一話の
「ああ、その時〆たのはナギサどもの先代の生徒会長三人だったからな。
任期がギリギリで二度手間になっちまった」
という台詞と、四話の。
「我々は丁度、先代から政権を受け継いだばかりだった。」
という総長の台詞と矛盾があったので、彼女の台詞を。
「我々は丁度、次代への政権を移行する手続きの最中だった。
に変更いたします。どうか悪しからず。
「あの一件以来、トリニティは大きく変わりました」
ハスミは当番の手伝いも忘れて、先生へ語る言葉に熱が入っていた。
先生は彼女の話に割と絶句していた。
信頼できない語り手と言う言葉があるが、当人と他者との認識の違いをこれほどまでに実感したのは初めてだった。
「トリニティ自治区内へのゲヘナ生の流入は、混乱と治安の悪化を産みました」
勿論すべてのゲヘナ生が問題を起こしたわけではありませんでしたが、とハスミは付け加える。
「自治区内を我が物顔で歩く彼女らに危機感を抱いた人たちが居たのです」
「ゲヘナの生徒の跳梁跋扈を許すな!!」
「私達は負けてませんわ!!」
「今こそ報復を!!」
ご存じの通り、トリニティの生徒は膨大です。
あの噴水広間に居た生徒は一部に過ぎません。
だから伝聞だけで、あの女の恐ろしさを理解していない人たちが、義勇軍なんてものを結成しようとしていたのです。
……正直に言います、先生。
私は彼女達の意見に内心賛成していました。
勿論、私は正義実現委員会の一員として行動に移しては居ませんでしたが。
ただ生徒会の対応は一貫していました。
即ち、あの事は蒸し返すな、と。
あの女は本気でやる。絶対やる。必ずやる。
あの女を勘違いさせてはならない。あの災いを呼び覚ましてはならない。
それがティーパーティーの総意でした。
当時の我が部長、かの総長はやり手でした。
彼女は家柄、成績、地位、性格、その全てを兼ね備えていましたから。彼女がホストの時は多くの改革を成したと聞きます。
その彼女が一般生徒によるゲヘナの生徒への手出しを禁じ、有事の際は正義実現委員会への通報を徹底させたのです。
トリニティとゲヘナの境界に検問を敷き、我が自治区へ行く目的を聴取し、場合によっては追い返す対応もしました。
自治区内の見回りを自警団と合同で強化もした覚えもあります。
それで一応の安全が確保され、振り上げた拳を下げる生徒も居ました。
ただ、その対応を弱腰と判断した生徒も居たのです。
それが自称“義勇軍”の人達です。
ティーパーティーはそれらを反生徒会勢力として解散を呼びかけましたが、焼け石に水でした。
放っておけば勝手にゲヘナに攻め込みかねない。
外患は言うに及ばず、内憂が噴き出して悩みの種だったことでしょう。
ただ、彼女達の目論見は破綻しました。
どうしてそうなったと思います?
あの女ですよ。
自称義勇軍が校庭で演説してるところに、あの女が出くわしたのです。
私は謹慎中でしたので、たまたまそれを遠巻きに見ていました。
私も内心、当校は負けていない、と思っていましたから。
その時に、あの女が現われたのです。
「何だお前ら、納得いってなかったのか!! 実は俺もだ!!」
あの女は笑顔で義勇軍の集会にひょっこり顔を出したのです。
「正直不公平だと思ってたんだ!!
今度は俺らゲヘナが不利な状況で戦って、その上で勝つべきだと思ってたんだ!!
そうすりゃ、お互いに納得できるだろう!! 俺らがテッペンだって、心から認められるだろう!!
だから、だから──!!」
「全員を呼べよ」
「納得できない奴全員を、叩きのめしてやる。
お前達が心の底から俺が最強だって認めるまで、何度も何度も戦ってやるよ!!」
そして乱闘が始まりました。
結果? 言うまでもありませんよ。
先生、貴方は銃の撃ち方を知っていますか?
