転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

103 / 860
第103話 村人転生者、村長代理に報告に行く

お説教と悲しみの朝食の後身体の怠さがぶり返した俺氏、自室に戻ってベッドへダイブ。へへ、血を流しすぎちまったぜ、残念ながら増血剤なんざ持って無いのよ。

今日の午前中は完全休業、このまま昼までふて寝する所存でございます。

 

で、ぐっすり寝てたんですけどね、耳に心地好い調べに意識が覚めまして。

「えっと、天使様?もしかして俺ってあのまま死んじゃったとか?まぁ自分でも死んでもおかしくはないかなって思ってましたけど」

 

チビッ子たちは無事に村に帰る事が出来たし、魔物の恐怖と人間の悪意を知る事も出来た。こっから先は彼ら自身が歩むべき道、俺の役目はここまでって事なんでしょうね。短い人生だったとこれ迄の事を振り返るも、それなりに楽しめたから良かったなとも思う。

「あの、天使様、俺が死ぬのは仕方がないとして、この村に住むケイトと言う女の子の事をお願い出来ませんか?彼女漸く心を取り戻し始めたんです。彼女の人生はこの村に来て再び動き出したんですよ。こんな俺と仲良くしてくれた友達なんです」

“ガバッ”

 

俺がケイトの事を頼んでいると、先程まで美しい調べを奏でていた天使様が急に俺に抱き付いて来た。

「えっと天使様?どうかなさいましたか?ベッドの上で抱き付かれますと降りれませんので離して欲しいのですが?」

“ブンブンブン”

 

勢いよく顔を横に振られる天使様。

「あの、お迎えに来ていただいたのですよね?余り長居するのはよろしく無いのでは?」

 

俺がそう言うと渋々離れてくれた天使様。そのお顔は何故か不満そうでありましたが。

さて、それじゃ逝くか。最後に家族に挨拶が出来なかったのは残念だけど、それも運命。一緒に朝食をとる事が出来たし、それで満足しないとな。

 

「では天使様、お願いします」

「ん。」

 

俺が声を掛けると天使様は顔の前に手を(かざ)し、“闇の呪いよ、我が姿を偽れ”と唱えられました。

一重で細目の目元、眉はやや上がり眉毛、唇は幸の薄い細唇、髪はくすんだ茶髪のストレートヘア。

そこに現れたのはザ・田舎の村娘といった感じのモブ子。

 

「・・・ってケイトかよ、じゃあさっきのは歌姫モードかよ、天上の調べってマジで天使様かと思ったわ。と言うかめっちゃ優しげな笑みを浮かべてたんですけど?表情筋が仕事しまくってたんですけど?全く分からなかったわ。

あれ危険、超危険、お貴族様ホイホイも良いところ。ケイトさん、本気で気を付けて下さい。それと歌声、とても心地好かったです。心と身体がとても爽やかになりました、ありがとうございました」

 

「ん。」

一言の返事を返すケイトさん、あれって“何、気にするな。よきに計らえ”とでも言ってるんだろうな~。めっちゃどや顔(微量変化)だし。

「で、お迎えって所で反応してたけど、本当にお迎えに来てたって感じ?」

 

「ん。」

「ザルバさんが?あぁ、ドレイク村長代理が呼んでるのね、了解。

本当は今日は寝てようかと思ってたんだけど、ケイトのお陰ですっかり元気になったし出掛ける事にしますか。

そうそう、ケイトお昼食べた?」

 

「ん?」

「あ、まだなんだ。だったらこれ食べる?ミルガルの屋台で売ってたピタパンの肉野菜包み、けっこう美味しいよ」

そう言い腕輪収納からピタパンを取り出してケイトに差し出します。

 

“ハム、ハム!?”

