ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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えー、前回反応が全く無かったのを重く受け止めております。
興味のない神話の勉強なんてつまらないですしね。
ですが、これ以降はその内容を知って味わい深くなるように頑張りますので、これからもご愛読のほどをお願いいたします。

それでは、本編どどうぞ!!



side:ミコト 「弱さの烙印」

 

 

 

 事件の発端は、こうだと言う。

 

 本日、プレジデントが出社し、業務を始めてすぐのことだった。

 彼の娘からの電話がスマホに掛かってきた。

 

「どうした、こんな時間に──」

『娘は預かった。警察に言えば、娘のヘイローの無事は保証できない。──パパぁッ』

 

 ボイスチェンジャーの声と、その次に自らを呼ぶ娘の声。

 通話はそれで切れた。

 

 プレジデントは一度深呼吸をした後、ジェネラルを直接呼びつけた。

 

「ご息女が誘拐ですと!?」

「そうだ。対応について意見を欲しい」

 

 これにはジェネラルも驚いたが、彼は動揺することなくこう言った。

 

「まず、我々の動きは監視されていることを前提にした方がよろしいでしょう」

「そうだろうな」

「そして、こう言った事件は警察に秘密裏に通報するのが鉄則です」

「警察? ヴァルキューレや他の警察組織にか?」

「……」

 

 彼女らの頼りなさを知っているジェネラルは、プレジデントの物言いに反論できなかった。

 

「では個人的に動ける者に頼るべきか」

 

 そうして、プレジデントはある電話番号に通話を開始した。

 

「逢坂君、緊急で仕事を頼みたい」

 

 

 

 

「そして、今に至ると言うことですね」

 

 事件発覚の経緯を尋ねたハナコが、そう言った。

 

「うむ、今のところ犯人に要求は無い」

 

 と、プレジデントは現時点での事件のあらましを語った。

 

「冷静な対応だ。警察に通報するな、は誘拐犯の常套句。

 実際に通報しない方が状況が悪化する場合が多い。そこのバカに頼ったこと以外は、実に正しい」

 

 ユキノが横目でバカを睨みながらそう言った。

 

「基本的に誘拐事件で重要なのは初動だからね。

 特に最初の48時間は人質の命運を分けると言われているわ」

 

 クルミが周囲に説明するようにそう述べた。

 

「問題は、犯人の要求が未だないことだと思います」

「そうだろうね、お金が目的ならお金だってすぐ言うはずだし」

 

 ニコとオトギは相手の目的について考察していた。

 

「恐らく、ですが。犯人側の統率が取れていない可能性があります」

「と言うと?」

 

 特殊部隊の面々の話を受けて、ハナコがこう言った。

 

「犯人の要求に関してもそうですが、誘拐は複数犯が基本です。

 それも、監禁場所を用意したり、監視や世話係、交渉など必要な要素は多岐に渡る。

 特殊部隊の皆さんがプロではない、と言ったのは恐らく正しいでしょう。

 私は、少なくとも実行犯は学生、しかも不良のような学籍の無い者達ではなく、学校に通っている子供だと思います」

 

 彼女はそのように前置きして、その理由を述べる。

 

「これは推察ですが、今回の誘拐は半ば衝動的な事件だったのではないでしょうか?

 犯人達はまだ明確な監禁場所や、誘拐犯同士での役割を決めていない。

 だから何を要求するかも決まっていない」

「なるほど、一考の価値はあるな」

 

 ユキノは可能性の一つとして、その意見を受け入れた。

 

「原因はやはり、石油についてでしょうか」

 

 ノアが議論に一石を投じる。

 

「その可能性はあるかもしれないわね。

 石油が齎す利権は莫大よ。キヴォトスの石油はレッドウインター産が大きな割合を占めているけど、あそこは僻地だから輸送コストもバカにならないわ。

 それより近辺から石油が採掘されるなら、キヴォトスの経済に大きな影響を与えるでしょう」

 

 と、ユウカはそのように考察を述べた。

 

「連邦生徒会長直属の特殊部隊が派遣されるくらいだしね」

 

 カヨコはFOX小隊の面々を見ながらそう言った。

 

「まあ、確かに。これは隠すことでも無いな。

 連邦生徒会長はこの事件が石油の利権絡みの可能性があるとして、早々の解決を我々に求めた」

 

 よりにもよってその情報を齎したのが、ミコト一派だと言う。ユキノは気に入らないが、彼女もプロなのでその悪感情に蓋をしてそう言った。

 

「議論が白熱しているところ悪いが、まずこれだけは断言させてもらう」

 

