ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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アリウス編、二話目です!!
更新再開は前話からになります!! ご注意を!!



ブルアカVol3「アリウス編」その2

 

 

 

 03:盤上のお姫様

 

 

 

 先生とナギサがミカの今後や聴聞会について話しているのを他所に、ミカが囚われている檻の前にユエはやって来ていた。

 

「ミカさん、お昼のお弁当ですよ。私の手作りです♪」

 

 そう言って、鉄格子ごしにユエはお弁当を檻の中に置いた。

 

「えー、また? いい加減、あなたの健康に良すぎるお惣菜に嫌気がさしてきたところなんだけど」

「好き嫌いはいけませんよ、栄養バランスはしっかり考えていますから」

 

 ユエが持参したチューナーレステレビでネット配信を見ていたミカは、視聴を切り上げて渋々お弁当を受け取った。

 

「うわ、やっぱり緑一色……」

「若いうちから美容と健康に気を遣うべきですよ。

 だと言うのに、三食ロールケーキやら、殺鼠剤入りのスープを出してくるここの連中は信用できません」

 

 ユエが自らミカのお世話を買って出ている理由がそれだった。

 ミカはお米と緑色のお惣菜にげんなりしながらも、それを食べ始めた。

 

「あと、こちらが指定のブランドのハンドクリーム、買っておきましたのでここに置いておきますね。

 以前仰っていたヘアドライヤーも今日中に通販で届く予定になっています。あれはお値段を聞いてびっくりしましたよ」

「うん、ありがと」

「他に必要なモノはありませんか? 不自由はありませんか? 足りないものがあれば何でも仰ってください」

 

 全てユエの自腹である。ミカの個人的な資産は既に凍結されているし、それらは彼女の卒業まで解除されることは無いだろう。

 

「あ、そうです。私の愛用しているブランドのシャンプーとリンスを持って来たのでした。

 所詮シャンプーなんて香料の違いだけでどこのメーカーも大差ありませんが、ここのは違いますよ!! 一度試してみてください」

「ふーん、まあそこまで言うなら」

 

 ユエはバックパックから五本ぐらいシャンプーとリンスを並べた。

 髪が長いと消費量もエグイのだ。

 

「あと、お花も替えておきますね」

 

 部屋の隅にある花瓶の花を、毎日ユエは替えている。

 

「今日はスイカズラをお持ちしました。個人的に薬用で育てているものです」

「……花言葉は、献身だったっけ?」

「おや、よくご存じですね」

「生け花の選択科目で教わるからね」

 

 お弁当を食べ終えたミカは、スイカズラの入った花瓶を見やる。

 慎ましやかな白い花が咲いている。

 

「……あのさ、ずっと機会が無かったから、今聞くけど」

「はい、何でしょう」

「私を裏切っておいて、どの面下げてここに来てるの?」

 

 ミカは純粋な疑問をユエにぶつけた。

 嫌味や嫌悪感ではない、本当にただの疑問だった。

 

「……? ああ、あれのことですか。それがどうかしたのですか?」

「どうかしたのって、意味わかんないんだけど」

「ミカさんはボードゲームはなさらないのですか?

 他人を蹴落としたり、妨害したりして、一位を目指すタイプの」

 

 ユエはいつもと変わらぬ笑みのままそう言った。

 

「あんなのは、――所詮、()()()()()ではないですか」

 

 ミカは、その物言いに言葉を失った。

 自分を裏切っておいて、何をそんなに目くじらを立てているのか、みたいなニュアンスだったからだ。

 

「ミカさん、次は何を致しましょうか?

 どのような遊びをしましょう?」

 

 知っている、筈だとミカは思っていた。

 アリウスの一件の策謀を、この女はボードゲームの対戦か何かとしか思っていないのだ。

 

「ミカさんに協力する、という去年の約束はまだ生きていますよ。

 なぜなら、先日の件では協力できませんでしたから」

 

 面の皮が厚いどころではない。ワンゲーム終わったから、ノーサイドだと言っているのだ、ユエは。

 

「そうですね、ミカさんはナギサさんを蹴落とそうとしてましたね。

 今度は彼女を牢屋に入れて、ミカさんが復権するなんてどうでしょう?