うん、分かる分かる。旨いよね、肉野菜包み。この辺じゃまず食べれない味付け、若者が都会から帰って来ない訳だよ、食べ物の種類が豊富なんだもん。あの研鑽された味わいは、人々の厳しい舌に晒されないと出て来ないんだろうな~。

マルセル村の野菜や干し肉は食材としては一級品だけど、そこから先は調理人の領分。こればっかりは勝てないよね。

あ、水ですね。“ウォーター”、はい、コップ。

シマリスの様に夢中になってピタパンにかぶり付くケイトの姿に、“たまには街に行くのもいいかも、でも怖いんだよな~”とジレンマに陥るケビンなのでありました。

 

―――――――――――

 

「ボイルさん、ボビー師匠、今回は子供たちを連れてのミルガル訪問、大変お疲れ様でした。やはり子供たちを守っての旅は気苦労が多かったのではないですか?」

 

元商人のボイルをリーダーとしたマルセル村一行が帰村して二日目、村長代理ドレイク・ブラウンは村長宅に集まった引率二名に労いの言葉を掛ける。元々はこの二名のみで済ませるはずの用事に四名もの余計な連れを加えた上にその子供たちに経験を積ませて欲しいと言った無理な要求までしたのだ、無事に帰って来てくれた事だけでも感謝してもしきれない事であろう。

 

「いえいえ、私達は大したことは。昨日も話しましたが、今回は全てケビン君のお陰で無事に帰ってこれただけの事、ケビン君がいなかったら村長代理に頼まれた商談も無事な帰村も全く叶わなかった事でしょう」

村長代理の発言にそう言葉を返すボイル。そしてボイルの隣では難し気な表情をしたボビー師匠。

 

「確かに今回ばかりはケビンがおらなんだらどうなっていた事か。そもこれはジェイク、エミリー、ジミーと言う優秀過ぎる子供らを引き連れた事による問題とも言えよう。こればかりは仕方の無いことじゃが、優秀過ぎるがゆえに問題の方からやって来てしまう。

あやつらが授けの儀を受ける三年後迄に、それらを乗り越えられる力を身に付けさせる事が出来れば良いのじゃが」

“そうですね”と一緒になって考え込むボイルの様子に話の見えないドレイク村長代理が説明を求める。

 

「なに、簡単なことじゃ。儂とボイルさんだけであればただミルガルに行き野菜を下ろし代金を受け取り帰って来るだけであった。バストール商会で馬鹿な跡取り息子に野菜を値切られる羽目にはなったであろうがそれはそれ、今後の付き合いが無くなるか少なくなるだけの事じゃ、今後他の商会との付き合いが増えるであろうマルセル村にとっては大した痛手ではなかった事であろう。

じゃが今回は色々あっての、ここでは敢えてケビンのやらかしは省くぞい、話の腰が折れるでの。

 

まず子供らじゃが、ここら周辺の魔物ではまず相手にならん。ホーンラビットもそうじゃがグラスウルフ、オークに至るまで全て一撃で綺麗に倒しよる。冒険者ギルドの解体職員が感心しておったわい。

それとエミリーが祈りのスキルに目覚めおった、これはあの子が初めて教会に行き女神像に祈った事で発現したものじゃ。マルセル村には教会などないでの、分からなかっただけやも知れんがの。

ただの、これだけ優秀じゃと周りの嫉妬がの。今回行きで倒したオークは四体、これを年端もいかんあやつらが冒険者ギルドに持ち込んだらどうなると思う?騒ぎは必至じゃて。これは事前に気が付いたケビンの機転により回避出来たがの。

それとこれはミルガルの教会の司祭様の言葉じゃが、あやつらの魔力量は既に王宮魔法使いの上位のものと質・量共に変わらんそうじゃ。こんな事が知れ渡ったらどんな厄介事が振り掛かるか分かったもんではないわい」

 

そこで一旦言葉を切るボビー師匠、だがここまでの報告で既に頭を抱えるドレイク村長代理。

 

「村長代理、私からの報告はバストール商会での出来事になります。

我々が到着し通された部屋に現れたのは、商会長のご子息ガルバス・バストール様でした。彼はこの取引の目的と重要性を全く理解しておらず、また理解する気もないと言った様子でした。どうやら商会側としてはご子息に経験を積ませると共に、マルセル村との顔繋ぎを行おうとしていた様でした。

しかしながら本人が全くその事を理解しておらず、問題に発展する事は明らかでした。それもどう転んでもマルセル村に遺恨が残る形でです。そこをケビン君が機転を利かせ対処し、商会側と和解に持ち込みました。今後ガルバス・バストール様絡みの厄介事は持ち込まれないものと思われます」

