色とりどり、様々な形の山車が次々と破壊される。

 

「やっぱりこれだよな!!」

「これを見ないと、大行進を見に来たって感じがしないよね!!」

 

 嵐が過ぎ去っていくのを見て、観光に来た住人や生徒が笑い合う。

 

「なんでソラナギが忍者なんだよ」

「新しい解釈かな……」

 

 或いは、その奇天烈な格好に唖然とする生徒もいた。

 

 そして勿論、それを阻止するために行動する者も。

 

 

「止まれ、百花繚乱だ!!」

 

 二十ばかりの山車を破壊したソラナギの前に、浅黄色の羽織を羽織った集団が現れた。

 

「愉快、愉快だぜ、このソラナギの前に死に装束で現れやがるとは」*1

 

 ソラナギは腕を組む忍者ポーズで一礼した。

 

「どーも、ソラナギだ。百鬼夜行総合学園を滅ぼしに来た」

 

 名前間違ってる、と彼女と相対した百花繚乱の面々はピキリと来た。

 

「ところでお前ら誰だ? 百鬼夜行の部活か何かか?」

 

 こいつ自分達を知らないで騒ぎを起こしたのか、と彼女達はピキリ度がアップした。

 ソラナギは百花繚乱発足前の存在なので、知らないなら知らないでキャラ設定にそぐっているのがまたムカつくのである。

 

「我々は百花繚乱紛争調停委員会!! 百鬼夜行の治安維持組織だ!!」

「ああ、風紀委員とか正義実現委員会みたいなもんか。

 えーと、百鬼夜行潰すついでにお前らも潰しておくか」

「ぬかせ!!」

「忍法!!」

 

 ソラナギはその場で考えた適当な印を結び、こう言った。

 

「口寄せの術!!」

 

 すると、ぞろぞろと、被害者その3。魑魅一座が現れたではないか。

 

「あ、あの、流石に百花繚乱とやり合うのは……」

「なにビビってんだ、そんなんで不良やれんのか、ああん!!」

 

 ソラナギの恫喝に、魑魅一座の面々が怯える。

 

「祭りだ祭りだ!!」

 

 ソラナギが呼びかける。

 

「わっしょい!! わっしょい!!」

 

 魑魅一座がヤケクソのようにそう叫んだ。

 

「やるぞ、てめぇら」

 

 そして、両陣営が衝突した。

 

 

 

「アヤメちゃん、今日もお疲れ様ねぇ」

「いつもありがとうアヤメちゃん、ほらほら、これ持っていきな」

「ふふ、皆ありがとう」

 

 抗争が勃発しているところから離れたところに、警備をしていたアヤメの元にナグサが駆け込んできた。

 

「アヤメ!! 緊急事態よ!!」

「どうしたの、ナグサ」

「何だかわからないけど、ソラナギが現われて山車を壊して回っているって……」

「……どういうこと?」

 

 アヤメは小首を傾げた。聞いていた話とは違う。

 

「私もよくわからないけど、応援要請が発令されてる。

 とにかく、現場に行こう!!」

「そうだね。おばちゃん、イカ焼きは今度にするよ」

 

 アヤメはイカ焼きを出店のおばちゃんに返して、ナグサと共に現場に急行する。

 

 もう既に、現場の状況は終了していた。

 

「ぎゃははは!! ゲヘナの風紀委員が100点なら、70点ってところだな!!」

「風紀委員がキヴォトス最強の戦闘集団って、本当だったのねぇ……」

「ちげえねぇ」

 

 ソラナギの隣に、新しく忍者が増えてそんなことを言い合っていた。

 

「嘘だろ、百花繚乱に喧嘩売って勝っちゃったよ……」

 

 アラタは地面に倒れ伏している百花繚乱の面々を見て、勝利の余韻に酔いしれていると言うより、ドン引きしていた。

 不良としていけ好かない治安維持組織が倒れて、ざまあみろ、というよりも、やっちゃった感が強かったのである。

 

「そんな、先輩達!!」

 

