転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第102話 村人転生者、友の温かさに触れる

人が人を殺す、それはどのような場合においても強い忌避感を生じる行為である。多くの魔物と戦いその悉くを(ほうむ)って来た狩人でも、人を殺せと言われれば躊躇し、その手を震わせる事だろう。

だがそれは戦場においては大きな弱点となる。その動揺と戸惑いは、自らの命ばかりでなく共に戦う仲間や守るべき家族を危険に(さら)す事に他ならない。

欲望を強い原動力とし発展繁栄して来た普人族たちは、そうした行為を“童貞を卒業する”と称し、心の中に自分なりのルールを作る事で克服してきた。彼らは他者をどん欲に喰らい、己が力とする傲慢さを持っていた。

 

だが森を愛し、自然と共に在る事を生きる指針とする種族の者にとって、いくら自分たちが生き残る為とはいえ人を殺める事に戸惑いを覚えない者などいなかった事であろう。そんなある意味“弱点”を抱えた彼らは、自分たちの心の弱さを克服するべく一つの魔道具を作り出した、それが“平常心の指輪”である。

その効果は“常に平常心を保つ事”、どのような状況下であろうとも一切に惑わされず普段と同じ心持に整えてくれると言うものであった。

 

その使用効果は絶大で、どの様な場合においてもそれが己にとって必要な事であれば確り割り切り、普段同様の落ち着いた判断を持って行動する事が出来る様になった彼らは、普人族により攻め込まれた際も多くの同胞を救い生き残る事が出来る様になって行った。

 

だがこの指輪はその時に感じた戸惑いや畏れ、後悔や恐怖と言ったものを消してくれる様なものではなく、一時的に先延ばしにする事で平常心を保つと言った効果を作り出すものであった。

人の心と言うものは弱い、強制的に感情を消し去る事は人ならざる存在を作り出す行為に他ならない。森を愛し人を愛する者たちは、己が人足らんとする為に、全てと向き合い全てを受け入れる道を選んだ。

そしてそれは同胞の為に自ら蕀の道を進む者たちに敬意を込めて“戦士の試練”と呼ばれる様になって行った。

 

 

“はぁ~、どうしてこんな事になっちゃったんだか”

俺は畑脇の小屋にある何時ものトレーニングルームの中で、右手の人差し指に嵌められた無骨な指輪を眺めボソリと呟く。

何であんな化物がいるんだよ、外の世界怖過ぎだろうが!いや、そりゃ何が起きようとも全員が無事に村に帰れる様にって準備はしてたよ?ジェイク君に驚かれるくらいに過剰とも言える食糧備蓄、薪や布、各種ポーションと考えうる対策は全て打っていたさ、いたけどさ。想定外もいい所だろうが、あんなん誰も勝てんわ!

ボビー師匠があの場に残る?瞬殺ですって、遺言すら残りませんっての。

 

あの場では言わなかったけど、奴の移動スピード尋常じゃなかったからね?五キロ近い距離の移動が二十秒程度だったもんな~、逃げろとは言ったけど逃げ切れないっての。俺が残って出来るだけ時間を稼いで、あの化物の魔力感知範囲の外に逃れて貰うしかなかったんだよな~。あの化物の様子だとそれも焼け石に水だったみたいだけど。

全てを飲み込む深淵の闇、呪いと怨嗟の具現化。チビッ子たちはあの一瞬しか見てないから大丈夫だと思うけど、まともに姿を見ていたら一生のトラウマものだよ?

ボイルさんが前だけ向いていてくれて本当に良かった。でも後で全員にジャイアントフォレストビーの光属性魔力水割りを飲ませとかないと、影響が残っててもおかしくないしね。

 

で、そんな厄災の足止めの為に火中に飛び込んだ俺氏、まともな精神を維持出来る自信なんて御座いません。本気で逃げ出したかったです、本能を無理矢理押さえ付けての参戦で御座いましたから。

そりゃ誰だってギロチンに自分から首を突っ込まないっての、上空から噴火口にダイブするのと変わらん行為よ?