 そこに、プレジデントがこう言った。

 

「我々が掘り当てた油田だが、埋蔵量を調査したところ、現在主流な油田と比較して──20分の1相当だと言うことが判明している」

 

 え、と誰かが言った。

 

「あん、どういうことだ?」

「採掘しても、割に合わない可能性が高いってことよ」

 

 ミコトの疑問に、ユエが答えた。

 

「そうですね、埋蔵量自体はざっと計算してキヴォトス半年分を賄える程度、といったところでしょうか。

 しかしそれなら普通にレッドウインターから輸送した方が安上がりでしょうね」

 

 ユウカは脳内で暗算してそう言った。

 

「そうだ。油田の採掘には莫大なコストが掛かる。

 それを精錬する施設もそうであるし、整備コストもバカにならない」

 

 ハッキリ言って期待外れだ、とプレジデントはため息交じりに言った。その所作から、本当にガッカリしているのが見て取れる。

 

「それは、残念ですね……」

「そうなのか? でもお前ら、風力発電とかに力入れてるってリオが言ってたじゃないか」

「それは確かですが、一つの発電方法に依存するのはリスクが高いですから。

 これからどれだけ太陽光発電や風力発電が進歩しても、石油の価値が皆無になることはないでしょう」

 

 ミコトの言葉に、ユウカはそう語った。

 

「そうね。今でも石炭が現役なところもあるくらいだし」

「マジか。そいつはすげえな」

 

 ユエの話に、ミコトは驚いていた。

 

「埋蔵量について正式に発表する間近だった。その直前に、この誘拐事件が起きたわけだ」

「ふーん、つまり、マジで今回はカイザーは被害者なんだな」

「今回は、とはどういう意味かね?」

 

 プレジデントがミコトに視線を向けると、彼女は肩を竦めた。

 なお、それはここに居る生徒達ほぼ全員が思っていたりする。

 

「……夫は、カイザーの人間です。私もその妻として、悪意を向けられる覚悟はありました。でも、娘は関係ありません。あの子に罪はありません」

 

 そこで、ずっと俯いていたプレジデントの奥さんがそう言った。

 そんな彼女を、ミコトはジッと見ているのをアルだけが気づいた。

 

「……そうですね。早く事件を解決しましょう」

 

 ハナコはそう話を締めくくった。

 

 次の犯人の要求が来る、十五分前のことだった。

 

 

 

 テーブルに置かれた、プレジデントのスマホが鳴る。

 その画面には、彼の娘の名前が書いてあった。

 

 一同が顔を見合わせ、彼はいろいろな装置に繋がれたスマホを手に取った。

 FOX小隊の面々がヘッドセットを着用し、盗聴や逆探知を始める。

 

「もしもし、私だ」

 

 現代の逆探知は数秒から数十秒程度だと言う。

 この時点で、彼女らは手話で場所を示した。

 

『娘を返してほしくば、油田の権利を放棄しろ』

「その前に、娘の声を聞かせて欲しい」

 

 ユウカがその情報をヴェリタスに発信した。

 すぐに情報が返って来る。恐らく電車内、個人特定は時間が掛かる、と。

 

『今は近くに居ない、別の場所に監禁している』

「娘は、娘は無事なのか!!」

 

 プレジデントが取り乱したような態度でそう言った。

 

『無事だ。無傷で返却する。そちらが要求に応えるのならば、な』

「……仮に油田の権利を他の誰かが手にしても、得などしない。あの油田には、大した量の石油が存在しない。だから君たちが娘の身柄を押さえる意味などない」

『そんな言葉に騙されるか。要求を呑むか否か、三時間後までに決めておけ!!』

 

 犯人からの通話は、それで切れた。

 

「……事実を伝えても、相手を逆撫でしただけでしたね」

「仕方あるまい、相手はまちがいなく子供だ。ここに居る君たちのように賢明ではない」

 

 交渉の余地は無いようで、ハナコが目を伏せる。

 プレジデントも同様に溜め息を吐いた。

 

「では、そろそろ賢明なる諸君は誰が事を起こしたのか理解したのではないのかね」

「俺は全然わかんねぇぜ」

「安心したまえ、賢明な生徒に君は含まれていない」

「なんだ、早く言えよ……なんだとてめぇコラ!!」

 

 まあまあ、とユエがミコトを諫める。

 プレジデントの視線が賢明な生徒達に注がれる。

 

「(どうしよう、全然わからない……)」

「(くふふ、全然わからないって顔してる)」

 

 居心地の悪そうにしているアルと、それを見て面白がっているムツキもいたが、他の面々は既に当たりを付けているようだった。

 