 そんな現場に、二人は駆け付けてきたのである。

 

「あ、あいつは!!」

「なんだ、知ってるのか。えーと、小ダヌキ」

「私はアラタだ!! あいつは百花繚乱のホープのアヤメだ!!」

「彼女は強敵よ。私は詳しいのよ」

 

 ソラナギは周りがやいのやいの騒いでいる。

 

「何が目的か知らないけど、これ以上の狼藉は見過ごせないよ!!」

「俺の目的はただひとつ」

 

 ソラナギは、こう答えた。

 

「百鬼夜行、滅ぼすべし!!」

 

 そして、両者が激突した。

 

 

 

 

 

「舐められたもんだぜ」

 

 一見互角に見える、ソラナギとアヤメの激闘。

 

「くッ」

「周りを気にしながら、この俺に勝てると思ってやがんのか?」

 

 魑魅一座がナグサを囲んで追い詰めている。もう一人の謎の忍者が彼女らを指揮している。

 

「人類最強の戦術を御見せしましょう。囲んで棒で叩く――人類はこれ以上有効な戦術を、発明できていないわ」

「囲め囲め!!」

「殴れ殴れッ!!」

 

 魑魅一座は数を減らしながらも、応戦するナグサに迫っていた。

 

「あ、アヤメ!!」

 

 思わず友人に頼ってしまうくらい、彼女は追い詰められていた。

 

「や、止めて、あの子は――」

「慈悲は無い!!」

 

 ソラナギのキックが炸裂し、魑魅一座をピンボールみたいに弾き飛ばしながら、アヤメは吹っ飛ばされた。

 

「アヤメ、大丈夫!?」

「お願い、ちょっと黙ってて……」

「は、早く手当てを」

「だから、うるさいって言ってるでしょ!!」

 

 アヤメはキレていた。ナグサは思わず息を呑む。

 

「あッ、ごめ……」

「だからよぉ、言ってんじゃねーか」

 

 そんな二人の前に、ソラナギはつかつかと歩いてくる。

 

「周りなんて気にしてねーで、本気で来いよ。じゃねーと、百鬼夜行潰すぜ。なんたって俺は、ソラナギだからよぉ」

「誰だか知らないけど……私達の敷地で、好き勝手はさせない」

「だからよぉ、俺はソラナギだって言ってんだろ」

「ほざくな!!」

 

 アヤメが銃を構え、発砲した。

 

「忍法、車返しの術!!」

 

 ソラナギはその銃弾を掴んで、その勢いのまま1回転して投げ返した。

 

「な、がッ」

「これが忍法だ。覚えとけ」

 

 自らが撃った弾丸が直撃し、アヤメは倒れた。

 

「そんな、アヤメ、アヤメ!! 私、どうしたら――」

「仲間を心配する前に最後まで戦えや」

 

 彼女に必死に呼びかけるナグサに蹴りをお見舞いして、民家の壁に叩きつけた。

 

「やっぱりうちの風紀委員やトリニティの正義実現委員会ってレベル高かったんだな……」

「まあまあ。比べる方が残酷よ。学校の規模が違うんだから」

「それもそうだな。よーし、おまえら!! 百鬼夜行を滅ぼすぞ!!」

 

 ソラナギの声に、魑魅一座は叫んだ。

 

「仕舞いだッ、仕舞いだッ!!」

「百鬼夜行は仕舞いだッ!!」

 

 もう誰も、ソラナギを止められるものはいない。

 

 この日のお祭りは、終わろうとしていた。

 

 

 

 

『えー、これにて、最後の演目。“ソラナギ”を終了いたしますぅ~。お疲れ様でしたぁ』

 

 ニヤの声が、スピーカーで自治区全体に響いた。

 それは、ミコト達が最後の山車を破壊したのと同時だった。

 

「に、ニヤ様、何を勝手な!!」

「これは演出や、そうしとかないと、私らの面子が潰れます!!」

 

 カホの批難に、ニヤは即座にそう返した。

 

