ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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拙作も50話以上続いたので、流石にそろそろミコト達について開示しましょう。
決して、前回の続きが思いつかないからお茶を濁したわけじゃありませんよ!!



幕間 ある二人の始まり

 

 

 

 月明りに満ちた、常世の領域。

 ここはキヴォトスではない何処とも知れぬ、されど人間が住む世界。

 

 森に囲まれた祭壇は、満月を頂く神聖な場所。

 そこを守る金色の巫女が、振り返った。

 

「てめぇが、月の巫女か」

 

 神聖な領域に踏み入るのは、野獣のような男だった。

 その男は夜に溶けるような黒髪に、ボロボロの黒いマントを纏った若い男だった。

 見た目は女のように中性的なのに、その瞳はギラギラと渇望に満ちていた。

 

「あなたが欲しいのはこれでしょう? みんなそうだわ」

 

 巫女が祭壇に安置されていたそれを手に取った。

 

 それは、見た者の怖気を誘う、黒塗りの剣だ。

 手にする者にまともな末路を想像させない、呪われきった魔剣そのものだった。

 

「そうだ。最強の魔剣!! それを手にするのはいずれ最強になる俺に相応しい!!」

 

 飢えた獣のように、男はそう言った。

 

「くすくす……」

「何が可笑しい!!」

「これを手にした者は、正気を保てない。破壊と混沌をまき散らす、災厄と化すの」

 

 彼女の言葉は嘘ではなかった。

 男もその伝承くらいは耳にして、この世界の最果てへとやってきていた。

 永遠に生きる月の巫女と、その眷属が齎す災禍の伝説の数々を。

 

「……なら、てめぇはなぜそれを持てる」

「狂気を司る月の化身たる、この私の加護を得た者がその唯一の例外だから」

 

 巫女は、その黄金の瞳で闖入者を見下ろした。頭上に輝く満月のように。

 

「月の加護を得られる方法は、たったふたつ。

 私を倒せる者か、私の下僕になるか。今のところ、後者の方法でしかこの剣を手にした者はいないわね」

「面白ぇ、シンプルでいいじゃねえか。てめぇをぶっ殺せば、それを手に出来るんだな!!」

 

 巫女は微笑みを崩さない。

 男はそれを肯定と受け取り、剣を抜いて女に斬りかかった──。

 

 

 

 

 

 

 

 ミコトが、パチリと目を覚ます。

 

「またこの夢か」

 

 欠伸を一つ、ミコトはそうぼやいた。

 

「ふわぁ、ファンタジー小説でも書けそうな設定だぜ」

 

 夢の記憶など手のひらに掬った水のように抜け落ちる物。

 ミコトは夢の内容を一分も覚えていなかった。

 

「ミコト」

 

 すると、ミコトが寝泊まりしている廃墟に、ユエが現れた。

 

「今日はリオ会長と廃墟探索するのよ、早く支度をして」

「うるせーな、てめぇは俺の母親かよ」

 

 ミコトは身体をほぐしながら、面倒そうにそう返答した。

 

「相変わらずつまんねー女だな、お前は」

「ミコト?」

「あん? なに気持ち悪い顔で笑ってやがんだよ」

 

 ユエはミコトを見てニタニタと笑っていた。

 ミコトは気味が悪そうに視線を向ける。

 

「ミコトだけよ。私をつまんないなんて言うのは」

「ああそうかよ」

 

 ミコトは肩を鳴らすとユエを伴って、外へと歩み出た。

 

 

 

 §§§

 

 

 

「この間、掃除してやったのに。相も変わらず数だけは揃えやがる」

 

 キヴォトス某所。連邦生徒会から危険区域に指定されたその場所に、ミコト達は来ていた。

 

「恐らく、以前破壊したオートマタの残骸を再構築して、再生産したのでしょうね」

 

 そしてミコトがそれを再び残骸にしたのを見計らって、リオが物陰から現れてそう言った。

 

