ペースは落ちますが、今年も頑張って更新していきますね!!
その日、ミコトはゲヘナの本校舎前の菜園で園芸部の部員たちと土いじりをしていた。
「ミニトマト、そろそろだね」
「おう、こっちのナスも良い感じだ」
「バター焼きにしたら美味そうっすね」
彼女らが肥料を土に混ぜたり、野菜の出来を見ていると。
「ミコトさん!!」
「なんだよ」
煩わしげに振り返ると、そこにはゲヘナに編入した元アリウスの生徒達がいた。
彼女を呼んだのは、そのリーダー的ポジションのスバルだった。
「うちらの元居たアリウスの自治区のことっすけど」
彼女はゲヘナに流れ着くまでの間に、すっかり不良が板についていた。
「温泉開発部の連中が作ったテーマパークがありますよね?
あそこに昔のツレたちが戻って、アリウスを再建させるって聞いてます?」
「知らねぇ。どうでも良いからよ」
「うちら、それが許せねぇんす!!」
スバルは興味の無さそうなミコトに話しかけ続ける。
「あいつら、昔の自分らの有様を見世物にするつもりなんすよ!!」
「そりゃ、テーマパークってそう言うもんだろ?」
「気に入らねぇんで、潰してきてやります!!」
「で、それがどうしたんだよ」
ミコトは本当にどうでも良さそうだった。
「まさかよ、てめぇらの喧嘩に俺を呼ぼうってのか?」
「ち、違うっすよ。そりゃあ勿論、ミコトさんが来てくれれば千人力っすけど。
一応事前に話しておこうかなって」
「喧嘩するのになんで俺の許可が必要なんだよ」
その言葉に、元アリウス達は顔を見合わせた。
「だってミコトさんがダメって言ったら、止めないといけないですし」
「バーカ。お前ら今はゲヘナの生徒だろ。何するのもお前らの自由なんだよ。お前だって最近バンド始めたの、俺がダメだって言ったら止めんのかよ」
「それは、そうっすけど……」
「昔の因縁に決着付けてくんだろ?
それとも、俺に立ち会ってほしいのかよ?」
ミコトが彼女らに視線を向けると、彼女たちはまた顔を見合わせてこう言った。
「いえ、うちらだけで解決してきます」
「そうかよ。あんま迷惑かけんじゃねえぞ」
「それは勿論っす。用があるのはあいつらだけなんで」
それじゃあ、とスバルたちは校門から出て行った。
「俺もミネと、悪徳企業を救護しに行くかな……」
「ミコちゃん。暇なんだね?」
「クソ企業を潰しに行くなら、うちらも行くよ!!」
「いや、最近殆ど潰しちまったから、当てもねえのよ」
最近のミコトはこんな調子だった。
部員たちも顔を見合わせる。最近の彼女はらしくないのだ。
「ミコト、手紙が来てるわよ」
「おう」
ふと、その場に居なかったユエがやって来て、ミコトに手紙を手渡した。
彼女は送り先を見るや否や、封筒の手紙を取り出し、中身を見やった。
「おい、ユエ」
「なあに?」
「次のイベントが決まったぜ」
ミコトが手紙の文面から顔をあげる。笑っていた。
そんな彼女の表情を見て、ユエも笑った。
「じゃあ、やりましょう」
そして今回も、キヴォトスを揺るがす騒動を二人は巻き起こす。
§§§
「先生、大変だ!!」
その日、イオリがシャーレの門を叩いた。
「“やあイオリ。どうしたのかな?”」
「やあ、じゃない!! ミコトの動画を見てないのか!?」
「“え……”」
イオリがやって来てちょっと上がったテンションが急に冷えた先生だった。
「ほら!!」
イオリは自らのスマホの画面を先生に示した。
ミコトの動画が再生される。
『キヴォトスのお前ら、ゲヘナのミコト様だ。
今日こうして動画を撮ったのは他でもない』
ミコトはにやりと笑ってこう言った。
『俺の実家は道場でな。今日俺の師匠から師範代に任命された。
つまり、俺は弟子を取って良いってことだ。
そんな訳で、キヴォトス全土から弟子を募集する。俺の強さの秘訣を余すことなく叩き込んでやる』
ここまでなら、特に問題はなかった。ここまでなら。
『条件は、各高校の二年生以下で一人まで。それ以外は一切の経歴は不問だ。
そんで俺の弟子になれたら、次期デスサイズの幹部にしてやる』
この発言には、先生は大変だと思った。
なにせデスサイズはキヴォトスでも既に一大不良組織。その影響力は絶大である。
『我こそは、って奴はデスサイズ本部前に集まれ。今週の日曜日の朝九時に集合な。弟子選抜試験をするからよ』
そして、ミコトはこう言った。
『あと、ハスミと先生は強制参加な。逃げても呼びに行くから、それじゃあな』
そこで、動画は終わった。
「“……”」
絶句だった。先生は顔を引きつらせている。
「だから言ったじゃないか、大変だって!!
