ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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四章に突入、しようかと思ったのですが。
頭の中のユエちゃんが、もっと暴れたいって言うので、なぜ後半の戦闘でミコトの出番がなかったのか、描写します。

あと、虐待の経験がある方は、今回は読まない方がいいかもしれません。
では本編どうぞ。


ブルアカVol3「補習授業部編」その7

 

 

 

 :09 パペットマスター

 

 

 

「あ、はははははは!!」

 

 窮地を脱した先生達の前回のお話から、物語は一旦回想に移る。

 

 補習授業部の合宿所だったアリウスの生徒の暫定監獄。

 その中で、ユエは大笑いをしていた。

 

「な、なんて、恐ろしいことを……」

 

 アリウスへの尋問、と称した実験の監査に来ていたマリーは、怯えていた。

 

「こッ、こんなことが許されて良い訳がありません!!」

 

 堪らず、マリーに同行していたヒナタが叫んだ。

 

「なぜですか?」

 

 ユエが振り返る。それだけで、二人は後退った。

 

「これは戦争ですよ。戦争に勝つためなら手段を択ばない、とはトリニティの言葉であったはずでは?」

 

 尋問の為に連れて来られたアリウスの指揮官は、部屋の隅で膝を抱えてしくしくと泣いている。

 

「もう、もう許してください、ユエ様ッ」

 

 頑なに口を割ろうとしていなかった彼女が、赦しを乞うている。

 それ程までにユエの尋問は残虐で、酷薄で、容赦がなかった。

 

「先生を呼んでください。今なら彼女も全てを語るでしょう」

 

 ユエの、魔女の笑い声が響く。

 

 やがて、先生はやってきた。

 

 

「“うぅ、おえぇ”」

 

 ユエの尋問の“成果”を見た先生は、すぐに廊下に備え付けられている水道に駆けだし、胃の中を吐き出した。

 

「先生、嘔吐などしている場合ではありませんよ」

 

 その後ろから、開いたドアの奥からユエがそう言った。

 

「これが、アリウスの生徒の現実なのです」

 

 先生は、恨めしそうに、或いは悲しさと悔しさがないまぜになった表情で、ユエを見やった。

 

「ほら、あなた達。先生の日頃の苦労を労って差し上げなさい」

 

 そう言うと、ユエの背後から二人のアリウスの生徒が現れる。

 拘束などされていない。だと言うのに、ユエに従順だった。

 

「せ、先生ッ、こ、この間は、申し訳ございませんでした……」

「どう、か……私達で、日ごろの苦労を癒してください……」

 

 二人の生徒は、怯え切っていた。

 表情は引きつり、無理やり笑顔を浮かべ、犬のように媚びへつらっている。

 

「“ユエ、こんなことをしちゃダメだよ!!”」

「先生。目を逸らしてはいけません」

 

 ユエは、真剣な表情で彼を見ていた。

 

「あなたは、先生でしょう? こんな現実、これから生きていれば幾らでも見る筈です。違いますか?」

「“ッ!?”」

「目を逸らすな。あなたは、大人なんでしょう?」

 

 先生は、ユエの言葉に覚悟を決めた。

 

「“もういい、もう良いんだよ、二人共……”」

 

 先生はただ優しく、二人を抱きしめた。

 抱きしめられた二人は、ただ困惑していた。

 

 それを、二人は優しさだと理解できないのだ。

 だから先生は、二人の代わりに涙を流した。

 

「“ユエ、お願いだよ。もうこれ以上、()()()は使わないで”」

「……それは、アリウス側次第では?」

「“それでも、お願いだよ……”」

 

「……善処します」

 

 憐れむように、ユエはそう答えた。

 

 

 

 ヒナが先頭に立ち、無数の亡霊たちを薙ぎ払う。

 街中の敗走戦は、孤立無援の状態だった。

 

「マズいですねぇ、混戦すぎてハスミさんとはぐれてしまいました」

 