 それとも、幼馴染同士、一緒に同じ牢屋に入るとか、スコアが高そうで――」

「止めて!!」

 

 ミカの声に、ユエは言葉を止めた。

 

「私は、私達は、あなたの玩具じゃない」

「玩具の何が悪いのですか? 大切な玩具に、愛を注いで大事にすることぐらいあるでしょう?

 社会的に何の意味もないテレビゲームのやりこみ要素に時間を浪費する、ミカさんのお世話は私にとってその程度のモノです。

 それに勘違いしていますよ、ミカさん達だけが玩具なのではありません」

 

 ユエは鉄格子に顔を近づけて、こう言った。

 

「私にとって、キヴォトスそのものが玩具なんですよ。私の幼稚な退屈を癒してくれる、大事な、大事な、ね?」

 

 ミカは理解した。彼女にとって、それが()()なのだ。

 

「……本物のサイコパスって貴女みたいなのかもね」

「幼馴染や御友人を襲撃しようとできるミカさんほどではありませんよ」

「もう、ああ言えばこう言うんだから」

 

 少なくとも、ミカに彼女を非難する資格は無い。

 彼女はユエをこう言う奴だと割り切ることにした。

 

「……ミカさん、ゲヘナに来ませんか?」

「急に何よ」

「トリニティなんて辞めて、ゲヘナで毎日面白おかしく過ごせばいいのに。ミカさんならそれが許されますよ」

 

 ミカは、ユエが本気でそう言っているのを悟る。

 ユエは真面目な表情で言っている。

 

「……バカ言わないでよ」

 

 ミカは視線を逸らした。

 

「なぜですか? ナギサさん達が居るからですか?

 それとも、この学校に未練が有るのですか?」

 

 ユエはそんな風に問いながら、窓のカーテンを開ける。

 

「出てきなさい、聖園ミカ!!」

「トリニティの裏切り者ッ!!」

「パテル分派の裏切者に制裁を!!」

 

 外では、身勝手な正義感に駆られた生徒達が罵声を牢屋に向けて浴びせている。

 ユエはカーテンを閉めた。

 

「ふふふ、暇な人たちですね。

 流石にあれでは可愛らしさより醜さが上回る。

 ダチョウの脳みそとサルの身体を持った下等生物の分際で、いったい誰に罵声を浴びせているのでしょうか」

 

 ユエはミカを振り返る。

 

「取り合うだけ無駄だよ、知ってるでしょ」

「ええ、それが賢いやり方です。ですが、私の好きなものを、ああも悪しざまに罵られては、幾ら寛容な私でも苛立ちを覚えます」

 

 ユエは、ミカの為に怒っていた。

 

「いっそ、――殺意さえ禁じ得ません」

 

 それは、ミカさえ初めて感じる害意だった。

 ユエは悪意や害意が無いまま、平気な顔でミカを裏切れる人間だった。

 それが明確に感情を露わにしている。

 ミカにしては珍しい光景だった。

 

 すると、予鈴の鐘が鳴った。

 昼休みが終わろうとしていた。

 

「あ、礼拝の時間だ」

 

 トリニティはミッション系の学校なので、礼拝の授業が存在する。

 ミカはテレビデッキに、讃美歌の入ったBDを挿入した。

 

 讃美歌が流れる。

 二人が黙って聞いていると、先生が入ってきた。

 

 ミカが先生に牢屋に入れられてなお、こうして礼拝をしないといけないことの愚痴を言い始めた。

 

 すると、ミカが先生に歌ってあげようか、などと言うではないか。

 

「ああ、ズルい。私もミカさんのお歌を聞きたかったのに。

 私がいくらねだっても、歌って下さらないんですよ」

「“そ、そうなんだ……”」

「私はミカさんの一番のファンなのに。先生はズルいです」

 

 と、ユエは口を尖らせて不満を漏らした。

 

「えー、なんで私が貴女の為に歌わなきゃならないの?」

「ミカさんがそんな態度だから、私はこんなものを作ってもらう羽目になったんですよ」

 

 ユエはスマホを操作した。

 

『今生徒会室でお茶を飲んでるナギちゃんは偽物じゃんね!!