私は風紀委員会として、ヒナ委員長に行ってこいって命令されているんだ……」
イオリはその事実にしょげかえっている。
ミコトの弟子なんて真っ平御免なのだろう。
「先生、大変です!!」
その時だった。今度はハスミがシャーレのオフィスに躍り出る。
「ミコトの声明を見ましたか!?」
「“うん、今知った……”」
ハスミはちらりとイオリの存在を認識したが、露骨に無視した。
「あの大馬鹿に連絡を取ったら、なんて言ったと思います!?
お前は最近■キロ太ったし、先生は運動不足だから強制参加だって言うんですよ!?」
ミコトの言う弟子の条件に、三年生であるハスミは当てはまらない。
だと言うのに強制参加という事実に、彼女は憤っていた。
「“じゃあ、トリニティ枠はハスミなんだね……”」
「いえ、こちらからはイチカが送り出される予定です。我々は例外らしく……」
しょぼしょぼ顔になっている先生に、ハスミはそう答えた。
「ミコトの奴、なんで枠でトリニティの方が有利なんだよ……」
イオリがぼそりと呟いた。
弟子を選抜するということで、その定員は今のデスサイズ幹部四人分と推察される。
なのに、各学校から一人までなのに、トリニティから二人候補を送れるのは明確に不公平であった。
「と言うか、もし万が一先生が、不可能だと思うけどミコトの弟子になったらどうするんだ!!」
「“辞退できないかな……”」
「出来るのならそうしています……」
しかしこうして騒いでいても、問題は解決しない。
結局、各々はミコトから逃れる術を持たず、当日を迎えてしまった。
そして当日。
デスサイズ本部前のグラウンドに、数百名の生徒が集った。
いずれも各学校の猛者であり、不良と思われる生徒も散見される。
「“なんか私だけ場違いなような……”」
「先生、そんなことはありません」
その声に振り向くと、そこにはトキが居た。
「“トキ、ミレニアムからは君が来たんだね”」
「ええ。リオ会長からの命令です」
澄ました表情で、トキは先生に応じた。
「主殿!!」
「“その声は、イズナ”」
振り返るまでも無い。その元気な声の主はイズナだった。
「はい、部長に言われて来ました!!
ミコト殿は部長と共に修行し、忍術を極めた上忍とのことで、私もご指導をお願いしたいところです」
「主殿、ですか」
すると、トキはすっと先生に寄り添った。
「
「“うん、心強いよ……”」
「主殿!! 私も主殿をお守りしますね!!」
露骨に対抗心を燃やすトキに気づかず、溌剌に笑うイズナだった。
そして、壇上にミコトが現れた。
「よう、お前ら。よく集まってくれたな」
ミコトは全員を見下ろし、そう言った。
「とりあえず、四人だ」
何が、とまでミコトは言わなかった。
「あ、ハスミと先生は選抜は無しな。弟子にはしねぇが、同じことをさせる」
先生の地獄行きが確定した瞬間だった。
「そう言うわけだ。お前ら、四人になるまで戦え」
沈黙が降りた。
「ほら、さっさと四人になるまで戦えっつってるだろ!!」
直後、銃声が鳴り始めた。
「“ちょ、私は選抜は無しって言ったのに……”」
「先生。ミコト先輩に理屈は通用しません」
「はい、主殿はイズナがお守りします!!」
そして始まる、大乱闘。
巻き込まれた先生は二人に守られ、指揮を行っていると。
「先生、大丈夫か!?」
