転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第111話 転生勇者、収穫の手伝いをする

辺境の村の厳しさ、それは自然環境ばかりでなく、産業の無さからくる貧しさ、物流の(とぼ)しさから来る物や食料の無さと言われている。

 

「お~い、ジェイク、そろそろお昼にするぞ~」

「は~い!」

 

そんな辺境の地においてビッグワーム農法と言う画期的な作物栽培方法を編み出し、ビッグワーム干し肉と言う新たな産業を作り出したマルセル村は、周辺五箇村と共に貧しい辺境の地から地場産業を備えた地方の農村地帯へと変貌しようとしていた。

だがそんな急成長を遂げるマルセル村においても冬場の食糧備蓄は死活問題であり、秋から冬に掛けての作物の収穫と保存が、冬から春先に掛けての生命線と言えるのだ。

 

「お父さん、今日収穫した野菜ってどうするの?」

普段剣の修行ばかりであまり畑仕事を手伝ってこなかったジェイクは、村の暮らし、農家の暮らしの事をほとんど知らなかった事に愕然とした。

ミルガルの街への護衛任務を経て自分の弱さと世の中の厳しさを知った彼は、帰村後積極的に大人たちの話しを聞く事に努めた。その中で先ずは身近な大人である両親の話しを聞くと言うのは、自然な流れであった。

そこで改めて自分がいかに大切に育てられて来たのかと言う事を知ったジェイク。

以来彼は父トーマスの畑仕事に付き添い、母マリアの家事を手伝った。

父トーマスはそんな彼の変化に優しく目を細め、母マリアは“ジェイクちゃん、本当に立派になって”と号泣するのであった。

 

「そうだな、比較的足の速い葉物野菜と果菜類は、基本村長代理のマジックバッグに保存して貰う形になるな。根菜類は村長代理が新たに作った地下室に保存だな。ケビンの奴が“少しは工期ってモノを考えろ!ふざけるな~!!”って雄叫びを上げながら突貫工事で作り上げてた奴だが、かなり立派だったぞ」

 

「それって草むらから煙突が何本も出ている所の奴でしょ?はじめ“これって何?”って思ってたら、ケビンお兄ちゃんがこの下に地下の貯蔵庫があるって教えてくれた奴」

 

「なんでもケビン曰く、“野菜も呼吸しているから空気の入れ替えが無い地下に閉じ込めていると早く腐る”だったかな?まぁなんにしても長持ちするに越したことはないからな。

今から収穫したものは本格的な冬が来る前に乾燥野菜に加工すると言っていたな。マジックバックの物は時期を見て入れ替える様な事を言っていたか。その辺は村長やザルバさんたちが考えてくれるそうだよ。

それにしてもビッグワーム農法のお陰で冬場の肉の確保が安定したのはデカイ。肉に気を使わなくてもいい分、新鮮な野菜を食べれる様になったんだからな」

 

次々と変わって行く村の暮らし、今度生まれる子供には飢えと言うものを経験させないで済みそうだ。父トーマスの顔は明るい未来に自然と笑みに変わる。

そんな父親の顔を見てうれしくなった息子ジェイク、彼はお昼の堅パンを齧りながら父トーマスに語る。

 

「でもこの村の暮らしってケビンお兄ちゃんがいなかったらここまで変わらなかったよね?ケビンお兄ちゃんって一体何者なんだろうね?」

 

“ウ~ン”と唸り声を上げて悩む親子。重度の勇者病<仮性>患者ケビン。彼の言動や行動は正しくそうとしか言い様のないものではあるが、彼がマルセル村に齎した恩恵はその一言で片づけるにはあまりにも大き過ぎた。

 

「賢者様?」

 

「いや、賢者様はあれほど肉に執着しないだろう。ビッグワームやホーンラビットの肉質改善したりする賢者様?無い無い無い」

 

「じゃあ勇者様?」

 

「干し肉の勇者ケビン、意外にありかも知れないな」

 

「後は、魔王様!配下にスライムとビッグワームとホーンラビットを従えてるし、なんかピッタリかも」

 

「いや、そこを言うならブラックウルフとオークだろう。後村長に聞いたんだが、魔の森の奥の老木ってトレントだったらしいんだが、どうもケビンがビッグワーム肥料を与えて若葉茂る大樹にしちゃったらしいぞ?って事でトレントも加えて・・・微妙だな~。銀級冒険者パーティーに倒されそうな魔王様だぞ、おい」

 

「え~、大丈夫だよ~。大福この前モルガン商会の護衛できたソルトさんたちに完勝してたし、ボビー師匠未だに緑に勝てないって悔しがってたもん。金級冒険者パーティーくらいなら相手にもならないってボビー師匠が言ってたよ?」

