転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第113話 森の賢者、村人転生者に説明を求める

“シュ~~~”

五徳に掛けられた鉄瓶から上がる湯気。室内の気温がすっかり冷え込んで来たからか、白い煙が勢い良く立ち昇る姿が目に映る。

“カタッ”

用意した三個の湯呑に偽癒し草の煮出し茶を注ぎ、囲炉裏を囲む各人に配る小屋の主。

“パチンッ、パチンッ”

囲炉裏にくべられた薪の爆ぜる音が、静かな小屋の中に広がって行く。

 

「えっと、お話と言うのは・・・」

俺は差し出された湯呑を手に取り、小屋の主、アナさんに言葉を掛ける。

 

「はい、少し色々とすり合わせと言いますか、お聞きしたい事があったものですから」

銀色の美しく長い髪を後ろに束ね、シャープな面立ちに切れ長の目元、大きなエルフ耳を備えた美しい声音の御方は、こちらをじっと見詰めながら言葉を返す。

 

「ん。」

その隣に座る毛先にウエーブの掛った金色の髪、二重でぷっくりとした唇の可愛らしくも美しい少女がその言葉に同意を示す。

 

「・・・お二人ともどうなさったんでしょうか?

あの、変装はなさらなくてもよろしいのですか?

ここには基本誰も来ないからいい、周辺を太郎が警戒してるから誰かが来れば分かる。そうですか、なら別にいいんですが・・・」

流れる沈黙、鉄瓶の上げる音だけが辺りに広がる。

 

「えっと、お話と言いますと、昨日の収穫祭の話って事でいいんですよね?」

“コクコク”

 

「はぁ、ではお話しさせて頂きますね。

事の起こりはアナさんに頼まれてボイルさんの長屋に行き、ボイルさんたちの悩みを聞いた事に始まります。

彼らの悩み事は簡単に言えば恋の悩みでした。ギースさんが村の娘エリザベートさんに惚れた、頑張って接触を持つも中々上手く行かず長屋の二人に相談、ボイルさんが情報収集にエリザベートさんの世話係のマイヤーさんに接触、ボイルさんがマイヤーさんに惚れた。

まぁ好きにしてくださいって話しなんですが、この二人、恋に悩んでポンコツになっちゃいましてね。ジョンさんが困っていたって訳です」

”ズズズズズズッ”

 

「ふ~っ。

で、よくよく話を聞いてみるとお相手のエリザベートさんがケイトと同じ呪いの傷持ちでしてね、その傷がもとで病弱になり寝込んでいたって事が分かりまして。まぁ身体の方は俺の指導した“魔力纏い”のお陰ですっかり元気になってるんですけど、背中に大きな傷が残っているんだそうです。

年頃の女性ですからね、そう言ったものがあったら結婚に二の足を踏むのは当たり前、マイヤーさんに至っては“お嬢様の幸せが私の幸せ”って方ですから、一生お嬢様のお世話をいたしますって覚悟を決めちゃっていて結婚なんてとんでもないって事だったらしいです。

 

要は心の問題なんですよ、エリザベートさんが背中の傷を気にせず一緒になりたいって思える相手にギースさんが成ればいい、それだけなんです。

でも実際は気にしちゃうじゃないですか、いくらギースさんが“それでもお前が一番だよ”って言っても、心の傷はいかんともしがたい。

まぁ呪いの傷自体はどうとでもなるんですが、この呪いが結構厄介でしてね。仮に呪いが解けた場合、その事が術者に伝わる様になっているんだそうです。ですんで“お姫様の呪いは解かれました、目出度し目出度し”とは行かないんですよ。

高位貴族云々の呪いって言ってましたけど、知りたくもないんで聞いてませんけどね。

ですんで収穫祭のお披露目って事になった訳です」

”ズズズズズズッ”

 

「あ、お代わり貰えます?すみませんね~」

“コトッ”

 

「まず、ボイルさんとギースさんには頑張って現在の状態でも結婚しても良いと思って貰えるくらいにお相手を口説いて貰いました。呪いの傷云々を言って来たら“ケビンが何とかするって言ってた”って言って貰う様にして。

それでドレイク村長代理に結婚を考えてる四人がいる事と、秋の収穫祭を提案。目出度い事を同時に行うと言えば自身も結婚のお披露目をした身、嫌とは言わないでしょ?

