ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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今回から、補習授業部編のスタートです!!



ブルアカVol3「補習授業部編」その1

 

 

 

 :01 プロローグ

 

 

 夢見の中で、先生にセイアは嘯く。

 

「……つまるところ。エデン条約というのは、「憎み合うのはもう止めようという約束」」

 

 これから起こることについて、彼女は語る。

 

 トリニティとゲヘナの長い確執に終止符を打たんとすることである、と。

 

「……ああそうだ、先生。ひとつだけ質問をしていいかな?」

 

 何かを思いついたように、彼女はふと先生に問うた。

 

 

「――()()()()()()()()()?」

 

 

『“(はい)”』

『“(いいえ)”』

 

 目の前の画面に浮かぶ、二つの選択肢。

()()()は、はい、を選んだ。

 

「ふふ、そうか。では私は失礼しよう。同じ話を二度も聞かされるのは苦痛だろう?」

 

 セイアは口元に袖をやって微笑み、足音の効果音と共に立ち絵が消えた。

 

 そして、このエピソードは終わった。

 

()()()は、もう一度このエピソードを選択した。

 

 

 

 

:01 プロローグ

 

 

 夢見の中で、先生にセイアは嘯く。

 

「……つまるところ。エデン条約というのは、「憎み合うのはもう止めようという約束――」」

 

「“(セイアの目元を拭う)”」

 

 先生はポケットから常備するようになったメイク落としを取り出し、セイアの目元を拭った。

 

 その絹のような白い肌の下から、爛れた傷跡が現れた。

 

「先生。急に女の子の顔に触れるのはマナーがなっていませんよ」

 

 背景が黒くなる。

 BGMが変化する。

 セイアの立ち絵がくるりと回り、シルエットだけになる。

 

 “代弁者”が、現れたのだ。

 

「簡単に私を見分けられるようになってくれましたね、これはもう相思相愛なのでは?

 他の生徒の皆さんに嫉妬されてしまいますね♪」

「“いったい、何の用かな?”」

「おや? その質問はオカシイですね」

 

 こてん、とセイアの立ち絵のシルエットの生徒は小首を傾げた。

 

「私に会いに来たのは、あなたの意思の筈ですよ。

 ええ、赤い空を越えたら会いに来てください、と私が言いましたからね」

 

 くすくす、と顔の見えない生徒は笑う。

 

「私の齎した預言、キヴォトスの滅亡を占うそれらを終わらせたことをまず賞賛しましょう。まあ、ミコトが居て失敗するなどあり得ないことではありますが」

「“その預言について、教えて欲しい”」

 

 先生は、彼女にそう言った。

 

「……。そうですね、先生。セイアさんの謎かけは覚えていますか?

 楽園に到達した者の真実を証明できるのか、とかなんとか」

 

 先生は頷いた。その話は、以前に聞いた。

 

「ただの謎かけにこんな回答をするのは横車を押すようですが、私でしたら楽園に到達した場合――その存在を周囲に周知しようと思うのです」

 

 彼女は、そんなことを言い出した。

 

「だって先生、至上の快楽と幸福が約束された楽園があるのなら、まず家族や友人にも来てもらいたいと思うでしょう?

 それともその旅人は天涯孤独だったのでしょうか。そんな前提条件はありませんでしたよね。

 楽園という宗教的立地……人々は何にもない聖地でさえ、争い奪い合うと言うのに、それを誰かに知らせないのはおかしいと思いませんか?」

 

 理屈の上では、正しい意見だろう。

 尤も、謎かけに対する哲学的な回答では無かったが。

 

「……その旅人は、我々の領域に辿り着きました」

 

 代弁者は、語る。

 

「そして我々に教えたのです。キヴォトスの存在を。

 美しくも醜い、子供たちの楽園を。かの者は、そこの出身だと語りました」

「“君たちは、招かれた?”」

「ええ。知っての通り、私は暇だったので。彼女と友達になってあげましたよ。

 そして先生方にとっては気の遠くなるような時間を、ゲーム談義に費やしました」

 

 お陰で大分影響されましたよ、と彼女は肩を竦める。

 

「かの者の案内で、私とミコトはキヴォトスに生徒として来訪しました。

 それからは、こまごまと話した通りですかね。

 キヴォトスへは観光目的ですよ、それ以上でもそれ以下でもありません」

 

 本当にただの、彼女らにとっては暇潰し。

 ただそれだけの話だった。

 

「先生や生徒の皆さんに味方するのは、偶然その陣営に居たと言うだけの話です。

 シミュレーションゲームでも陣営を選ぶことがあるでしょう? 敵として相対したのなら、その時は容赦なくミコトと一緒に皆さんを滅ぼす為に画策したでしょう。私にとって、これはそう言うゲームなのです」