 後方の盾としてバックパックを背負ったユエがそう呟いた。

 彼女は荷物と一緒に先生に肩を貸しながら走っていた。

 

「ヒナさん、大丈夫ですか?」

「……」

「おや、返事がありませんね」

「“ヒナッ!!”」

 

 気づけば、銃声が止まっている。

 ミサイルのダメージに加え、連戦に加えた連戦によって、彼女は地に伏していた。

 

「おやおやヒナさん。その程度で倒れていては、ミコトが満足できませんよ」

「――誰かと思えば、貴様かユエ」

「おっと、その声は」

 

 ユエはにっこりと笑顔で返した。

 

「サオリさんではありませんか」

 

 先生が顔を上げて、目の前の四人の生徒を見やる。

 

「“君たちが、アリウススクワッド?”」

「ええ、その通りですよ」

「な、なんであなたが答えるんですか……」

 

 先生の問いに、頷き返すユエ。

 そんな彼女にツッコミを入れるヒヨリだった。

 

「お久しぶりですね、こうして旧交を温めに来てくださったとは、感涙の極みです」

「黙れ、よくも我々を騙していたな」

「騙す?」

「まさか貴様が、ゲヘナの生徒だったとは」

「ああ、そのことですか」

 

 合点がいった、と言わんばかりに頷いた。

 

「後でネタバラシをしたら面白いかと思いまして。

 ええ、私はミカさんのしがない付き人などではありませんでした」

「貴様の所為で桐藤ナギサを仕留めそこなった」

「セイアさんを襲撃するのも物凄く手間取ったでしょう?

 彼女の警備の手配は私がしていたんです♪」

「ああ、本当に余計な事ばかりしてくれた」

「余計なことをしているのはどちらでしょうか」

 

 ユエは周囲を見渡す。

 アリウスの攻撃を受け、破壊された街並みがあった。

 

「貴女方は、ミコトの逆鱗に触れた」

複製(ミメシス)は無限に増殖する。幾らゲヘナの死神でも、永遠に戦うことは出来ない」

「そうだと良いですねぇ」

「もういい加減、貴様との会話は飽きた」

 

 サオリは愛銃をユエに向け、発砲した。

 

「ぎゃん!?」

 

 ユエの立ち絵はあっさりと倒れた。

 

「“ユエ!!”」

「所詮は口だけだと言うことだ」

 

 サオリは吐き捨てるようにそう言った。

 

「さて、ようやくお前ひとりになったな、シャーレの先生」

 

 

 サオリはアリウスの目的を語った。

 アリウススクワッドが代わりにエデン条約に調印し、ETOとしての正当性を得ること。

 それらを、第一回の公会議の際に得る筈だった当然の権利だと語る。

 

 トリニティとゲヘナを、そうして排除するのだと。

 

 そうして、先生に銃口が向けられた。

 

 銃声が鳴る。

 力尽きたと思われていたヒナが叫び声をあげて、先生を銃弾から守る盾になった。

 その甲斐あって、初弾以外は彼女が身代わりになった。

 

 先生の身体から発した返り血が、ヒナの埃だらけの髪の毛に飛ぶ。

 

 

「――シャーレの先生を発見。負傷を確認、要救助者を救助後撤退を」

「了解!!」

 

 その時だった!!

 

 ビルの合間から、映画のターザンのようにロープで大ジャンプし、未知の生徒達が舞い降りる。

 

「FOX小隊、只今現着した。

 これよりエデン条約に支障をきたす勢力を排除する!!」

「あなた達は、SRT!?」

 

 ヒナは、まさかの助太刀に目を見張る。

 それと同時に、救急車がドリフトをかましながら登場する。

 

「ヒナさん、早くこちらへ!!」

「ええッ」

 

 応戦する彼女達の助力を受け、ヒナはセナと一緒に先生を救急車に運び入れた。

 

「痛たた……頭を撃つなんて酷いじゃありませんか。私の顔に傷を付けて良いのはミコトだけなのに」

「ユエさん!!」

「私は後から合流します、先生を優先してください」

「分かりました!!」

 

 バタン、とセナは救急車のドアを閉め、億劫そうに起き上がるユエを置いて発進した。

 

「おやおや、アリウススクワッドVSFOX小隊ですと?

