ミコトの秘密に迫る!!
「“今日の当番は、ミコトか……”」
先生は当番表を確認して、そう呟いた。
数多の災厄やら困難を超えて、先生として成長した彼は思い返す。
先生が巻き込まれる面倒ごとの切り込み隊長として、呼べばいつでも来て活躍してくれる。
ただもう少し、落ち着いてほしいなと先生が思っていると。
「よう、先生」
ミコトがシャーレのオフィスにやってきた。
今日は斜め後ろにユエも連れてきている。
「“おはよう、ミコト。ユエも来たんだね”」
「おはようございます、先生」
事前に連絡も無かったが、先生は生徒の来訪を歓迎した。
「先生。今日は午前中、外出の予定はありますか?」
「“いや、特にないけど”」
「だそうですよ、ミコト。せっかくですから、先日の約束をはたしたらどうですか?」
ユエの言葉に、ミコトは首を傾げる。
「約束? なんだそれ」
「ほら、
ユエがミコトの方を向いて、目元をメイク落としで拭った。
彼女の目元の、爛れた切り傷が露わになる。
ミコトは一瞬目を見開き、ああ、と頷いた。
「
彼女が一歩踏み出す。
ばき、ぼき、と異音が鳴る。
先生は目を見開き絶句した。
なにせ、ミコトが一歩歩く度に、その身長が伸びている。
骨格が、体格が、変わっていく。
その身長は、成人男性の平均身長と大して変わらない先生を追い越した。
「こっちの俺で話すのは初めてだな」
「“ミコト、なの?”」
「んあ? ……ああ、こっちではそんな名前だったな。
俺が今どういう状態か、わかりやすく教えてやるよ」
ほれ、とミコトは先生の手を取り、自身のスカートの中に突っ込ませた。
「“み、ミコト!? なにをするの!? こう言うのはダメだよ!!”」
「いいから、よく感じてみろ」
慌てふためく先生は、次第に冷静になり、気づいた。
女性には、有ってはならないものが、そこには在った。
「“お、男だったの、ミコト……?”」
「ちげぇよ、今変わったんだ」
先生から離れて、来客用のソファーにどっかりと座るミコト。
「つーか、キツイなこれ」
体格が変わり、性別さえ変わったミコトは制服のボタンを外し始めた。
制服、シャツ、ブラを、ぽいぽいと脱ぎ捨てる。
先生は咄嗟に目を逸らしたが、ミコトの方からは笑い声がするだけだった。
「男同士でなに乙女みてーな反応してんだよ、先生」
そんなことを言うのだから視線を戻せば、ミコトの上半身には女性らしい乳房はなかった。
男らしく逞しく鍛えられた腹筋と胸板があるだけだった。
「はい、ミコト。いつもの奴よ」
制服のスカートとショーツまで脱ぎ捨てた彼に、ユエはローブのような衣服を渡した。
先生は意外と可愛いショーツを見てしまい、複雑な心境に落ちいった。
「裸にこれ一枚かよ、変態みてぇじゃねーか」
「どうせ今日は話だけでしょ、別にいいじゃない」
「それもそうだな」
ミコトはユエに文句を言いつつも、結局はどうでも良さそうにそう言った。
「一度、男同士で話してみたかったんだよ、先生」
「“……お、男同士で?”」
「そんなに気にすんなよ、俺にとっちゃ性別なんてその日にどの服を着て外を歩くか程度のもんだ」
ミコトはまた先生に近寄って、肩を組んでこう言った。
「で、だ。どいつを狙ってんだ?」
「“……え?”」
「だから、どの生徒を狙ってんだよって聞いてんだ。男が二人集まったらするのは、猥談に決まってるだろ?」
まるで男子高校生みたいなノリだった。
「やっぱハスミか? あの無駄にデカい胸か?
あいつ、自分の身体の成長を太ったって思い込んでるんだぜ、ウケるよな!!
前にハルナが太らない体質だって聞いて切れてたらしいが、あのプロポーションで太ったとか言ってるあいつも十分理不尽だと思わねぇか?」
「“の、ノーコメントで……”」
「なんだ、反応が悪いな。違うのか?」
「ミコト。ゲヘナではイオリさんとかが良い線行っているみたいよ」
「“ユエ!?”」
ユエの援護射撃に慌てる先生。
「ああ、イオリか。まあゲヘナじゃ優良物件だな。
ヒナも良いとは思うが……まああいつは二十歳までは様子見か」
けらけら、とミコトは勝手なことを言って笑っている。
「(“ミコトだ……”)」
先生は感じた。彼は間違いなく、ミコト本人だった。
ただ性別が違うだけ。雰囲気は年相応だった。
「トリニティじゃやっぱりミカか?