 

「なるほど、それでこの契約破棄の契約書と新たに結んだ契約書がある訳ですね。しかも最初の契約の三倍の料金、これはバストール商会側の謝罪金と言う訳ですか。

そしてこの二枚の契約書は今後バストール商会との付き合いにおいて強い楔となる、全くケビン君は何者なんでしょうね」

 

「うむ、その事については余り深く考えん方が良いぞ、身体に悪いでな」

 

「そうですね、その事は今回の旅で身に染みて分かりました。お婆様がケビン君を特に気にされる訳です、あの子は別格過ぎる」

 

「あ、ボイルさん、その方の事についてはアナさんと呼ぶ様にしてください。私の胃に来ますので。ボビー師匠もこの件は流して下さいね」

 

「ドレイクよ、お主も苦労が絶えんの。

そんなお主に残念なお知らせじゃ。お主の娘エミリーが単身オークソルジャーを倒しおったぞい、しかも下腹部の一撃でじゃ。あれは見事であったわい」

ボビー師匠の言葉に動きの固まるドレイク村長代理。そしてギシギシと音が鳴りそうな動きでボイルの方を向く彼に、頷きで返すボイル。

 

「一旦お茶にしましょう」

席を立ち流しに向かうドレイク村長代理に、なんとも言えない目を向ける二人なのでありました。

 

“ズズズズズ”

カップに注がれたハーブティー(ミランダブレンド)に口を付け小休止を取る三人。まだまだ報告は半分残っていると気合いを入れ直す面々。

 

「さて、ここから先はかなり衝撃的な話が多くなりそうじゃで、忘れない内に良い話をしてしまおうかの。

ゴルド村の先、エルセルの街で素晴らしい鍛冶職人との出会いがあっての。それがあのドワーフであった為、ケビンとジェイクが興奮して大変じゃったわい。

ドワーフ族は鍛冶の名工を多く排出する勇者物語にもよく登場する種族じゃからの、実際素晴らしい剣を打っておったわい」

 

そう言い持って来た剣をテーブルに乗せるボビー師匠。“失礼します”と声を掛け鞘から引き抜いた剣身に、感嘆のため息を漏らす村長代理ドレイク。

その美しい刃文の広がる剣身は、見る者の心を惹き付けて止まない。

 

「この剣は打ち合いには向かん、純粋に切る為の(つるぎ)。儂の教える冒険者の剣としてはぴったりだとは思わんかの?ほんに良い出会いであったわい」

そう言い剣を引き取りそそくさとしまうボビー師匠に、“自慢したかったんですね”とジト目を向けるドレイク村長代理。

 

「すまんすまん、ちと空気を変えたかっただけじゃて、許せ。では続きじゃが軽い所から行こうかの。

行きの行程でケビンがグラスウルフの群れを手懐けておったぞい、どうも夜営の護衛をさせるつもりだった様じゃったんでの、子供らの訓練にならんからと解散させたがの。それとオークを雇って従魔にしておったぞい、お陰で倒したオークも問題のう持ち込む事が出来て大助かりじゃったわいって大丈夫かの?」

 

「はっ?えっ?はっ?えっと、グラスウルフの群れを雇ってオークも雇ったんですか?それってテイマーのスキルに目覚めたとかですか?」

混乱し目を白黒させるドレイク村長代理に、ボビー師匠は更なる追い討ちを掛ける。

 

「いや、ケビン曰く魔物と節度を持って接していると、何となく意思の疎通が出来る様になるらしい。否定したい所ではあるが、実際ミルガルの宿“ブラックウルフの尻尾亭”の主人も他者の従魔と普通に会話しておったからの、なんとも言えんの。

で、次は少し重い話になるの。帰りの道中で三度ほど襲われての、一つはミルガルの街周辺を荒らし回る盗賊団“宵鴉”、一つは街道沿いにある追い剥ぎ村の子供ら、今一つは伝説の勇者も逃げ出すであろう化物じゃな。では先ずは盗賊団の」

 