 

「でもケビンの奴村から出ようとしないだろう?周りに悪さしない魔王って一体?ケビンのやった事と言えば干し肉作りと野菜作りなんだが?配下は畑の守護と角無しホーンラビット牧場の見回り、後はお前たちの修行相手しかしてないんだが?」

 

「じゃあやっぱり勇者様だよ、“干し肉の勇者ケビン、乾燥野菜もお手の物、スープ作りは俺に任せろ!”ってね。野営の時に作ってくれたスープ、本当に美味しかったな~。」

 

「ブホッ、ほ、干し肉の勇者様、必殺技がスープ作り。ジェイク、お前最高。今度ドレイク村長代理にも教えてやろう」

 

畑仕事の合間の一時、楽しい親子の交流は続いて行く。

過ごし易くなった爽やかな風が草原の草花を揺らす。天高く上るお日様は、秋の収穫に勤しむ人々を優しく見守るのであった。

 

―――――――――――

 

“キュキュッ、キュイッ”

“ウォウ、オウオウ”

一匹のホーンラビットの周りを取り囲むグラスウルフ。

 

“キュイッ、キュ~”

“ズバンッ”

ホーンラビットの角の辺りに魔力が収束し、風の球になって目標に向かい飛んで行く。

 

“グゥ~、ウォン!”

“バスッバスッバスッバスッバスッ”

続いてグラスウルフたちの鼻先の辺りから風の球、ウインドボールが目標に向かい飛んで行く。

 

「いいかお前たち、森の魔物は大変危険なんだ。特にこれからお前たちが主食にしようとしているホーンラビットは森の悪魔と畏れられるほど凶悪な魔物だ、その事は言わずとも分かっていると思う。

だからそんな相手に立ち向かうには奴らに気が付かれないように接近し、一瞬で仕留める必要がある。それには魔力を体の内側に仕舞い込んで存在を消すのが一番なんだ。ブー太郎、ちゃんと聞いてるのか?お前に言ってるんだからな、お前はただでさえ身体が大きいんだから、確り身に付けろよ?」

”フゴ、フゴフゴ”

 

え~っと、何をやっているのかと言いますと、ブー太郎の家の前で魔物たちの特訓をですね~。以前ゴルド村の先の草原地帯で出会ったグラスウルフの群れなんですが、帰りの行程でも野営している所にやって来ましてね。どうもビッグワーム干し肉の味がお気に召した様で、マルセル村に就職したいと申されまして。

結構な熱意だったんで無下にも出来ず、ドレイク村長代理にご提案したんですけどね~。

俺も頑張って交渉したんですよ?でも村長代理が駄目だって言うんだもん。

“ケビン君は私の胃に恨みでもあるのかね?”って言われちゃったら引き下がらざるを得ないじゃないですか。

仕方がないんで諦めて貰おうとしたんですけど、彼ら引っ越して来ちゃったんですよね~。

 

アナさんはやたら喜んでいましたけど、勝手に村でグラスウルフ(群れ)を飼う訳には行かないじゃないですか。だもんでブー太郎のログハウスで生活して貰う事にいたしました。

ブー太郎の奴“マジですか、俺死にたくないんですけど!?”って顔をしてましたが、君オークでしょうが、グラスウルフより全然強いじゃん。グラスウルフたちをよく見なさい、ブー太郎の事を見て超ビビってるんですけど?まぁ仲良くやって下さい。

幸いログハウスは広い上にビッグワーム達も順調に成長していらっしゃるご様子、捌いてグラスウルフたちに差し上げた所、尻尾ブンブン振って喜んでいらっしゃいました。

 

ただね~、この勢いで食べちゃうとミミズさんがあっという間にいなくなっちゃうんですよ。ですんで魔の森のホーンラビットを主食にして頂こうと。

あいつらバカスカ増えるからな~、今も村の男衆で定期的に山狩りをしてますが一向に減る気配がない。むしろ全体数が減った分餌が豊富になって、身体が大きくなってるんじゃないだろうかって疑いも。

ですんで間引きの別動隊が必要になったって訳でございます。

 

まぁ全滅させる気はないんで程々でいいんですが、グラスウルフにホーンラビットは荷が重いんですよね~。そこで魔力操作を覚えて頂いて狩りのお役に立てていただければと思ったんですが、こいつら風属性の魔法適性がありやがりました、悔しい~。

魔物で風属性と言ったらこの御方、団子先生ですね。

交渉の末キャロル十本で講師を引き受けてくださいました。

ただそれでも弱い、魔法は魔力切れの恐れがあって極力使わない方が良い、と言う事で(わたくし)ケビンによる“魔力隠し”の講義と無音行動の訓練を施す事になったと言う訳でございます。

