▶村人ケビンは仕事があると言って逃げ出した。
▶野菜を持って来たところをドレイク村長代理に捕まった。
“ゲームオーバー”
もうね、おじさん達しつこい。
いいじゃん、難しい事は大人たちで決めちゃってくださいよ、村人ケビンは粛々と村人らしい生活を送らせて頂きますから。
偉い大人二人に伝える事を伝え村長宅を後にした私、急ぎ畑に戻りモルガン商会の行商人ギースさんに卸す為の野菜の搬入を頑張って行っておりました。
日が傾き始めた頃、本日最後の野菜を抱え村長宅に向かった俺に、“大変だったねケビン君、今お茶を持って来るからちょっと待っていてくれ”と搬入受付業務を行っていたザルバさんからのありがたいお言葉が。
“やっぱり出来る大人は違うよね”と草の上に腰掛けて待つこと暫し、“お待たせ”と言っていい笑顔でお茶をお持ち下さったのはドレイク村長代理。
“あれ~、おっかしいな~、ザルバさんは何処に行ったのかな~?”などと思っていると。
「あぁ、ザルバならさっきちょっとしたお使いを頼んでね。今日はケビン君が我が家で夕食を食べて行くから少し遅くなることを伝えに行って貰ってるんだよ。
さぁケビン君、ギースも待っている、夕食まで少しお話しでもしようじゃないか」
と言ったありがたいお言葉と共に、村長宅にお招きされてしまいました。
まぁ光属性布の事ですね、モルガン商会商会長も扱いに困ってるって言っていたくらいですからね。先ずこれがどう言ったものか分からない、多分凄いものなんだろうなって事は分かるんだけど何がどう凄いのかが分からない。
だったら持ち込んだ人間に聞くのが一番、当然の帰結ですわな。
「まずこの布の事を説明する前に光属性の事について説明しますね。
ご存じの通り光属性魔法には明かりを照らす他にも人を癒したり、それぞれの能力を高めたりと言ったものがあります。俗に言う治癒魔法や補助魔法と言ったものは、基本的に光属性魔法の一つと言われています。
で、光属性の布があると言われれば当然それらの効果を期待しちゃう訳です」
“ゴクリ”
ケビン少年の言葉に生唾を飲むドレイク村長代理と行商人ギース。そんな二人の様子を見ながら、“人間って欲深だよな~”と思う少年ケビン。
「残念ながらこれはそんな便利なものではありません。将来的には分かりませんが、今の所この布は治癒効果や身体強化と言った補助効果は確認されていません」
“ハァ~ッ”
ホッとしたような残念そうな、あからさまに落胆する二人にケビン少年は話を続ける。
「ただこれは光属性布の効果かははっきりしないのですが、精神的な障害を抱えている者にとってはそれなりの治療効果がある様です。
これは光属性の特徴とも言えるのですが、光属性魔力には精神に働きかけこれを活性化する作用があるんです。簡単な所だと記憶力が良くなったり頭の回転が速くなったりですね。これは自身の頭部に光属性魔力を集中する事で体感する事が出来ます。
光属性魔法の補助魔法は、こうした効果を魔法と言う形で更に強力にしたものと考えられます。
具体的な例で言いますとヨーク村から移り住んだケイトがそれにあたりますね。彼女はヨーク村の過酷な生活で精神的には完全に死んだも同然の状態でした。肉体的にも危なかった為、村に来た当初はザルバさんとケイトには麦粥を食べさせ、その中にポーション並みの薬効を含んだものを仕込みました。
あ、ドレイク村長代理はすでにご存じかと思いますが、俺、ポーション作れますよ?あれって工夫次第で職業が薬師じゃなくても作れるんです。既にそのレシピはミランダさんの名前で領都と王都の薬師ギルドに登録してありますから、気になる様なら尋ねてみてください。
話を戻します。それで肉体的にも精神的にも死んだも同然だったケイトなんですが、始めの頃は声が出せなかったんですよ。ザルバさんに聞いたところ昔喉を痛めたことが原因らしくてですね、既に古傷ですからポーションじゃ治せない。
そこで思い付いたのが前にギースさんにお渡しした光属性布です。
治癒魔法と言ったら光属性じゃないですか、そんな布を四六時中巻いていたら少しは良くなるんじゃないかって。作り方はマルコお爺さんの所で魔道具の勉強をしていたことが役に立ちました、今は詳細は省きます。
で、ケイトに光属性布のスカーフを巻いてもらいローポーションを飲んで貰う事で治療を行ったんです。結果は村長代理の結婚式でご覧になった通り、片言ですが言葉を出す事が出来る様になりました。それと同時に感情も確り芽生えている様子が、村長代理の目から見てもハッキリ分かると思います。
ここまでよろしいですか?」
一旦言葉を切りお二方の様子を窺う俺氏。ドレイク村長代理がこめかみを揉み、行商人ギース氏はお口あんぐりなんですけど、これって大丈夫なんだろうか?
「あ、あぁ。かなり衝撃的な話だが大丈夫だ。」
「では続けます。そんな効果が見られる布です、他にどんな作用があるのか気になるじゃないですか。
村の女性達に配って使用効果を見ていただきました。少なくとも害が無い事はケイトが証明してくれましたから。
結果から言えば、時間は掛かりますがお肌が若々しくなります。要はローポーション軟膏と同じ様な効果ですね。
今回の検証ではスカーフとして首に巻いてもらいましたが、気になる箇所の側に巻き付ければより効果的でしょう。
あ、お茶貰いますね」
“ズズズズスズ”
大人二人はなんか固まってますね。これでもかなりマイルドに話してるんだけどな~、真実は知らない方が良さそうですね。
「では続けます。今までの話でおかしな点があるんですがお気付きになりましたか?」
「あ、いや、おかしな所と聞かれれば全ておかしく感じてしまう。すまないが説明をお願い出来るかな?」
「言われて見ればそうですね、胡散臭いことこの上ないですから。
ここでおかしな所と言ったのはケイトの古傷の事です。ドレイク村長代理が知っているのかは分かりませんが、ザルバさんは以前王都でそれなりの身分を持たれていた方でした。そんなザルバさんがハイポーションを手に入れられないと思いますか?あんなにケイトを溺愛しているザルバさんですよ?