俺だったらあいつは無理だな。ハスミみたいな堅物ならちょっかい掛けて楽しいだろうが」
「“私はそう言う目で見たことは無いよ”」
「ぬかせ!! 男ってのは、男からは逃れらんねぇのよ!! 正直に言えよ、どいつに興奮したんだ?」
先生はダル絡みしてくるミコトに辟易した様子で、ユエに助けを求める視線を送った。
「ミコト。先生が困ってるわよ」
「……ああ、俺か!! えーと、ユエだっけ、今は」
「そうよ、ミコト」
「男の猥談に女が口出ししてくんじゃねーよ、ボケ」
塩対応だった。口うるさい母親か姉を突き放すみたいな口調だった。
「やっぱり酒が必要か。素面でどの生徒が股間に来たかなんて言えねぇよな!!
ユエ、買って来いよ!! 下にコンビニあったろ!!」
「キヴォトスじゃ生徒はお酒は買えないわよ」
「なんだよ、使えねぇな」
「“あの、朝から飲酒はちょっと……仕事も有るし”」
白けたのか、ミコトはようやく先生から離れて来客用ソファーに再び座り込んだ。
「じゃあ、仕事終わったら居酒屋行こうぜ」
「“未成年はお酒はダメだよ”」
「……ああ、そうだった。この身体、17だったわ」
そりゃあダメだわ、と妙なところが律儀でさっぱり諦めるミコト。
「ったく、つまんねーな。久しぶりに一緒に酒を飲もうと思える奴に会えたのに」
「ミコトはお酒は飲まないものね」
「身体に悪いからな」
その所作も、先生が知るミコトそのものだった。
本当に残念そうにしているミコトに、先生はちょっと罪悪感が湧いた。
「“ええと、つまり、どういうことなのかな?”」
「……ああそうだわ。別に酒ぐらい調達できるか。そんぐらいキヴォトスでかましてやったんだったわ」
「“あの、そう言うことじゃなくてね……”」
不敵に笑ってるミコトに、先生は言った。
「“に、二重人格みたいなものなのかな?”」
「俺が? ちょっと違うな」
ミコトはニヤリと笑って話し始めた。
「正確には、転生だ。俺はあんたと同じ、ただの人間だよ」
「“転生……”」
「俺が死ぬと、ユエが俺を次の人生に連れてく。
それを何度も繰り返してる。それで男にも女にもなってる。
そうしてるうちに、俺の方でも自由にできるようになったんだよ」
生憎と、先生にはそのだからどうしての部分の繋がりが理解できなかった。
「最初はただ只管強さを極めたんだが、次第に飽きて方法を変えるようになった。転生にはオプション変更が付き物だろ?
盲目だったり、片腕や片足、両足が無かったり、全盲だったり、病弱だったり、そんな人生全てで強さを極めた。次は才能を捨てた。その上で全員に勝った」
「“私の知ってる転生特典とは違う……”」
「女になるのも、そんなデバフのひとつだった」
先生はその物言いに、口をつぐんだ。
「ああ、こう言う言い方は差別だの何だのに当たんだっけか?
別にそう言うつもりじゃねえよ」
先生の反応を察してか、ミコトはそう言い直す。
「単純に基本スペックの話だ。だからよ、女子供ばかりで成り立ってるって話のキヴォトスは正直最初は下に見てた」
ミコトは、目を細めて話を続ける。
「女が居る軍隊は弱いって言うだろ?
昔の軍隊は女人禁制……女に割くリソースの分だけ、軍隊が弱くなるからだ。
だから、女ばかりが銃をぶっ放す世界なんざ、どんなお遊戯なのかってな」
しかし、そんなことを言うミコトは、嬉しそうだった。
「だがこの世界にも俺を満足させる強敵が多く居た。
見るに堪えない女子供のお遊戯でも、本物が居たんだよ。嬉しいぜ」
「“私の知るミコトは、他人を見下したりしないよ”」
「そいつは的外れだぜ、先生。俺は、俺だ。最終的にこの俺に行きつく」
くつくつ、とミコトは愉快そうに笑った。
「キヴォトスに来る上で、俺は多くの縛りを設けた。
女の身体で、慣れない銃を使い、剣技を封じた。俺にとっちゃ両手両足を縛られるのと同じだが、ガキ相手には丁度いいハンデだ。
その為に、一度転生までして、生徒としてのミコトのバックストーリーを作った。だから先生、お前の思ってるように、こっちのミコトの意思はこっちのミコトのもんだよ」
実際俺が表に出たのは今回が初めてだしよ、と彼は肩を竦めた。
「“それを聞いて安心したよ……”」
「この俺は、これまで繰り返してきた俺の人格の“全て”だ。
言わば、コンピューターのバックアップみたいな? まあそんな感じだよ。
つまり、お前の知るミコトは、現行最新のキヴォトスバージョンみたいなもんだ」
「“ならなんで、今になって出てきたの?”」
先生は、キヴォトスのミコトと、これまでの全てを司るミコトがいる、と解釈した。
彼は前者に全てを任せている。自分がしゃしゃり出てくるつもりはないようだった。少なくとも先生はそう感じた。
「仲良くなった相手と、酒を酌み交わしたいと思うのはそんなにおかしいことか?」
「“え……”」
「じゃあまあ、来年……ああ、来年は卒業してんのか。
なんだか機会はなさそうだな。来年でこの旅行も終わりか」
少し寂しそうに、ミコトはそう言った。
「ミコト。キヴォトスを気に入ったのね。――あの子、彼女も喜んでいるでしょう」
「おう、まだまだ行ってないところも多いからな」
「なら、次はトリニティにでも入学するのはどうかしら?」
ユエの提案に、虚を突かれたようなミコトはゆっくりと笑みを浮かべた。
「卒業したのなら、また入学すれば良いのよ。
その次はミレニアム、その次はアビドス。全ての学校に入学しましょう。そうすれば、数万年は遊べるわ。しかも定期的に、
「そりゃあいいな!! これまでと同じだ、これまでみたいに何万回、何十万回も転生すりゃいいのか!!
