今回はちょっと短めですね!!
ミコトの過去もちょっとやります。
先生はトリニティで右から左へと、事態の収拾の為に動いていた。
ミカのクーデターはそれほどまでに衝撃を齎した。
なにせ、一個大隊の半分もの人数――大隊の人数は時と場所によって変わるが、この場合は300人とする――を捕らえていた。
彼女らは人数が人数なので、合宿所にそのまま拘束されていた。
彼女らが人目についていないのは、トリニティの生徒にとっても幸運だっただろう。
アリウスの生徒との聞き取り調査や、その他諸々の問題解決を連邦生徒会側の人間として、先生は奔走していた。
彼女達からは何も、そう、何も情報を得られていなかった。
指揮官クラスの生徒さえも、口を割らなかったのである。
「よう、先生」
そんな中で、先生はトリニティ校内で意外な生徒に出会った。
「“ミコト?”」
「おう、それ以外の誰に見えるんだ?」
ミコトだった。彼女は白昼堂々と、ユエを伴ってトリニティを歩いていた。
「なんか知らねーが、ユエが迷惑かけたらしいな」
「“まあ、うん、そうだね”」
「それは失礼な。私は事態を丸く収める為に奔走していたのに」
歯切れの悪い先生の態度に、ユエは不満げにそう言った。
「うるせえ」
「ぎゃん!?」
ミコトは、ユエの後頭部をひっぱたいた。
「俺が悪いっつったら、全部悪いんだよ、ボケが」
「そんな、理不尽よ」
「お前、えーと、ミカン? って奴と同罪な。あいつが退学になったらお前も退学だ文句あるか?」
「えー……」
「てめぇ、やろうと思えば止められただろ、ダチだったんだろ、ミカン」
「ミカさんです」
「悪ぃことするダチを止めねえ奴は同罪だろうが。
いじめは見てるだけの奴も同罪なのと同じだ」
ミコトの言い分は理不尽だが、筋は通っていた。
「そう言うわけだ、先生。ユエを解決に使ってくれ。お前も文句無いよな?」
「はいはい、ミカさんの減刑に手を尽くせばいいんでしょ」
はあ、とユエは仕方なさそうにそう答えた。
「“……ミコトは筋が通ってるんだね”」
先生は、そのように感じたことを口にした。
「まあ、昔剣道やってたからな。あんたに言ったっけ? まあどうでもいいか」
「“うーん、聞いたような”」
ミコトを保有していないユーザーへの配慮か、その辺は曖昧だった。
「うちの流派が掲げてたのが、心技体。道場の奥の掛け軸に書いてあんだ。俺も何度も書道で書かされたもんだ」
「“へえ、文武両道だったんだね”」
先生は剣道で書道までさせられるなんて聞いたことが無いので、驚いて見せた。
「だがあの女……姉弟子にこっそり教わったんだ。掛け軸の裏に書かれている言葉を」
「“掛け軸の裏に? なんだか格好いいね!!”」
先生はそんなロマンある仕掛けに、喜んでいる。
「“それで、なんて書いてあったの?”」
先生の問いに、ミコトは言った。
「――――破邪顕正」
そのたった一つの四字熟語が、ミコトの価値観の根底だった。
「“破邪顕正……悪い教えや誤った道を打ち破り、正しい道理を示すこと”」
その意味を呟く先生に、ああ、とミコトは頷いた。
「心を鍛え、技術を鍛え、身体を鍛えても、その使い方が間違っちゃいけねぇってことだ」
道場の掲げる理念の裏側には、そんな精神が隠れていた。
そしてそれは、表にして語るほどのことでもないと言うことだった。
「これでも、俺は地元じゃ神童でよ。そういった道理だけは間違えるなと言われてきた」
「“へえ、そうなんだ”」
先生は納得した。ただ、この時彼はミコトの言う“神童”の意味を理解できてはいなかったが。
「よく知らねぇが、アリウスの連中も道を誤っちまっただけなんだろ?