「それで、今回の探索目標はどこかしら?」

「こちらの地下遺跡が怪しいと踏んでいるわ。

 敵勢力の出現位置からして、この辺りに重要施設がある可能性が非常に高いと思われる……」

 

 ユエの問いに、リオはタブレット端末を操作しながらそう言った。

 

「そうかよ、ならさっさと行こうぜ」

 

 荒廃した廃墟群を進み、三人は遺跡へと入る。

 

「これは扉、って言うより、隔壁か?」

「そのようね」

 

 階段を下りた先には分厚い金属質の隔壁が道を塞いでいた。

 

「ちょっと待って、今開けられないか試してみるわ」

「まどろっこしいな」

 

 ハッキングを試みようとしているリオを他所に、ミコトは隔壁の前へと出た。

 

「おらぁ!!」

 

 ミコトの渾身の回し蹴りが、炸裂。

 隔壁はまるでえぐり取られたかのように穴が開いた。

 

「おい、開いてんぞ」

「あなたが開けたのよ……」

「くすくす」

 

 中へと入るミコトに、呆れているリオと可笑しそうにしているユエが続く。

 

「ここは何らかの研究施設のようね。

 かなり頑丈に作られている。他の廃墟群のように、原形をかなりとどめているみたいね」

「そのようね、あれが施設の地図かしら」

 

 ユエが地図らしき施設の案内図を見つけると、リオはそれをタブレット端末で撮影する。

 そして、しばらく内部を探索すると。

 

「……これは、私の所感に過ぎないのだけど」

「なんだよ、リオ」

「この施設は、高度な技術を使用されている形跡が少なく感じるわ」

「ああ、確かに。なんだか他のところみたいにハイテクって感じしないよな」

 

 古代文明は高度な機械文明を有しているのは明らかであり、ここはそう言ったセキュリティの類が施設内部に使用されている形跡が少なかった。

 

「もしかしたら、非常に古い施設なのかしら」

「いえ、外の防衛施設は他の廃墟と同等の技術力を有していたわ。

 ここは意図的にそのように、高度技術を排していると推察されるわね」

「つまり、ハズレってことだろ」

 

 ユエとリオの会話を聞いて、ミコトがそう言った。

 

「いえ、そうとも限らない」

「って言うと?」

「この施設を建造したのが科学者なら、ここまで頑丈にする理由は──」

「研究資料の保管庫?」

「その可能性もあるわ」

 

 ユエの言葉に、リオは頷いてみせた。

 

「科学者にとって、研究のサンプルは何よりも大事なモノよ。

 と言っても、仮にそうだとしてもその殆どが持ち出されているように見えるけど」

「そうね、さっき事務室みたいな部屋もあったけど、資料一枚も無かったし」

「どっちにしろハズレじゃねーか」

「まだわからないわよ、最深部が残っている」

 

 そうね、とリオは頷く。

 収穫が見当たらずミコトは既に飽きてきたようだが、二人は何か予感がしていた。

 即ち、何も無い施設を頑丈に閉鎖する意味はない、と。

 

 三人は、更に地下深くの最奥へと進んで行った。

 

 

 そして、異様な部屋に辿り着いた。

 

「なんだ、ここは」

 

 ミコトの声が響く。

 ヘッドライトの光量では照らしきれない闇がその部屋には広がっていた。

 

「かなり広いわね。標準的な体育館ぐらいはあるわ」

 

 リオはバックパックから、打ち上げ式のライトを取り出して発射した。

 室内に、明かりが灯る。

 

 リオの言う通り、その部屋はかなり広い場所だった。

 そして、三人は目を見開く。

 

 広大な部屋に黒く四角いモノリスが、左右にずらりと並んでいた。

 

「これは、何か文章が書かれているわね」

「歴史か何か、かしら……」

「こんな非効率的な方法で遺す以上、その可能性が高いわね」

 

