あと、前話を一度加筆修正して再投稿しました。展開は変わってません。
完成した、と言うリオの言葉に、ついにこの時が来たか、とミコトは思った。
連邦生徒会長を探す為に各地を回りながら、急激に治安悪化したキヴォトスの不良や犯罪者どもを蹴散らしている最中だった。
ミコトはバイクを走らせ、ユエと合流しリオの秘密ラボへと向かった。
「凄いわね、これ。一人でここまで作ったの?」
『まだ60%程度よ』
そこは、巨大な都市だった。
要塞都市エリドゥ。リオが密かに建造している、対災厄用防衛都市だ。
ユエは感心したように周囲を見渡すが、まだドローンやロボットが忙しなく工事をしている。
通信でリオの言う通り、完成にはまだほど遠いようだ。
地下モノレールで中央タワーへとやってきたミコトとユエは、地下実験施設へとそのまま向かった。
「ふむ、全員揃ったか」
実験施設のミーティングルームに、彼らは居た。
「変人共、もう来てたのか」
ミコトは既に来ていた怪人達を見やり、そう言った。
ゲマトリアの黒服、マエストロ、ゴルゴンダとデカルコマニー。
ミコト達は彼らと協定を結んでいた。
全ては、預言されし災厄へ対抗するために。
「お客様がた、お紅茶をどうぞ」
先に席に座っていたリオに侍るトキが、紅茶を二人に配膳する。
「で、モノはどうなんだ?」
「そう急く必要はない、ゲヘナの死神」
気の早いミコトを、マエストロは制した。
「とりあえず、私の研究成果から見て貰おう」
「なんだよ。自分の作品の自慢したいだけじゃねえか」
いの一番にそう言った彼に、ミコトは呆れてみせた。
「では、生物実験棟の様子を見て貰おう」
この部屋に搭載されたAIがその声に作用し、備え付けられたモニターが点灯する。
「おお!!」
「これはこれは!!」
他の怪人達はこれに感嘆の声を漏らしたが、生徒達女性陣はユエを除いて眉を顰めた。
そこは、緑色の粘液――シロップで満ちた地獄だった。
元は清潔で白い部屋だったのだろうが、そこを徘徊する怪物の群れを見てそれを想起するのは難しいだろう。
なにせそこは、大小様々なパンケーキのモンスターが蠢いているのだから。
「牛巻ジュリの料理に対する情熱をミメシスで複製し、ほぼ100%の確率で食材の異形化に成功した。
また、生物的な特性を獲得した故か、当初は数日で腐敗による死亡が確認されたが、薬学的アプローチを行いそれの克服に成功した。
既に30日以上これらの個体は生存している」
「やはりベーキングパウダーにゾンビパウダーを配合したのが決め手だったようね」
「特に、牛巻ジュリが手ずから調理した個体は大幅に巨大化し、特殊個体として“タナトス”の名を与えた」
ユエもそうだが、表情がわかりにくいマエストロが声音からウキウキしているのが見て取れた。
「……」
「リオ様、そう羨ましがらずとも、このトキめがあれよりも巨大なパンケーキをこしらえてみせましょう」
ドン引きしているリオに、トキは真顔でそんなことを言った。
「いえ、今は食欲が無いから良いわ……」
「そうですか、残念です」
すん、とトキはちょっと残念そうに引き下がった。
「研究当初は凶暴で手を付けられなかったが、調理過程において生徒達の人体の一部を混入することで、ある程度の意思疎通に成功した!!