 

 先生は何かを言いたそうにしたが、結局溜め息が漏れただけだった。

 この胡散臭い相手は、本当に徹頭徹尾、先生や生徒達の味方だった。今はそれだけでいいとしたのだ。

 

「“……かの者って?”」

「おや、先生。彼女から聞いていないのですか? もう既にお会いしている筈ですよ?」

「“えッ!?”」

「誰よりも、この楽園(ゲーム)を愛している者。

 キヴォトス出身の生徒にして、この世界の守護神。

 ……おっと、神性が直接この世界に干渉するのはご法度でしたね」

 

 代弁者の行動がやたらと回りくどいのは、そんなルールを守っているからだった。

 

「“もしかして、その子って”」

「先生。それ以上は野暮ですよ」

 

 何者かに思い当たった先生に、彼女は首を振った。

 

「かの者の此度のアプローチは、我々の招致のみ。自らはもう、我々のように全てを忘れて生徒として過ごしています。()()()()()()()()()()()()そうです」

「“……”」

「私は彼女から預言を預かり、それを元に行動しました。

 それなりに先生のお役に立てたと存じますが?」

 

 それは、明確に事実ではあった。

 

「“そうなんだね……私の生徒と友達になってくれて、ありがとう”」

「おや」

「“でも……なら、なぜあんなことをしたのかな?”」

 

 先生は問う。彼女は確かに先生と、生徒の味方として行動した。

 だがそれは、混乱を巻き起こす生徒の味方でもあるという意味だった。

 

 顔の見えない生徒は、ゆっくりと三日月のような笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 :07 試験勉強

 

 

 先生はここ数日、トリニティに通って放課後に補習授業部の面倒を見ていた。

 

 今日もまた、その為にトリニティの校舎に来ていた。

 だが、校内の様子に違和感を抱いていた。

 

 正義実現委員会の生徒が二人一組、銃を持って哨戒しているからだ。

 銃を携帯していることと、手に持っていることは明確に異なる。

 

 アメリカでも州によっては、コンビニに銃を所持して入ることは合法でも、手にもって入店するのはアウトのところがある。

 

 つまり、物々しい雰囲気だと感じたのだ。

 

 今のところ補習授業部以外のいざこざはシャーレとしての仕事ではないので、先生はその違和感に蓋をして補習授業部の教室に入った。

 

 まだ少々早い時間だと言うのに、ハナコが来ていた。

 

「あら、先生♡ こんにちわ、今日もお願いしますね♡」

「“うん、試験勉強頑張ろうね”」

 

 ハナコは花瓶に花を入れていた。

 白い花だ。柑橘系のいい匂いがする。

 

 トリニティは美意識の高い学校なので、教室や廊下に花が飾られていることは珍しくない。

 彼女の名前も相まって、先生はまさしくハナコが可憐な美少女に映っていた。

 

「“キレイだね、何の花かな?”」

「ゼラニウムですよ。花を生けるのは選択科目の授業でヤったりするので♡」

「“なるほどね”」

「あと、こんなのも持ってきましたよ」

 

 ハナコはアロマポットを取り出した。

 

「勉強に集中できるように、ラベンダーのアロマを持ってきました」

「“それはいいね”」

 

 彼女がアロマポットをセットすると、アロマのいい香りが充満し始めた。

 

「なにこれ、トイレの芳香剤みたいな匂いがする……」

「あ、コハルちゃん」

 

 すると、コハルが教室にやってきた。

 

「私が持って来たんですよ。勉強で集中できるように」

「こんなのがあると、逆に気が散るわよ!!

 トイレの芳香剤みたいな匂いがするし、ハナコ、あんたそんな名前だからってこんな――」

「コハルちゃん♪」

 

 ハナコがにっこりと笑って、彼女の名前を呼んだ。

 先生には、その笑顔から妙な迫力を感じた。

 

「この間の私の水着姿、どう思いました?」

「な、何よ急に……あんなのただのエッチでスケベなだけじゃない!!」

「コハルちゃんも興味はありませんか? 解放的で気持ちいいですよ♡」

「……そ、そうなの?」

「やっぱり興味があったんですね♡」

「なに言ってるのよ!!」

 

 コハルはイライラしながらこう言った。

 

「女の子だっておっぱいは大好きなのよ!!