ああすみません、馬鹿にしたわけではなく、銃を手にしていることを見たことがありませんでしたので。
ええ、試射場で試し打ち位はしたことがある、と。
トリニティのカリキュラムでも、銃の撃ち方や、テストで的当ての命中率を測る項目があります。
生徒達の指揮をなさる先生は実感してることでしょうが、生徒達は銃を持ち撃つことが出来ますが、それだけです。
運転免許を持っていても、誰もが訓練も無くスタントマンさながらの運転ができないように。
自称義勇軍の方達は、銃が撃てるだけの素人集団でした。
そんな人たちが、百人単位で集まってもあの女に勝てるわけありません。
何の為に我々正義実現委員会が居ると思っているのですか。
その後、総長がやってきて、その場を収めました。
その時立っていたのは、あの女一人だけでした。
総長はしばらくあの女と話していると、突然彼女は私を手招きしました。
「はい、お呼びですか、総長!!」
ハッキリ言って、当時の私からすれば総長は雲の上の御方です。
敬礼をして背筋を伸ばして彼女の前に立つと。
「お前がハスミであったな? こいつが──」
総長が私などの名前を憶えてくれたことに感激する間もなく。
「勉強を教えてほしいそうだ」
「……は?」
私は、冷や水を掛けられる気分に陥りました。
私は自習室で、彼女にこう言いました。
「勉強なんて、ゲヘナでもできるでしょう?」
「はあ? ダチや舎弟の前で勉強なんてダサいだろ」
彼女がトリニティの校内に来た理由は、勉強の為でした。
義勇軍の人達も驚いたでしょう、普通自治区内の商店街ぐらいにまでにしか、ゲヘナの生徒は現れないので。
彼女はもう、うちの校内を自分の学校の校庭みたいに思ってるみたいでした。なんて不遜な!!
「……まあ私も謹慎中ですから、構いませんが」
「は? なんかやらかしたのか?」
「貴女の所為ですよ、貴女の!!
権限も無いのに貴女と戦う為に勝手に部隊を動かした罰です!!」
「俺がナシつけてやろうか?」
「結構です!! 迷惑だからやめてください!!」
私に言い渡された謹慎は一週間程度の軽い物でした。
ただ、彼女が攻めて来なかったら一か月は硬かったでしょう。
しかし、この時私は思ったのです。
この猛獣を教育してやろう、と。
この暴力の塊を正しい方向に導けば、その被害も減るだろう、と。
……え、真面目で優しい? や、やめてください、先生!!
と、とにかく、私は彼女の得意不得意を洗い出し、不得意分野を教えることにしました。
悔しいですが、彼女は勉学でも天才的でした。
いえ、それで片付けるのは、この分野においてだけ彼女に失礼ですね。
彼女は、恐ろしいほど勤勉でした。
まず国語の勉強をしたのですが、彼女は暗記できる部分においては全く問題無し。
ただ、文章問題で登場人物の心情などを察するような問題には疎かったのです。
「なあ、なんでこいつは『道の為には全てを犠牲にするべき』とか言っておきながら、諦めちまうんだ?」
「前後の文章から読み取るのです。彼女の『精神的に向上心の無いのは愚か者だ』という言葉に、打算と利己的な思惑があったのです。
相手は自主的に恋を諦めて欲しかったのですよ」
「なんでそんなことを言うんだ、殴り合ってどっちが先に告白するか決めればいいだろ」
「こ、このゲヘナ頭……!!」
……ええ、大変でした。大変でしたとも!!
「つまり、だ。強い人間になろうとしたが、自分の弱さに耐えきれなくなって自ら命を絶った、と」
「そうなりますね」
「意味わかんねー、こいつはなんで努力しなかったんだ?
身体を鍛えるとか、他の相手と話して何でもいいから自信を付ければよかったじゃねぇか」
「そんな身も蓋も無いことを……」
「まあ、好きな相手を奪う度胸がなかったってことだよな」
「概ね間違いではないでしょうが……」
名著の内容に、そこまで言わなくても、と私は思いました。
「俺は強くなるために努力を惜しまねぇぞ、勉強だってそうだ」
「強くなることと勉強に何の関係が……」
「だってほら、俺が最強でも、あいつ馬鹿だよなって言われるのは俺が納得できねぇって話だ」
そうですか、と私は思考を放棄してそう返しました。
この向上心の塊に、何を言っても無駄だと思い至ったのです。
それでも私は諦めませんでした。
「いいですか、ミコトさん。大事な話をします」
「なんだ、説教か?」
「そうです。説教です。ですが勉強を教えてるのですから聞いてください」
彼女は意外と律儀なので、言ってみろ、と聞く姿勢に成りました。
「貴女の向上心は素直に羨ましく思います。
ですが、その力で貴方は何を成すのですか?」
「言ってんだろ、キヴォトス最強よ」
「それを目指すこと自体は否定しませんよ。
ですが、強い力にはそれに伴う責任があるのです」
私は滾々と話し始めました。
「キヴォトス最強になって、その力を何に使うのですか?」
「別に何も」
「ぐ、ぐぐッ、何も用途が無いと言うのなら、正義の為に使うべきです」
そう、正義です。
我が委員会が掲げるモノです。
「正義。正義ねえ。
別に否定するつもりじゃねえんだが、じゃあお前らの正義ってなんだ?」
これぐらいの返答は当然予測していました。
「所属する学校や生徒の為になることです。
正義実現委員会は生徒会直属の武力組織。その意向に従うことが、学校の正義に沿うことになるでしょう」
「でもお前らの学校って、時期によって生徒会長のホストが変わるじゃねえか。
それってコロコロと正義の内容が変わるってことじゃねえの?」
正直、イラっとしました。ああ言えばこう言う、と!!
