転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第101話 転生勇者、マルセル村に到着する

オーランド王国北西部に伸びるフィヨルド山脈、そこは大魔境と呼ばれ多くの強大な力を持つ魔物が跋扈する地と呼ばれている。そんなオーランド王国最大の危険地帯を一部所領地とし、隣国ヨークシャー森林国との緩衝地帯の役割を果たす地、グロリア辺境伯領。その北西部に位置し、大魔境フィヨルド山脈の裾野に広がる特級危険地帯大森林に最も近いとされる村、マルセル村。

そのマルセル村の入り口に建てられた二本の柱の一つに身を預け、遠くゴルド村へと続く街道をじっと見詰め続ける一人の少女。

 

「ん。」

何かに気が付いた彼女はその場を離れ、村の中心村長宅に向かい走り出す。その顔は何を考えているのか分からない様な死んだ瞳であり、表情筋が死んでいるかの様に無表情ではあるが、普段彼女と行動を共にする少年が見たのなら“テンション爆上がりじゃね?”というくらいに嬉しそうであった。

 

初めての遠出、初めての護衛任務。緊張の中向かったミルガルの街は、果てしなく遠かった。マルセル村の外は広く、色んな人や物に溢れていた。

そこで出会った多くの人や物。

魔物との戦いがあった、大人たちの思惑や害意を知った、優しい人や美味しい料理と出会った。殺意を持って殺しに来る者がいると言う事を知った、他人を獲物としか思わない人間がいると言う事を知った。

強くなったと思っていた、冒険者として今でもやって行けるだけの実力があると思い込んでいた。甘かった、この世界はそんなに甘くないと言う事を数多くの体験が教えてくれた。そして絶望的な恐怖を纏った絶対的な魔物がいると言う事を知った。

 

野営最終日、月明かりに照らされた薄暗い草原の中、満天の星々を眺めながら仲間たちと話し合った。“ジミー、エミリー、俺たちは弱いんだな。”と。

学ばなければならない事が沢山ある、やらなければならない修行が沢山ある、刻まなければ生き残れない覚悟が沢山ある。

剣の師匠グルゴさんは言った、“後は経験を積んで行くしかない”と。

ケビンお兄ちゃんは強かった、ケビンお兄ちゃんは賢かった、ケビンお兄ちゃんは全てを背負って恐怖に立ち向かった。ケビンお兄ちゃんはこの村から出て他所でいろんな経験を積んだ訳じゃない、この村の大人たちと接しながら日々学び成長して行ったのだ。

俺たちも学ぼう、この村の大人たちから。良い事も悪い事も、色んな経験を積んでこの村に辿り着いた多くの仲間たちから。

先ずは両親と話をしよう。この村で経験した事、感じた事、学んだ事。そして教えを乞うのだ、自分たちが目標とする世界を旅する冒険者になる為に。

少年ジェイクは弱い自分を認め、今回の旅を通じて自らを見詰め直し、より高みに上る決心をするのであった。

 

「ドレイク村長代理、只今無事帰村する事が出来ました。途中問題が生じた為予定より一日帰りが遅くなり、多くの方々にご心配をお掛けした事を心よりお詫びいたします」

今回の商隊のリーダーであるボイルさんが、ドレイク村長代理に旅の帰還の報告と予定がズレてしまった事の詫びを行う。

実際旅をしてきた俺からすると、遅れた事は仕方がないと言うよりも、よくぞ無事にマルセル村に送り届けてくれたと言う感謝の気持ちしかない。それ程今回の旅は過酷で想定外の事態が多かったのだ。

 

だがそう言った事情は当事者の話しであって、俺たちの帰村を胸を痛めながら待ち望んでいた家族の者にとっては関係がない。俺たちからしたらボイルさんは何も悪くないと言いたいが、そこはきちんと筋を通し謝罪するというのが大人の社会と言うものなのだろう。

 

「いえ、謝罪はいりません。旅の行程を気にするあまり危険を冒してしまっては本末転倒、ケビン君の言葉ではありませんが”命大事に・安全第一”です。こうして皆さんが無事に帰村してくれただけで十分。子供たちの顔付きを見ればこの旅がどれほど大変だったのか、そしてどれだけ子供たちを成長させてくれたのかが分かります。