俺も中坊の頃はグレてたし、わかんなくもねぇ」
「“うん、そうだね”」
「あの時置いてかねぇで、根性叩き直してやればよかったな」
ミコトを襲ったアリウスの生徒は、生憎と撤収したのか取り逃がしてしまった。
彼女はそれを少し憂いていた。
「まあいいや、うちの流派は色々と面白い伝承とかあんだ、今度話してやるよ。開祖が悪魔を斬ったとかな」
「ミコト、そろそろ時間よ」
「ああ、聞き取り調査な。先生も来るか?」
「“そうだね、私も行くよ”」
先生も事情を聴くために、二人に同行した。
そして、エデン条約調印式当日。
当然ながら、ミコトは当事者ではなかった。
ゲヘナの政治に関わる立場ではないからだ。
だが、念のためにデスサイズの面々と付近で待機をしていた。
預言では、エデン条約は成らないと言っている。セイアも、ミカの前に姿を現したあの日以来、ミネと姿を隠している。
だから、襲撃が有るとすればこの日しかない、とミコトは思っていた。
彼女の予想は、最悪の形で的中することになった。
会場だった古聖堂は、ほんの一瞬で粉々に吹き飛び、爆発と閃光で見るも無惨な姿だった。
「……何があったか、分かる奴はいるか?」
ミコトは飛び出しそうになるのを抑え、そう仲間たちに問うた。
「今確認中です」
「私の眼が確かなら、多分ミサイルか何かが飛んできたように思うわ」
後方と連絡を取っているセキト。
ユエは空を見上げながらそう答えた。
「……ミサイルかよ、流石にそいつは反則だろ。
まあいい、――お前ら!! これは宣戦布告だ!!」
ミコトは混乱を収めるには、リーダーシップが重要だと知っていた。
動揺している不良達は、彼女を仰ぎ見る。
「アリウスはゲヘナとトリニティに戦争を吹っかけた!!
二つの学校だけじゃねえ、あそこには先生も居たッ!!」
ユエは演説中のミコトに向かって、スマホの画面に文字を映した。
『マコト議長の乗る飛行船墜落』と。
「あそこには俺のダチも多く居た。
こいつはもう、詫びだけじゃ済まねえ……。死の宣告だ」
ミコトの言葉に、一瞬彼女らは静寂になり、怒号が飛び交った。
「戦争だ、戦争だ!!」
「二年振りの大戦争だッ!!」
「うちらのダチに手えだしたこと、後悔させてやれ」
百人以上の待機組の生徒達が、叫び声をあげる。
「ユエ!! どうしたらいい!!」
ミコトの言葉に、ユエはすかさず答えた。
「私ならまず、味方を解放するわ。
トリニティ校内が危ないかもしれないわね」
「わかった、クロガの部隊はトリニティに向かえ、守りを固めろ!!」
「それ以外は、救助を進めた方が良さそうね」
「よし、俺らは突入してツルギ達を助けんぞ!!」
鬨の声と共に、ミコト達は突撃した。
「先生、大丈夫か!!」
崩壊した古聖堂内に突入したミコト達は、ツルギ達がアリウスの生徒と交戦しているのを見つけた。
「ユエ!!」
「ええ、先生、お気を確かに!! 今トランキライザーをッ!!」
ヒナタが介抱している先生のもとに、ユエが向かう。
「“ううッ”」
気付け薬を打たれて、先生は目を覚ました。
「大丈夫か、先生!!」
「“ミコト……”」
「なんだ!!」
「“みんなを、守って……”」
先生は朦朧とする意識の中で、そう口にした。
「……分かった、後は任せろ」
ミコトは目を閉じ、覚悟を決めた。
「俺の活躍を見れねぇのは、残念だがよ」
ミコトの周囲の時間が、遅くなる。
彼女は自分の精神の世界に、没頭する。
思い返す、初めて自分が道場に来た日を。
『あれが、武天様の生まれ変わり……』
『あんな幼子が、この世に何度も戦乱を齎したという……』
『あッ、近づいてはダメッ、申し訳ございません、お許しくださいッ』
雑音がする。
取るに足らない、声が。
『我が流派の開祖は、霧の悪魔を斬ったとされる』
いつの間にか周囲は静謐な道場で、ミコトはそこで正座をしていた。
奥には『心技体』の書道がされた掛け軸がある。
『悪魔は聖剣でしか斬ることは出来ない。
当時聖剣の勇者様は強かったが、奴らは多く、疲弊し膝を突いた』
目の前に、同じように正座した女性が現れる。
