転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第106話 転生勇者、現役冒険者に教わる (2)

「エミリー、ジミー、絶対に足を止めるなよ!<十連ファイヤーボール>、からの“連撃”!」

“ドドドドドドドドドドッ、ドカドカドカドカドカ”

 

今、俺たちは何を見せられているんだろう。

 

「ジェイク君、横に飛んで。“雷のごとく切り裂け、ライトカッター”」

“ズバン”

 

目の前で暴れる巨大な水竜、あれは四つ首のヒドラ。それに立ち向かうマルセル村の子供たち。

 

「今だ、ジェイク行くぞ、「「“一閃”」」

“ズバズバンッ”

 

目で追うのがやっとの速度で駆け抜ける子供たちが、金級冒険者もかくやと言った魔法と剣術を繰り出しその首を打ち落としていく。

 

「尻尾来ます、<ライトシールド>」

“ドガン”

 

そして見事な連携により攻防一体の動きを現実としている。

 

「助かったエミリー、ってヤベ」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドド”

「「「ギャ~~~~~~~!!」」」

 

最後に残った首から繰り出された大量の放水、それは“一閃”を成功させ瞬きの隙を作ったジェイクとジミーを逃しはしなかった。その放水は尻尾による攻撃を魔法により防いだエミリーをも巻き込み、今回の勝負を決める一手となってしまった。

 

「「「やいデカスライム、明日こそズタンズタンのギッタンギッタンだからな!」」」

子供たちからの声に嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねるデカスライムの大福。子供たちは思う、“悔しい~、すっげ~ムカつく~!”と。

 

「ソルトさん、ベティーさん、俺たちの戦い、どこが駄目だったんですかね?三つ首までは順調に倒せたんですけど、四つ首になってから急に難しくなっちゃって。このところ停滞しちゃってるんですよ。三本までは行けるんですけど最後の一本にやられちゃうんですよね~」

 

「そうなんです、あれって首の数だけ尻尾も増えるんですよ。最初の頃はよく尻尾にやられちゃってて。最近は始めに何本か尻尾を削ってから仕掛けてるんで戦えてますが、尻尾ばかりに気を取られてると首にやられちゃうんで、全部切り取る事も出来なくって」

 

「魔法攻撃を主体にすると今度は向こうも水弾と水流主体に切り替えて来るんで、結局こっちが力負けしちゃうんです。そのバランスが難しくって」

 

「「「ご指導、よろしくお願いします」」」

 

・・・いやいやいや、無理だから。何あの怪獣大決戦。あんなの冒険者ギルドが出す緊急討伐依頼案件じゃん。白金級冒険者パーティーを主体に複数のパーティーで挑む討伐依頼じゃん。ヒドラ討伐?そんなの物語の世界じゃん、勇者物語の冒険譚じゃん。

現役銀級冒険者パーティー“草原の風”所属冒険者、ソルトとベティーは思う。“この子たち何者?”と。

 

それはいつもの行商人の護衛依頼であった。この所領都でもその品質の良い野菜と畑のお肉と呼ばれるビッグワーム干し肉の生産で名前の売れているマルセル村。そのマルセル村との行商は、領都の大手商会モルガン商会の中でもかなりの重要取引となっていた。

マルセル村から齎された商材はそれだけモルガン商会を潤し、モルガン商会に託された商品の数々は新しい利益を生み出しつつあったからだ。

 

「ソルトさんとベティーさんは子供たちと約束してるんでしたね。今日は一日ゆっくり遊んであげてください。私はドレイクの奴と今後の打ち合わせですよ、本当は太郎君と戯れたかったのに」

 

久々に訪れたマルセル村は相変わらず牧歌的雰囲気ののんびりした村であった。これはある意味辺境の村としてはおかしな事であった。辺境の村と言う所は基本貧しい。人、物、金、食料、全てが乏しくギリギリの生活を迫られる、それが一般的な辺境の村と言うものである。