 近くで給仕をしている子が本物のナギちゃんじゃんね、先生を試してるじゃんね!!』

「え……何それ」

「ミレニアムで音フェチと有名な生徒に作って貰いました。

 本当はアリウスの生徒の洗脳の治療用にボイスチェンジャーを作ってもらうように依頼した、その副産物ですね。

 名付けて、ジャンネロイドです」

『啓示の時間じゃんね、ぱ、ぱ、ぱ、ぱー、午後一時じゃんね!!』

 

 気持ち悪そうに見てるミカを他所に、よく出来てるなぁ、と思う先生だった。

 

「実は一曲、私の作詞で作ってみました。まさか私にこんな才能が眠っているとは思いませんでした」

「“作曲までしたの!?”」

「いえ、流石に曲の方はワイルドハントの知り合いに外注しました」

「“是非、聞かせてほしいな!!”」

「それでは、お耳を拝借」

 

 先生が青春っぽいユエの行動に喜んでいるので、彼女は自作の曲を再生した。

 

『■■ーーーっク!! 今日、私の幼馴染をレ■ファ■■したぜ!!

 口うるさいあのガキフォックスも■ズレ■プしたぜッ!!』

「“ストップ、ストップ!!”」

 

 爆音と共に、デスボイスによる下劣で下品な歌詞が、ミカの声で炸裂したのを、先生は急いで止めた。

 

「あ、あ、あ、私の声でなんて歌を歌わせているの!?」

 

 これにはミカも顔を真っ赤にして激怒した。

 

「ちなみに、曲名は『レ■ファ■■ー』です。

 ミカさんのイメージとは真逆の、デスメタルに挑戦してみました。

 後日動画サイトに投稿するつもりです」

「……本気で怒るよ?」

「はあ、仕方ありません。私もイメージにそぐわないと、リテイクした物があるんです」

 

 改めて、ユエはちゃんとした曲を再生した。

 ボーカル付きのロックで激しい曲調のBGMが流れる。*1

 

「“こっちの方が断然いいよ……”」

 

 ロックな曲なのにポップな歌声に、先生はリテイク前の曲を思い返し、額の汗をハンカチで拭った。

 

「普通に良い曲なのがムカつく……」

「本来ならリテイク前のアレを、聴聞会でぶちまけて差し上げるつもりだったのですが……」

「ナギちゃんが卒倒しちゃうから止めて……」

 

 ただでさえストレス抱えてそうなのに、とミカは溜め息交じりにそう言った。

 

「ていうか、聴聞会出るつもりなんだ」

「ええ、ミコトにミカさんを擁護して差し上げろと言われているので」

「……」

 

 ミカは一瞬逡巡した後。

 

「ねえ、私のしたいことに、協力してくれるんだよね」

「ええ、何なりと」

「なら、二度と私達の前に現れないで」

 

 ミカはそう告げた。

 

「“ミカ……”」

「おや、ミカさん? そんなにこの間のことが気に入らなかったのですか?

 相変わらずお可愛らしい。そうやって露悪的に振舞ったところで――」

「もう分かってるでしょ、トリニティがゲヘナの生徒と仲良くなんてなれないって」

 

 はあ、とミカは息を吐いた。

 

「私は、あなたのゲームから降りる。

 気持ち悪いからこれ以上付きまとわないで」

「……ミカさん、あなたは分かっていない」

 

 ユエの声が震えている。彼女が動揺しているのを、先生は初めて見た。

 

「貴女はキヴォトスでも数少ない選ばれた生徒です。

 ミコトのように、幾らでも自由に振舞えるのですよ?

 貴女はこの世界に愛されているのです。なのになぜ、自ら鳥籠に身を投じるのですか?」

「なにそれ、あなた達の大好きな預言かなにか?