当然そんな事は試されてました。それどころか教会の治癒術師の治療にも直ぐに行ったそうです。でも治らなかった。
ケイトの喉の傷、あれは俗に“呪いの傷”と呼ばれる部類のものでした」
“カタッ、ズズズズスズ”
「あ~、お茶が旨い。夏って結構喉が乾きますからね。
続けます」
「待て待て待て、えっ?はっ?呪い?ケビン君はあの布をケイトちゃんの首にスカーフとして巻いて、ローポーションを飲ませていただけだよね?
何でそれで呪いの傷が完全でなくとも治ってしまうんだい?えっと、意味が分からないんだけど?」
うん、そうなるよね、普通そうだよね、なんか懐かしいな~。
「それについては呪いに付いての説明が入りますが聞きます?仮説で良ければ話せますが。ただ、あまり呪いに付いて詳しいと余計な厄介事が・・・」
「そ、そうだね、うん、知らない方が身の為と言う事は色々ある。これ以上は止めておこう。」
「これは小耳に挟んだのですが、お貴族様の間ではアザを付ける呪いが流行った事があったとか。一晩立てば勝手に解術されてしまう所謂”嫌がらせ系”と呼ばれる呪いらしいです。
それを誰かの腕に施して先程の布を巻いて見て下さい、堅パンが焼けるくらいの時間でかなりの効果が見られる筈です。どうやって確認したのかは内緒ですが、あれは楽しかったとだけ」
村長代理と行商人様がドン引きなさっておられますが、何でも使い様なのよ?それに呪いって言っても所詮魔力現象だしね、“我こそは闇の魔力の化身なり~”とか宣ってた呪いの化物も、魔剣“黒鴉”に美味しくいただかれちゃったからな~。
「まぁそんな訳で教会を引き込まないと行けなくなったって事です。この布で呪いの解術が出来るなんて事がバレたら、下手したら異端審問官がやって来て村ごと皆殺しですからね。教会の領分を侵したら、そのしっぺ返しは洒落じゃすみませんから。
ですんでこの事は最初は内緒にしておいて、美容関連商品として扱う事をお勧めします。ローポーション軟膏と一緒に売り出せば女性はこぞって購入されるかと。
あくまでも美容関連商品、治療器具でも治療薬でもありません。そのうちお貴族様かお金持ちの呪い持ちの女性辺りから勝手に解術の話は出回るでしょう。そうなった時は原材料に聖水を使っている事を上げ、“女神様の御慈悲”って事にしちゃえば良いんです。
始めから教会のお偉いさんを巻き込んで置けば騒ぎが起きてもそのお方の功績って事になりますし、起きなくても美容関連商品としての利益に噛ませて置けば良い後ろ楯になって下さいますから。
それらの人選はミルガルの司祭様にお任せしましょう。あのお方、王都では悪童と呼ばれたやり手だったそうですからね。
先程の布をミルガルの教会のシスターアマンダにお渡し願ったのもその布石、あそこのシスター達が若々しくなって行けば司祭様も無下にはしませんよ。可愛いシスターちゃんとイチャイチャしたくて司祭をやってるって言ってましたから」
俺の説明に魂が抜けた様になるお二人。
「そんなに難しい事は言ってないんだけどな~、要は教会とグロリア辺境伯様に丸投げしようってだけの話なんだけど?
後はそのやり方、上手く引き込んで互いに利益のある関係を築ければその後も安泰、教会がマルセル村に何か言って来ても全てグロリア辺境伯様にお任せしておりますで通りますからね。
モルガン商会さんとしても辺境伯様の後ろ楯があった方が何かとやり易いと思いますよ?この事は商品を領都に持ち帰って検証してみて下さい。その上での会談とした方が話も早いでしょう。
所で話は変わるんですが、授けの儀で上位職業を授かった子供は王都の学園に通いますよね?で、そこまででもないけど優良な職業、魔法使いや魔導師、治癒術師なんかは領都の学園に通いますよね?この辺の線引きってどうなってるのか知ってますか?
いえね、件のミルガルの司祭様、どうも他人の魔力量が計れるみたいなんですよ。
もしかしたら魔法使いでも魔力量が膨大なら王都行きとかあるのかなって思いまして」
「そう言えばそんな話を聞いた事がある。過去には職業的には土属性特化の土属性魔導師だったんだが、魔力量が膨大であった為王都の学園に通い、王宮筆頭魔導師にまで上り詰めた人物がいたらしい」
俺の急な話の転換にこれだとばかりに乗るギースさん、どうもかなりのお疲れの様です、頑張って。
でもそうか、それなら教会の司祭様が魔力量を計れるスキルなり技術なりを持っている事にも納得、魔力量での選別は当然やってる訳だよね。
魔力量が多い子供はより詳しい鑑定を掛けてそれ以外は流れ作業、有りがち有りがち。
これは今後の訓練方針が決定したって感じですか?目指せ、普通の子供以下の魔力量キープ。ケイトと一緒に研究ですな。
最悪でも領都の学園、王都絶対回避!
大人二人が辺境伯様との会談に頭を悩ませる中、授けの儀に向けての方針を決め、今後の訓練メニューを考えるケビン少年なのでありました。
本日一話目です。