転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第108話 村人転生者、修行仲間を得る

夏の朝は早い。村人たちは昼間の暑さを避ける為、まだ日が上る前から畑仕事に勤しむ。この時期は多くの作物が得られる大収穫期である反面、雑草の伸びも良く少しの油断であっと言う間に取り返しのつかない状態になってしまう。

ビッグワーム肥料は作物ばかりでなく、雑草にとっても大変ありがたい栄養なのだ。

 

「おぉ、ギースさん、これから出発かい?この時期は魔物が元気だからね、気を付けて帰るんだよ?」

 

そんな働き者の多いマルセル村ではあるが、朝が早いのは何も村人に限った事ではない。この村に行商に訪れこれから領都に帰るモルガン商会の行商人ギースにとっても、この朝の貴重な時間帯は逃す事が出来ない。夏の陽気、昼間の一番熱い時間帯に馬車を走らせるのは悪手、それは自身ばかりでなく馬の体力も激しく消耗し、結果移動の行程に大きな遅れを齎すからだ。

 

「ギース、今回は色々あって気持ちの整理がついていないと思うが、一旦その事は棚上げにして気を付けて帰ってくれ。これは内々の情報だがエルセルの街から三つ行った先の街道沿いの村は追い剥ぎ行為を行う村の様だ。この情報はウチの連中が襲われたから確かだ。

だがこれまで追い剥ぎ村が摘発されたと言う話は聞いてないし相当上手くやっているかそれとも裏があるのか。いずれにしても気を付けてくれ」

 

ドレイク村長代理の言葉は旅立つ友の安全を願っての忠告、その声音は真剣で切実なものであった。

 

「エルセルの街から三つ先、その村の事は俺の耳にも入っている。行商人の間では随分前から怪しいと噂されている村だな。だが今あそこの村は冒険者ギルドやら領兵やらが入り込んで大変な事になっているぞ?

何でも魔獣の襲撃にあって村の主要な男衆が全滅したとか。どうも勝手に森に入った子供たちを探しに森に向かった所を、運悪く襲われたらしい。

子供たちがどうなったのかまでは知らんが、男衆と子供たちを心配して村門前に集まっていた女衆も襲われて村全体が立ち行かなくなってるとか。話の内容が内容だけにお前に話すのも憚られていたんだが、本当に恐ろしい事もあるもんだ」

 

そう言いこれから領都に向かう自身の荷馬車に目を向ける。そこには荷台脇にいくつものホーンラビットの角を吊るした(ほろ)付きの荷馬車。

 

「しかしホーンラビットの角が魔物の避けになるとはね。以前酒の席でそんな御守りがあるって話しを聞いた事はあるが、こんなに堂々と角をぶら下げた馬車は見た事が無い、ある意味目立ちまくりだな」

そう言い苦笑いをするギースに、同じく苦笑いで返すドレイク。

 

「なんにしても安全が第一だからな、代償だと思って諦めてくれ。それにお前はもう一つお守りを貰っていただろうが」

そう言い行商人ギースの腰紐の辺りを指差すドレイク村長代理、そこには革紐で括り付けられた黒い尻尾の様な何か。

 

「あぁ、太郎君の抜け毛の魔物避けか。しかしケビン君は凄いよな、授けの儀の前だと言うのにブラックウルフを手懐けるんだもんな。

以前ウルフ種の魔物は子供の頃から躾ければテイムスキルがなくとも使役する事が出来るって話しを聞いた事があるが、あれほど大人しいブラックウルフなんて見た事も聞いた事もない。俺もこの歳になって子供の頃からの夢、“ブラックウルフを撫でる事”が叶うとは思わなかったよ。

思い描いていた以上に艶やかな毛並みとその柔らかさには驚いた、商品として何度かブラックウルフの毛皮は扱った事があるがあれほどの毛並みの物は触れた事がない。やはりホーンラビットに限らず魔物は生育環境によって変わって行くと言う事なんだろうか」

 

ストレスフリーの環境で肉質が劇的に変わったホーンラビット、村内飼育により毛並みがより艶やかになったブラックウルフ。

 

「「この事はあまり深く考えない事にしよう」」

 

旧知の仲の二人は、危機回避能力も大変優れているのであった。

 

ガタゴト音を立て朝の草原を荷馬車が走る、辺境の地マルセル村から一路領都を目指して。

 

