転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第100話 村人転生者、ゆっくり帰村する (3)

「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしています」

工房の玄関先で元気な声を掛け、両手を前に組み深々とお辞儀をするセシルさん。

そしてそのたわわな双子山が更に強調された上に谷間が露になった姿に、視線が釘付けになるボイルさんとジェイク君。

ボイルさんは分かる、大人だし、まだまだ頑張れるお年頃だし、ドレイク村長代理よりも全然若いし。

ジェイク君、君はまだ九歳だからね?気持ちは痛いほど分かるけど色々自重しようね?ケビンお兄ちゃんは君が将来女性に弄ばれないか心配でなりません。

王都の女性は凄いらしいからな~、ジェイク君とジミー、マジで気を付けて。

 

それとジェイク君、先程からエミリーちゃんがブリザードが吹き荒れる雪原の様な気配をぶつけて来ているのに早く気付いた方がいいよ?(わたくし)、メアリーお母様を見て育っていますのでその辺の恐ろしさはよ~く知っております。我が家のオーガが直立不動になって冷や汗を掻いている姿は、夢にまで出て来たもんな~。

男はその辺きっちりしないと背中からブッスリですからね?本当に気を付けてね?

 

それで気になるのはフレムさんの事ですよね、いや~、もうね、やっぱりドワーフの鍛冶師はイメージ通りでしたわ。鍛冶場の中で大きな声で雄叫びを上げたフレムさん、行き成り鍛冶仕事を始めちゃうんだもん。

こっちの存在完全無視、と言うか一切目に入ってないって言う感じで声すらも届かないって言うね。それで困っていた所に奥さんのセシルさんがやって来て、呆れた顔をしながら“ああなったらもう無理、当面帰って来ないわ”と教えてくださいました。

作ってもらう剣鉈の細かい打ち合わせって一切してないんだけど大丈夫なんだろうか?まぁ腕輪収納の中にくず鉄インゴット擬きはまだまだ仕舞ってあるんで良いんですが。

 

夜の清掃作業で集めた鉄くずは基本全部インゴットにしちゃってるからな~。中には数点見本用にとってあるけど、流石に刃物類はまだ打てないんですよね~。

試しに鋳物で作ってトンテンカン調整してみたんだけど、どうもしっくりこない。やっぱり武器は難しいです、まずは農具からチャレンジですね。

 

それに最初の頃は金属をヤスリで削って粉にしたり魔力を纏ったナイフで削ったりしてから溶かしていたから、それほど多くの鍛冶仕事をしてないんですよね。<破砕>が金属にも効くって気が付いたのってつい最近だもんな~。

あまりのちまちました作業にイラついて“やってられるか~!<破砕>!”って言いながら殴ったら出来ちゃったって言うね。

その後は逆に落ち込んだもんです、“今までの苦労って一体・・・”って奴ですね。

まぁお陰でインゴットだけは沢山あるって言う訳です。そこで疲れちゃって止めたとも言いますが。

 

一切反応しなくなっちゃったフレムさんは一旦放置、セシルさんに材料のインゴットを渡して剣鉈の作製を頼んだことを告げ細かい契約を決めようとしたんですが、支払い工賃がですね~。

あの状態に入ったフレムさんは採算度外視で仕事をするそうで、へたをすると“いい仕事をさせて貰った、持って行きな”とか言い始めるとか。

それはまずいでしょ、ドイル工房が経営破綻したら素晴らしい武器が手に入らなくなってしまうじゃないですか。

 

ですんで当面の資金と言う事で金貨一枚をお渡しし、冬の授けの儀を受ける為に領都に行く際に立ち寄って清算及び商品受け渡しを行う事に致しました。

何でそんな大金を持っているのかって?あのね、俺が村でどれだけ働いたと思っているのさ、使う所も無しで木札が貯まる一方だったのよ?

今回マルセル村を出発する前に村長の所で確り両替しましたとも。私、そこそこ小金持ちでしてよ?

 

で、そこで先程見せて頂いた新作の剣を眺めてため息を付かれているご老人はどうなさったのですかな?手持ちが足りない?そこまで使わないと思って持ってこなかったと。

まぁ必要以上にお金を持ち歩くのは危険を呼び寄せるだけですからね、護衛任務をしている身としては正しい行動かと。こんな出会いがあるなんて想定外もいい所ですからね。

 

「・・・・貸して欲しいんですね、分かりましたからそんな捨てられた角無しホーンラビットみたいな目で俺を見るのは止めてください。村に帰ったらちゃんと返してくださいね、ハイポーションの代金もあるんですから頼みますよ?」

 

俺がそう言うと“そうじゃった~”と言って頭を抱えるボビー師匠。まぁ今回はマルセル村の野菜がいい値段で売れましたし、ドレイク村長代理も護衛代金をはずんでくれますよ、多分。