 まさかこんな好カードが実現しているとは!!」

「ゲヘナの魔女ッ、そこにいると邪魔だ!!」

 

 ユエが暢気なことを言っていると、ユキノが叫んだ。

 

「ああ、すみません。貴女方は先生の護衛をお願いします。ここは私が食い止めますので」

「それが、先ほどの死んだ振りの言い訳?」

 

 ニコの鋭い指摘に、曖昧に笑うユエ。

 

「実は、対アリウス用の決戦兵器を用意していたのです。

 余り外聞の良いものではないので、一人でやります。

 それに、ここは私を置いて先に行け……人生で一度でいいから言ってみたいではありませんか?」

「……まあいい、ここで交戦する意味は少ない。

 ニコ、先生の乗った救急車を護衛しながら戦線を下げるぞ」

「了解、ユキノ」

 

 FOX小隊の二人は、そう言ってさっさと後退していった。

 

「……あれ、一緒に逃げなかったんですか?」

 

 一人残ったユエに、ヒヨリがそう言った。

 

「対アリウス用の決戦兵器だって? そんなものがあったのならとっくに使っているでしょ」

 

 ミサキが、ユエの行動を無謀と断じてそう吐き捨てた。

 

「サオリさん。私はアリウスにミカさんと一緒に潜入することによって、あなた達の弱点を探していたんです」

「……ほう?」

「これが、あなたの弱点です」

 

 ユエはバックパックから、凄まじくしなる鞭を取り出し、目にも止まらぬ速さで振りぬいた。

 

「知っていますか? 数ある近接武器で、鞭は最強候補にも挙がる武器なんですよ」

 

 鞭の先が、アツコの首に巻き付き、ユエはそれを引っ張り上げた。

 

「姫!!」

 

 まさに、一本釣り。

 ユエの手元にアツコが引きずり出された。

 

「あッ、姫ちゃん!! 返してください!!」

「ええ、どうぞ」

 

 ユエはバックパックから注射器を打ち込んで、アツコをスクワッド側に突き返した。

 この間、十秒にも満たない早業だった。

 

 解放されたアツコが、鞭で首を圧迫された為か咳き込んでいる。

 

「き、貴様、姫に何を打った!!」

「致死性の猛毒ですが?」

「ふ、ふざけるな!!」

「おや、良いのですか、私を撃って」

 

 再び銃口を向けるサオリに、ユエはにやりと笑ってみせた。

 

「その毒薬は私にしか調合が出来ません。

 逆を言えば、解毒薬は私だけしか持っていないのです」

 

 ユエはこれ見よがしに、透明な小瓶を見せつけた。

 

「その毒薬は服毒して三時間で発熱、五時間で痙攣、脱水症状を引き起こし、全身に斑点が浮かび上がり、最終的には顔が誰だか分からなくなるほど腫れて死にます」

「なッ、あッ」

 

 アツコの首元には、もう既に紫色の毒々しい斑点が浮かび上がっていた。

 

「ど、どうします、リーダー!!」

「その解毒剤を寄越せ!!」

「おやおや、先ほどまでの御高説を垂れていた態度はどうしたのでしょうね」

 

 くすくす、とユエは彼女らを嘲笑っている。

 

「いつもの鳴き声を言えば良いではありませんか。

 ばにたすばにたす。この世は虚しいでしたっけ?