 ハナコとユキノが中心になって、作戦が決まった。

 

「それでは皆さん、後はご武運を」

 

 ハナコの言葉に、ようやく出番かとミコトが椅子から立ち上がる。

 彼女とユウカとノアは居残り組としてバックアップの予定だ。

 

「車を手配させた、それに乗るといい」

 

 プレジデントがそう言って、実働部隊が外へと出た。

 

 

 

 

 どう見てもカイザーの一般社員らしい大人が運転するバンが二台到着し、FOX小隊の面々と分かれてミコトはもう一台の方に乗った。

 

 即ち、ミコトとユエ、後はのちの便利屋たる三人が同席した形だった。

 

「……アルっつったか? さっきは殴って悪かったな」

 

 暇な移動時間、バンの真ん中の二席に座ったミコトとユエ。

 ミコトは唐突に後部座席に座る三人のうち、アルに話しかけた。

 

「い、いいえ、その、私も悪かったと言うか……」

「なに言ってるの。急に殴ってくる方が悪いじゃん」

 

 恐縮しているアルに代わって、ムツキが親友への暴挙に怒りを示した。

 

「何が有ったか知らないけど、急に殴るなんてあんたらしくないね」

 

 と、窓の外を見ているカヨコがそう呟いた。

 

「お前、俺に憧れてるんだったか?

 止めとけ。お前みたいな普通の奴がこっち側に来る必要はねえだろ」

「普通?」

「なによ、ムツキ!!」

 

 小首を傾げてアルを見るムツキ。その反応にアルは幼馴染を睨み返した。

 

「俺が派手に振舞ってんのは、不良向けのコンテンツってことだ。

 お前らが俺に憧れる必要はねえ」

「……どういうことなの?」

「俺はお前が思うような人間じゃねえのよ」

 

 ムツキの問いに、ミコトはそう呟くように言った。

 狭い車内なので、当然全員に聞こえたが。

 

「そうだな、俺のガキの頃の話をしようか……」

 

 ミコトはそう言って、昔語りを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所と時は変わり、この日もシャーレの先生は生徒の為に外回りをしていた。

 

「よう、先生じゃねえか」

「“やあ、ミコト”」

 

 先生は偶然、ミコトと遭遇していた。絆ストーリーあるあるである。

 この時、先生はミコトの立ち絵に銃が無いことに気づいた。

 

「“あれ、ミコト。銃は?”」

「あ、やべ、アポロ13の奴、さっきの飯屋に置いてきたかもしれねぇ」

 

 アポロ13とは、ミコトの愛銃の名前である。赤テープとギザギザした13のステッカーが貼ってある。

 

「偶にやるんだよなぁ。いまだ銃を持ち歩くっての、慣れねえや」

 

 ミコトがそんなことを言ってると、近くで銃声が聞こえた。

 

「おい、金を出せ!!」

「ひぃぃ!!」

「おら、早くしろよ!!」

 

 なんと、不良がコンビニ強盗しているではないか。

 

「ちッ、くだらねぇ真似をしてんな」

「“待って、今ミコトは丸腰だよ!!”」

「俺は素手でも強いんだよ、知ってるだろ」

 

 先生は他の生徒に協力してもらうつもりで、ミコトを引き留める。

 

「あ、先生!! 私で良ければ手伝いますよ!!」

「私も私も、先生の指揮があれば、私だってッ!!」

 

 すると、近くにいた通りすがりの生徒が、駆け寄って来る。先生の人徳の賜物だろう。

 

「お、お前良いもん持ってんじゃん」

「え?」

「丸腰じゃなけりゃいいんだろ」

 

 その生徒達は、キヴォトスではそこそこ珍しいものを背負っていた。

 ミコトはそれを抜き取ると、コンビニの中に入っていく。

 

「よう、お前ら」

「なんだてめぇって、……み、ミコト!?」

「逢坂ミコトが何でここに!?」

 

 ミコトのエントリーに、コンビニ強盗達が動揺するが。

 

「って、なんだお前、それ!!」

「見てわかんねえのか。──竹刀だよ」

 

 そう、ミコトが手にしているのは、竹刀だった。

 超銃社会なキヴォトスでは、剣道にしか使わない趣味のアイテムだった。

 

「なんだそれ、そんなんで銃相手に勝てるわけないだろ!!」

「おら、くらえ!!」

 

 不良の一人がライフル銃をぶっぱなした。

 が、ミコトは蚊を叩くように弾いた。摩擦熱で竹刀に煙が僅かに上っている。

 