 なのに、こんなのぶら下げて!! ブラのサイズは何なの!!」

「あッ、コハルちゃん、激しい♡」

 

 ハナコをもみくちゃにするコハルから、先生は紳士なので目を逸らした。

 

「あらあら、先生もいかがですか♡」

「“ハナコ。魅力的な提案だけど、男性にそう言うことを言うのは良くないよ”」

「……はーい」

 

「皆さん、お早いですね――」

 

 その時、ヒフミが教室に入ってきた。

 コハルにむちゃくちゃにされているハナコが目に映った。

 

「コハルちゃん!! どうしちゃったんですか!?」

「私の知らない格闘スキルだ。興味深い」

「アズサちゃんまで!!」

 

 その後、困惑している面々もたしなめて、先生は本日の勉強を始めたのだった。

 

 

 

 

 :08 第一次学力試験

 

 

 数日後、第一次学力試験が終わった。

 

 その惨憺たる有様に、ヒフミは卒倒する。

 

「な、なによ、倒れなくたっていいじゃない……」

 

 これにはコハルもおろおろし、アズサは倒れたヒフミの体調を確かめる。

 

「大丈夫だ、命に別状はない」

 

 アズサは真顔でそう言った。

 

「うう……。どうしてこんなことに」

「わ、私は、ただ見栄を張りたかっただけなの……。

 自分に自信が無いから、先輩達と同じ試験を受けただけで、本当は勉強なんて全然できないの……」

「コハルちゃん……」

「迷惑を掛けてごめんなさい……」

 

 コハルの涙ながらの告白に、顔を起こしてヒフミは意を決したように頷き返した。

 

「大丈夫ですよ!! 最初は誰だって勉強ができないものです!!

 やり方さえわかれば、誰でもできるようになっているんですから!!」

 

 ヒフミはそう力説して、コハルを励ました。

 

「……」

「だからハナコちゃんも、私達と一緒に頑張りましょう!! 点数が低くたって、それは逆に上しかないってことですから!!」

「……ええ、そうですね」

 

 ハナコはにっこりと笑ってそう答えた。

 

 先生は、うんうん青春だな、と気を取り直して子供たちの可能性を後方大人面しながら見守るのだった。

 

 

 

 :09 水面下に揺らめく影

 

 

 補習授業部の最初の試験が終わる頃、先生は嫌でもトリニティの学内の様子がおかしいことに気づいた。 

 

「こんにちは、先生」

「あ、先生だ。こんにちは!!」

 

 昼間から校内を正義実現委員会の生徒が、巡回している。

 非常に物々しい事態だ。

 

 先生は、日が落ちた頃合いに、ナギサの元に行って、その原因を尋ねていた。

 

 

「……先生にはお話ししなければなりません。補習授業部の意義と、エデン条約について。そして、それを邪魔するだろう黒幕に関して」

「“黒幕?”」

「ええ、私はかのゲヘナの死神。あの逢坂ミコトさんだと思っています」

「“……それはなんで?”」

「決まっているでしょう?」

 

 ナギサは顔をこわばらせる先生に、こう言った。

 

「先日襲撃を受けて意識不明の重体に陥ったセイアさんの、襲撃犯が彼女の腹心──月見ユエだからですよ」

 

 彼女は今極秘に我が校の牢屋に捕えています、とナギサは言ったのだ。

 

「“それは、本当なの?”」

「当人が自白しましたし、証拠も有るそうです」

「“信じられないかな、ユエはそう言うことはしない子だよ”」

 

 先生はそのように擁護した。

 

「ですが、真実はこの通りです」

「“どうして、それが真実だと分かるの?”」

「先生、これについてご存じですか?」

 

 ナギサは、テーブルの上にそれを置いた。

 

 それは、包装シートに包まれた六錠の錠剤だった。

 

「“これは?”」

「分かりません。ただ、“特効薬”と呼ばれ学内に出回っている錠剤です」

「“特効薬、だって?”」

「これを服用すると、――しばらくの間、嘘を自覚的に言えなくなるそうです」

「“そんなまさか”」

「まさしく、嘘に対する特効薬、と言うわけですね」

 

 ナギサが言うのだから、効果は事実なのだろう、と先生は戦慄した。

 

「これをユエさんは服用し、自らの罪を自白しました」

「“……ゲヘナはどう言っているの?”」

「何も。恐らく彼女達は何も知らないのでは?

