転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第104話 転生勇者、夏の訪れを感じる

子供たちがミルガルの街の遠征から無事に帰って来た。その知らせは直ぐに村中に知らされ、ちょっとした宴会が催された。

まぁ村の男衆が村人ボイルの仕入れて来たエール飲みたさに集まって来ただけとも言えるが、冬小麦の収穫期が始まる前のこの時期に村人たちに英気を養って貰おうと言うのが主な目的の様であった。

 

そのメイン料理として振る舞われたのは、子供たちの一人エミリーが仕留めたオークソルジャー肉の香草焼き。大きな肉塊から立ち上る香りに誰もが生唾を飲み込み、口腔に広がる肉汁の旨味に頬を緩ませた。

無事に帰村しただけでなくこの様な戦果を上げた子供たちを村人の誰もが称賛し、彼らの将来に期待の声を上げた。そんな村人の声に謙遜する彼ら、その姿ですら大物の器と褒め称える村人たち。こうして宴は大いに盛り上りを見せ、村人たちはそれを楽しんだ。

 

「ストール監察官様、こちらが今年収穫致しました冬小麦の各家の収穫量をまとめた書類となります。それと上半期の野菜及びビッグワーム干し肉の売り上げをまとめたものがこちらです」

 

月日は経ち、村の納税の主体である小麦の物納の為に、周辺五箇村総合監察役を務めるストール監察官が多くの役人を引き連れ護衛と共にやって来た。

 

「うむ、小麦の収穫量は各家共に安定した増収、野菜の売り上げの方はやはり流通の関係上頭打ちと言ったところか。それよりもビッグワーム干し肉の方の増額、これは大きいな」

 

ストール監察官は顎に蓄えた立派な髭を(さす)りながら声をあげる。

辺境の寒村の税収の少なさは主に人口の少なさに起因するものと言われている。だがその人口の少ない理由には流通の困難さや食糧確保の厳しさと言った辺境ならではの原因が存在し、鉱山資源の発見やダンジョンの発見と言った突発的事態でもない限り辺境地域の発展など無いと言われていた。

元々農業重要地区と言う制度自体、領都の食糧確保及び領内の食糧自給率を上げる為に打ち出された制度であり、その適応地域は都市や主要街道に近い農村地域を想定して作られたものであった。

それを辺境の、しかもオーランド王国の最果てとまで呼ばれるこのマルセル村で成し遂げようとしている。これは暴挙を通り越し奇跡とも呼べる事態であった。

 

本来この様な辺境地域の監察官は閑職と言われ、二度と浮き上がる事の無い役人としては終わった地位であった。だがマルセル村村長代理ドレイク・ブラウンの挙げた功績により、マルセル村を監督する監察官であるストール・ポイゾンもその手腕を認められ、今や領都において一目置かれる存在となっていた。

 

「のうドレイクや、お主は一体何がしたいのだ。私は既に出世街道から弾き出された身であったのだが、お主が急速にマルセル村を発展させはじめたお陰で矢鱈注目されて、城内での居心地が大変むず痒いんだがな。

それにその様に精悍な身体付きになりおって、以前のでっぷり腹はどうした、でっぷり腹は。お主が村長の座を妻のシンディー・マルセルに引き渡し村長代理に収まった時は何が起きたのかと心配したが、あんな美しい女性と再婚した上にそろそろ子供が生まれるなど激変にもほどがあるであろうが。

もうあの辺境村の強欲村長様の演技はやらんのか?私は相手の油断を誘いつついつの間にか要求を通す、あの抜け目の無いでっぷり腹村長の演技は好きであったのだがな」

 

「ハハハハハ、そんな事を言ってくださるのはストール監察官様とケビン少年くらいですよ。あの頃の私は村長として必要とされてはいましたが、村人からは一歩引かれた存在でしたから。

まぁそれも折り込み済みでああした村長像を演じていたのですが、今の充実した生活を思えば随分と勿体ない時間を過ごしたのではと思います。

前妻のシンディー・マルセルやその父はああした村長像がお好みの様でしたからね、こうした村人との距離の近い村長など誇り高いマルセル家の者として恥ずかしいと言った変な貴族意識がありましたし。