「は? 今、弾丸を──」

「おらよ」

 

 ミコトが正眼の構えで竹刀を振り下ろすと、なぜか衝撃波が発生してコンビニ強盗たちが吹き飛んだ。

 

「教えてやるよ、俺はガキの頃から剣道やってんだ」

「剣道で衝撃波が出るわけないだろ……」

 

 がく、とコンビニ強盗達が崩れ落ちた。

 

「わぁ、ミコトさん、スゴイです!! 今度指導してください!!」

「私も私も!! スゴイ腕前ですね!!!」

 

 すると、先ほど先生に志願した生徒達が感激して寄ってきた。

 そんな二人に、ミコトはこう言った。

 

「わりぃな、今は剣振ってないんだ」

 

 

 場面が変わる。

 

 

「“ミコト、今は剣道やってないの?”」

「……まあな」

 

 ミコトは彼女らしくない、歯切れの悪い言葉で先生に返した。

 

「“そんな、もったいないよ”」

「まあ、先生になら教えてもいいか」

 

 絆ストーリーの最後の方のエピソードなので、ミコトの口からそんな言葉が出た。

 

「俺はガキの頃、今以上のじゃじゃ馬でよ。まあ、言っちまうとクソガキだった」

「“い、今以上……?”」

 

 最早、先生には想像の出来ないレベルであった。

 

「俺がキヴォトスに来たのは割と最近でよ、中坊の終わりぐらいだ。

 竹刀は頭にヘイローが付く前から振ってたんだが、俺は故郷でやらかした」

「“なにを?”」

「……」

 

 ミコトの視線が、買い物帰りの母娘の方に向けられた。

 

「俺より年上の、世界取った女が居たんだ。

 俺はそいつに挑んだが、袖にされた。だから、襲うことにしたんだ」

「“み、ミコトらしい……”」

「実際に打ち合って、俺は拍子抜けした。思ったより弱い、ってな」

 

 それだけミコトの実力が凄いのだと、先生は思ったのだが。

 

「そいつをぶちのめした後、その女の父親が慌てて駆け寄って来てこう言った。

 ──お腹の子は大丈夫か、って」

「“え……”」

「そいつは、身重……妊娠してたんだ」

 

 ミコトは切なそうにそう告白した。

 

「病院に運ばれて流産寸前だったそうだ。

 俺はサツに捕まって、キヴォトスで卒業するまでって故郷を追放された」

「“そうだったんだね……”」

「まあ、こっちはこっちで楽しいがよ。

 ……あんなのは、俺の望んだ勝利じゃなかった」

 

 屈辱だった、とミコトは言った。

 

「俺は身重の女を襲って勝ったなんて、そんな最強は納得できなかった」

「“とりあえず、お説教だよ、ミコト”」

「わかってる。もう懲りてんだ、同じことはしねぇよ」

 

 ミコトは溜め息を吐いた。

 

「これを話したのはミネと、前の救急医療部の部長と……あと誰だっけな。

 とにかく、俺はそんなことがあって、救護の精神を得る必要があるって思った。

 俺がもっと強くなるには、もっと精神を鍛えねえと駄目だってな」

 

 その過去は、ミコトの弱さの象徴だった。

 

「聞いたところによると、あの女は剣を置いたらしい。

 俺は二度と、万全のあいつに勝利することは出来なくなっちまった」

「“それは残念だね……”」

「だから俺も剣を置いた。俺が納得できるまでな。

 それまでは、銃でキヴォトスのテッペン獲るのも良いかと思ってな」

「“ミコト……”」

「わーってるって、ちゃんと反省してるっての!!」

 

 先生にジト目で睨まれ、ミコトは手を挙げて降参を示した。

 だが、やがて彼女は先生の目を見た。

 

「……だがよ、先生。もしあんたがピンチなら、あんたを守るためにもう一度剣を振ってやってもいい」

 

 それは、武道が目的とする、正しい精神だった。

 

「俺の剣はやべえぞ、あんたの世界を変えてやるよ。本気の俺に、敵は居ねぇからよ」

 

 不敵に笑うミコトのスチルが表示され、先生も応じる。

 

「“うん、期待しているよ”」

 

 先生も教え子の成長を、切に願うのだった。

 

 

 

 

 




あれ、話が全然進んでない……。
予定ではハルカが後編で登場する予定だったのに……。

正直、一年生編できっぱり完結しておけばよかったと若干後悔しております。
二次創作で作者の色を出すなって話ですし。それが一番きれいに終わったんだと思いますし。

とにかく、次回こそアルちゃんが活躍します!!
それではまた!!!
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