「ソルトさん、ベティーさん、帰りの行程もよろしくお願いします。

それと昨日は村の子供たちの相手をしてくれてありがとうございました。このマルセル村は我がモルガン商会にとっては大切な取引先、そこの村人達と友好関係を築く事は商会にとっても重要な案件です。

領都に帰ったらその分報酬に上乗せさせて頂きますよ、これは私からのほんの気持ちです」

 

そう言い笑顔を向ける行商人ギースに、引き攣った笑みを返す冒険者パーティー“草原の風”の二人。

“相手をして貰ったのは俺たちの方なんだよな~”

 

子供たちからの期待の籠った目の圧力に押され一つ首ヒドラからチャレンジした二人。

“あのスライム強過ぎだろう、二つ首が限界だわ!”

 

結局三つ首ヒドラにボロボロにされ、見事“水遊び”に付き合わされた二人。

“こんな事他所では絶対に言えない”

水属性魔法を自在に操り多頭ヒドラを作り出すスライム、こんな話を冒険者ギルドでしようものなら冒険者引退を勧告されてもおかしくない。

こうしてマルセル村の魔物情報は多くの者の善意により保持されて行くのでありました。

 

―――――――――――――

 

「ケイト~、ちょっとこっちに来てくれる?」

村の外れにあるケビン少年の実験農場、そこでは今日も元気にビッグワームの緑と黄色が農作業に勤しみ、フォレストビーたちが花の蜜を集めに飛び交っている。団子は畑の癒し草のおこぼれを貰い嬉しそうに口を動かし、太郎は日陰で身体を休ませている。

 

紬と大福はどうしたのか?大福は相変わらず子供たちのお相手、ちびっ子たちは四つ首ヒドラに苦戦中、大福先生の壁は未だに厚い様である。

紬はベネットお婆さんちの隣に作った攻撃糸採取小屋で、他のキャタピラーたちに収穫用紬玉作りの指導中。一々人が飛んでくる攻撃糸を縒り集めるのって大変じゃないですか?ですんで紬に糸玉作りの指導を行って簡単に収穫出来る様にしてみました。

これにはベネットお婆さん始め布作りチームから感謝のお言葉が。未だ魔力豊富な植物が癒し草しか見つかっていませんが、繊維生産が本格化する前までには何とかしたい所存です。

 

「ケイト、ちょっとそこに立ってくれる?別にただ立ってくれるだけでいいから」

 

「ん?ん。」

畑脇の小屋の前でただ突っ立っているケイトを目に魔力を纏わせて凝視する。

するとケイトの周りに彼女の膨大な魔力が纏わり付いているのが見えて来る。

魔力と言うものは基本自身の身体の中にあり、生きて行く上での様々な事象から身体を守り補助してくれるものである。

そして魔法使いと呼ばれる人々は生きる為に必要な魔力量を遥かに越える魔力を有し、それをエネルギーとして様々な魔法現象を引き起こす。これがこの世界における魔力の在り方である。

 

では生命維持に必要な魔力量を越えた魔力は一体どうなっているのか?

それは何も訓練されてない状態においてはその人の周囲に纏わり付いた感じで溢れ出す、要はだだ洩れである。

おそらくではあるが、教会の司祭様などはこの駄々洩れの魔力を視認もしくは感知しているのではないかと推察出来る。ミルガルの教会で司祭様と面会した際、俺は魔力の腕輪に頼み通常の街の子供より低い程度の魔力量を残し他を随時保管して貰っていた。ミルガルの街で見た子供たちの様子からすると、通常の子供の魔力の洩れは表面を全体的に淡く照らす程度、魔力の多い子供でもそれが気持ち広く光り方が強い程度であった。

 

それに対しマルセル村のチビッ子たちの魔力はよりはっきりと全体を覆い自身を魔力でコーティングしているのが分かる。これは日頃から行っている魔力制御の賜物であり、彼らに魔力の洩れと言ったものは存在しない。

これは魔力制御訓練を行う前のボビー師匠よりも見事なものであり、司祭様が驚くのも無理はなかった。

ただ、草原で出会った化け物曰くちびっ子たちは質・量ともに素晴らしい魔力を内包しているらしい。つまり魔力量の測定は周辺に広がる魔力ばかりでなく、内に秘めたものもしっかりと見られている可能性もある。こればかりは専門的教育を受けていない俺では判断が付かない事柄だ。ドレイク村長代理から仕事の報酬として譲り受けた数冊の魔力関連書籍にもそうした記載は発見出来なかった。