 貴女には絶対に分からないと思うから、言ってあげる」

 

 ミカは目を細めて、ユエを見やった。

 

「私は、あなたの大好きなミコトみたいな奴に成りたくないの。あんな大雑把で、いい加減で、自分勝手で……無責任で。

 みんなが貴女の基準で、こんな窮屈な世界に生きてるわけじゃない。

 あんたに言わせるなら、私は窮屈なりにルールを守ってるだけだよ。敗者としての、ルールをね。

 負けても無かったことにして笑ってるあなた達ゲヘナと、私は違うの」

 

 それは、これ以上無い明確な拒絶だった。

 

「…………わかりました。ミカさんの望むままにしましょう」

 

 ユエは意気消沈したまま、荷物をまとめ始めた。

 

「私にもしがらみがありますので、これからもトリニティの敷地に入ることはあるでしょうが、なるべくミカさん達の視界に入らないように致します」

「“ユエ……”」

「先生、気が変わりました。ミコトの件、そちらで何とかしてください」

「“……わかったよ”」

「私はミコトのお世話に戻ります。

 そろそろ、物資や人数を動員し終えた頃でしょうし」

 

 明らかにテンションがガタ落ちのユエは、スマホで電話をかけ始めた。

 

「ミコト、これからそちらに合流するわ」

『おう、こっちはこれから殴り込みの準備だ。

 連邦生徒会がごねやがるから、もう無視するわ!!

 あいつら、自分の代で戦争起こすのを認めたくねえそうだ』

「仕方ないわ、彼女らにも面子はあるもの」

『お前もさっさとこっちに来い、アリウスの連中を、一人残らず皆殺しにするぞ』

「わかったわ」

 

 ユエは電話を切った。

 

「ちょっと、アリウスを皆殺しって、どういうこと?」

「ミカさんにはもう関係の無い話じゃないですか」

 

 冷たい、もう興味を失った玩具を見る目で、ユエは言った。

 

「これはゲヘナの問題ですので、私はこれにて」

 

 ユエはいつもの身の丈に見合わぬ大きなバックパックを背負った。

 

「ミカさん、どうか健康と美容にはお気を付けて。

 貴女はキヴォトスの至宝の、そのひとつなのですから」

 

 最後に、それだけ言って、ユエは去って行った。

 

「何なのよあいつ、本当に、何なの……」

「“ミカ、あれでよかったの?”」

「うん、これでいいの!! これで清々したくらいだし」

 

 ミカはぎこちない笑みで先生にそう言った。

 

「お互いに、正しい立ち位置に戻っただけだよ。

 言ったでしょ、先生。トリニティがゲヘナと仲良くできるわけないって。

 エデン条約もあんなことになったし、運命なんだよ、きっとこれは」

「“ミカ……”」

 

 先生は、彼女になんて声を掛ければいいか分からなかった。

 先生にミカとユエの関係を、推し量ることはできない。

 でもそれはキヴォトスでも奇妙な、とても奇妙な関係だったことは分かる。

 

「“確かにユエは困った子だけど、ミカを心配していたのは本当だと思うな……”」

「先生、もう終わったことだって、あいつは言ったじゃん」

「“……”」

 

 やれやれ、と先生は強がるミカを見て、溜め息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 ――エピソード04から08まで中略。

 

 

 09:アリウス自治区へ

 

 

 サオリの懇願を受け、アツコを救うべくアリウススクワッドのメンバーを招集した先生は、アリウス自治区への入口へと向かう。

 

 しかしアリウス自治区の入り口となるカタコンベは、実に三百もの入り口があると言う。

 その中で正解のルートは一つだけだと、彼女達は語る。

 

 暗号によって管理されたルート、その中で彼女達が知り唯一使えるルートが今夜まで、という話なのだが。

 

「“……じゃあ、ミコト達はどうやってアリウス自治区に攻め込むつもりなんだろう”」

 

 先生はそんな疑問を抱いた。

 

「さあ、まともに攻め込んでも中の迷路で迷うだけだと思うけど……」

 

 ミサキはそのように答えた。

 ゲヘナの生徒に突破は無理だと考えているようだった。

 

「で、でも、あのゲヘナの死神ですよ?