 

結構な売り上げにホクホク顔のセシルさん、まぁ俺も鋏やら包丁やら鍋やら鉄瓶やら色々購入しましたしね。既に誰も俺のカバンについてツッコミは入れないんですね、こちらとしては大変助かります。

 

工房の玄関先まで出て慇懃にお辞儀をしてくれているセシルさんに礼をし、荷馬車に乗り込みってちょっとごめんなさい。

俺は既に荷馬車に乗り込んでいる皆に断りを入れてからセシルさんの所へと向かいました。

「あの、セシルさん、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「えっとケビン君だったかしら?どうしたの、何か買い忘れでもあったかしら?」

俺は右手の拳を握り親指と小指を立てた後、それを胸に当てながら話し始める。

 

「私は森の風の里の者の縁者です。少々気になった事がありましたので、差し出がましいとは思いましたがお声を掛けさせていただきました。セシルさんの容姿は大変素晴らしく工房を切り盛りするのには向いているとは思いますが、その色気に誘われて余計な虫も集まって来るかと。

その魅力的なお胸はもう少々小さく設定された方が良いのではないかと思います。

それとフレムさんが余り年齢の変化のわかり難いドワーフ族の方なので気が付かれておられない様ですが、お顔の年齢変化が無さ過ぎです。こちらの工房はこの街に店舗を構えて十五年以上とか、その頃から共に働いている割りに若々し過ぎる。

そろそろ首筋などに皺を付けられた方がよろしいかと。その上で美容軟膏等を使用している事を話しに折り込めば説得力になると思われます。

こちらは今度領都のモルガン商会から売り出される美容軟膏です。人に何か聞かれたらこれを使っていると言って誤魔化して下さい」

そう言いローポーション軟膏(花の香りタイプ)を手渡し、礼をする俺氏。

 

アナさんから頼まれてたんですよね、“同胞を見付けたら手を貸してあげて欲しい”って。まぁセシルさんは余り困って無さげなんでどうしようかとも思ったんですが、一応注意喚起をば。

 

「えっと、何の事か分からないんだけど、この軟膏は有り難くいただいておきますね」

「そうですね、これは私の勘違いでした。そうそう、先程エミリーちゃんが購入したペンダントのお守り、”狩りに行く者の無事を祈る品”でしたっけ?

ホーンラビットの角を使った物や世界樹の葉の形の木彫りもあるんでしたっけ。よく考えられた符丁だと思いますよ?里の者にしか分かりませんから。

何か困った事があったら辺境の地マルセル村をお尋ねください。あそこは所謂訳アリばかりですから、お力になれると思いますよ。

では世界樹の風が届きます様に」

俺はそれだけを告げると“お待たせ~”と言って荷馬車に戻るのでした。

 

――――――――――――

 

「なんじゃケビン、先程はまた何やら悪巧みでもしておったのかの?」

エルセルの大通り沿いの食堂にお昼を食べる為に立ち寄ったマルセル村一行、時間帯的に混雑していたのですぐに出来上がると言うお勧めを人数分注文。

そんな中、料理が来るまでの短い時間も購入した剣を見ながらニヤニヤしていたボビー師匠が、不意に話し掛けて来ました。

と言うかボビー師匠、食堂の中では絶対に剣を抜かないでくださいね、衛兵さんを呼ばれて大変な事になりますから。“分かっとるわい”ってその目は絶対分かってない目ですから。

 

「それでさっきですが、“魔鉄”について聞きに行ったんですけどセシルさんはあまり良く知らなかったみたいでして。今度授けの儀で領都に行く際に受け取りに来るって事になってるので、その時にでもフレムさんに詳しく聞くって事になったんです。

ボビー師匠は魔鉄って言葉を聞いた事ありますか?愛読書の勇者物語にはミスリルやアダマンタイトって言葉は出て来るんですが、魔鉄って金属は出て来なかったんですよね」

 

「あぁ、魔鉄じゃな、よく知っておるよ。と言っても冒険者としての知識じゃがな。お主も知っておるミスリルやアダマンタイトは俗に魔法金属と呼ばれておる希少な金属じゃ。ミスリルの剣は魔法伝導率が非常に優れ少しの魔力でも鉄や岩を紙の様に切り裂くと言われておる。

儂も一度だけ王都の騎士団長がその剣を振るっておる所を見た事があるのじゃが、ワイバーンを一刀のもとに切り裂いておったわい。ワイバーンの皮膚は鋼の剣でも切る事が叶わんと言われておるんじゃがな~。あの時は彼我の差に愕然としたもんじゃわいて。

