転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

114 / 860
第二章 村人転生者、授けの儀を迎える
第114話 村人転生者、領都に向かう


吐く息は白く、白靄が上る早朝。

村長宅前には村の男衆が、これから領都に出発する荷馬車を見送る為に集まっている。

“ガチャ”

 

村長宅の扉が開き、冬の授けの儀を受ける為に領都に向かうヘンリー家長男ケビンとザルバ家の一人娘ケイトが顔を出す。付き添いの大人は村長代理ドレイク・ブラウンとケイトの父親のザルバ。

 

「ケビン、本当は俺も付いて行った方がいいんだが、メアリーが臨月で村を離れる訳には行かない。お前にはいつも負担ばかり掛ける、本当にすまない」

ケビンの父ヘンリーは、大切な授けの儀に付き添えない事を謝罪する。だが当のケビンはその言葉に首を横に振り、謝罪はいらないとばかりに言葉を返す。

 

「ヘンリーお父さん、謝る必要は無いです。むしろお父さんが残ってくれることに感謝しているくらいですから」

少年ケビンはそう言うと集まってくれた村の男衆の顔を一人一人見詰め満足そうに頷いた。

 

「皆さん、とてもいい顔になりましたね。あなた方は正しく戦士になった。

もう皆さんも肌で感じたと思います。このマルセル村は豊かになった、その事はとても素晴らしい事、だけどそこで終わる程この国は甘くないと言う事を。

豊かな農村は狙われる、他人の努力を掠め取ろうとする悪党は掃いて捨てる程いると言う事を。

 

秋の収穫祭から合計三回、昼夜問わず悪党は襲って来る。彼らは周到だ、彼らは明晰だ。知恵を使い、言葉を使い、どんな非道な事でも平気で行ってこの村をしゃぶり尽くそうとする。

これからやって来る者達を簡単に信じてはいけない、常に警戒し、用心し、一定の距離を置いて付き合わなければならない。そしていざと言う時に躊躇してはいけない。

この村を守れるのは皆さんだけなのだと言う事を忘れてはいけない。

その事はこの三回の襲撃で嫌と言うほど分かったはずです。泣き落としも、命乞いも彼らにとってはただの手段に過ぎないと言う事を。

 

マルセル村を、愛する家族を守りたいのなら、情けは棄ててください。

僕とケイトはこれまでそうやって村を守って来たんです。これからはその役割は村の大人たちの仕事です。

僕たちが留守の間、マルセル村をよろしくお願いします」

 

収穫祭が終わった後、男衆は村長宅に集められ初めて村の現状を知った。

マルセル村が多くの盗賊に狙われ襲われて来たと言う事を、その盗賊たちを村の子供であるケビンとケイトが始末していたと言う事を。

男衆は憤りに声を上げた、“なぜもっと早くその事を教えてくれなかったのだ”と。

だがその言葉はケビン少年の一言で打ち消された。

“必要だったから”

彼は言った、“この村の発展には皆の力が必要だ”と、“この村の労働を止める訳にはいかない”と。

村人と盗賊とが争えば多くの犠牲者が出る。少年ケビンはその事を嫌った。

故に効率的に“ごみ”を潰し、排除した。それが一番手っ取り早かったから。

だがこれからはそうも言ってはいられない、自分たちはこれからマルセル村を立たねばならない。授けの儀で向かうは領都、少なくとも一月は帰って来る事は出来ない。

 

この村は村の男達で守らなければならない。

誰か一人に頼るのではなく、皆で力を合わせ村を守る。陣頭指揮はボビー師匠がいる、ヘンリーがいる、グルゴがいる。

誰かが倒れても代わりがすぐに出来るように訓練が必要だ。

 

少年ケビンの指導は容赦がなかった、言い訳を許さなかった。その一言が、その甘えが、命に直結している事を知っているから。

そして村人達は実戦に晒された。夜の闇を、昼の草原を。巨大な剣を振るい、獰猛な笑みを浮かべ襲ってくる盗賊達。恐怖に震える身体に気合いをいれて、彼らは戦った。戦い抜いた。

 

「ボビー師匠、頼みますよ?盗賊の子供を引き取ろうだなんて思わないで下さいね」

 

「分かっとるわい、あの様な醜態は二度と晒さんわいて」

そっぽを向き拗ねた様な態度を取るボビー師匠に、“拗ねた老人なんて需要はないですよ”と大変失礼な事を考えるケビン少年なのでありました。

 

 

「「「「干し肉の勇者ケビン、行ってらっしゃい~!」」」」

 

「それは止めろ~!」

 

「「「「ワハハハハハ」」」」

 

ガタゴト音を立てて荷馬車は旅立つ、土の街道を一路グロリア辺境伯領領都グルセリアを目指して。

 

「そうそう、ドレイク村長代理、グロリア辺境伯様との交渉はお任せしちゃってもいいですかね?