 面々は以前までの探索では、電子媒体での資料を多くサルベージしてきた。

 だと言うのに、ここには石碑という原始的な方法での資料が遺されている。

 それ程までのコストを掛けて残すべきだ、と先人は思ったのだろう。

 

「とりあえず、順番に翻訳していくわ」

 

 先史文明と現行文明と言語的な差異は無いが、モノリスに書かれた文字は暗号化されていた。

 

「へえ、翻訳なんてそんなに簡単にできるのか」

「ええ。もう今の時代では機械で十分に翻訳が可能よ」

「すげえな、それ」

 

 ミコトが科学の発展に感心していると、終わったわ、とリオは呟いた。

 そして、彼女は最寄りのモノリスに書かれた文字を読み上げる。

 

「我々は、ゲマトリア」

 

 そのような出だしと共に、文字が綴られていた。

 

「我々の目的は、神の存在証明であると定義している。

 しかし、我々の一部はそのことに疑問を抱いた。

 それ即ち、神を証明したところでどうするのだ、と。

 我々は決して信心深いから、神の存在を探求しているわけではない。

 言うなれば科学的な好奇心。しかし、神が存在しようがしまいが、結果的にそれは科学的発展に寄与するのだろうか?」

 

 次のモノリスに移る。

 暗号化が複雑で、一つ一つにそこまでの文字量は無いようだった。

 

「神とは何であろうか?

 後に分派として本流と分かたれた我々は、資源であると定義した。

 我々は神を資源として、そこから得られる恩恵を抽出することこそが、神の証明であると考えたのである。

 故に我々は、神の存在を知るという人物の協力を得ることにした」

 

 次のモノリスに移る。

 

「キヴォトスの外より招かれた彼女は“預言者”と名乗った。

 彼女は神の代弁者であり、神と人が意思疎通をする為のインターフェースであった。

 彼女は多くの科学的には説明できない異常現象を任意で引き起こし、我々に多くの衝撃を与えた。

 それは我々にとって、神の存在を証明するのではなく、神の存在を前提とした資源化を決意するのには十分な理由となった」

 

 次のモノリスに移る。

 その内容に目を通したリオが、硬直する。

 

「どうした、リオ」

「……よ、読み上げるわ」

 

 ミコトがリオの顔を見やると、リオにしては珍しく動揺を隠せないでいた。

 

「“預言者”は数多くの未来を語り、的中させた。

 このモノリスの建造も彼女の意向であり、これを読む者の名も彼女は謳い上げた。

 ミコト、ユエ、リオ。そして■■■先生。これは、君たちの為に残したものだッ」

 

 これにはミコトもギョッとした。

 まあ、とユエも口元に手を当てて驚いている。

 

「まるで自分の遺言が後世に発見されると墓標に予言していた魔術結社の長みたいね」

 

 そうね、とリオは頷き、言葉を続ける。

 

「神の資源化に対して、“預言者”は協力的だった。

 この頃には既に我々は本流から追放され、独自の観点からの活動を行っていた。

 お前達はカルトである、という侮蔑と共に。

 それは事実、そうなのであろう。

 我々は気づかぬうちに、“預言者”に依存していたのだ」

 

 リオは呼吸を整えて、落ち着かせてから次のモノリスに移った。

 

「やがて、“預言者”は我々の元から消え去っていた。

 我々は混乱した。我々はいつの間にか、彼女の言葉を実行するだけの存在と化していたのだ。

 我々は滑稽なことに、神の操り人形に過ぎなかったのだ。人間など、神の資源に過ぎなかったのだ。

 彼女は預言していた。我々の滅亡を、破滅を。

 故に我らは、我らの意志と存在をここに遺す。我々の成果を、存在理由を。どうか受け取って欲しい」

 

 次のモノリスに移る。

 

「“預言者”よ、なぜ我々を見捨てたのですか!!