「あのソラナギが誰かなんて今は関係ないですわ。大事なのは祭りをちゃんと最後まで終わらせること、違うんか!!」

「……そうですね」

 

 いつも笑みを崩さない相方の鬼気迫る表情に、カホも同意した。

 万雷の拍手が、各地から聞こえてくる。

 誰もこれが事前情報とは異なるサプライズ、演出だとしか思っていない。

 

 そして、程なくして、二人だけでなく陰陽部の全員が事態収拾に奔走していると。

 

「いやぁ、いい祭りだったぜ。最高に楽しめたな!!」

 

 ソラナギ、いやミコトがわざわざやって来たのである。

 

「誰もやらねえなら、来年も俺にやらせろよ」

 

 まさか騒動の犯人が自ら現れると言う事態に、彼女達は硬直した。

 

「ミコト。ダメじゃない、顔を隠したままじゃあ」

「それもそうだな」

 

 ミコトは顔布を取って、ユエに応じた。

 

「あ、あんた、ゲヘナのキチ〇イやん!? なんでここにおるんですか!?」

「観光」

 

 ミコトは驚くニヤに端的にそう答えた。

 

「来年もまた来るぜ!! そん時もまた、ソラナギ役をやってやるよ!!

 あの百花繚乱って連中も、もっと数増やしておけ!! あの程度じゃつまんねーからな!!」

 

 ぎゃははははは!!! と、ミコトは楽しそうに笑った。

 

「あ、あなた、なんでこんなことを、どう責任を取るつもりですか!!」

「止めな、カホ」

「ニヤ様!!」

「ほな、祭りの締めにぶぶ漬けでもどうですか?」

 

 ニヤはカホを手で制してそう言った。

 要するに、さっさと帰れと言う事だ。

 

「おう、丁度腹減ってたんだ。飯くれるなら貰うわ」

「……」

 

 なお、ミコトに嫌味は通じなかった模様。

 

 

 

 

 そして後日。

 

 

「なんでミコトの奴が大バズりしてるのに、私の動画はうんともすんとも言ってないの……」

 

 お祭りの時のミコトの姿を撮影された動画がネットでは何万回も再生されているのに、ミチルの動画は多くても三十回ぐらいだった。

 

「だったら、ミチルさんの動画にミコトを出せばいいんじゃないの?」

「いや、それはミコトってコンテンツで、忍者じゃないしって、わわ!?」

 

 後ろから急にユエに囁かれて、ミチルは驚いて飛び退いた。

 

「よう、頭領。今日から忍者の修行すんぞ」

 

 ざっざ、と河原の石を踏みしめながら、ミコトが現れる。

 ミチルは溜め息を吐いて、こう言った。

 

「……じゃあ、かっこいい忍者ポーズから」

「おう、スペシャルファイティングポーズみてーなものだな!! さしずめ、俺達はミチル忍軍特選隊ってところか?」

「それって忍んでるのかしら?」

 

 ユエはそんな疑問を挟みつつも、まあいいか、と二人に付き合うことにした。

 

 ミコトの忍者修業が、こうして始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今回の被害者その4。

 

「マコト先輩。百鬼夜行から苦情と請求書が来てます」

 

 イロハがミコトの壊した山車とその他諸々の請求書を持って現れた。

 今回は壊す予定がなかったので、それらに大分予算を投入していたのだ。

 

「お、おのれ、あのバカミコトーー!!」

 

 ゲヘナの生徒会室で、マコトの怒号が響いたと言う。

 

 

 

 

 

*1
百花繚乱の元ネタは新撰組らしく、その浅黄色の羽織が有名だが、実際は最初の一年で廃止になったとされる。任務で目立つし、当時基準でもダサかったと言われている。後年は全身黒づくめだったそうな。





ニヤを若干胡散臭い京都弁っぽさでしゃべらせてますが、ご了承ください。
百鬼夜行編はとりあえずこんなところでしょうか。

次回は便利屋結成編にしようかと思います。
それではまた、次回!!
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