 是非とも味わってください。最愛の友人を失う、虚無感を」

「こ、このクソ女!!」

「もしかして、ですが」

 

 解毒剤の小瓶を弄びながら、惚けたようにユエはミサキに返した。

 

「あなた達が起こした今度のテロで、あなた達と同じように苦しむ人たちが、居なかったとでも?」

「ッ!!」

「なにが正当な権利ですか、当時を生きていたわけでもないくせに。

 つい最近まで内紛で自滅しようとしていたくせに。

 貴女方の不幸は、向上心を求めて自治区を出て、猜疑心を捨てて救いの手を受け入れなかった、そんな怠慢な祖先をもっただけのこと。

 事実、アズサさんはトリニティという鳥籠まで羽ばたいた」

 

 ユエは、彼女達を憐れんでいた。

 

「本当に、勉強の大切さが身に沁みます。

 無知蒙昧な愚か者は、こんな風に最後まで骨までしゃぶりつくされて捨てられるんですねぇ」

「黙れッ、ゲヘナの貴様に何がわかる!!」

「ゲヘナの生徒なんて見たことなんてなかったくせに、何がわかるのですか?」

 

 ユエは肩を竦める。

 

「受け売りの憎悪。なんて浅くちっぽけで狭い了見なのでしょう。

 知っていますか? 批判とは娯楽なのですよ。

 憎悪と言う名の批判ぐらいしかすることのない、地下墓地生活の惨めさは想像を絶しますね」

 

 ところで、とユエは話題を変えた。

 

「服毒後から八時間経過後は、幾ら解毒剤を投与しても無意味ですよ」

 

 彼女は、選択を迫った。

 

「……な、何をすればいい」

「サオリッ!!」

「り、リーダー!!」

 

 アツコの呼吸が荒い。

 治療する設備も知識も、彼女達には無い。

 

 ユエの言葉がたとえ嘘でも、本当だったときの可能性が捨てきれない。

 

 サオリは、折れるしかないのだ。

 

「わ、私に、何をしろと言うんだッ」

「女王アリを裏切れ」

 

 サオリは、喉が急速に乾くのを感じた。

 

「それはッ、できない……」

「それが答えだそうですよ、アツコさん♪」

 

 ユエは、解毒剤を持つ手を大きく振りかぶった。

 

「ま、待てッ、時間をくれ!!」

「…………三分だけ待ってあげます」

 

 これも言ってみたかったんですよ、とユエは言った。

 

 しかし、答えは出ない。出る筈もない。

 

「わかりました。ではこうしましょう」

 

 ユエは、サオリの腹部を指差した。

 

「先ほど先生を撃った、同じ場所を撃ちなさい。私も人殺しはしたくないので、それで手を打ちます」

「……わかった」

 

 所詮、これはユエにとって時間稼ぎにして意趣返し。

 別にどうでも良いのだ。

 

「ミサキ、お前がやってくれ」

「だけど、サオリッ。これで終わりな訳がッ」

「頼む……」

 

 ミサキは家族の懇願に、それ以上何も言えなかった。

 サオリの銃を突き付け、引き金を引いた。

 

「がはッ、はあ、はあ、これで、いいか……」

「ええどうぞ。はい」

 

 ユエはサオリの自傷を見届け、解毒剤を投げ渡した。

 

「偽物ではありません、本物の解毒剤です。早く飲ませてあげてください」

「すまない、アツコ」

 

 サオリはすぐに小瓶を開けて、中身をアツコに飲ませた。

 

 すぐに効果は現れた。

 荒かった呼吸は落ち着き、首筋の斑点は増加を止めた。

 

 それは毒薬の効能は本物で、また解毒剤も本物であった事実を如実に示していた。

 

「それじゃあ、私は帰りますね♪」

「よ、よくも姫に毒を!!」

「おやおや、また先ほどの威勢が戻りましたね」

「貴様だけは許さん!!」

「あはははッ」

 

 ユエは可笑しくて、可笑しくて、笑い出した。

 