 外はもう滅茶苦茶だ、滅亡だ、滅亡の時が訪れたのだ!!

 神よ、これはあなたを冒涜した罰なのでしょうか!!

 ああどうか、どうか我々をお救い下さい!!

 聞こえる、聞こえる!! 恐怖の大魔王と化したアレが、地上を焼かんと闊歩しているのを!! あの腐れ司祭どもめ!!

 ああ、聞こえる、あの御方が呼んでいる!! 嗚呼、楽園はそちらに──」

 

 そのモノリスの文字は、不自然に途切れていた。

 

「……これ以降は技術的な物や、彼らの成果物についての記述のようね」

 

 リオはタブレット端末で翻訳しながら、モノリスを見て回る。

 

「なんだか、かゆうまって日記をリアルで見ちまった気分だ……」

「本当よね」

 

 げんなりしているミコトと対照的に、ユエは苦笑いを浮かべて肩を竦めていた。

 

「ユエ、これを見てちょうだい」

「ええと、どれどれ。

 フグの毒肝からこの手順でテトロドトキシンを抽出し、それを主成分として……これって毒薬?」

「ええ、薬学的観点からどう思うかしら?」

「この調合法はどう見ても……伝説上の毒薬、ゾンビパウダーそのものじゃない」

「これで死人を蘇らせられるとでも? 荒唐無稽な内容ね……」

「どのみち、滅多に死人なんて出ないキヴォトスでは無用の長物ね」

 

 他のモノリスに書かれているのは、どれも空想科学や、黒魔術か何かのような、そんなバカげた内容の記述ばかりだった。

 

「俺は寝てるから、終わったら起こせ」

 

 どうやら自分の出番は無さそうだと判断したミコトは、適当なモノリスの前に座って眠り始めた。

 

「……」

 

 リオは彼女に物申したかったが、非合理的なので止めた。

 

「ミコトは放っておいて、調査を続けましょう」

「そうね……」

 

 二人は探索を続けた。

 すると、入り口に設置したライトの光が届かない奥の方の壁にそれはあった。

 

「ねえリオ会長、あれは……」

「ええ……」

 

 それは、壁画だった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「彼女が、“預言者”なのでしょうね」

 

 奥の壁の一面に描かれた、顔の無いドレスの女。

 その大きさが、どれほど彼女が崇拝されていたのかを示していた。

 

 その時だった。

 

 こつこつ、と入り口から足音が聞こえた。

 既に寝入っていたミコトが顔を上げた。

 

「なんだ、てめぇ」

 

 入り口に注がれた三つの視線。

 入り口から入って来たのは、黒衣の怪人だった。

 

「警報が鳴ったから来てみれば、まさかここに立ち入るモノが居ようとは」

 

 黒いビジネススーツの怪人が、三人の顔を見渡しそう言った。

 

「あなたは……?」

 

 リオが問う。

 

「私は、そうですね。ゲマトリアという組織の名を借りている者達の一人、とでも言っておきましょうか」

 

 好きなように呼んで下さって結構です、と彼は言う。

 

「えーと、じゃあ、真っ黒クロ助」

「……」

「なにしに来やがった」

 

 ミコトの問いに、彼は何か言いたげにした後、こう言った。

 

「ここは旧ゲマトリアの分派の資料庫。

 ここはそんな貴重な資料が保管されている場所なので、荒されたくはなかったのですよ。

 ですが、まさか我々のようなモノ好き以外に、ここに立ち入るモノが現れようとは思いませんでしたよ」

 

 くっくっく、と彼は興味深そうに笑った。

 

「……ここは連邦生徒会の指定した立ち入り禁止区域よ」

 

 リオが淡々とそう答えた。

 

「ええ。そうですね。

 ですが、この場で誰がそれを咎めるのですか? 通報でもなさりますか?」

「……」

「ああ、安心してください。敵意も、敵対する気もありません。

 あなた方もこうしてここに来たと言うことは、我々は同好の士なのでしょう」

 