当のマルセル家は貴族でも何でもないのですけどね、強いて言えば没落貴族?初代村長は伯爵家の三男だったらしいですが、監察官様はマルセル伯爵家と言うお家柄について何かご存知ですか?」

 

“カチャッ”

側に控えていたザルバが頃合いを見てハーブティーを入れる。暑さのました今の時期は、のど越しが爽やかなミントのお茶であるようだ。

 

「うむ、私は中央の政治にはとんと疎くてな、貴族の事などろくに知らんのだよ。ここグロリア辺境伯領の小役人にそこまでの知識は必要無いしな。私も貴族の端くれではあるが、本当に端くれだからな」

 

そう言い再び髭を擦るストール監察官、だが彼が本当の意味で無能であったのなら急激に成長を遂げるマルセル村に余計な横槍が入っていた事は明らかであり、ストール監察官が領都において上手く立ち回ってくれているであろう事を村長代理ドレイク・ブラウンはよく知っていた。

 

「それで以前よりモルガン商会を通じてお願いしておりました、グロリア辺境伯様とのご面会の件なのですが」

 

「あぁ、その件であれば辺境伯様より是非にでも会って話しをしたいとのご返答を頂いておる。

グロリア辺境伯様はオーランド王国の頭脳と呼ばれていた名宰相であったお方、今はその座を退き後進に道を譲られたとはいえその采配の巧みさは衰えてはおらぬ。ドレイクの事も以前より注目しておった様であったよ。

“冬の餓死者を無くした隠れた英雄”、お主の事を見ておる者はいたと言う事だよ」

 

ストール監察官は自らが仕える主君の耳目の広さに驚きつつも、偏見なく優秀な人物を認める見識の高さに感心するのであった。

 

「それはそれは、恐れ多い事でございます。ですが此度の面会ではその期待に応えられる成果をお見せ出来るかと。ストール監察官様には一足早くその成果をご堪能頂きたく、ご用意させて頂きました」

 

そう言い控えのザルバに合図を送るドレイク村長代理、待つ事暫し、書類の片されたテーブルには食欲を誘う香りを漂わせたホーンラビット料理とビッグワーム干し肉の野菜スープが並べられていた。

 

「うむ、これは確かに旨そうな料理ではあるが、見たところただのホーンラビット料理の様に見えるのだが」

 

「はい、これは確かにただのホーンラビット料理、素材の味を堪能していただく為に敢えて岩塩のみの味付けで仕上げさせて頂いております」

そう言い食事を進めるドレイク村長代理に訝しみつつ、ナイフを立てるストール監察官。

 

“!?”

“柔らかい”、抵抗無く切り分けられるラビット肉、スッと通るフォーク。切り分けた一切れを口へ運ぶ。

“#$%&=@¥♭!?”

味の爆発、口腔へ広がる肉の旨味、弾力はあるが筋張ったものとは違う心地よい歯ごたえ、これは一体なんの肉なんだ!?

目を見開きドレイク村長代理に視線を向けるストール監察官、それを悪戯が成功した子供の様な顔で受け止めるドレイク村長代理。

 

「そのホーンラビット料理こそが新たな成果。冬の授けの儀で領都を訪れた際にはこれらの成果をお出しする所存でございます。お城の方にはホーンラビット肉をお届けするのでその調理をお願いしたい旨をお伝え願います様お願い致します。

それと他にも新規事業の事で幾つかご相談したい内容の話がございます。そちらに付いても合わせてお願い致します」

そう言い微笑みを浮かべるドレイク村長代理に、引き攣った笑いで返すストール監察官なのでありました。

 

―――――――――――

 

「エミリーは後方から魔法で応戦、俺は前で敵を惹き付けながら隙を作る、ジミーはあの首を確実に仕留めるんだ。尻尾の攻撃に気を付けろよ!」

 

「「了解!」」

 