マルセル村がそれだけ豊かになったって事を村全体でお祝いしましょうって言ったら一発で了承を頂けました。

 

このお披露目の目的はマイヤーさんとエリザベートさんにマルセル村の住民としての新しい身分を作る事ですね。お貴族様絡みの訳アリ住民って事はお二人とも長ったらしい名前の高貴な身分をお持ちだと思うんですよ。でもまぁ関係ないですよね、マルセル村にいる時点で死んだも同然ですから。

この際マルセル村のマイヤーさんとエリザさんになって貰いました。

 

これは次の問題の為の布石、エリザベートさんに掛けられた呪い、解術されたら通知が行くって事に対する対策です。おそらく通知が行ったら確認の人間が来ると思うんですよ。お貴族様の事だから鑑定士くらい連れて来るかも。

でももういないんですよね、お二人とも。確認の人間はすごすご帰るしかないって訳です。

 

問題はどうやって解術の為の手段、ポーションビッグワームを違和感なく食べてもらうかでした。この事は村長にも話せない重要機密ですから、下手に漏れたら戦争案件ですからね。

そこで登場いただいたのがこの前の護衛任務の時に知り合った旅の賢者様です。

凄い事は全て賢者様のお陰、しかも隠者気質の賢者様、いつお会いできるのか分からないって言うね。いや~、賢者様便利だわ~。

あまり多用出来ないのが難点ですが、いざって時の秘密兵器みたいな存在ですね。

 

それと村人全員にポーションビッグワームを食べて貰った理由ですが、収穫期が終わった村ってどこも蓄財が豊富なんですよ。食べ物にしろ様々な売り上げにしろ、今の時期が一番豊かな状態なんです。そんな美味しい相手を盗賊が見逃すと思います?

行商人様に聞いたんですが、地方の村々が盗賊の被害にあうのってこの時期が一番多いそうです。ですんで村人には戦える状態になって頂く必要があったって訳です。

 

何故って理由は簡単、俺とケイト、村長とザルバさんは授けの儀と辺境伯様との交渉があるんでしばらく村を離れますからね。一月くらいはいないんじゃないかな?

そうなると夜の清掃作業がね、あれだけ掃除してもまだ湧いて来てますから。

今度男衆には実地で経験して貰わないといけないんですけどね。

太郎も警戒の方よろしくな、村の大人に知らせてくれればいいから。

アナさんもその辺ご協力お願いします、警戒の方がメインとなりますんで。

ボビー師匠にはチャンバラ教室の再開を打診してありますんで、良かったら参加してみてください」

“ズズズズズズッ”

 

一通りの説明で納得頂いたご様子・・・えっと何故に未だに小屋の空気が固いんでしょうか?二人の張り付けた様な笑顔が恐いんですが?

 

「ケビン君、あなたがボイルやギースの事を考えていろいろと動いてくれたことは大変感謝しています。彼らの幸せは私の喜び、本当にありがとう。

それと今後の村の為の布石、流石ケビン君です。今まで村の為に影で戦ってきたあなたが突然いなくなることは、確かに村の危険を招く行為。マルセル村はケビン君の力無しでも戦えることを示さなければならない時が来た、そう言う事なのでしょう。その為の協力でしたら私も喜んでさせて頂きます。

ですがケビン君にはまだ聞きたい事があるんですよ。

賢者様、イザベル様と仰いましたか。収納の魔法に<クリーン>の魔法、いずれも見事としか言い様のない素晴らしい物でした。それとあの巨大なフェンリル、正しく伝説の賢者様に相応しい。ケビン君に聞いたとんでもない魔物を封印してくれた賢者様と言う話しも、素直に信じる事が出来ました。

漆黒のローブを纏い流れるような長い金髪、透明感のある美しい面立ち。本当に綺麗な方でしたよね。ケビン君はいったいどうやって賢者様と連絡を取っているのですか?