 

改めてケイトを見る、その周囲に張り付いた膨大な魔力、それは魔力過多症治療の為の訓練を通し見事に落ち着きを見せ、彼女の身体を凪ぎの水面の様に綺麗に覆い尽くしている。これは普段から触腕を使った細かい作業をする事で磨き上げられた彼女の成果と言えるだろう。

もしこれを授けの儀を担当する司祭様が見たとしよう。うん、王都行き決定だね。

行商人様のお話しではその昔膨大な魔力量と高い技術で王宮筆頭魔導師にまで上り詰めた人物がいたとか、そんな実例がある以上ケイトが見逃してもらえるはずも無し。

これは対策を打たないといけませんな~。

 

俺は魔力過多症治療薬を取り出しケイトに飲んでもらってみる。

一粒目、あまり変わったように見えない。元々ケイトは治療薬を三粒も必要とした剛の者、取り敢えず三粒まで行って貰う事に。

うん、半分くらいまで減ったかな?でも全然だね。

四粒は以前の俺が丁度良かった量だけどこの感じだと無駄みたいなのでさらに二粒追加。

お~、街の子供くらいのレベルにまで下がったみたい。今のところ五粒と。

 

「それじゃ今度はダークボール撃ってみて貰える?どう見てもケイトって闇属性の魔力適性があるから、多分撃てるから」

 

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を打ち滅ぼせ、ダークボール”」

“ビシュンッ”

 

お~、すごい勢いで飛んで行くな~、流石訓練された特化型魔法使い。

まぁこの結果は以前チビッ子たちの魔法属性チェックの時に経験済みだったんで、ケイトには空に向かって撃って貰いました。

いや~、あれをどこか目標物に向けて撃ったら大惨事だったわ。 

「じゃあそのまま何発か撃ってみて」

 

“バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、スカッ”

「ん。」

 

あ~、もう出ないんだ。街の子供レベルからだと五発が限界と、なるほどなるほど。

・・・・ねぇケイト、頭が痛いとか気持ち悪いとかない?どこか不調だったりしない?

 

「ん?ん。」

ちょっとくらっとしたけど大丈夫と、そうなんだ・・・。

ちょっと待てい、なんで平気なのよ?ケイト今絶対魔力枯渇起こしてるよね?俺の目から見ても魔力全然分からないんですけど?なんで平気なのよ!?

 

「・・・ん?ん~、ん。」

「多分昔はずっとこんな感じだったと。・・・あ~、そう言う事ね、了解了解」

悲報、ケイトさん、ヨーク村で常に魔力枯渇を起こしていた模様。

生命維持に全魔力を使い切っていたケイト、必須栄養素なんざ全く足りてなかったんだろうな~、闇属性魔力特化になったのも闇属性魔力の固定化の性質が生命をこの世に留める効果があったからなんだろうな~。(遠い目)

 

「じゃあ次はこの飴を嘗めて貰える?魔力が回復するから」

俺はそう言いフォレストビーのきな粉飴を渡す。

 

「ん、ん!ん~♪」

ケイトさん、大満足のご様子。お身体の方にも村の子供より少し多いくらいの魔力が戻られたみたいです。

 

「それじゃ今から俺の真似をしてね。身体の魔力を内側に引っ込める感じ、身体全体から漏れてる魔力を引っ込めるように意識してくれれば出来るよ」

 

「ん~、ん。」

俺が一言アドバイスをすると魔力を消す技術をすぐさまものにするケイト、コイツ天才か?

「それじゃ次はね~」

 

こうして始まった少年ケビンとケイトの魔法修行、ケイトの王都行き回避に向け授けの儀対策を行おうとしていたものがいつの間にかとんでも技術の伝授に繋がって行ってしまうのだが、少年ケビンがその事に気が付くのは随分と先になってからの事であった。

 




本日二話目です。
冷蔵庫の自動で氷を作る機能が壊れて幾星霜、トレーで氷を作るのはいいんだけど、めっちゃ取り外しにくい。
あれって握力の問題なの?凄いイラっとする。
いってらっしゃい。
by@aozora
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