私自身料理は初めてだったが、初めてにしては十分に人前に出せる完成度だと自負している」
「……人体の一部とは?」
「主に毛髪や血液などだ」
マエストロはマッドさを隠すことなくそうリオに伝えた。
「つまり、調教して使役が可能なのよ。
しかも製作コストもかなりお安くなっているわ」
「そりゃあパンケーキだもんな……」
特殊な材料を含めているとはいえ、大本はパンケーキに過ぎない。
大した値段にはならないだろうな、とミコトは思った。
「特にタナトスは群れを統率する知能と能力があるみたいだから、戦いになればいつでも大量に実戦投入が出来るわ」
「……リオ様、我々は災厄に対抗する手段を模索しているのですよね? 災厄を起こす側ではないのですか? 生き残った方が我々の敵になるのではありませんよね?」
「それ以上言わないで……」
ウッキウキで解説するユエ。
リオはトキのツッコミから目を逸らした。
「私からの発表は以上だ。どうか、喝采のほどを」
マエストロは腕を曲げて一礼をした。
彼の同胞とユエは惜しみなく拍手を、ミコトとリオとトキは心無い拍手をパチパチと送った。
「なあ、パンケーキの化け物はいいんだがよ、それでジュリの方はどうなったんだ?」
ミコトはジュリにこの研究を巻き込む際、彼女の料理の腕前では説明できない怪奇現象をどうにかできないか、それを込みで研究するように要請していた。
「今のところ、我々が制作した特殊なゴム手袋を装着した場合に限り、異形化の発生率が三割程度に抑制されたと聞いています」
それには、ゴルゴンダが答えた。
その特殊なゴム手袋とやらを制作したのが彼だからである。
「そういや、食堂での騒ぎが最近減ったって聞いてたが、そいつはよかったぜ」
ミコトもジュリとは知らない仲ではない。
下ごしらえをする分には異形化は起こらないので、黙々とそれに従事する彼女が多少報われたのならそれはよかったと思うのだった。
「次に、私の成果はこれです」
ゴルゴンダは、エナメル質のような艶のある長方形の物体をテーブルに置いた。
「なんだ、これ?」
「端的に言うなら、生徒達の髪の毛で編んだ護符です」
「……マジか」
マエストロのようなインパクトとは別方向の代物だった。
「マダムとの技術交換で会得した手法で、千人の生徒にひと針ずつ己の髪の毛を通して頂きました。
所謂、千本針と言うまじないによる護符ですね」
「なんだ、それ? 針千本飲ます的な奴か?」
「いいえ、そうではありません」
ゴルゴンダはやんわりとミコトの理解を否定した。
「所謂民間信仰の一種です。
戦争に行く者に、女性がひと針ずつ布に糸を縫うことによって作られる、銃弾避けのお守りのことです」
彼はそのように、この道具の起源を解説した。
「これは更にその『記号』を印象付ける為に、女性が最も大事にする髪の毛を使用し、それを千人の生徒がひと針ずつ縫うことによって作成されました」
「とりあえず、効力が高そうだからトリニティの生徒を中心に散髪店などから髪の毛を回収したわ。
ティーパーティーの全員から一本ずつ取るのは苦労したわ」
なぜかその材料確保にユエも関わっているようだった。
「ふーん、これを持ってると、銃弾に当たらないってわけか? スゲーな、無敵じゃん」
髪の毛の塊だと聞いて倦厭していたミコトも、これには考えを改めて手に取った。
実際、銃弾を無効化できるならキヴォトスではほぼ無敵だろう。
「一応、飛び道具全般に対応できていると思います。流石にレーザーのような光学兵器などは不明ですが」
「では、実際に試してみましょう、リオ様、アビ・エシェフのレーザー兵装を」
「あとで試すからここでは止めて」
ゴルゴンダの懸念を聞いて、トキが逸るようにそう言うと冷静にリオが返した。
「クックック。私の方からは、リオ会長が説明いたします。
何分、私は文系でして……」
どの口が、と黒服の言葉にリオはそんな台詞が出かかった。
「……私達は議論の結果、“色彩”という災厄に対し、ミコトに戦力を一点集中するのが合理的かつ効率的だと判断したわ」
リオがタブレットを操作すると、モニターの画面が切り替わる。
それは、設計図のようだった。
「アビ・エシェフのような重装備とは対極的な設計思想、防御力や火力よりも機動性と携帯性に特化してみたわ。
極限まで薄型にしたパワードスーツ……私はこれを“アルラトゥ”と名付けた」
モニターには全身ピッチリスーツの設計図が示されていた。
「これは電気的な信号で使用者の身体能力を向上させ、そちらの護符と連動して効果を最大限に発揮する仕組みになっているわ」
「なるほどなぁ」
全くわかっていないミコトは、わかったようなふりをして頷いた。
「こちらはエリドゥのバックアップを前提としたアビ・エシェフに対し、バッテリーのエネルギーだけで稼働が可能になるわ。
更に無名の司祭たちの技術により、稼働時にはバリアが展開され、見た目以上の防御性も確保。
その分、戦闘力はミコトに大きく依存していると言わざるをえないわね」
「リオ様。私はアビ・エシェフが無くとも強いですが?」
「そうね。そして武装は――」
さりげなく対抗意識を燃やしているトキをスルーし、リオはタブレットを操作する。
テーブルに格納されていたSFっぽい見た目の刀剣が出現した。
「――超振動剣“エア”」*1
柄の部分は何らかの機械で分厚く、白い刀身も刃物とは思えないほど分厚い。
どちらかと言うと鞘に入っているように見えるが、これが抜き身である。
「これ、切れるのか?」
「そもそも、切断と言う現象は摩擦によって引き起こされるのよ」
ミコトの問いに、リオはそう語り始めた。
「勿論物体同士の接触面が小さいほど、切断に必要な力は集中されるわ。
だけど、これにそれは不要。必要な摩擦はこの剣の機能が補強してくれる」
リオが立ち上がって“エア”を手に取る。
柄のスイッチを入れ、刀身の振動が始まる。
「ノイズキャンセリング機能の応用で、持ち手には振動は伝わらないわ」
そしてリオがへっぴり腰で刀剣を掲げ、ゆっくりと振り下ろした。
すると刀身が当たったテーブルが、削れた。
おお、と感嘆の声が皆から上がった。
どう考えても武術の心得の無いリオでもこの威力!!