「そんなに私達が憐れかッ、愚かで惨めか!!」

「その通りですねッ」

「姫に手を出した罪は重いぞッ」

「それはおかしいですね、彼女を連れ出したのは貴女の筈では?」

 

 その通りだった。

 サオリは自分の眼に届くところに置くために、アツコを自分の部隊に置いてある。

 

「なんで、そのことを」

「あ、リーダー!!」

 

 その時である。

 周囲にアリウスの生徒が大勢現れだした。

 

「トリニティに囚われた仲間を救出するのは成功したんだ」

 

 ミサキがホッと息を吐いた。

 

「おやおや、皆さんお揃いで。

 もしかして、私は帰っちゃダメだっていう感じですか?」

「も、もしかしなくてもその通りです」

 

 ヒヨリの言葉に、おやおや、とユエは肩を竦めた。

 

「これは善意からの忠告ですが……素直に帰らせた方が、後悔しないで済みますよ」

「もう、油断しない」

 

 ユエの鞭捌きに警戒しながら、ミサキはロケットランチャーを構えた。

 

「わかりました、これは先生からもなるべく使うなと言われていたのですが……しょうがないですねぇ」

 

 ユエは邪悪な笑みを浮かべて、そう言った。

 

「実は、対アリウス用決戦兵器は実在するんですよ♪」

「まさか、だからこうして一人囮になって――」

「ハッタリだ、ミサキ。さっきお前がそう言っただろう」

 

 サオリはユエの発言を戯言だと切って捨てた。

 

「もう惑わされない、この魔女がッ」

「わかりました。警告はしましたよ」

 

 再三に渡る警告を無視され、ユエはウキウキとしていた。

 

「どのような兵器かは知らないが、使わせなければいいだけ――」

「――サオリ」

 

 ユエに銃口を向けたサオリの身体が、固まった。

 

「誰に銃口を向けているのですか?」

 

 サオリの額に、脂汗が浮かび、流れ落ちる。

 

「ひ、ひぃ」

「あ、あッ」

 

 ヒヨリが震え、ミサキが過呼吸を起こす。

 

「ただの声マネでこれですか」

 

 ユエは口元を覆う黒いマスクを付けた。それはガスマスクのように、変声機がついていた。

 

「サオリ。私が誰か言いなさい」

「ま、マダムの、こえッ」

 

 そう、それはアリウスの支配者の声を完全に再現していた。

 そしてユエは、懐から小瓶を取り出し、周囲に巻いた。

 

 それは、マダム――ベアトリーチェの愛用している香水だった。

 

「そうです。私は貴女達の支配者です」

 

 何度も。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!

 

 彼女達を打ちのめしてきた者の声と、匂い。

 

「ミサキ」

「は、はいぃッ!!」

「サオリを殴りなさい」

 

 ミサキは言われるがままに、サオリを殴り出した。

 

「ヒヨリ」

「ひぃッ!!」

「うーん、そうですねぇ、スクワットでも始めなさい」

「な、なんでですかぁ」

 

 ヒヨリはその場で、スクワットを始めた。

 

「これが本当のアリウススクワット、なんてね」

 

 ユエの嘲笑。誰も、逆らえなかった。

 

 頭では分かっている。

 違うとは知っている。

 

 だが、どうしようもなかった。

 幼少の頃から虐待され、叩き込まれ、そうやって育ってきた。

 

 これは魔法でもなんでもない。科学的に計算された、洗脳の逆利用だった。

 ベアトリーチェの顔を知る者は少ない。

 直接会える生徒は限られているのに、声だけで、匂いだけでこの体たらく。

 

「ごめん、ごめんッ、サオリ」

「ミサキッ」

 

 滂沱の涙を流しながら、ミサキはサオリを殴り続けていた。

 

「お前達、同士討ちをしなさい」

「はい、マダム!!」

「お前達はお互いを口汚く罵り合いなさい」

「わかりました、マダム!!」

「お前達は……適当に殴り合いでもしていなさい」

「は、はい、マダムッ」

 