そうした村の人々は目が死んでいるか逆にギラギラしているか。のんびりほのぼのとした牧歌的生活などと言うものはもっと物流の盛んな主要街道沿いか、領都やミルガルの街と言った大きな都市周辺の村でしか見る事の出来ない光景であった。

 

「なぁベティー、前々から思っていたんだけど、この村って変だよな?全然辺境って感じがしないんだが」

 

「それね、私も不思議に思ってギースさんに聞いた事があったんだけど、どうもそれって村長がドレイクさんに変わってかららしいわよ。

ドレイクさんって元々モルガン商会で行商人をしてたんですって。それが独立して辺境やあまり行商人が行きそうにない所を回って売り上げを伸ばして、で、ここの村長の娘に捕まって村長になったらしいわよ。

元はここも酷い寒村だったらしいわ、オーランド王国の最果て、冬の餓死者多数。大森林に一番近い村の異名は伊達じゃなかったらしいわよ。

それが今じゃグロリア辺境伯領で一番勢いのある村って、本当に人生何があるのかなんて分からないものよね」

 

そんな村全体が温かな雰囲気に溢れたマルセル村。そこで育った子供たちは、周辺の村々どころかオーランド王国全体を見渡しても見る事が出来ない様なとんでもない子供たちに成長していた。

 

「なぁベティー、あの子たちあれからどれだけ成長してると思う?おれ、手合わせをお願いされても一切勝てる自信がないんだが」

 

「ソルト、何情けない事言ってるのよ。とは言っても私も全く自信ないのよね。あの子たち、目が全く子供らしくないって言うか、一流の戦士のそれなんだもの。

でも今向かってるのって村外れの水辺でしょ?この暑さだし一緒に水遊びでもしたいんじゃないの。普段だったらそんな子供みたいなの勘弁って思うけど、今回ばかりは逆に嬉しいわよ。と言うか水遊びであってください、お願いします」

 

「ベティー、俺たち銀級冒険者なんだよな、なんか発言が情けないよな」

 

「何言ってるのよ、現実をちゃんと見ろって言ったのはあんたじゃない。でもその通りかもね。私達ももっと頑張らないと」

「「はぁ~」」

 

肩を落としとぼとぼと村外れの水辺に向かう現役銀級冒険者パーティー“草原の風”の二人。彼らはこの後衝撃的な光景を目にする事になる。

 

 

「「・・・・・」」

目の前には激しい戦闘を終え水浸しになりながらも、キラキラとした瞳を向け現役銀級冒険者の意見を聞こうとする子供たち。

結果だけを見ればそれは“水遊び”に他ならない。そう、子供たちは“水遊び”をしていたのだ。

 

“こんな水遊び知らね~よ!って言うか水遊びと違うよね!?”

 

ツッコミどころ満載、マルセル村の子供たちの戦闘特訓は、現役銀級冒険者たちを混乱の渦に叩き落す。

そんな彼らを余所に、水辺の主大福は“新しい遊び相手だ~”と喜び、その身を震わせてポヨンポヨン飛び跳ねるのであった。

 

―――――――――――――――

 

「緑~、黄色~、どんどん収穫しちゃって。アナさんとケイトは籠に詰めてくれる?潰れない様に気を付けて。俺は村長宅にいる行商人様の所に持って行くから」

 

次々と収穫される野菜を籠に詰め込みモルガン商会の行商人ギース氏の下へ運び込む俺氏、時間停止のマジックバッグがある以上採れたて新鮮野菜を持ち込むのはとても大切ですからね。まぁ腕輪収納の中にはこれまで収穫した新鮮野菜が唸るほど入っているんですけどね、これって人には言えませんので。

 

今回モルガン商会本気です、昨日訪れたばかりのギース氏に伺った所、時間停止機能付き大容量マジックバッグを二つも持参されているらしいです。

これって体育館二個分の収納量、そんなに収穫ないんじゃないのと思うでしょ?

