遅れたお詫びにあとがきでユエがバニーを着ます。
奴は有象無象と違う、ミコトはそう思った。
確実に斬れる、という確信が無い。
それは相手に攻撃が届かないノイズと成り、確定した結果を手繰り寄せる妨げになった。
圧倒的重量を誇るバルカン砲を両手に持っているのに、その動きは軽やかだ。
視界を埋め尽くす弾幕の暴力。
ミコトは壁を走り、天上を駆けながら弾幕を躱し、この一本道を進む。
「面白れぇ」
ミコトは強敵と戦う時、いつも思考の片隅で考える。
即ち、こいつは斬れるか否か。
ミコトは目の前の変態を簡単に斬れないと思った。
だからそうなっている。
実際に斬ろうとした時、ミコトは奴は躱すだろうと判断したからだ。
常人には理解に苦しむ思考だろう。
先ほどのように一太刀でシスター服の亡霊と怪物を切り伏せたように、目の前の強敵もそうすれば良い。
実際に、ミコトには可能ではあるだろう。
だがミコトの剣技に必要なのは、彼女の“確信”だった。
絶対的な確信と、神業の一撃。それが揃って量子の隙間を超越するのだ。
ミコトは目の前の強敵を一撃で斬れる確信が無かった。
「ツルギは斬っても起き上がって来る。ネルは足さばきで躱して反撃してくる。ヒナは斬ってもダメージが通るか分からない。ホシノはそもそも剣の間合いで戦えねぇ。
お前はどうだ。俺をどれだけ楽しませてくれる!!」
右手に銃、左手に木刀。
敵の弾幕を恐るべき瞬発力で跳ねるように突破し、ミコトは強敵に肉薄する。
左手の木刀が袈裟懸けに振るわれる。
目の前の強敵はすらりとした右足でそれを迎撃した。
武器と武器が音を鳴らしてぶつかり合い、敵は弾幕を張りながらミコトから距離を取る。
弾幕を強行突破しようとするミコトを正確に捉え、顔に狙いを定めている。
両者の戦いは一進一退だった。
「嘘でしょ、あの死神相手に対等に渡り合ってる……」
身体を起こし、ミカは戦況を見ながらそう呟いた。
「あれくらいでは苦戦に入りませんよ。
相手の実力を見極めた瞬間、必殺の一撃が飛ぶでしょう」
ユエも体を起こして、立ち上がる。
「我々は邪魔になります、場所を変えましょう」
彼女はミカに手を差し出すと、ミカはそれを取って立ちあがった。
そして、二人は戦場から離れるように歩き出す。
「ねえ、なんであんたってそんなに面倒な性格してるの?」
ふと、ミカが問うた。
「仲良くしたいなら素直にそうすれば良いじゃん」
「それはもうやって、飽きました。今のところそう言う気分ではありません」
「なにそれ、意味わからない」
「簡単な話ですよ」
二人は曲がり角を曲がり、荒廃した校舎を見回りながら歩く。
「私はミカさんと違って、孤独を耐えがたいと思ったことはないからです」
「いちいち嫌味を言うところ、セイアちゃんみたい」
「事実を指摘したまでですよ」
事も無げにユエは言った。
「でもあんたにしては下手な嘘だね」
「嘘? 私は嘘なんて言いませんが」
ミカの言葉に、ユエは小首を傾げた。
「あんたの場合、あの大馬鹿が居るからでしょ。
それが当たり前で、変えようがないから、それに安心しているだけ。
だから他の連中なんてどう当たったところで、戻る場所があるから好きに振舞えるの。私もそうだったって、その場所を失うまで気づかなかった」
「なるほど、そう言う考え方も出来ますね」
「あ、言い忘れてたけど、最終的にアリウスとトリニティを奪取したらあんたを排除するつもりだったから」
「それはそれで持続的な喧嘩に支障が出るので、ミコトが動いたかもしれませんね」
持続的な喧嘩ってなによ、とミカは呆れたように言った。
「あ、ピアノだ」
どうやら音楽室のようで、教室の窓からピアノが見えた。
「私が弾きましょうか? その代わりミカさんが歌ってください」
「えー、あんた、ピアノ弾けるの?」
「昔取った杵柄って奴ですよ」
二人は音楽室に入ると、ユエはピアノの前の椅子の埃を払って、そこに座った。
すると、ユエは軽快に鍵盤を叩き始めた。
ミカにとっても親しみのある曲だった。
「恵みに満ちたりし聖母よ、神はあなたと共におられます♪」
ミカが美しいソプラノで、祈祷文を諳んじた。
「おや、お上手ですね」
「憐れみたまえ、よりは好きかな。
こっちは“おめでとう”とか、“こんにちは”って意味だし」
「へえ、なるほど。ミカさんらしいですね」
「そう言えば、あんたが書いた歌詞にもアヴェってあったね」
ユエが勝手に作詞したあの曲は、ミカの孤独を歌っていた。
「あれってどういう気持ちで書いたの?」
「ああ。あれはミカさんの孤独を理解しない周囲に対するものですよ」
一曲弾き終えて、ユエはそう答えた。
「だからと言って、私はあんたに理解されようとは思わないけどね」
「おやおや、手厳しい」
「──いいよ、歌ってあげる」
「おやおやぁ!?」
ユエは急に嬉しそうにミカの方をみやった。
「その代わり、演奏はあんたがやってよ」
「ええ、構いませんよ。打ち込み音源などあれば良かったのですが」
まあいいでしょう、とユエは肩を竦めて、演奏を始めた。
『嫌いなあいつら、みんなの心をハックする。
仲良しこよし、こっそり舌を出すズルい私。
ハッピーエンドさえ、ハッキング♪
そうよ、私はウィッチハッカー。
嘘のアクセサリーで着飾ってる♪』
ミカの歌声が、二人の戦う廊下にまで響いていた。
ユエの作曲したミカのテーマ、その三番の歌詞だ。
『ガラスの靴履いて、私は踊る。
王子様の迎えは、まだかしら?