 

“フ、フゴ”

「フゴじゃない、寝るなブー太郎」

約一名出来の悪い生徒がですね~。

 

“ブブブブブブ”

“!?フゴ、フゴフゴ。”

 

「お客さんが来た?あぁ、隊長さん達か。分かった、行ってよし、終わったらちゃんと帰って来いよ」

 

“フゴフゴ、フヒ~♪”

「“は~、忙しい忙しい”じゃないだろうが、まったく。悪いんだけど後でブー太郎にも教えてやってくれない?大森林って本気で危ない場所だから、最低限この技術が無いと生きて行けないんだよ」

”ガウッ、ガウガウガウ”

 

う~、なんて頼もしい奴らなんだか。

こうしてグラスウルフとオークのブー太郎に対する“大森林の端っこで暮らす為の最低限の技術習得指導”は、村人ケビンの徹底指導の下、ケビン指導官が納得するまで続けられる事になるのでした。

 

―――――――――――――

 

“シュ~~”

五徳に掛けられた鉄瓶から立ち昇る湯気。

掴み易いように工夫された取っ手に手をやり、偽癒し草の煮出し茶を湯呑に注ぎ入れる。

囲炉裏端には鉄串に刺されたビッグワーム干し肉が、いい具合に炙られ旨そうな匂いを漂わせはじめている。

鉄器のある生活、凄い便利。いや、土製品でも行けるんですけどね、ブロック魔法で作った土製品は凄く丈夫ですから。でもこうなんて言いますか、鉄串とか鉄瓶とか鍋とか?やっぱり鉄は火の通りがいいと言いますか、それぞれの良さがありましてね~。

こうした鉄器で作った料理って鉄分の補給にいいってどこかで聞いた事がありますし、大事に使って行こうかと思いますです、はい。

 

「それで森の奥に行ったグラスウルフたちはどうなさいましたか?」

湯呑のお茶をズズズと飲んだアナさんが気になっていたであろうことを聞いて来た。

アナさんすっかりここでの暮らしに馴染んじゃったよな~。隠れ住む隠遁生活も辞めちゃったし、最近じゃ村の女衆の集まりにも参加してるみたいだし。

こないだなんか母メアリーのお腹を触らせてもらったとか言って喜んでたもんな~。

元気な赤ちゃんが生まれるといいですねって言った後の目が恐かったけど、なんか背筋がブルってしたのは気のせいだと思いたい。

 

「えっとグラスウルフですか?彼らの修行は順調に進んでいますよ?

どちらかと言うとブー太郎の方が問題でして。アイツ元々のんびり屋の所があるんで、言わないとやらないんですよね。それでもグラスウルフたちがこぞってブー太郎に教えてくれているんで、“魔力隠し”は何とか習得したみたいです。

でも森の無音移動がね~。草原で狩りを行っていたグラスウルフと違って、オークって種族はその辺気にしないですから。大分足音は小さくなりましたが、まだまだ苦戦しているみたいです」

 

“ズズズズズズッ”

ブー太郎たちの進捗状況を説明してから湯呑の煮出し茶を飲む。土瓶と鉄瓶ではわずかに風味が変わるって聞いた事があったんだけど、さっぱり分からん。やはり俺にはグルメの才能はないのだろうか。

 

アナさんがじっとこちらを見る。それこそ瞬きを忘れたんじゃないだろうかと言うくらいジーーーーッと俺の目を見て離さない。

「・・・グラスウルフたちに会いたいんですね」

“コクコク“

 

「太郎じゃダメなんですか?ブラックウルフよりもグラスウルフの方がいいとか?」

“ブンブンブン”

 

「・・・たくさんのモフモフに囲まれてモフモフしたいって事ですか?」

“コクコクコクコクコクコクコクコク“

 

「はぁ~。冬になってからにしてください。アナさん無音移動できないじゃないですか。それと“魔力隠し”の修行ですね、これはケイトがマスターしてますんで、俺がいない時はケイトに聞いて下さい。またいつ村長代理に無茶振りされるのか分かりませんから」

俺の返事を聞いて満面の笑みを浮かべるアナさん。地味子になってるのに可愛く見える彼女、これが元の姿だったらどれ程の破壊力があるのか。

隠れ住む迫害されし民エルフ族のアナスタシア・エルファンドラ改め、自身に呪いを掛け隠れ住まなくなっちゃったマルセル村の村人アナさん。

“楽しそうで何よりなんですが、少しは自重してください”と願う、ケビン少年なのでありました。




本日一話目です。
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