「どちらかと言うと振動で対象物を破壊する、削岩機に近いわね」
スイッチを切り、実演を終えたリオは刀剣を元の場所に置いた。
「更に、この刀剣を居合いによって射出する為の超電磁カタパルトを搭載した鞘も用意したわ」
「お言葉ですがリオ様。そんなモノ、人間が扱えるとは思えません」
腕がもげます、と真顔でリオに進言するトキ。
それはレールガンから発射される飛翔体を掴んで、更に速く投げれば強い!! みたいな過剰すぎる機能だった。常人ならまともに剣を振れるわけがない。
「俺なら出来るが? トキ、お前は出来ないのか?」
「は? リオ様の完璧なメイドたるこの私に不可能はありません」
ミコトは面白がってトキをからかうと、彼女も案の定対抗意識を見せてきた。
「とにかく、私はミコトの要望に可能な限り応えたわ」
「おう、パーフェクトだ、リオって奴だ。これでぶっ飛ばせねえ奴はいねぇだろう」
「そうだと願うわ」
「そこは、感謝の極み、でしょうリオ会長」
決戦兵器の完成。
待ち受ける災厄に対抗する、実感が一同に湧いた。
「よし、トキ。装備の試運転ついでにどっちが上か決着つけるぞ」
「望むところです」
ミコトとトキが椅子から立ち上がる。
「子供と言うのは時に侮れない。
感受性は歳を取るごとに衰えていく、若さゆえの独創性や或いは未熟さは我々には無い物だ」
マエストロははしゃいでいる子供たちを見て、どこか羨ましそうにそう言った。
「マダムもそう言った視点を得れば、あの才覚をもっと生かせると思うのですが……」
ゴルゴンダはこのプロジェクトに参加していない紅一点を思い浮かべ、惜しそうに呟いた。
「くくく、我々は本来個人主義の集まり。どのような方法で“崇高”に至るか口出しする権利はありませんよ。
こうして我らが子供たちと協調する方が異例なのですから」
黒服の言葉に、それもそうですね、と彼も答えた。
そして、今回のオチ。
「大変よ、タナトスたちが逃げ出したわ!!」
ユエが慌ててそう叫んだ。
彼女が叫んで慌てるぐらいの緊急事態だった。
なぜそうなったのか?
ミコトが本気を出したせいで、エリドゥの完成度が30%に低下したからだ。
「大変だわ、あちらはゲヘナ方面よ!!」
「きっと、創造主たるジュリさんの元へ本能的に惹かれているのね……」
テンパってるリオに、諦めたように肩を落とすユエ。
「困りました。エリドゥが半壊してしまいましたので、アビ・エシェフの出力が……」
「はん、丁度いい。あのパンケーキどもに上下関係を教えて来てやるよ!!」
困り果てているトキを他所に、ミコトが壊れた城壁から飛び出していく。
不死のパンケーキ軍団がゲヘナ学園を阿鼻叫喚の地獄絵図に陥れたのは、この数時間後のことだった……。
作者は元設定厨なので、なぜ強いのかをちゃんと理由付けされてないと嫌なタイプなのですね!!
なので、今回は解説回になりました。
次回からは、今度こそ補習授業部編へと移行します。
クソつよ兵器をひっさげて、暴れまわるミコトにこうご期待!!
ではまた、次回!!