俺、変に目を付けられたく無いんですよ。って言うか出来れば村からも出たくなかった、貴族マジ怖い。

端っこで小さくなってますから、後の事はよろしくお願いします」

 

「イヤイヤイヤ、それこそ無理だから、私だって一介の村長代理だからね。お願い、交渉に参加して?」

 

先程までの真剣な面持ちは何処へやら、荷台の上でやいのやいの騒ぐドレイク村長代理と少年ケビン。馭者台で鞭を握るザルバと隣に座るケイトは互いに目を合わせ、呆れた様にため息を吐くのでした。

 

―――――――――――――――

 

冬が本格化し始めた早朝、荷馬車に乗って村を旅立つマルセル村一行。

無茶だわ~、めっさ寒いやん。でもこうでもしないと今日中にエルセルの街まで着かないんですよね。

冬になり寒さと日の短さに悩まされるこの季節、モルガン商会の行商人ギースさんなんかはゴルド村で一泊してからエルセルに向かうらしいです。って言うかそれが普通、冬場の野営なんて死んじゃいますっての。

念の為アナさんから例の“暖かテント”を借りて来たけど、これはあまり表に出したくない。ドレイク村長代理が商人の目になっちゃうのが明らかだもんな~。面倒事の匂いしかしない。

でもエルセルとゴルド村の間って本気で何もない草原だからな~。通称グラスウルフの草原、今はまだそれ程物流も頻繁じゃないから野営地すら整備されてないだだっ広い草原、これでキャタピラーでもいれば少しは楽しめるんだけどなかなか見つからないんですよね。

 

安全に領都まで移動する事を考えれば行商人ギースさん達の商隊にくっついて移動した方がいい、と言うか普通はそうする。冬の行商の副業的サービスで、授けの儀に向かう子供を荷台に乗せて移動する事もあるらしい。“大した利益にはならないが、それでモルガン商会の名前が売れるのなら御の字”とか言って笑って教えてくださいました。

そうした細々とした営業努力がグロリア辺境伯領一の大商会を支えているんだろう、頭が下がります。

 

肝心のケイトの授けの儀対策は順調で、彼女すっかり魔力量調整をマスターいたしました。魔力感知や魔力視、各種偽ボールの作製に至るまで一通り使える様に仕込んでございます。それでもいざ戦闘とかになればジェイク君たちの足元にも及ばないだろうけどね。

体捌きやら戦闘時の判断なんかは一朝一夕に身に付くものじゃないからな~、その辺はおいおい覚えてもらうしかないんですけどね。

まぁ魔力隠しは寝てても出来るくらいに徹底指導したんで、よほどの事が無い限り大丈夫かと。ケイトの場合幸か不幸か感情が高ぶるって事が少ないからな~、魔力量が街の子供くらいしかないのに水面の様に安定した魔力って逆に怪しいかもだけど、そこは少ない魔力を生かす為に修業したって事で通りそうだしね。

授けの儀の前には念の為魔力過多症薬を服用して貰うけど、それまではこれで誤魔化せるかと。

 

問題はミルガルの司祭様。名目上はボビー師匠の弟子たちの付き添いだから当然俺とケイトの魔力は見てくるはず、そのときどんな反応を示すかなんですよね~。

バレたらこっちに引き込むって方向で。

 

授かる職業に関してはどうしようもないしね、“あなた様”も職業は人族に与えられた救済って言ってたし、あちらさんの御都合もあるだろうしね。

でも代々の魔法使いの家系や騎士の家系、裁縫師の家系や魔道具職人の家系ってのがあるくらいなんだから、ある程度遺伝的なものや環境的なものも影響するんだろうか。だとしたら元騎士団の団員のザルバさんの娘のケイトは剣士とか?