この指輪がなかったらあんなに冷静に行動出来なかったし、それについては感謝以外のなにものでも無いんだけどね、今にも心が壊れそうなくらい感情を押さえ付けてるんですよね~。

この指輪って恐怖を先延ばしにしてるってだけだからな~、無理やり押さえ込んでいる感情を解放してやらないと廃人まっしぐら、どっちにしろ選択肢なんて無いんだけどね。ポーションビッグワーム万能説が崩れるとは、う~、指輪を外すのめっちゃ怖い。

 

俺は床板にドカッと腰を下ろし無骨な指輪をじっと見詰めた。

魔力の腕輪さん、俺の全魔力預かってくれる?魔力回復が起きない様に片っ端から吸い出して下さい。そうだな、明日の日が昇るまではそんな感じで。

収納の腕輪は箱にしまったし、これで準備完了っと。

 

“はぁ~”

ため息を一つ吐き引き抜かれた指輪、身体の変化はすぐに訪れた。

“ウェッ”

吐き出される胃の内容物、全てを吐き出しても終わる事のない嘔吐。全身がガタガタと震え、奥歯がガチガチ音を立てる。目の前がチカチカとしてまともに前が見えない、耳はキーンと甲高い耳鳴りに襲われる。

“ウガーーッ”

全身のあちこちが痙攣を起こし強烈な痛みが身体中を駆け抜ける。その痛みに悶え苦しみながらも心はある感情に支配される。

“怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い”

心の全てが恐怖心に塗り固められ、それ以外の思考を許さない。

 

「ウワーーーーーーーー!!来るな!来るなーーー!!」

思わず上げる叫び、その絶叫は部屋全体に響き渡る。

暴れまわり所構わず叩き付けられる身体は、骨が折れ血が吹き出し、尋常ではない様相を呈している。だがケビンは暴れる事を止めない、止められない。

心の底から、身体の芯から溢れる恐怖心が、不安が、自傷行為とも取れるそれを止めてはくれない、止める事を許さない。

 

“ガーーーーーーーッ!!”

獣の様な咆哮を上げ暴れまわるケビンの孤独な戦いは、日が落ち、夜が深まり、明け方の空が白み始める時刻まで続けられる事となった。

 

 

“シュ~~”

囲炉裏の五徳の上で、湯気を上げ音を立てる土瓶。

“ガタガタ”

 

土瓶の取っ手を掴み、用意した湯呑みに癒し草の煮出し茶を注ぎ入れる。これはとある少年が“偽癒し草も癒し草も魔力が含まれているかいないかの違いしかないんだから、癒し草を煮出して飲んでもよくね?”と言ってやり始めた飲み方。要はローポーション作成の途中迄の工程なのだが、そんな事は関係無いとばかりに楽しんでいる一品である。

ローポーション作成ではなるべく新鮮な癒し草の方が品質の良い薬を作れるとされているが、お茶の場合はよく天日に干し乾燥させたものの方が味わいのあるお茶になる。副次的に胃腸を整える効果も確認されており、身体に優しい薬草茶と言えるだろう。

 

“ガタッガタガタガタ”

音を立てて開かれた扉、それと同時にツンと鼻に付く錆びた鉄の様な臭いに、お茶の準備をしていた女性が悲しげに眉を下げる。

扉から出て来た少年にそっと湯呑みを差し出し、囲炉裏の前の女性が言葉を掛ける。

 

「ケビン君、お帰りなさい。貴方は“戦士の試練”を乗り越えた。

貴方は太陽の心を持つ者。これからもし我らが同胞に会う事があったなら、マルセル村の“ソル”、ケビンと名乗ると良いでしょう。それは認められた一人前の戦士である事を示します。相手も無下にはしないでしょう」

そう言い胸に拳を当て親指と小指を立てて礼をするエルフ族の女性。

言葉を掛けられた少年は同じ様に胸に拳を当て、同様の礼を返すのであった。

 

 

あ~、癒し草の煮出し茶が旨い。染み渡るってのは正にこの事だよな~。

俺はアナさんから差し出された湯呑みに口を付け、しみじみと昨日からの出来事を思い出す。

 

何とかまともに思考が出来る様になったのは明け方近くの空が白み始めた時間帯、ハッキリしない頭を振り、動き難い身体を引き摺りポーション類がしまってある箱を目指す。って足の骨折れてるじゃん。右腕も骨が飛び出てるし、左腕が無事なのが奇跡ってどう言う状況?