金級や白金級冒険者の中にはミスリル製の剣を持っておる者もおるが、それらは大概ミスリル入りの剣じゃな。剣身の製造工程でミスリルを混ぜ合わせる事で魔力の通りのよい丈夫な剣を作る事が出来るらしい。ただあまりに割合が低いと大した効果はないそうじゃがな。

それでも先程ゆうた騎士団長の持つ総ミスリル製のものには全く歯が立たんとは思うがの。総ミスリル製の物はそれほどまでに隔絶しておったわい。

 

アダマンタイト製の武具は頑強さに特化しとるかの。魔力の通りではミスリルに及ばんものの、その丈夫さにおいては他に追随を許さん。嘘か本当か総アダマンタイト製の剣はドラゴンに踏み潰されても剣身が折れ曲がったりせんかったと言われておる。

この金属も鉄鋼製の剣を造る際に混ぜ込む事で頑強な剣を作る事が出来ると言われておるの。流石に儂も総アダマンタイト製の剣や武具は見た事も聞いた事もない。それほどまでにこれらの金属は高価で希少と言う事じゃ。

 

で、肝心の魔鉄じゃが、これはそれなりに産出量がある金属じゃ。主に魔境と呼ばれる様なより魔力の濃い土地の鉱山から掘り出されるらしい。

これはミスリルやアダマンタイトもそうなのじゃが、魔鉄の方が断然産出量が多いのじゃ。要は魔力が色濃く染み込んだ鉄じゃな、その為魔力との馴染みも良く自身の魔力を通す事でよう切れる。

金級上位や白金級の冒険者、上級騎士などが好んで使う剣の材料と言われておる。

 

これらの魔法金属で作られた剣の中には時々魔剣と呼ばれるものが存在するらしい。その製法や工程が一切不明と言われており、偶然の産物、神からの賜りものなどと言う者もいるくらいじゃな。

儂も過去盗賊団討伐に参加した際に、その頭目が持つ魔剣”獄炎”と対峙した事があるわい。下手に打ち合うとこちらの剣が溶かされてしまうと言う厄介な剣ではあったが、打ち合わねば何と言う事もない代物ではあったかの。まぁあの剣はダンジョン産の物であったのじゃがの」

 

流石は元白金級冒険者、思った以上に詳しかったです。そうですか、魔鉄って魔力の通りの良い金属の剣の材料って事なんですか。

 

「あの、ボビー師匠。金属の武器って魔力の通りが悪いんですか?その辺よく分からないんですけど」

 

「そうじゃの、基本金属は魔力との親和性は悪い、その点では棍棒や杖と言った木製武具の方が魔力はよく通す。素材がトレント種の物や聖樹と呼ばれる物であればさらに魔力の通りは良いであろう。

魔法使いが威力増幅の為に杖や短杖を使うのはその為じゃな。要はヨシ棒やお主のスコップと同じじゃな、ただ普通は魔力を通す為の機構が必要ではあるがの、その為に杖職人や魔法武具職人がおるのじゃからの。

昔から魔道具職人の間では普通の鉄製武具に魔力を通す研究が行われておるらしいのじゃが、いまだ成功したと言う話は聞かんかの。」

 

「へ~、そうなんですね~。

・・・マルセル村では皆出来ますけど?」

 

「じゃからそれっておかしいからの?ジェイク、エミリー、ジミー、お主らもよく聞いておくんじゃ。普通の剣に魔力を纏わせる技は金級冒険者になる迄見せてはならん。それこそ己の命に関わる場合は別じゃが、確実に厄介事を引き寄せるからの。

先も言ったが木製武具、ジェイクの木刀やエミリーの棍棒なら問題ないわい。エミリーの棍棒はおそらくトレント種のモノじゃ、こ奴がそんなものをどこから手にして来たのかは考えてはいかん。“ケビンじゃから仕方がない”としておくんじゃ。

この際じゃ、ジミーもケビンに作って貰っておくんじゃ、言い訳の道具は必要じゃからの」

 

「ちょっと魔鉄の事を質問しただけなのにこの言われ様、なんかとっても理不尽。

それとジミーの木刀は既にございます、ただどこまで背丈が伸びるかが分からなかったんで渡してなかったんですよね。一応大人用で作ってあるけど、大きさが合わなくなったら言ってね」

 

そう言いカバンの中から木刀を取り出し手渡した俺に、なぜか冷たい視線がですね~。

 

「ありがとうケビンお兄ちゃん。でもこういう物はこの護衛任務が終わってから“よく頑張ったね”とか言って渡した方がいいよ。その方が盛り上がるでしょう?」

弟ジミーに空気の読めない奴認定を受ける兄ケビン。その後に頂いた昼食は、塩味が良く効いていたそうでございます。(T T)




本日二話目です。
100話です。
なんかこう言うキリバンってついお祝いしたくなりません?
特に何があるって訳じゃないんですが。
いってらっしゃい。
by@aozora
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