ミコトの七つ上の、姉弟子だった。
『そんな時に、我が流派の開祖たる武天神君様は現れた。
――君の前世だよ』
「俺は、そんな名前じゃねぇ」
『そうだね、
姉弟子は微笑み、初めて出会った時の会話を繰り返す。
『悪魔のいない今の時代、なぜ君が月天様の使いより遣わされたのかわからない。
悪魔が居ない以上、悪魔を斬る方法を継承できているかはわからない。
しかし、その心得は教えることは出来る』
彼女は、後ろの掛け軸を見る。
『悪魔を斬るのに、聖剣を持つ必要はない。
己の心に聖剣があれば、必ず悪魔を斬ることは出来る』
姉弟子、後の剣聖はそう言った。
『心技体を極め、破邪顕正を為す。どうか、それを忘れないでね?』
ミコトは目を開ける。
そこはもう、瓦礫の山だらけだった。
銃声がする。叫び声も。
「く、まるで手ごたえがない!!」
突如として現れた、亡霊のような存在にハスミ達は苦戦していた。
アリウスの生徒だけでなく、彼女達の存在は非常に邪魔だった。
「遅くなったな、ハスミ」
「ッ、遅いですよ、ミコト!!」
その声に、苦慮の表情がハスミから消えた。
「なあ、なんだあの変態ガスマスク集団は。
なんか幽霊っぽいし、半透明だし」
「……あー、私が知るわけないでしょう!!」
説明が面倒だったのか、それとも先達の名誉を守る為か、ハスミはそう叫んだ。
「まあいいや、あいつらは任せろ」
「え、ミコトッ、あなた丸腰で」
「幽霊倒すのに銃弾なんざ、ナンセンスだろ」
ミコトが前に出ると、彼女は何と無手だった。
しかし、彼女はまるで剣を持つように、剣道の中段の構えを取った。
「ミコトッ、遊んでないで――」
ハスミは、見えた。
ミコトがそこに持っている筈の無い、聖剣を。
ミコトが走る。亡霊のくせに銃弾を撃ってくる相手を、大上段から真っ二つに切り裂いた。
悲鳴が聞こえた。そして、霧散した。
機械的だった亡霊たちに、一瞬の動揺が走った。
「お、出来たわ」
「いや、出来たって、何をしたんです!?」
「おいおいハスミ。うちの流派の奥義を簡単に教えるわけないだろ」
ミコトが、聖剣を薙ぐ。
先の一撃は、固定観念に捕らわれていた。
聖剣の刃が伸びて、十体ほどまとめて斬り捨てた。
「面白ッ」
今度は右手で親指を立て人差し指を伸ばし、ピストルの形を作った。
「バン、バン!!」
亡霊たちが、不可視の弾丸によって撃ち抜かれ、消え去った。
「ど、どういうことだ、聖徒会の
「なに言ってんだ、てめえ」
混乱しているミサキに、ミコトは切っ先を突き付けた。
距離が離れている筈なのに、まるで喉元に刃物を押し付けられているような悪寒が走る。
「化けの皮が剥がれただけだろ、三下どもが」
「ハスミ、ここは私達が食い止める、お前たちは先生を」
ツルギの指示に、分かりました、とハスミは応じた。
「よう、ツルギ。まさかお前と共闘とはな」
「私もこんな日が来るとは思わなかった」
ミコトとツルギの周囲を、デスサイズの部隊が固め始める。
「先生、こっち!!」
「ヒナの奴、寝坊なんてらしくねぇじゃねえか」
ヒナが後方を切り開くのを見て、ミコトはそんなことを呟いた。
「ああそうだ、忘れてた。アリウスども」
ミコトはゆっくりと笑みを浮かべた。
いつもの好戦的な笑みではない、敵を見定めた死神の笑みだった。
「全員、裸で土下座しても許さねえから、覚悟しろよ」
ミコトは、キレていた。
それ以降、ストーリー上でミコトの出番は無かった。
画面外の奮闘をしていたわけだが、彼女の真の活躍はその後の章だった。
「よう、先生。アリウスにカチコミか? 俺も混ぜろや」
アツコを欠いたアリウススクワッドの面々を引き連れた先生の前に、ミコトは当然のように現れた。
――アリウス編へと続く。
ミコト、覚醒。
三章は駆け足で、次回の四章のアリウス編に至ります。
全快の読者の皆様の反応は良かったのですが、低評価がニ連続で来てしまいそれを見た時は食欲が失せてしまいましたww つらい
この悔しさをばねに、もっと皆さんに期待に応えられるように、頑張りますね!!
ではまた、次回!!