次はもっと弱くしよう、ユエ、お前みたいにな!!
その次はヒマリみたいに足を不自由にしよう、また片腕、片足、両手足を落とし、盲目、全盲、病弱になって、キヴォトスを味わいつくそうぜ!!!」
純粋な狂気が、そこにあった。
「そして、その全てで俺の最強を証明すんだ!!」
ミコトは、無邪気にけたけたと笑っている。
先生は言葉を失いつつも、こう言った。
「“まあ、学びたいということに、年齢は関係無いと思うよ”」
先生は生徒のしたいことを尊重する教育方針である。
ミコトが最終的に彼になるなら、何度入学しても同じだろう。
即ち、その根底は変わらないと先生は思った。
「きっと、それがこれがあの子の思惑なのでしょうね」
「俺にこの世界を守らせようって? はん、あのチビも粋な事するな。
まあ、俺を楽しませ続けてくれんなら、そいつも悪くねえな」
「向こうの連中も厄介者が居なくなって清々しているかもよ」
「うるせえよ」
くすくすと笑うユエに、ミコトはうざそうに鼻を鳴らした。
「ま、そんだけ時間があればいくらでも機会はあるか。
さて、と。女の園にいつまでも俺みたいな男が居るのもよくねえか。
次に会う時は、ミコトじゃねえかもしれねえが、また会おうぜ、先生」
「“……うん、楽しみにしているよ”」
そう言えば、先生はまだ就任一年目。
卒業した生徒と、お酒を酌み交わす楽しみは知らなかったことに思い当たった。
ばき、ぼき、と嫌な音と共にミコトの身長が縮んでいく。
一体現在進行形でどのように変化しているのか、先生は想像もしたくなかった。
「ふぅ……なんか、スース―するな」
「ミコト」
「あん、何だよ?」
ごッ、とユエはミコトの頭を殴った。
気を失った彼女に、ユエは下着やら制服やらを着せていく。
先生は、せめて自分が居ないところでやって欲しいな、とそっぽを向くことしか出来なかった。
「先生、あんなに
「“あれでそうなんだ……”」
ユエの声に、先生はそう呟いた。
「きっと先生を“戦友”として認めたからね。
ミコトは弱い奴には興味無いもの」
「“そうなんだ……”」
「でもだからこそ、そう言う相手には無遠慮になるものよ」
くつくつ、と不吉な魔女の笑い声がオフィス内に響いた。
「彼も分かってるのでしょうね。
だって先生、ミコトは、あなたが決して受け入れられる人物じゃないもの」
「“それは、どういう……”」
前後の文脈が繋がっていないように感じた先生は問うが。
「はい、着替えは終わり」
ばさり、と黒いローブのような衣服をユエはカバンにしまった。
「可哀想に、先生。
先生はハッとなって二人の方を見た。
「うーん……頭が痛ぇ」
そこには、床から身体を起こしたミコトしかいなかった。
「変な体勢で寝ちまったのか……」
彼女は何も不思議がることなく、伸びをしてトレーニングを始めた。
「先生!! 仕事が終わったらなんか食いに行こうぜ!!」
「“……うん、賛成だよ”」
「じゃあ、適当なファミレスでいいか。カロリー表示もあるしな!!」
無邪気に笑うミコトは、やはり何も変わらなくて。
先生は胸騒ぎを心の奥にしまい込むことにした。
まさかの、掲示板回でエロ同人で生やされてるっていう伏線回収。
先生って生徒達には囲まれているけど、男友達が居ないのは憐れだなって思う時があります。
だからって、彼みたいなのはゴメンですけどね!!
諸事情により感想の返信は午後からになります。あしからず。
ではまた、次回!!