「うおおおおおおおお!!」

大きな唸りを上げ敵の意識を惹き付けつつ口から放たれる水球を躱すジェイク。その動きは大物魔獣の意識を引きつつ足を使って躱し続ける所謂”逃げタンク”と呼ばれる攻撃スタイル。躱し切れない攻撃は木刀に同属性の水属性魔力を纏わせ受け流すと言う徹底ぶりである。

 

「連撃、<ライトボール>」

エミリーの短縮詠唱により放たれた無数のライトボールは、そんな彼を綺麗に避け、目の前の怪物目掛け吸い込まれて行く。

“ドドドドドド”

 

「今だ、ジミー、スイッチ。」

「応、ボビー流剣術“疾風怒濤”!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ”

目にも止まらぬジミーの連撃、その猛攻は怪物の防御を打ち抜き敵の長い首を上方へとかち上げる。

 

「ジミー、今だ!「「“一閃”」」

ジミーとジェイクによる振り抜きは怪物の二本の首を切り裂き、勝負を決定づけた。

 

「危ない、<ライトシールド>!」

“ドガンッ”

怪物の最後の抵抗であったのだろう尻尾による攻撃は、エミリーの<ライトシールド>によって阻まれた。ここに怪物と戦士たちの戦いは終息を迎えるのであった。

 

「よっしゃ~、二つ首ヒドラ討伐完了!!明日からは三つ首だ~!夏の間に絶対八つ首まで討伐してみせるぞ!!」

木刀を高らかに掲げ喜びの声を上げるジェイク。ここは村外れの水辺、今日も今日とて子供たちは水辺の主“大福”に戦いを挑んでいたのであった。

 

現在彼らが行ってるのは勇者病仮性重症患者ケビン少年が提案した“大型魔物ヒドラに挑戦”と言う企画。大福が水属性魔力を使い池の水を纏って疑似魔物“ヒドラ”を作り上げ、子供らがそれを倒すと言うもの。

一つ首から始まり今回は二つ首の討伐に成功、まだまだ先は長そうである。

 

「やいデカスライム、ピョンピョン跳ねて余裕ぶっていられるのも今の内だぞ。俺たちは夏の間にすべてのヒドラを打ち倒す!絶対吠え面をかかせてやるからな!」

 

「「「覚悟しろよ、デカスライム!!」」」

勝利の余韻に浸りながら意気揚々と帰って行く子供たち。そんな彼らの後ろ姿に、“この遊び楽しい~♪”とテンションの上がる大福なのでありました。

 

「今日もぐちょぐちょになっちゃったね」

エミリーからの声にハッと自分の姿に気が付くジェイク。そう、後衛のエミリーと違い逃げタンクとして敵の攻撃を引き付けるジェイクは多くの水弾を浴びる事になる、その為いくら避けていても泥の跳ね返りを多く浴びビショビショの泥だらけになってしまうのだ。

 

「まぁ仕方がないさ。より効率よく敵の首を落とせればいいが大福はそれほど甘くないからな」

そう言いジェイクに泥だらけの服を寄越す様に言うジミー。彼は空中に大きな魔力ボールを作りその中にポイ、温水を入れてガシャガシャと洗濯を始めるのだった。

そう、彼は遂に勇者病ケビンのドラム式洗濯術をマスターしたのである。

 

「う~ん、私がクリーンの魔法を使えたらよかったのに」

 

「仕方が無いって、あれは学園とかで教えてくれる魔法なんだろう?あのケビンお兄ちゃんをしてよく分からない魔法って言うくらいなんだからよっぽどなんだよ。エミリーは凄いんだからもっと自信を持っていいと思うよ?」

 

彼らは旅を通じて世界の広さ、世界の恐ろしさを学んだ。自分たちは弱い、もっと沢山の事を学ばなければならない。

それぞれが独自の強さを求め進化を始めた子供たち。彼らの夏は始まったばかりであった。




本日二話目です。
ダイエットには食事の前にコーヒーを飲むといいって聞いたんですけど、本当なんでしょうか。
お腹周りが気になるお年頃、成人病は怖いでござる。
いってらっしゃい。
by@aozora
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