 いくつもの不可能を可能にしてきたって……。

 もしかしたら、本当にアリウス自治区まで来ちゃったりして」

「アリウスは皆殺し、か」

 

 ヒヨリとサオリは、当然ながら先生からゲヘナの事情を聴いている。

 ゲヘナのアリウス侵攻を、二人は複雑そうにしていた。

 

 するとその時だった。

 

 真夜中だと言うのに、先生のスマホにメッセージが来た。

 ミコトからだった。

 

「先生?」

「“ミコトからの呼び出しだ”」

 

 まるで、見計らったようなタイミングだった。

 

「“私が説得して、協力を仰いでみるよ”」

「先生、危険だ。相手は話の通じる相手じゃない」

「“でも黙っていても、君たちはミコトに殺されるだけだよ”」

 

 先生の言葉に、サオリは黙り込む。

 ミコトは本気だ。今説得しに行って殺されるか、その後に見つかって殺されるか。

 現状ではその違いしかない。

 

 サオリは、ミサキとヒヨリの二人と視線だけで意思疎通を図る。

 

「……わかった、先生を信じよう」

 

 そして、サオリはそう言った。

 

 

 

 どうやって、アリウス自治区に到達するのか?

 

 その方法を、一目で先生は理解した。

 

「ハーッハッハッハッ!!! ハーッハッハッハッ!!!」

 

 その特徴的なハスキーボイス、笑い声。

 鬼怒川カスミが率いるゲヘナが誇る屈指の危険組織、温泉開発部。

 

 彼女らがアリウス侵攻の橋頭堡を構築していた。

 物資が集積され、ドリル車が並べられている。

 

 そう、ミコト達はカタコンベを強引に、――まっすぐ進んで突破するつもりだった。

 

 これに対し、アリウス側も指を咥えて見ているわけではなかった。

 無数にあるカタコンベの入り口の前に、防衛陣地を構築している。

 

「……高所から偵察した感じ、あそこにアリウスの生徒のほぼ全員が居るみたい」

 

 と、ミサキがそう口にした。

 

「“ほぼ全員? 向こうも本気ってことかな”」

「……いや、むしろ彼女らも自治区から締め出されているのだろうな」

「“え……?”」

「先生も聞いているでしょ、あの、ゲヘナの魔女の……」

 

 ミサキの震えるような声音に、先生も全てを察した。

 同時に、捨て駒にされていると理解した。

 

 先生の胸に怒りが湧いてくる、その時だった。

 

「あれ、先生だ!!」

「“やあ、メグ……”」

 

 部員たちと物資を搬入していたメグが、先生達に気づいた。

 

「先生、気が早いね!!

 先生はもうアリウス温泉郷に遊びに来たの?」

「“あ、アリウス温泉郷?”」

「うん!! ミコトさんが、アリウスってところの自治区を全部撤去して、温泉郷にして良いって言ってたんだ!!

 文句を言う奴は全部ぶっ潰すって、だから部長もやる気満々なんだ!!」

「“そ、そうなんだ……”」

 

 先生はメグに愛想笑いをするしかできなかった。

 後ろの三人は、自分達の自治区が温泉のテーマパークにされようとしている事実に、言葉を失っていた。

 

「“えーと、ミコトに会わせてもらえるかな? 呼ばれているんだ”」

「うん、良いよ!! あっちに本陣があるから!!」

 

 そんなこんなで、四人はメグに案内されてゲヘナの本陣に向かった。

 

 

「おや、先生ではありませんか」

 

 その道中で、先生達はハルナ達、美食研究会に遭遇した。

 

「“は、ハルナ達まで居るんだ……”」

「ええ、ミコト議長代理は、戦争に必要な人員を的確に選んでおりますので」

「“……ハルナは、ミコトのやり方に賛成なの?”」

「当然でしょう?」

 