「そうではありません。
武力を持つ者が政治的判断をしてはならないと言うことです。
誰もが自分の判断で武力を行使したら、それはもう秩序を維持できません。おや、まるでどこかの学校みたいですね?」
「ちげえねえな!!」
……なんでこの時私達、お互いに笑ってるんでしょう。仲良しですか!!
「とにかく、上層部の意向が学校の為になると信じて活動する、それもまた正義なのです」
「じゃあ聞くがよ」
彼女は小首を傾げてこう言ってきたのです。
「俺はこの前、ゲヘナって学校の為にトリニティにカチ込んだぞ。それって正義じゃねえのか?」
「……その理由は?」
「学校の箔を付ける為だ。格が上がれば、そりゃあ学校の利益になるんじゃねえの?」
この女、何も考えてないくせにこんな小賢しいことを言ったのです!!
「それに、俺が勝ったことで将来的な争いを防げたって考えられるんじゃねえのか?」
「それは詭弁です!!」
「きべんってなんだ?」
「ただの言いくるめだといいたいのです」
「そうなのか?」
「事実そうなってるではないですか」
私は校庭で活動していた自称義勇軍の人達を例に出しました。
「貴女が余計なことをしなければ、彼女達が馬鹿な真似をしなくてもよかったのです。それは事実ではありませんか」
「確かに、ハスミが謹慎にならなかったのも事実だな」
私は一度この女を張っ倒したい激情に駆られながらも、こう言ったのです。
「こうして納得できないことが積み重なると、更なる争いに発展するのです。
貴女はただ争いを助長しただけなのですよ。
そうして生じるのが責任の所在です。誰が悪いのか、その償いを誰がするのか。
あなたは先日の戦いの責任を取りましたか?」
「よくわからねえけど、そう言うのって政治の責任じゃないのか? そう言うのって生徒会が責任を取るもんじゃねえの?」
「貴女が始めた物語でしょう!?」
「でもマコトパイセンもノリノリだったぞ。じゃああいつにも責任があるんじゃね? ゲヘナのヘッドだし」
当然あるでしょう、と私はそれに関しては同意しました。
「私が謹慎をしているのも同じことです。
私は自分の信じる正義の為に戦い、敗北しました。その責任を取っているのです」
「……それって、おかしくねえか?」
「何がです?」
「お前が、お前の判断で武力を行使する、それって正義じゃねーんじゃないのか?」
「……それは」
「わかってる、状況判断だろ?
現場の判断は最優先って奴だよな」
……なんで私、あの女に助け舟を出されているんでしょう。
いえ、私の謹慎が名目上に過ぎないのも、その辺りを汲んでくれているからなのは私も承知していましたが。
「ダチの為に戦うのは正義だとかそれ以前の話だもんな」
……私は、もうこの時点で馬鹿馬鹿しくなっていました。
「貴女はそれを理解できる理性を持ちながら、なぜ不良に甘んじているんですか?
貴女なら優等生として、正道を歩めるはずでしょう?」
私は思わず、そんな問いを投げかけました。
「逆に聞くけどよ、優等生になってお利口なまま卒業して、何の得が有るんだ?」
「は? それは勿論、将来の為ですよ」
「それだよ、それ」
彼女はうんざりしたように、こう言ったのです。
「その将来ってのに、俺は魅力を感じねえのよ。
卒業してキヴォトスから出て行って、大学ってところに行ったり、カイザーみたいな大企業に就職したりして、頑張って働いて昇進して……苦労を沢山背負い込むのかよ?」
それを、下らねえ、と彼女は切って捨てたのです。
「俺の一番嫌いな言葉を教えてやる。責任、だ」
ねえ先生、この女をぶん殴らなかった私は偉いですよね? ねえ!?
「俺は何も背負わず、何も負わず、誰にも負けずに生きる。最後には道端にぽっくりくたばっても、後悔はねぇよ」
要するに、彼女は根っからの社会不適合者だったのです。
社会に貢献するという生き方が、出来ない人種だったのです。
私は幸せの形は人それぞれだと言うのは理解しています。
でも、流石にそれはあんまりだと思いました。
「それは……もう人間の生き方ではありません。獣の生き方ですよ」
「なあハスミ、なんで獣の生き方が、人間サマより下だって思うんだ?」
私はもう、絶句する以外ありませんでした。
「俺達人間が一番繁栄してるように見えて、実際はこの世は虫が一番多いんだろ?