本来であれば皆さんの帰村と子供たちの無事を祝って祝宴と行きたい所ですが、皆さんの疲労は皆さんが思っている以上に溜まっている事でしょう。ですので酒宴は明日に持ち越しし、今日はボイルさんとボビー師匠に軽い報告だけして貰って解散といたしましょう。

ジェイク君、エミリーちゃん、ジミー君、本当にお疲れ様。今日は家に帰ってゆっくり休んでください。ヘンリーさん、トーマスさん、ここに来る事の出来なかったメアリーさん、マリアさんと共に子供たちの雄姿を褒めてあげてください。それとエミリーちゃんをミランダの所へ送って行ってください。

エミリーちゃん、私は少し仕事をしたらすぐに帰るからね、先にお家に行ってお母さんに甘えておいで。

 

それとケビン君、今回は本当にありがとう。子供たちの顔を見れば彼らがケビン君から多くの学びを得たと言う事が分かるよ。

“命大事に・安全第一”、本当にいい言葉だと思う。ケビン君からも詳しい話しを聞きたい所だけどそれは明日にしよう、今日は家に帰ってゆっくり休んでくれ。

それじゃ、また明日。本当にお疲れ様でした」

 

ドレイク村長代理からの言葉は、終始僕たちを心配していたことが伝わるとても暖かいものだった。僕たちを迎えに来てくれたお父さん、家で心配しながら待っていてくれるお母さん。俺は本当にいい村に生まれた。

少年ジェイクは改めて思う、俺は転生者“赤髪のジェイク”なんかじゃない。トーマスお父さんとマリアお母さんの子供、マルセル村のジェイクなんだと。

 

「ジェイク、本当によく頑張ったな。旅の話しは家に帰ってから一杯聞かせてくれ。それと今夜はお前の大好きな角無しホーンラビットのスープだ、ドレイク村長代理が子供たちが旅から帰って来たら食べさせてあげて欲しいと言って譲ってくれたんだ。沢山あるから腹いっぱい食べような」

 

「うん、ありがとうお父さん」

そう言い父トーマスに抱き付くジェイク。父トーマスの笑顔を見て安心したのか、旅の緊張から解放され抱き付いたまま眠りについたジェイクに、“コイツもまだまだ子供だな”と優し気な笑みを浮かべるトーマスなのでありました。

 

 

―――――――――――――

 

濃かった。マジで濃かった。

村から出るのが四回目の俺がこんな事を言うのって烏滸がましいかもしれないけど、この世界の旅って目茶苦茶過酷じゃね?

ゴルド村を過ぎたらグラスウルフの群れが普通にいるし、何もしなければ平気で襲って来るし、オークの森は笑っちゃうくらいオークが待ち構えてるし、こんなの護衛さん大忙しじゃん。

モルガン商会の行商人ギースさんの護衛の草原の風の二人、領都からの往復で大銀貨五枚、安いわ、めっちゃ激安だわ。

毎日命懸けよ?獲物は自分たちの物になるって喜んでるけど、この世界の命の価値って本気で軽いからな~。まぁ他所の国の事は知らないんですけどね、危険なのもグロリア辺境伯領だけかもしれませんし。

近隣の村も即身仏寸前の親子はいるし、隠れ住むエルフや侯爵家ご子息はいるし、もう無茶苦茶。この村だってえらい事情を抱えてやって来た人が結構いるもんな~、何とも世知辛いっす。

 

世知辛いって言えば帰りの道中で襲ってきた盗賊村、何なの一体。街道沿いの村が追い剥ぎなんてしようものなら、チョウチンアンコウの罠と変わらんやん。入れ食いですよ、入れ食い、そりゃ止められんわな。

人間一度甘い汁を吸っちゃうと駄目だね、今回だけ、この一回だけ仕方なく、苦渋の決断だとか言いながら歯止めが利かなくなって行ったんだろうな~。だってあのナイフ少年、“何で自分が捕まらなくっちゃいけないんだ、理不尽だ”って目をしてたもん。悪気と言うか罪悪感なんて一切なかったんだろうな~。

そんな奴が普通にいい顔をして隣人をやっている様な世界、と言うかこの国、めっちゃ怖い。でも行商人様とかに話したら割と良く聞く話とか言われるんだろうな、あの方こういった話に詳しいから。常に警戒心を忘れない、今まで無事に行商を続けて来れたのってそうした影の努力のお陰なんだろうな。

 