 兵站の管理をしている部員たちを横目に見ながら、ハルナは当たり前のように答えた。

 

「ゲヘナの敵は、後顧の憂いを断つために一切合切を排除する。

 トリニティはそれが出来なかったから、エデン条約はああなったのでしょう?」

「……」

 

 ハルナは高貴な者として、この戦争を肯定していた。

 スクワッドの面々はバツが悪そうにしていた。

 

「アリウス温泉郷には、我々が監修したグルメ街を作る予定なのです。

 幸い、次のテーマについて悩んでいたところでしたので、私としては丁度良かったです。

 彼女らの制服を剥ぎ取り、血塗られたそれを飾って見せしめとするでしょう」

「“私は、君たちが人殺しになるところを見たくはないよ”」

 

 先生がそう吐露すると、ハルナは目を細めた。

 

「先生は、お優しいですね。そう言うところは、私も好ましく思います。

 ですが、優しさだけではミコトさんは止まりませんよ」

「“うん、そうだね”」

「いずれにせよ、アリウス温泉郷の建設は決定事項です。

 私も方々に声を掛けてしまいましたし、今更ダメですとは言えません。

 カスミ部長も、ミコトさんの言質を盾に、好き放題するでしょう」

 

 そう言って、ハルナはスクワッドの面々を見やる。

 

「貴女方の死体を、あそこにいる彼女らの前に投げ込むことにならないように、私も祈っておりますわ」

 

 ハルナは女神のように平等な、透明な笑みのままそう言った。

 

「さあ、あちらへどうぞ。ミコト議長代理がお待ちですわ」

 

 そして彼女は、本陣のあるテントを示した。

 

 

 

 

 本陣のあるテント、その横に積まれた瓦礫の上にミコトは腰かけていた。

 

 彼女は愛銃を脇に置き、両手で木刀の柄頭を抑え、切っ先を地面に突き刺したままの姿勢で、目を閉じて先生の到着を待っていた。

 

「来たか、先生」

 

 ミコトは、先生の気配を察して目を開ける。

 だが、招かれざる客人三人を見咎め、その視線が鋭くなる。

 

「先生、俺は今日、ゲヘナを背負ってきたんだ」

 

 その気迫に、気圧される。

 圧倒される。

 

「サオリっつったか?

 てめえにやられたマコちゃんは、俺のマブダチなんだ」

「ッ!?」

「あいつはお前にやられたおかげで、頭がアフロになって、全身複雑骨折、全身大火傷だ」

「ミコト、全身複雑骨折と全身大火傷は貴女がやったんじゃない」

 

 本陣のテントの中から、姿を見せぬユエが茶々を入れる。

 

「つまりだ、俺は今日ゲヘナの議長代理として、アリウスを潰しに来た」

 

 裾が焦げたマコトの上着を纏ったミコトの視線が、先生と交錯する。

 

「だが、その前に、あんたの意見を聞きたかった。だから、俺はあんたを待っていた」

「“ミコト……”」

「俺はアリウスを潰すぜ、徹底的に。目に映る全てをだ」

 

 真剣な表情のミコトの言葉に、先生は息を呑んだ。

 

「なのに、なんであんたはそいつらを連れてんだ?」

「“ミコト、これは……”」

「そいつらを連れてるってことはよ、俺らゲヘナやトリニティを裏切るってことで良いんだよな?」

 

 ミコトはアリウススクワッドの三人を見やり、木刀を抜いて立ち上がった。

 

「なあ答えろよ、先生!!」

 

 木刀の切っ先を向けられ、先生は応えた。

 

「“……ミコト、アリウスの全員を殺す、そう言ったね”」

「ああ!!」

「“なら、君は彼女らを殺すことは出来ないよ”」

「んだとッ!!」

 

 先生は、カバンの中から書類を出した。

 三枚、それをミコトに提示した。

 

 それは、キヴォトスの生徒なら誰でも知っているはずの、書類だった。

 

「先生、まさかそれはッ」

「“――――退学届けだよ”」

 

 先生の真剣な言葉に、ミコトは言葉を失った。

 