じゃあ俺たちは虫けら以下じゃねえか。獣の生き方で何が悪いんだ。お前らも、虫の生き方を真似すりゃいいじゃねえか」
私は悟ったのです。この女の考えを曲げることは出来ない、と。
「なあハスミ。なんで俺のダチや舎弟どもは、不良の生き方を選んだと思う?」
「……享楽の生き方を選んだからではないですか?」
「違うな。違うんだよ」
あの女は、こう言ったのです。
「なにも、無いんだ。あいつらには。なにも。からっぽなんだ」
「目先の楽な道を選んだだけでしょう?」
「それはある意味正解だよな。
あいつらには何もない。自分に誇れるものが無いんだ。
だから努力しなくても我慢しなくてもなれる、不良って悪の道に進んだんだよ。
悪党ってのは、誰でも簡単になれる特別だからな」
でもだからこそ、と彼女は言うのです。
「その上で悪の道を突っぱねる。真の不良の生き方がそれよ。
誰からも奪わず、社会に迎合せず、ツッパるのよ。
そもそもだがよ、俺が知る限り不良なんて楽しいもんじゃねえよ。
真っ当な道を行く奴らを見て、みじめな気分になったり、嫌な思いをする奴らばかりだ」
私は理解したのです。
彼女は獣です。理性ある、獣であると。
「だがよ、俺の舎弟になればそんな思いからは解放されんだ。
なぜなら俺っていう最強に憧れるからだ。
そいつらは俺の背中に向かって歩くようになる。
俺の進む極道が、あいつらの歩く道になる」
「彼女は生来の無頼漢。先生もシャーレの部員として扱うのならご注意を」
ハスミは最後に、そのように先生に警告した。
「“……極道、か。今はヤクザのことを指す言葉だけど、本来の意味は弱きを助け強きを挫く者への言葉だよね”」
先生は、こう結論付けた。
「“彼女の最強って、弱い者に手を差し伸べることも含まれているんだね”」
「彼女の知識の偏りはどうなんでしょうね、全く信じられません」
「“ミコトとの出会いは、ハスミにとっても有意義なものだったんだね”」
「一体、どこがですか」
先生の言葉に、ハスミは不満げな態度を示した。
「“多くの価値観に触れることは、人生の豊かさに通じるからね。今も交流が続いているのも、その証拠だと思うよ”」
「もはや腐れ縁ですよ」
ハスミは溜め息を一つ漏らした。
「その時は最後に、私は言ってやったのです。
ゲヘナ生の流入でトラブルが多発してる、と。
彼女は自分が対処すると息巻いてましたが、それを責任と言うのです、と」
ふふふ、とハスミは笑みをこぼす。
「その時の表情は何度思い返しても、ふふふ」
「“本当に、いい関係なんだね”」
「だから、違いますって」
まるで正反対の二人が仲良くしているのを、先生は微笑ましく思っていると。
「ただ、これだけなら良かったのです。まだ」
「“まだ?”」
「ミコトさんがシャーレに入部したのなら、彼女もまた入部したのでしょう?」
「彼女? ……ああ」
先生はハスミの言う彼女が誰に当たるのか、すぐに思い当たった。
「そうです、あの嵐のような女の手綱を握る、台風の目。
このような侮蔑的な表現は好みませんが、人呼んで、──ゲヘナの魔女」
「──“月見 ユエ”」
先生はシャーレの名簿の新しい名前を指でなぞる。
その名に、ハスミは心底忌々しそうな表情を浮かべる。
彼女こそ、ゲヘナ学園園芸部の副部長。
園芸部の創設をミコトに提案した彼女の参謀であり、ストッパーにして起爆剤。
常にミコトを焚きつける役割を担う、狂言回し。
ミコトとはまた別の意味で、ゲヘナの校風を体現する生徒であった。
どんな部活にも大抵二人以上のネームドがいるので、主人公の相棒枠のキャラを追加することに思い当たりました。
これ以上、ネームドのオリキャラを増やすことはないと断言します。
あと、大前提として、これだけは言っておきます。
主人公の強さは、あくまでブルアカの世界観を逸脱しない範囲としています。
本作の趣旨は、ヒナちゃんクラスの実力者がなんのしがらみも無く大暴れするというコンセプトになっています。
主人公一人で最強格全員を相手取って勝てるみたいな、俺ツエ―物ではありません。
それだけはご留意お願いします。
それでは、次回もお楽しみくだされば幸いです。