甘い甘い、つい最近空っぽになった村長代理ドレイク・ブラウン所有の時間停止機能付き大容量マジックバッグにこの一月分の新鮮野菜がギュウギュウに収納されてましてね、更にマッシュの様な根菜類が畑で出番を待っているって言うね、夏野菜天国状態。

ですんでマルセル村の住民はここしばらくずっと収穫と搬出を繰り返しておりました。

 

村長宅では急遽脇の土地を整地して作った野菜持ち込み所(村長代理に突貫作業を頼まれました。地面は土属性生活魔法ブロックで固めてあります)で、ザルバさん・ジェラルドさん・グルゴさん・ガブリエラさんが野菜の確認作業と詰め込み作業を行っています。

 

ビッグワーム干し肉も当然各種ご用意させて頂いております。

ビッグワーム干し肉製造工場の隣に新たに建てられた干し肉用の倉庫。最近は工期短縮の為に巨大レンガブロックを作って魔力の腕を使って積み上げで作成しちゃってます。

 

もうね、工期おかしいから、そんなのちまちまやってられないから。完全に魔力によるごり押し、マルコお爺さんにせっつかれていたエールの醸造小屋に関してはコンクリート打ちっぱなし工法です。一晩で出来上がったんでやたら驚かれましたが、知った事ではありません。壁の表面にそれっぽくレンガブロックの模様を付けてあるからバレないでしょう、多分。

壁の出来が恐かったので、それなりに厚みを付けて作らせて頂いてるので大丈夫でしょう。(ブー太郎の豆腐ハウスも今の所問題ありませんので。)

 

ドレイク村長代理、ウチの野菜を追加で持ってきました。今回はトメートが多めですね。

「ケビン君ご苦労様。今後の事で相談があるから中に寄って行ってくれるかい?」

「了解しました」

 

仕分け作業に忙しくされていたドレイク村長代理と行商人ギースさんに連れられ家に上がる俺氏、まぁいろいろご相談しないといけない事はありますからね。

 

「ケビン君、忙しい中引き留めて悪かったね。そこに座ってくれ、今お茶を出そう」

そう言いドレイク村長代理が出してくれたのは、ミランダさん特製のハーブティーでした。飲み口がとてもスッキリしている、今回はどのハーブを主体にブレンドしたんだろう?

 

「さて、話しと言うのは他でもない。冬の授けの儀で領都に向かった際に予定しているグロリア辺境伯様との会談についてだよ。今回の会談で私は角無しホーンラビットを売り込もうと思っているんだが、それについてケビン君はどう思うかね?」

 

「イヤイヤイヤ、その辺はわざわざ俺に聞かずともドレイク村長代理主体で進められていいんじゃないですか?まぁしいて言えばホーンラビットの繁殖力を考えれば早めに売り込む方がいいとは思いますけどね。

ホーンラビット牧場を見ても分かりますが、その繁殖力がここまで凄まじいものだったのかと、呆れさせられちゃいます。グルゴさんから伺って知っているとは思いますが、そろそろ間引かないと牧場がホーンラビットで溢れちゃいますよ?

 

今のところは出荷先も無いので村内で少量消費しているだけですし、この際冬に辺境伯様のところに行った機会にでも大量にホーンラビット肉を献上しちゃってもいいんじゃないでしょうか?先ずは試食して頂いてからよろしければ献上させて頂きますって流れで。正直あれは通常のホーンラビット肉とは別物ですからね。

 

ウチの実験飼育のホーンラビットの様子から見ますと、三か月以上の飼育でほぼ肉質は改善されるみたいですし。生まれつきの角無しに関して言えば、角管理さえ適切なら成体になった段階で出荷可能かと。個体の大きさを考えても四~五カ月で出荷可能と思われます。

つまり八月から冬眠期に入る十一月くらいまでは間引き続けないといけないって事です。実際には冬眠明けの個体が出産を始める四月以降だったら間引きして行っていいと思います。