遠方の相手と意思疎通が出来る、その様な魔道具の話は聞いた事が無いのですが?」

 

「あぁ、それですか。イザベルさん、大森林の中に住んでますからね、行ってお願いして来ました」

 

“ガタッ”

「へ~、ほ~、大森林の中ですか。そこで暮らしておられると、ふ~ん、ケビン君はそこに通ってると」

 

「イヤイヤイヤ、流石に通いませんって、危ないじゃないですか。あんな場所、人間の住む所じゃないですって。大森林で生活していた賢者様方ってちょっとおかしいですから」

 

「ん?今賢者様方って言いませんでしたか?もしかしてイザベル様はお一人で生活されているのではなく?」

 

「そうですね、イザベルさんはその師匠、大賢者シルビア・マリーゴールド様と一緒にお暮しになってますね」

 

「・・・大賢者シルビア・マリーゴールドって言ったらケビン君が持つ大賢者の腕輪の製作者じゃないですか!えっ、大賢者様って御存命なんですか?魔法の勇者様の時代の方ですよ、三百年以上も前の御方ですよ!?」

 

「まさか~、生きてる訳無いじゃないですか~。お二人ともお亡くなりになってますよ?因みにイザベルさんは魔法の勇者様のパーティーメンバーだった収納魔法を使う荷物持ちの女性ですね」

 

「「はぁ~!?」」

 

「いや~、聞いてびっくりですよね。魔法の勇者様の裏話が聞けて楽しかったですよ」

 

「いえ、ビックリって。でも収穫祭の時はまるで生きている様でしたよ?誰も違和感に気が付きませんでしたし。」

 

「幻影魔法の一つらしいですよ?この幻影魔法って光属性魔法なんですね、いや~知らない事ばかりです。それで魔力で実体を構成してるんでちゃんと感触も再現出来てるんですって。元々は幻影の使い魔を作る為の魔法らしいんですが、自身に肉体が無くなっちゃったんで応用してみたら出来ちゃったって奴ですね。まぁ提案したのは俺なんですが。

だって幻影のフェンリルに乗れるのに、自身の実体を再現出来ないっておかしいって思いません?実際は思いが至らなかっただけだったみたいですけどね。

そんで今回の報酬って事で魔力マシマシ光属性蜂蜜ウォーターを進呈したら大喜びなさっておられました。魔力の身体に染み込んで旨味が感じれるって感動なさってましたから。ってどうなさいました?頭を抱えちゃって」

 

「いや、うん。ケビン君がケビン君であることを改めて実感している所だから気にしないで。そうね、大森林に住んでるのならめったに会いに行けませんよね、しかもお亡くなりになっていると、そう言う事ですね」

 

「ん。」

 

お二人で何かを確認し合っておられますが、何なんでしょうね。

まぁこの二人が仲がいいのは良い事です、そっとしておきましょう。

でも昨日の収穫祭の様子をB子さん経由で眺めていたシルビアさんが“私も連れて行け~”って喚いてたんだよな~。仕方がないから春のお祭りならいいですよって言っちゃったんだけど、まぁ問題ないでしょう。それまでには普通の料理も食べれる様になってみせるって、二人して張り切ってたからな~。

 

森の賢者アナスタシア・エルファンドラとマルセル村の天使ケイトは知らない、更なる美女の来訪を。彼女達が勇者病<仮性>患者ケビンに伴われマルセル村を訪れた時、二人して悶々とした気分に苛まれる事になるのだが、それはまた別のお話。




本日一話目です。
そんで第一章はここで終了。
次話より第二章となります。
by@aozora
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