 例えば、と黒服の怪人は奥を指差し、そちらに歩いて行った。

 

「ここには隠し書庫があります、是非見ていってください」

 

 何も無かったように見えた壁が横にスライドして、通路が現れた。

 

「どうぞ、こちらに」

 

 彼はそう言うと、先に歩いて行った。

 

「行こうぜ」

「……そうね」

 

 ミコトが先行し、リオが進む。背後をユエが警戒し通路に進む。

 通路は短く、すぐに奥の部屋に辿り着いた。

 

 彼の言った通り、小さな書庫だ。

 三つほどの本棚に、研究資料がまとめられている。

 

「それにしても、こうして予言の成就を目の当たりにするとは思いませんでした。

 わざわざ警報を設置した甲斐がありましたよ」

 

 黒服は室内で三人を待ち受け、上機嫌そうにそう言った。

 

「わからないわ。上の資料を持ち出したのはあなたでしょう?

 なぜ、ここの書庫の資料を持ち出さなかったのかしら?」

 

 ユエが室内を見渡しそう言った。

 

「それは、ここにある資料のタイトルを読めばすぐに分かるかと」

 

 黒服に促されるように、リオは本棚に置かれている資料を見渡した。よく見ると、それは資料と言うより、童話や神話の本だった。

 

「どれも、ヒトの姿を取った神や、その代弁者として選ばれた人間についての書籍ね。

 かつてのゲマトリアは、“預言者”の代わりを探していたのかもしれないわ」

「或いは、自分達で神の端末を作り出そうとしたのか……」

 

 リオの考察に、黒服も己の考えを補足した。

 

「結局のところ、分派の者達も、本流と同じような方法を取ろうとし始めた。

 しかし、時間はそれを許さなかったのでしょう」

「あの狂った機械を作る余裕が無かっただけ、マシと言うことかしら」

「そちらの展示室の成果物も、私は十分に興味をそそられますね」

 

 そんな会話をしつつ、リオはひとつの本に目が留まった。

 かなり古い、伝承の載った本だ。

 

「向こうは文章だけではなく、成果物の実物が保管されています」

「それは興味深いわね。リオ会長?」

「私はもう少し、こちらを調べてから行くわ」

「わかったわ」

「どうぞこちらへ。携行可能な超振動ブレードのようなモノもありますよ」

「なんだそれ、面白そうだな!!」

 

 三人の声が遠ざかっていく。

 

 リオは、その本を手に取った。

 

 タイトルは、『月輪神話集』。

 ある月の女神と、それを崇める者達の伝記のようだった。

 自分達のうち二人に月の文字があるからか、リオはそれを手に取った。

 

「遥か昔、永遠に生きると言う月の女神の化身が地上に舞い降りた。

 彼女は災厄を齎す剣を鎮め、それを常世の領域に封じた……」

 

 リオは速読しながら、ページをめくる。

 

「ある時、災厄の剣を求め、ある男が現れた。

 男は女神の使徒に挑み、破れ、眷属となった。

 しかし男は諦めなかった。自由を失い、隷属の身に墜としても、使徒を打ち破らんと戦いを挑んだ。

 されど、月の使徒は不可侵たる月そのもの。触れることすら能わず」

 

 挿絵と共に、物語が綴られている。

 満月をバックに、デフォルメされた男女が描かれていた。

 

「そこで、男は考えた。この女を倒すより、夜空に浮かんでいる月の方が動かないから斬るのは楽だ、と。

 月の化身はそんな男を嘲笑う。それが出来ないから、月は不可侵の象徴なのだと。

 しかし男にとって、労力は大して変わらない。ヒトと神は、それ程までに隔絶していた」

 

 次のページを捲る。

 