「ケビン、今ジミーに聞いたんだが、今回の旅は相当に頑張ったそうだな。よくやってくれた、ありがとう。家に帰ったらお前が誕生日の時腹痛を起こして食べ損なった角無しホーンラビットの香草焼きが待ってるからな、楽しみにしておけよ」

 

うぐ、角無しホーンラビットの香草焼き、めっちゃ食べたい、めっちゃ食べたいんだけど今日はと言うか今夜は駄目なんす。

「あの、それって俺の分取り分けておいてもらえませんでしょうか?いや本当にお願いします、今回食べ損なったら本気で泣いちゃうんで。

自分今日は畑の小屋に泊まらないといけないんすよ、誠に残念ではあるんですが」

 

「ん?あぁ、そう言う事か。すまんケビン、本当に世話になったようだ。いつもお前に負担ばかりかけるな」

 

「適材適所、今回は仕方がないかと。詳しくはジミーに聞いて下さい、とんでもない冒険譚ですから。

それじゃまた明日の朝、ぜったい俺の分とっておいてくださいよ、お願いしますからね」

そう言うや俺はその場を離れ、一人畑の小屋に向かうのでした。

 

「お父さん、ケビンお兄ちゃん自分の事“俺”って言ってたけど」

「あぁ、あれは相当に余裕がないんだろうな。普段だったらあんな隙は見せない奴だからな」

「僕たちケビンお兄ちゃんに寄り掛かってばっかりだったんだね」

「まぁその辺の詳しい事は家に帰ってからゆっくり聞かせてくれ。先ずはメアリーに元気な顔を見せてやらんとな。ケビンの事は上手い事言っておくか」

 

一人走り去っていく兄の背中を見詰め、何やら考え込むジミー。そんな兄を思うジミーの姿に嬉しくなると共に、後でメアリーにお説教されるんだろうなとげんなりするヘンリーなのでありました。

 

――――――――――――

 

“シュ~~ッ”

湯気を出し音を立てる土瓶。五徳に掛けられたそれの取っ手を持ち、温かい麦茶を湯呑に注ぎ入れる。差し出された温かく湯気の立つ湯呑を手に取り、よく息を吹き掛けながらズズズと音を立て麦茶を口に含む。少年ケビンは鼻腔に広がるほんのり甘い香りを楽しみながら、ゆっくりと口を開く。

 

「ただいま、アナさん。色々報告したい事や土産話はあるけど、今はその余裕がないみたいです」

そう言い挙げた彼の右の手の人差し指には、武骨な指輪が嵌められている。

 

「平常心の指輪、確か最初に使ったのは村に野盗の集団がやって来た時でしたっけ」

「丁度スカーフが完成した頃でしたか。流石にあの頃はこれほど何度もマルセル村が襲われる様になるとは思いませんでしたけどね」

そう言いどこか遠くを見るような仕草をするケビン。

 

「でもケビン君がその指輪を使ったのは、最初の一度だけじゃありませんでした?それからは比較的淡々と清掃作業を行っていた様でしたが」

「まぁ初戦は対人戦と言う事もあり相当ビビっていましたんで。実際ゴミの処理を行ってみたら大した事が無かったってだけなんですが、意外にも人を殺めていると言う忌避感が然程生まれなかったんですよね。殺しに来る者を処分してなにが悪いのかと言った思いの方が強かったんだと思います」

“ズズズズズズッ”

 

「でも今回は駄目ですね、身体の奥から限界だって言う合図が出まくってますから。途中で何度かポーションビッグワームを食べたんですけど・・・。

この指輪をアナさんがくれた時に言っていた注意事項、心の臨界点でしたっけ?そんなもの軽く突破した状態だったみたいです。相当騒がしくなりますんで、遮音の魔術を掛けておいてください。

明日の朝までには何とかなるかと、何とかなって欲しいってのが本音ですが」

そう言いどこか情けない様な顔をしながら席を立つと、小屋の奥にあるトレーニングルームに向かうケビン。

 

「あぁ、この部屋でどんな物音がしても絶対に開けないでくださいね、俺自身どんな事になるのか分からないので」

 

それだけを告げると部屋に入り、中から(かんぬき)を掛け閉じ籠るケビン。

その後ケビン少年の十数時間にも渡る孤独な戦いが繰り広げられるのだが、アナスタシアはその終わりを扉越しにじっと待ち続けるのでした。




本日一話目です。
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