「“彼女達はついさっき、これに署名をした。

 アリウスの生徒全員の名簿を、私は連邦生徒会に提出し、正式にアリウス分校の生徒として登録した”」

 

 その為に、先生は残ったアリウスの生徒に、知っている限りの名前を聞き取り調査した。

 その為に、ここ数日ずっと、トリニティに入り浸って、書類仕事をしていた。

 

「“私はその上で、アリウスの生徒の全員を、退学にした”」

 

 連邦捜査部シャーレの持つ、超法規的な権限。

 それは、彼女達から容易く学籍を奪った。

 

「“だから彼女達はもう、アリウスの生徒会に従う理由は無いし”」

 

「“ミコト、君がアリウスの生徒だからという理由で、彼女達も殺すことも出来ない”」

 

 学校、先生、生徒という、ルール。

 大人にしかできない、決定的な妙手だった。

 

「バカな……そんなの、アリかよ……」

「“その上で、ミコト。君は一体どんな名目で、彼女達を殺すと言うんだい?”」

 

 ミコトが呆然としている。

 スクワッドの三人も、目の前の大人から目を離せない。

 

 自分達が絶対だと思っていた支配者を超える、真にキヴォトスに君臨する、王冠を頂きながらそれを捨てた、貧者に扮した本物の王がそこに居た。

 

「っは、はははは、ははははは!!!」

 

 ミコトは笑った。笑うしかなかった。

 

「いつものあんたのやり口じゃねえな? 誰の入れ知恵だ?」

 

 ミコトの問いに、先生は答えない。ただ、テントの中からくすくすと笑い声が聞こえるだけだった。

 

「まあいい、先生。あんたは覚悟を示した。

 生徒として、あんたに従うよ。皆殺しはヤメだ。あんたの言葉なら、ゲヘナの連中も納得するだろ」

 

 先生は、ミコトに道理を示した。

 彼はそれを聞いて、ホッと息を吐いた。

 

「……それで、そいつらを連れて、何を仕出かすつもりだ?」

 

 殺気に満ちていたミコトはもう居ない。

 悪戯に混ざろうとするような笑みを浮かべる彼女に、先生は言った。

 

「“私と、彼女達に協力してほしい”」

「ああ、任せろ」

 

 先生は、ミコトを味方に引き入れることに成功した。

 何とも頼もしく、同時に敵にならずに安心できた。

 

「あそこにいる全員、あんたの言う“退学”に納得させてやるからよ」

 

 そして、ミコトの説得が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

*1

 BGM:ウィッチハッカー

 

 分からず屋の幼馴染の脳をハックしたよ。

 口うるさいあの子の口をハックしたよ。

 あいつは魔女だ、周りの皆が囁くよ。

 

 そうよ、私はウィッチハッカー。

 心惑わすカワイイ魔女よ。

 

 お茶会の中に舞い降りる。

 この堕ちたの翼が見えないの?

 

 逃げて逃げて、私の手の鳴る方に。

 誰も彼も、魔法を掛けるわ。

 ハッキング成功☆ みんな私の言いなりよ。

 

 さあ、この手を取って、みんな仲良し♪

 愛の囁きが聞こえるわ。全部全部、私のモノよ。

 

 私の魂のキリエを聞いて。

 憐れみなんて、要らないわ。(二番、三番略)




つい勢いで、人生初の作詞までしてしまいました。ちゃんと三番まで存在します。なお、作者は音符も読めない模様。そんなんでよければ、需要が有るなら残りも掲載します。
本編でキャラソンが流れるミカは間違いなく世界に愛されてる。

次回予告。

やめて!! ミカがやってきたら、温泉開発部と美食研究会が蹴散らされちゃう!!
お願い、踏みとどまって!!
二つの部活がここ倒れたら、アリウス温泉郷はどうなるの!?
部員はまだ残ってる。しんがりとして生き残れば、ミカに勝てるんだから!!

次回「温泉開発部&美食研究会、死す」ブルーアーカイブ!!(起動画面)

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