「男は十年の月日をかけて、己の命を賭して満月に挑んだ。

 そして、彼は奇跡を成し遂げた。男は月を傷つけることに成功した」

 

 その挿絵から、具体的にどうやったのか、まるで伝わってこない。

 地上からジャンプして月に斬りかかるような、そんな大味な挿絵だった。

 

「命燃えはつる男に不可侵を侵され、その神性を失った女神の使徒が言った。

 お前に永遠の命を与えよう。それを以て、己の望みを叶えるといい、と。

 永遠の命を得た男は、やがて武神として神々の戦いに召されるようになったそうな」

 

 御伽噺は、それで終わりだった。

 ただ、幾つかの注釈が書かれ、実際どのように彼が偉業を成したのかの考察が直接ページに書かれている。

 

「……馬鹿馬鹿しい内容だったわ」

 

 黒服が持ち帰らなかったのも当然だと、リオは思った。

 或いは、こんな神話に縋るほど、後年の旧ゲマトリア分派の凋落が痛々しくもあった。

 

「おい見ろよリオ、この剣スゲーぜ!! 岩もスパスパ斬れるぞ!!」

「……お願いだから貴重な研究資料を壊さないで!!」

 

 本を置いて、リオは駆け足でミコトの声がする方に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙の過酷な環境に、デブリと混じって漂う男を、その女は抱きしめた。

 

「バカな男。最後まで、あなたは愚かだったわね」

 

 男は息絶えていた。その身に余る奇跡と絶技。その果ての結末だった。

 これが、月を斬ろうとした男の末路。天に唾吐く、愚か者の見本だった。

 

 だが、女は振り返る。

 

 永劫の輝きが約束された月の表面に、陰りがあった。

 直線で、せいぜい20メートル程度を抉っただけ。月の大きさからすれば掠り傷もいいところだ。

 

 しかし、女は顔に手を当てる。

 左目の下から、出血をしていた。

 

 それは、月の化身たる彼女に、太陽と並ぶ絶対の存在に手を触れた証明だった。

 

「ふ、ふふふ、ふふふッ!!」

 

 そんな下らないことが、彼女にはたまらなく可笑しかった。

 地上の人間は、剣やら魔法やらで争い合っている。

 向こう千年は成し遂げられない奇跡を、男は成した。

 

「いいわ。私は貴女に興味が湧いたの」

 

 神性を失っても衰えぬ神々しさを湛える笑みで、彼女はそう言った。

 

「共に、永劫の輪廻の旅路を逝きましょう。

 無限の生と死の狭間で、あなたが悶え苦しみ、私に破滅を懇願するのを待ちましょう。

 この美しい私に、傷を付けたのだから、当然の報いよね」

 

 世界から、一組の男女が消える。

 これよりありとあらゆる世界、そしてヒトや神々問わずに迷惑を掛ける二人の旅路が始まったのだ。

 

 

 





簡易人物

男:無限に転生を繰り返す、本物の死神から、一緒にするなと言われてしまうくらいの戦闘狂。のちに英雄の神、武神となるも、神の地位に飽きて人間に戻ったりしている。男、と言いつつも、性別的に女性になったことは何百回もある。

預言者:顔の無い女という、ニャルニャルしいビジュアルでミスリード要員をエンジョイしている。男が女性の場合、こちらが男性になるも、キヴォトスでは生徒は女性なので、今回は二人共女でキヴォトスに迷惑を掛けている。

これを機に、作者も匿名を解除し、改めて名乗ります。やーなんと言います。
まあ、文章には個性が出るので、拙作の文章を見ただけで作者が誰かわかっていた賢明な読者の方々もそれなりに居るとは思いますが……。

ミコトとユエの元ネタは、作者が書いているオリジナルシリーズの登場人物なのです。そちらの設定は持ってこないつもりなので、別にそちらを読まなくても大丈夫ですよ。

それではまた、次回!!
次回こそアルちゃん編の後編に行きます!!
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