イオリが参加者を蹴散らし、先生の前に現れる。
「“イオリ!!”」
「この人数だ、指揮を頼む」
「“うん!!”」
先生はイオリに頼られて嬉しそうだった。
「ち、ゲヘナに先を越されましたか……」
「先生、私達も居るっす!!」
そこに、ハスミとイチカも現れる。
「“うん、心強いよ”」
「それでは、参りましょう」
先生の指揮は的確だった。
イオリ、イチカ、トキ、イズナを前面に出し、ハスミをバックアップとして参加者を蹴散らし始めた。
そして、最終的に立っていたのは彼女達だった。
「おーし、そこで終わりだ」
死屍累々の中で、デスサイズの人員が倒れた参加者を片付け始める。
ミコトはそんな彼女らを尻目に、生き残った六人を見やった。
「なんだ、全員見たことのある顔だな。まあだからか」
「ミコト……これはいったいどういうことです?」
完全に巻き込まれたハスミは怒り心頭だったが。
「だってお前、この間ダイエット付き合ってやったのに、リバウンドしたじゃねぇか」
「えッ、ちょ、せ、先生の前で言わないでください!!」
「しかも前見た時より0.■キロ太ったな?」
「そもそもなんでわかるんですか!?」
「んなの、見りゃわかる。この場の全員の体重を当ててやろうか?」
顔を真っ赤にするハスミに、ミコトはニヤリと笑ってそう言った。
「まあまあ、ハスミ先輩。とりあえず、我々は一応任務に成功したので抑えて抑えて」
「くッ、まあ、そうですね」
自分らに被害が及びそうになった瞬間に口を挟んだイチカを恨めしそうにしつつ、ハスミは一旦矛を収めた。
「“任務?”」
「ああ、先生には説明してなかったですね。しかし、恐らく他の面々も同じだと思いますよ」
先生がハスミに問うが、ミコトは進行を続けた。
「んじゃ、お前らを弟子にすることにした。
それで、デスサイズの次期幹部にして──」
「そのことなのですが」
トキがミコトの言葉を遮り、手を挙げた。
「その幹部候補は辞退いたします」
「あ、イズナもそうです。忍者研究部の活動が忙しいので」
トキに続き、イズナもそう手を挙げて辞退した。
「ミコト先輩、あんたの魂胆は分かってる。
デスサイズの幹部にすると言えば、否が応でも主要学校の面子が参加するからな。私もヒナ委員長から、面倒な生徒が幹部になるのを阻止しろと言われている」
当然私も辞退だ、とイオリはそう言った。
「当然、私も辞退するっす」
「なんだ。つまらねぇな」
イチカの意思表示に、ミコトは言葉の通りつまらなそうにしたが、すぐに笑った。
「だが、俺の弟子になるってのは撤回できねぇよ」
「いや、だから、私は──」
「ヒナにな、言われてんだ」
弟子入りまで拒否しようしているイオリに、ミコトは笑いかける。
「次期風紀委員長として、鍛えてやれってな。そしたら戦ってくれるって言うんだ」
「ひ、ヒナ委員長!?」
無情な事実に、イオリは悲鳴を上げた。
「ツルギからもだ。お前イツカだっけか? 文句ねえよな?」
「イチカっす。そんな変な死に方をしそうな名前じゃないっすよ」
はあ、とイチカは諦めたように肩を落とした。
「私は個人的に興味があります。
いずれC&Cを率いる者となる為、ネル先輩が卒業してもその後を引き継ぐ為にも」
「イズナも、弟子入りは希望しています!!」
トキとイズナはそう答えた。
「トキは知った顔だが、お前がイズナだよな?