「ちょっと待って下さい、はっ?えっ?盗賊団?追い剥ぎ村?伝説の勇者も逃げ出す魔物?何を言ってるのか全く理解出来ないのですが?」

 

「これ、ドレイク、落ち着かんか。お主のそう言う所は全く直っておらんの、今説明すると言うておろうが。

順に話すぞい、盗賊団“宵鴉”は子供らの夜営訓練の為に草原でわざと目に付く様に火を焚き、匂いのする料理をしておったら掛かりおった。流石に相手が悪いでな、儂とケビンとで対処しようとしておった所に闇属性を纏ったと言うかあれは呪いの塊じゃな、化物が現れおった。

ケビンの奴がすぐに気付いて荷馬車を走らせる指示を出したで助かったが、あの場に留まっておったら確実に死んでおったであろうの。儂なんぞなんの役にも立たんかったであろうて。

問題はこの化物がジェイク、エミリー、ジミーの三人の魔力に惹かれて現れたと言う事じゃった。三人が狙われておるだろう事に気付いたケビンが足止めをした事、その場にあの化物を追っておった賢者殿が現れた事、数多くの偶然がなければ今儂らはここにはおらなんだ。ケビンは真の意味で儂らの命の恩人じゃて」

 

ボビー師匠の話に口を開けたまま固まるドレイク村長代理。ボビー師匠はそんな彼に構わず話を続ける。

 

「じゃが夜の街道を只管逃げる儂らはそんな事は分からんかった。途中感じた強烈な悪寒、あの時はケビンの死を悟ったもんじゃった。上空に浮かび上がる巨大な漆黒龍、これは全員が目撃しとるからの、致し方がなかったわいて。

して一晩中寝ずの移動の果てにたどり着いたのが追い剥ぎ村じゃな。オークの従魔は村に入れられないと言われ道を迂回させられたんじゃが、これが罠であった。

木々の生い茂る森の道に現れた身体を震わせ脅し文句を言う木の棒を武器にした子供、油断であったの、同情し近付いた所をぶっすり刺されてしもうたわい。

儂が刺された事で身動きの取れなくなってしまった一行、ほんに危ない所であった。ケビンが現れるのがあと少し遅ければ、儂は死んでおったわいて。

あの場は追い剥ぎの子供らをあやつの堅糸術と魔力の触腕により取り押さえた事で事なきを得たがの、儂も耄碌したもんじゃて」

そう言いボビーは自身の腹を摩る。

 

「えっ?ボビー師匠、刺されたって大丈夫だったんですか?傷が浅かったとかなんですよね」

 

「いや、ガッツリやられたぞい、相当血も出てしもうての、ケビンがハイポーションを分けてくれなんだら死んでおったであろうの。儂は此度の旅で二度も命を助けられておる。それはボイルさんをはじめ子供らも同じじゃ、儂らは何の役にもたちはせんかったよ。

それとオークの従魔じゃが、今はあやつが賢者様からいただいたと言う従魔の指輪に入っておる。魔の森の老木の側に家を立てて住まわす様な事を言っておったぞい。どうもそのオークにビッグワーム農法をやらせるとかなんとか。あやつの考えは儂らでは推し量れんでな」

“コンコンコン”

 

「失礼します。ドレイク村長代理、お呼びとの事なので参上しましたがどうしました?凄い疲れた顔をなさってますが」

扉を叩いて部屋に入って来たケビン少年に、げっそりとした疲れた顔を向けるドレイク村長代理。“お前のせいだからな?”と言う言葉が喉まで出掛かるも、村長代理としての矜持でそれをグッと堪える。

 

「いえ、ちょうど旅の報告を聞いていた所でしてね。かなり大変な旅だった様ですね」

 

「ええ、それはもう。村の外がいかに危険かよく分かりました。それで提案なんですが、グラスウルフを雇いませんか?一群れマルセル村に就職したいって連中がって村長代理!?」

 

ケビン少年の発言が(とど)めとなったのかそのままテーブルに突っ伏すドレイク村長代理、そんな彼に後で魔法の言葉を教えてあげようと思う、ボイルとボビー師匠なのでありました。




本日一話目です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。