その辺の頭数制限は様子を見ながらになりますが、管理し切れる範囲をきちんと見極めないと、あっという間に破綻しかねませんから。あの頭数が全部普通のホーンラビットだったらと思うとゾッとしますよ」

 

ケビン少年の意見は至極真っ当なものであった。角無しホーンラビットの繁殖が上手く行っている事に気を良くしていたドレイクは、その先の危険を見逃していた事に顔をしかめるのであった。

 

「それと今回モルガン商会さんが作製してくれたローポーション軟膏、これの出来は大変良いと思います。御婦人や高貴な身分の方向けには少し入れ物を工夫する必要はありますが、基本はこのままでいいかと。これはすでにお城の女性にはお渡しして頂いてるんですよね?」

モルガン商会行商人ギースに問い掛けるケビン。ギースは大様に頷きながら言葉を返す。

 

「あぁ、ケビン君の助言に従ってウチに出入りしているメイドや役人の奥様向けにお配りしてから献上に伺ったら、すんなり話が通ったよ。今度ウチから売り出す商品で、マルセル村の者が開発したと伝えてある。」

 

「それで十分です。あの軟膏はいわば布石、最近流行りの野菜の出荷先とお気に入り軟膏の出所が繋がってくれれば僥倖、そうでなくとも既にグロリア辺境伯様の耳にはマルセル村の名前はしっかり入っている事でしょう。

これでホーンラビット肉の話しが伝われば、五箇村農業重要地区入りの話しは揺るぎ無いものになるかと。

ビッグワーム農法の詳細、将来性、角無しホーンラビット牧場の詳細、問題点と注意点については書面にしてまとめておいてください。特に角無しホーンラビット牧場の問題点と注意点については、しつこいくらいにお願いします。

 

それとキャタピラー繊維の件についてですが・・・」

 

「それなんだが、やはり光属性の布と言うものについて扱いに困っていてね。モノがモノだけに相談できる相手もいない。これに関しては商会長も頭を抱えていたよ」

行商人ギースは掌を反し、ジェスチャーで応える。

 

「それは大変申し訳ありません。この件に関してはミルガルの司祭様を巻き込みたいと思います。

ギースさんには帰りの行程でミルガルの教会に寄って頂き、シスターアマンダにこちらの手紙と今回お持ちいただいたローポーション軟膏をお持ちいただきたい。

それとこちらのスカーフですね」

 

「薄はちみつ色の綺麗なスカーフだな、これは一体」

薄い蜂蜜色をした美しい布地、行商人ギースはその肌触りを確かめながら問い掛ける。

 

「聖水とフォレストビーの蜂蜜で作った光属性布の新作ですね。これで教会を引きこめます。司祭様に関しては領都の高級酒場にお連れする許可を頂けるようにシスターアマンダにお願いしてありますんで、綺麗どころのいるお店を探しておいてあげてください。

名目は“古い友人が目を掛けている授けの儀を受ける子供の付き添い”ですから。細かい設定は司祭様なら上手くやるでしょう。

 

この布を司祭様とグロリア辺境伯様に丸投げします。マルセル村側は攻撃糸製の布の提供、教会側は聖水の提供と販売に関する許可、グロリア辺境伯様とモルガン商会様は最終加工と販売について。

細かい調整は皆様にお任せします。今回の会談は大変楽しいものとなりそうですね」

 

不意に投げ掛けられた特大の爆弾に固まるドレイク村長代理と行商人ギース。そんな大人たちを余所に、“仕事がまだありますんで”と言ってその場を後にするケビン少年なのでありました。




本日二話目です。
五月だって。
もう一月終わっちゃってやんの、早い。
五月といえば初夏、そして十月まで残暑が続くと。
・・・一年の半分夏じゃん。
うん、亜熱帯ですね、そのうち野良イグアナとかが増えるんだろうか?
いってらっしゃい。
by@aozora
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