 生徒が一人、数日行方不明なくらいではかの学校は気にしません」

 

 ナギサはこの事態に憂慮するように、溜め息を吐いた。

 このままではエデン条約が締結するまで軟禁することになりそうだからだ。

 

「私は彼女が、エデン条約を妨害する勢力の刺客、そう考えています」

 

 そして、ナギサからエデン条約に関するあらましを聞いた後、先生は問うた。

 

「“私を補習授業部に招いたのは、エデン条約が理由なのかな?”」

「どちらかと言うと、ミカさんが話題の先生に会いたがっていたからでしょうか。

 彼女達は怪しくはありますが、事前に“特効薬”で聞き取り調査をしていますので」

 

 先生は内心、えげつないな、と思った。

 

「先生におかれましては、我が校の生徒の為にどうか尽力して下さると幸いです」

「“あとひとつ、良いかな?”」

「はい、なんなりと」

「“ユエに会わせて欲しいんだ”」

 

 ナギサは一瞬逡巡すると、わかりました、と言った。

 

 

 

「ありがとうございます。ユエさんのお陰です!!」

「どういたしまして」

 

 先生が牢屋に向かうと、先客がいたようだった。

 トリニティの一般生徒は先生を見ると、会釈して去って行った。

 

「勉強の方はどうですか?」

「あ、最近は遅れも取り戻せて、何とか次のテストは大丈夫そうです」

「それはよかった」

 

 先生が教室に入ると、鉄格子の中にユエは居た。

 見張りの正義実現委員会の生徒と他愛もない雑談をしているようだった。

 

「あら、先生。こんばんわ」

「こんばんわ、先生!!」

 

 二人は先生を見るなり挨拶をした。

 

「どうやら先生は私に大事な話があるようですね、悪いですけど席を外してくれませんか?」

「うーん、まあ先生がいらっしゃるならいいか」

 

 そう言いくるめられて、正義実現委員会の生徒は牢屋のある教室から出て行った。

 

「先生、どのような御用ですか?」

「“ユエ、君がセイアを襲ったって、本当?”」

「先生」

 

 ユエは、いつもと同じ笑みを湛えて、こう言った。

 

「本当なわけないでしょう? あれは無理やり言わされたんです」

 

 彼女の視線は、どちらを信用するのか、と先生を試しているようだった。

 

「先生、預言は御存じですか?」

「“預言?”」

「それによると、ティーパーティーの一角が襲撃され、内乱の危機に陥るとされていたのです。

 私や、デスサイズの皆は、それを防ぐために行動していました。

 結果的にそれは失敗しましたが、現場にいた私は犯人として拘束され、こうして虜囚の身となっているわけです」

 

 先生は、先ほどのナギサの言葉を思い出した。

 

「デスサイズ……トリニティの元生徒で構成されたトップ集団を持つ、トリニティ転覆を狙う不良集団ですよ。

 ユエさんはその中でも大幹部の立ち位置に居るそうで、ある種カルト的な秘密主義を有しているそうです」

 

 と、ナギサは言っていた。

 彼女の視点では、そう言うことになっているらしい。

 

「先生。私のことは気にしないでください。

 先生は先生の成すべきことをしてください」

「“ユエ……でも”」

「先生、これはゲームですよ」

 

 くすくす、とユエは嗤う。

 

「何が真実で、何が嘘か。それを頑張って見極めてください。

 一応、救済措置は設けているので、その時はそれを頼って下さい」

「“とりあえず、不当な扱いを受けてないのはわかったよ”」

「ええ、三食デザート付きの上冷暖房完備、勉強までさせて貰っています。

 そこらのホテルよりもずっといい環境ですよ」

 

 タダですし、と冗談めかしてユエは言った。

 

「でもミコトにはしばらく帰れないと伝えておいてくれますか?

 ここでは唯一、携帯が使えないものですから」

「“わかったよ……”」

「お願いしますね、先生もミコトがトリニティに殴り込んできても困るでしょう?」

 

 その光景がありありと想像できる先生は、すぐにスマホを取り出した。

 

 が、事情を説明すると、明日そっち行く、と返信があった。

 

「おやおや、かえって刺激してしまったようですね♪」

「“ユエ、デスサイズは本当にトリニティ転覆なんて考えてないんだよね?”」

「先生。デスサイズは良くも悪くもミコトの意思によって動きます。

 先生はミコトが、トリニティ転覆なんてつまらない真似をすると思いますか?」

 

 思わない、と先生は応えた。

 そうでしょう? とユエも言った。

 

「ミコトみたいなバカすら信じられないのだから、トリニティには必要だったのでしょうね」

 

 くすくす、とユエは嗤ってこう言った。

 

「嘘に効く“特効薬”が……」

 

 彼女は、牢屋の中に飾られている花瓶に生けられた、白いゼラニウムに触れて、そう語るのだった。

 

 

 

 

 





原作との違い

ミコトとユエ、デスサイズの存在。
セイアの襲撃時期、原作では去年の出来事になっている。
謎の特効薬の存在……。
ナギサが補習授業部を疑っていないので、彼女らに余裕がある

うーん、原作の五割増しに面倒になってますね!!
面白くなってまいりました!!
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