 悪夢だった。

 

 アリウスの生徒たちが、お互いに無秩序に争い、殴り合い、罵り合っている。

 

「あ、あ、ああッ」

 

 絶望が、そこにあった。

 

「これでわかったでしょう?」

 

 マダムじゃない女が、マダムの声で、マダムの仕草で、マダムの匂いで。

 

「お前達はシロアリに、虫けらに過ぎないと」

 

 あはははははははは、と魔女の哄笑が周囲に響く。

 

「サオリ、まさかあなたが、この私にほんのちょっとでも優位に立てるとでも思っていたのですか?」

 

 ミサキにマウントポジションで殴られ続けるサオリの前にしゃがみこみ、ユエは惨めな彼女を見下していた。

 

「お、おぼって、まぜん……」

「私のしていることが理不尽だと思いますか?」

「おぼいま、ぜん」

「私はお前たちの支配者がしていることを口にしているだけですよ。私は何もしていない」

 

 無知で憐れな少女に、教育してあげているかのような口調で、ユエは言った。

 

「ただそれを、アズサさんだけが気づいた。

 教育の光を知った。お前達は受け売りの憎悪をなぞるだけの、働きアリに甘んじた。ならば、脳みそは要りませんね?」

「おゆるじを、おゆるじをッ」

「ミサキ、いつまでそうしているつもりですか?」

「すみません、すみません!!」

 

 邪悪な洗脳を、逆利用している魔女は鼻で笑った。

 

「お灸はこの程度で十分でしょう。お説教は先生の領分ですし」

 

 ああ、とそこでユエは先生の存在を思い出した。

 

「私は先生が心配なので、これで帰ります。

 勿論、文句は無いですよね?」

「はい、マダムの仰せの通りにッ」

「では残りの任務、どうぞ頑張ってください」

 

 ユエは悠々と、それ以上追撃することなどなく本当に帰って行った。

 まるで、自分達などいつでもどうにでもできると言うように。

 

 いや、事実そうなのだ。

 

「こ、このことを、マダムに知られたら、捨てられる……」

 

 家族の血でまみれた手のひらを見て、ミサキはそう呟いた。

 

 彼女にとって、アリウスの生徒はただの使い潰しのできる兵器。

 電波の混線で役に立たなくなると知れば、そんな不安定な兵器を誰が使うと言うのか。

 

「で、でも、もうそれって、遅くないですか……?」

 

 ユエはきっちりと、アリウスの弱点を見つけ出した。

 こうしてきっちりと成果も出した。

 

 ようやくスクワットを終えられたヒヨリの言う通りだった。

 次、ユエに会ったら終わり。

 彼女達はそれに怯えながらこの任務を、いや、一生を生きなければならない。

 

 そんな人形の烙印を、彼女に押されたのだ。

 

 そんな屈辱と恐怖の中に、彼女は現れた。

 

「サオリ、みんな……」

 

 アズサは見た。

 地面に倒れているアツコ、汗だくで疲弊しているヒヨリ、顔中血まみれのサオリに、手が血まみれのミサキ。

 

 それを見て、彼女は決意した。

 

「私が、終わらせてみせる」

 

 かつての家族と、戦う決意を。

 

 

 

 

 





ミコトとは別の意味で大打撃を与えられるユエちゃんなんなの。
仕事中に、急に天啓が降って来て、書け♪って言われた気がします。よく言われることですが、書いているとキャラクターが勝手に動くって言うのは、長く物書きをしてますが本当にあるんですよねぇ。
これで低評価食らってもユエちゃんの所為ですからね!!

三章の描写はこれまでにしますが、この後の展開でアリスクの抵抗がかなり減ったのは間違いないでしょう。

ではまた、次回。今度こそ、ミコト無双の始まりだよー!!
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