環境が影響するって話しならテイマーもあり?ケビン建設の従業員としては石工の可能性も。

 

「ケビン君、さっきから百面相をしてどうしたんだい?何か悩み事かな?」

俺が一人ウンウン唸ってると正面に座ってるドレイク村長代理が話し掛けて来ました。まぁ、そりゃ気になりますよね、荷台狭いし。

今回の領都行きでは途中ミルガルのバストール商会に寄って、秋の収穫で採れた根菜類を中心とした野菜とビッグワーム干し肉を卸す予定。その後先行していたモルガン商会の行商人ギース氏と合流、教会の司祭様と共に領都を目指す計画です。

流石に司祭様をマルセル村の荷馬車で領都にお連れする訳には行きませんからね、その辺は弁えております。

 

「いや、ドレイク村長代理にはお恥ずかしい所をお見せしてしまって申し訳ないです。ちょっと授けの儀の事を考えておりまして。

職業って割と親のものに近い物だったり、家の仕事のものだったりするじゃないですか?

例えば職人の子供は職人系職業を授かったり、騎士様や教会関係者の子供は剣士や聖教者だったり?

実際の働き口は別として授かる職業って結構関係しますよね?

だったら俺やケイトはどうなのかなって。

 

俺の場合ヘンリーお父さんは剣士の職業だし、メアリーお母さんは給仕なんですよね。で、家の仕事は農家、皆バラバラなんですよ。環境的な事を言えば建設関係や魔物関係、魔道具や縫製関係もあり?我ながら一貫性が無いな~と。

弟のジミーなんかはどう考えても剣士系職業一択なんですけどね。

それとケイトの場合は・・・」

 

「う~ん、そう言われるとケビン君の職業って想像がつかないね。“村の賢者(生活全般)”ってのがあればまさにそれなんだろうけど、珍しいからって教会で詳細鑑定に掛けられて、生活全般の器用貧乏って分かった時の気まずさと言ったら凄い事になりそうだよね。

それとケイトちゃんだけど・・・」

 

「魔法職一択でしょうね、魔力過多症になっちゃいましたし。ザルバさんからは“ケイトには下手に権力争いに巻き込まれさせたくない”って事だったんで、ケイトには魔力を隠す訓練をしてもらいました。

魔力過多症薬を併用しての微調整もバッチリですんで、希少職を授かったとしても“でも魔力が少ない残念な魔法使い”扱いになるかと。

予想では闇属性特化型の魔法使いか、魔導士か。賢者は複数の属性が必要ですからまずないかと。(行商人様情報)

行商人ギースさんの話しだと、領都の学園には魔導士だったけど魔力量が少なくって王都に行けなかった子や特化型魔導士が通っていたことがあったって話しだったじゃないですか。ケイトも上手くすれば領都の学園で済むんじゃないんですかね?

彼女の場合王都で色々あったみたいですし」

 

俺はそう言い御者台に座るケイトの方を見る。彼女は相変わらず死んだ様な目をしながら草原の遥か遠くに聳えるフィヨルド山脈を眺めている。

 

・・・ケイトの奴めっちゃご機嫌じゃん。ケイトさん、ザルバさんと行く荷馬車の旅を満喫中のご様子です。

 

「所でケビン君、この荷馬車、荷物を満載している割には速度が出ている様なんだけど、何か知ってるかい?」

そう言いジト目を向けるドレイク村長代理。

 

「イヤイヤイヤ、大した事はしてないですって。俺がやった事と言えば、マルコお爺さんと協力して荷馬車の車軸交換と車軸留めの金属板を改修した事と、馬の面倒を見た事くらいですから。本当ですよ?

多分車軸周りに塗った動物油が効いてるんじゃないんですか?」

 

俺の説明にどこか納得していないと言った顔のドレイク村長代理。でも本当にそれだけなんだよな~。軸に使った材木がブー太郎のログハウスの余り材木だったり、車軸止めの金属部品が私特製の鋳物部品だったり、お馬さんに緑と黄色が栽培した癒し草を与えた上に魔力纏いを仕込んだりしてますが、本当にそれだけですよ?

車輪部分にサスペンション擬きを仕込んだり、ベアリングを作って知識チートに走ったりなんてしてませんからね?

ドレイク村長代理から掛けられる疑いの眼差しに、不服を申し上げたいケビン少年なのでありました。




本日二話目です。
第二章スタートです。
ケビン君の活動範囲がさらに広がります。
子供の日ネタの小話がこいのぼりしか思い浮かばない。
あ、五月人形仕舞いっぱなしだったわ。
あれもどうにかしないと。
いってらっしゃい。
by@aozora
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。