時計の針が明日を迎えるわ』
二人の戦いもまた、最終局面に至っていた。
『魔法は解けて、孤独で踊るダンスホール。
どうしてこうなったの? 仲良くなりたかっただけなのに。
私の魂のキリエを聞いて。
独りなんて耐えられない』
完全に目の前の強敵の実力を見極めたミコトは、会心の一撃を振り下ろした。
聖女の亡霊は、両手の武器を犠牲にそれを凌いだ。
『嘘まみれの私。もう終わりにするわ♪』
次の一撃が、亡霊の身中を捉えた。
がくり、と彼女は頭部を垂れた。
『そうよ、私はウィッチハッカー。
炎の中で、私は祈るわ♪』
完全に沈黙した亡者に、ミコトは歩み寄る。
愛銃の弾倉を抜いて、赤いテープが張られたマガジンを装填した。
『どうか、私の魂のキリエを聞いて♪』
膝をついてうなだれる彼女の頭を掻き抱いて、ミコトは彼女の胸部に銃口を突き付けた。
「もういい、眠れ」
“普通の弾丸”が、聖女の亡霊を撃ちぬいた。
『憐れみなんて、要らないわ──』
歌声が、曲が終わる。
その場にはもう、ミコトしか残されていなかった。
§§§
先生とアリウススクワッドの戦いも、最終局面に移行していた。
ベアトリーチェの身勝手な思想に、自分達の生徒に近づくな、と怒りの声を挙げる先生。
なけなしの力を振り絞り、再び怪物へと変貌するベアトリーチェ。
そこに。
「よお、お前ら。どうやら間に合ったみてぇだな」
アリウスの死神が、現れた。
「それにしても、なんだこの化け物は!!
もしかして、あれか!! デカマトングラタンって奴か!!」
「“ミコト!!”」
「先生。俺の本気見せてやるよ。あんたの指示に従ってやるから、あんたの判断で俺の必殺技を奴に喰らわせてやるぜ!!」
うん、と先生は頷き返した。
そして始まる、バトルパート。
脅威のコスト99を引っ提げ、本気のミコトが前線に登場する。*1
彼女の飛ばす斬撃が命中する度に、そのコストがどんどんと目減りしていく。*2
そして満を持して、先生はミコトに必殺技の指示を出す。
ミコトは大上段に振動剣を鞘ごと振り上げ、居合いの如く振り下ろした。
それは最早、閃光だった。
アリウス自治区の曇り空が切り裂かれ、朝日が差し込む演出と共にベアトリーチェのHPが一瞬でゼロになる。*3
そして、バトルパートが終わる。
バシリカは、廃墟と化していた。
神聖な聖堂は、ミコトの一撃で天井がごっそり消えていた。
共に参戦したヒヨリやミサキは、その光景を唖然と見ていた。
「最強の剣技って、なんだと思う?」
あれだけの一撃を受けて、ベアトリーチェは生きていた。
当然だ、殺す気でミコトは撃っていなかったからだ。
「一番強いのは、剣を振り上げて思いっきり振り下ろすことだ。どんな技を効かせようが、それは覆らねえ。
それに、最速の居合いの技術を取り入れれば、そいつは最強ってこった」
ヒヨリとミサキは思った。意味が分からない、と。
先生は殆ど剣からビームが出たようにしか見えなかったので、目をキラキラさせていた。
「なんかしぼんじまったな。これがあの化け物の正体なのか?」
「いや、化け物はあんたでしょ……」
全身の激痛で呻いているベアトリーチェを見下ろしそう言ったミコトに対し、ミサキは冷静にツッコミを入れた。
「そういやよ、俺アリウスを〆に来たんだった。お前ら、どいつが生徒会長か知らねぇか? まだ会ってねぇんだ」
アリウスの面々は、ミコトの言葉にそっとベアトリーチェを指差した。
「こいつがアリウスの生徒会長?