 

何とか床板に落ちた木箱まで辿り着き、蓋を開けて中身が無事な事にホッとする。その中からハイポーションと同等の効果のあるポーションを取り出しゴクリ、身体のいたる所が淡く光り足の骨折から骨の飛び出した右腕までもが何事も無かったかの様に治って行く様子に、“何時見ても意味が分からない”とファンタジーの理不尽さに遠い目をする俺氏。

便利ではあるんだけど、本当に魔法って何でもアリだよな~。一瞬さっき迄感覚すらなかった粘土の様な身体に強烈な痛みが戻ったけど、それすらもすぐに消えるって言うね。まぁ悶えましたけど、痛いものは痛いし!

 

にしてもな~。俺は荒れに荒れた部屋の中を見回す。棚から何からひっくり返りまくってるし、俺ってどれだけ暴れたんだか。しかもどこの殺人現場ってくらいに血だらけって言うね、恐怖に支配された破壊衝動って怖いわ~、魔力枯渇起こしておいて良かったわ~。

でも取り敢えず一度家に帰らないと。俺はこの時、この場の片付けを明日に先延ばしする決心を固めた。

 

“ガタガタ”

閂を外し扉を開けると、そこには囲炉裏に火をくべ土瓶で茶を沸かすアナさんの姿。もしかしてアナさん一晩中起きてました?なんか申し訳ない。癒し草の煮出し茶ですか、これは有り難い。

温かい煮出し茶をゆっくりと口に含む。ポーションと違い、身体の芯の部分からゆっくりと癒されて行くのがわかる。優しい味わいってこう言う事を言うのだろうか?

ジワジワと心が満たされて行く。

 

「そうそう、さっき俺の事をソルなんちゃらって言ってましたけど、俺はただの村人ですからね?森の戦士とかじゃないですから。

まぁ何か機会があれば名乗らせて貰いますが、その辺は間違えないで下さいね」

俺の言葉に慈愛の籠った聖母の様な瞳を向けるアナさん、これ絶対分かってないパターンですね。まぁ今すぐどうのって話でもなさそうなので今はよしとしましょう、疲れてるし。

 

お茶を飲み少し余裕の出来た俺は小屋を出て魔力で大きな温水球を作り出し服を脱いでダイブ、二度ほど全身丸洗いをし、収納の腕輪から着替えと手拭いを取り出してさっぱりと致しました。

髪の毛の先迄血糊がベッタリなんだもん、これって床板とかに頭でも打ち付けてたんじゃないんだろうか?よく生きてたな俺。

血塗れの服は麻袋に詰めて収納にポイ、これも明日に持ち越しです。

 

俺はアナさんにトレーニングルームは明日片しに来る事を告げると、朝食を食べる為にルンルン気分で家へと戻るのでした。

「今朝は角無しホーンラビットの香草焼きだ、ひゃっほい♪」

 

なお家に帰ると、帰村したにも関わらず顔すら見せず畑の小屋に向かった事に怒った母メアリーにより角無しホーンラビットの香草焼きは没収されてしまう事になるのだが、この時のケビン少年はそんな未来を知る由も無かった。(合掌)




本日二話目です。
昔は深夜アニメといったらテレ東ってイメージだったけど、最近はどの局も深夜アニメが。
アニメの対象年齢が子供から大人に変わったって事なんですかね。
中々録画の消化が出来ません。
by@aozora
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