ミチルっち頭領から話は聞いてるぜ。新しい下忍が入ったってな」
「はい、イズナはかっこいい忍者になる為、修行中です!! ご指導ご鞭撻、お願いします!!」
「よし、気に入った。バシバシ鍛えて、キヴォトス最強の忍者にしてやるよ!!」
はい、とミコトにイズナは元気よく答えた。
「んじゃ、お前ら体操着に着替えて来い。あそこに全サイズ用意してある」
ミコトがそう言うと、デスサイズの面々が体操着を持って来た。
「“あのー。何で私まで……”」
「んじゃ、行くぞー」
先生の声はミコトに聞き入れられなかった。
こうして、ミコトの弟子入り生活が始まった。
「まずお前らの限界を見る。血反吐を吐くまで走りやがれ」
と言うことで、全員走り込みから始まった。
「“はあ、はあ……”」
「先生、大丈夫ですか?」
「ミコト先輩、少しペースを落としましょう!!」
各学校の生徒は、粒ぞろいのフィジカル強者。
特にイズナは先頭を走るミコトに並んでいる。
しかし先生はそうではなかった。
「その辺に置いておけ!! どの程度体力があるかで何をさせるか決める!!」
と、ミコトは肩越しに後ろを見てそう言った。
「“いいよ、みんな……私を置いて先に行って……”」
「先生……分かりました」
「ふん、情けないな」
ハスミが心苦しそうにしていると、イオリは先生に近寄って肩を貸した。
「“イオリ!?”」
「先生を置いてなんて行けないだろ」
「……付き合うっすよ」
「“イチカも、ありがとう……”」
反対側から、イチカが先生を支える。
生徒達に支えられ、先生は感涙を流した。
「ぐぬぬ、タイミングを逃しました。お二人共、お疲れなら次は私が」
先頭付近を走っているトキは後ろで起こっているドラマに歯噛みしつつも、横を走るイズナが不安そうなことに気づいた。
「どうしたのですか、イズナ」
「いえ、イズナも主殿をお助けしたいのは山々なんですが……」
イズナはちょっと口をもにょもにょして、自分の思考を言葉にしようとした。
「無理にイズナ達に付いて行っても、主殿の為にならないのでは……」
「あッ」
トキも気づいた。
どれだけ走れたかで何をさせるか決める、とミコトは言っていた。
無理に走行距離を伸ばしても、それは自分の首を絞めるのではないのか、と。
そして、それは現実になった。
「全員フルマラソンをクリアか。
じゃあ、全員同じだけの負荷を掛けても問題ないな」
数時間掛けてフルマラソンの距離を走らされた面々を見て、ミコトはそんな言葉を投げかけた。
「“え、私も……?”」
「たりめぇだろ」
ミコトはおもむろに、先生の下っ腹を掴んだ。
うっ、と呻く先生。しかしそこには贅肉が確実に付いていた。
「これが引っ込むまで、シャーレには帰さねぇ」
「“そ、そんなぁ”」
「先生。安心してください」
そこに、ユエが現れて先生にこう言った。
「先生の雑務は、私や当番の生徒で処理しておきますので。連邦生徒会にもこの事は通達しています」
「“に、逃げ場が無い……”」
先生が戦慄していると。
「お前ら二人は特に厳しくしてやる。先生を抱えて走れたんだから、特にな」
「うう、墓穴掘ったかも……」
「すみませんっす、先生……」
イオリとイチカもミコトの迫力に慄いている。
「ミコト、先生には手心を……」
「ハスミ。てめぇにも一切容赦しねえし、食事制限もすっから覚悟しとけよ」
「そ、そんな!?」
「その辺についてもツルギにはよく言われてんだ」
「ツルギが!? ……恨みますよッ」
ハスミはミコトに提言をして撃沈していた。
「そうだ、お前イチカっつったか?」
「は、はい。なんすか、ミコト先輩……」
「俺はお前みたいなのをよく見るんだよ」
全員が息を整えている中で、ミコトはイチカに歩み寄る。
「……何が言いたいっすか?」
「お前に、キヴォトスのテッペンの景色を見せてやる。本物の強さをな」
「本物の強さ……」
「それを手に入れられた時によ、自分が何なのか分かるかもしれねぇ。
お前らはもうそれなりにそこそこ強いが、壁を越えられてねえ」
ミコトは、弟子となった四人に見せるつもりだった。
各学校の最強と呼ばれるような、そんな生徒達が見る景色を。
「お前らをキヴォトスで次世代の最強にしてやる」
そうなるまで帰さない、ミコトはそう言っているかのようだった。
「ところで、ミコト先輩。先輩に弟子入りとなれば、その流派とは?」
トキの質問に、ミコトはこう言った。
「武天神剣流だ。古武術の類だが、剣技だけを重視してるわけじゃねぇ。
精神と肉体、そして技量。そのバランスを重視してる。どれを欠いても脆くなるからだ」
ミコトは師範代として、各学校の四人を強くするつもりだ。
「そして、最終的に」
「最終的に?」
「心底強くなったお前らを、俺が喰らう!!」
獰猛な笑みを浮かべるミコトを見て、先生と生徒達はああやっぱりこうなったか、と思ったのだった。
キヴォトス最強クラスを目指し、彼女たちはこうして集結した。
それではまた、次回!!