どこが生徒なんだよ」
「“実際に彼女はそう名乗って、大人としてアリウスを支配していたんだ”」
先生が顔を顰めて、ミコトに説明をした。
「なんだ」
ミコトは単純明快な事実に、笑ってみせた。
「つまり、こいつが全部の元凶ってことで良いんだな」
ミコトの解釈に、誰も異を唱えなかった。
「おい、てめぇ」
彼女はベアトリーチェの前まで歩み寄り見下ろした。
「アリウスのヘッドなんだろ、責任取って土下座しろや」
「わ、わたくしに、なんて口を!!」
「黙れ」
ミコトはベアトリーチェを蹴り飛ばした。
ミコトが彼女に構っている間に、スクワッドの面々はアツコの救出を始めた。
「てめぇ、目ん玉それだけあるなら、幾つか無くなっても問題ねェよな?」
「ひッ!?」
「土下座しねぇなら、それで勘弁してやるよ」
「“ミコト、流石にそれは……”」
先生も流石に、ミコトに苦言を呈する。
別にそこに地を這う輩に同情したわけでは無く、ミコトにやり過ぎないように言っただけである。
「分かってるって、先生」
ばきッ。ベアトリーチェの右腕の骨が、ミコトの足で踏み折られる。
「あ、があぁ!!」
「ゲヘナとトリニティに喧嘩売ったこと、永遠に、死ぬまでこの身体に刻んでやるだけにしてやるからよ」
ミコトは木刀を取り出し、振り上げる。
先生は目の前の打擲から、目を背けた。
「やめ、も、やめなさいッ!!」
「まだ口が利ける元気があるようだなぁ。ユエ!!」
「なに、ミコト」
ミコトがユエを呼ぶと、スマホで凄惨な私刑の現場を撮影しながら彼女は現れた。
「硫酸あったよな、もってこい」
「ええ、ちょっと待って」
ユエはにこにこしながら、背負っていたバックパックを置いて中身を漁り始めた。
流石に先生もこれ以上はマズいと思った時だった。
「もうそれくらいで怒りを鎮めて下さいませんか、荒ぶる武神よ」
その場に、ゴルコンダがいつの間にか現れた。
「あん、お前は変人共の。なんか用か?」
「彼女は我々、ゲマトリアのメンバーなのです。
我々もあなたと共闘している手前、彼女にもあなたに手を出すのはやめた方が良いと忠告したのですが」
「あん? なんだよ、それなら先に言えよ」
「言えば我々ごと攻撃したでしょう、あなたは……」
やれやれ、と彼は溜め息交じりにそう言った。
「でもよ、真っ黒くろすけは好きに対処していいって言ってたじゃねーか」
「それを曲げて、こうしてお願い申し上げているのです。私も彼女の所業には思うところはありますが、同胞には違いないので」
デカルコマニーが身体を折って、頭を下げる仕草をした。
「……まあいいぜ、今回は許してやる。アリウスをこんだけぶっ壊せば、うちの連中も納得するだろうからな」
あんたらには世話になってるし、とミコトは付け加えた。
「ご理解、感謝します。それではマダム、痛むでしょうが失礼しますよ」
「あ、ああッ、あああぁ!!」
全身ボロボロになった痛みで呻くベアトリーチェを抱え、ゴルコンダは去って行った。
「んじゃ、腹減ったからハルナんとこに行くか。飯にしようぜ」
「ええ、流石に彼女達もそろそろ目を覚ましてる頃でしょうね」
ミコトとユエは、そう言って他の面々を置いて踵を返した。
尤も、スクワッドの面々は撤収し、もうそこには先生しか居なかったが。
「先生」
そんな先生相手に、ユエは妖しく微笑んだ。
「アリウスの羽化、楽しみですね」
「“……”」
「それでは」
こうして、アリウスを巡る騒動はひとまず決着がついたのだった。
自分達の帰る場所が無くなって愕然とするアリウスの生徒達。
温泉郷を作ろうとするゲヘナ側と揉めるトリニティ側と多くの問題は山積みではあったが。
「先生、ちょっと時間貰いにきたぜぇ」
先生は皆が学べる平穏の尊さを、ミコトを見て実感するのだった。
【挿絵表示】
結局休止よりずっとスランプで更新が途絶えてすみません。
アリウス編を確認してから、アリウスを壊滅させるかどうか判断したかったのですが、結果として大丈夫と分かって安心しました!!
一旦完結にしようかと思いましたが、次回以降はイベントととかを中心にする予定です。
カルバノグと最終章は、二人はあんまり出番なさそうですし。
ではまた、今後も拙作をご愛読下されば幸いです。