転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第115話 村人転生者、宵闇に紛れる

エルセルの街、夕刻の街門前は多くの荷馬車が列をなしていた。

行列に並ぶ者達の心は一つ、“早く街に入りたい、冬場の野宿はご免こうむる”である。

各街の街門は基本夕刻を少し過ぎた時間帯で閉められる。これは防犯や夜に活発化する魔物を街に入れない為と言った理由があり、いくら街門前で列を作っていようと問答無用で締め出されてしまう。その為混雑の予想される大きな都市では早朝の列に並ぼうと朝早くから人々が集まってきたりしている。

 

「次、目的と身分を告げよ」

「はい、マルセル村から参りました村長代理ドレイク・ブラウン、村の総務役ザルバになります。領都で行われる冬の授けの儀に出席する為に立ち寄らせて頂きました。荷物は途中ミルガルの商会に卸す村の野菜と特産品です、こちらが村民証になります」

 

門番は村民証に目を通し、軽く積み荷を確認した後“よし、通れ”と声を掛けて荷馬車を街へと受け入れる。この混雑する時間帯に余計な問答をする余裕はない、背後で順番を待つ者達が早くしろとばかりに殺気を飛ばしてくるからだ。

 

「ドレイク村長代理、ギリギリ街に入れましたね」

街門を潜りエルセルの街に入ったところでドレイク村長代理に声を掛ける。

 

「そうだね、何とか日が落ちる前に街に到着して良かったよ」

ホッとした表情で答えるドレイク村長代理、そんな村長代理の顔にジト目を向ける俺氏。

 

「冬場の移動、野営を避けて街から街へ・・・危ない所でしたよね?

ドレイク村長代理が“この荷馬車速過ぎない?”って疑問を持つくらいの速さで移動してギリギリでしたよね?これって改修前の荷馬車だったら絶対に間に合わなかったって事ですよね?街門前での野営決定案件ですよね!?」

 

「ハハハハ、そうだね~。これに関してはマルコさんとケビン君に感謝しないといけないかな?本当に危なかったね~。」

 

「だ~、前々から言ってますがもっと行程に余裕を持たせてくださいよ!

旅は何が起きるか分からない、元行商人のドレイク村長代理ならその事は重々分かっているでしょうが!」

 

「いや~、本当、面目ない。次からはこう言った事が無い様にするから、本当に反省してるから。」

 

「これ二度目ですからね、本気で勘弁してくださいよ!」

なんか笑って誤魔化そうとするドレイク村長代理に“この人本当に大丈夫か?”と一抹の不安を抱える少年ケビン。そんな二人の様子を見ながら、“これじゃどっちが保護者か分からない”と苦笑いを浮かべるザルバなのでありました。

 

「いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」

 

「大人が二人と子供が二人、合わせて四人だな。一泊で食事も併せて頼みたい」

「はい、ありがとうございます。お一人様夜朝の食事付きで、銀貨一枚と銅貨八十枚になります。四名様ですので銀貨七枚と銅貨二十枚ですね。丁度いただきます、ありがとうございます。

お食事はお部屋に運ばれますか?それとも食堂で頂かれますか?」

 

「部屋の方で頼む。それと身体を拭く物を頼めるか?」

 

「はい、銅貨五枚でお湯の入った盥と手拭いをご用意出来ます。裏の井戸もご利用出来ますがいかがなさいますか?」

 

「ではそれを四つ頼む。身体はすぐに拭きたいから食事の前に持って来て欲しい」

 

「畏まりました、すぐにお持ちいたします。こちらが部屋の鍵となります、お部屋の方でお待ちください」

 

宿屋のご主人とザルバさんとの流れるような会話。ザルバさん、手慣れていらっしゃる。昔はよく部下を連れて王都周辺の街を巡回していたと。騎士団でも王都警備だけじゃないんですね、結構色んな部署に分かれているんですか?

貴族位が低いと雑用が多いんですか、お貴族様も大変なんですね。

ちょっとした事から垣間見えるお貴族様事情、そう言った事は何処の世界も変わらないんだな~と変に納得するケビンなのでありました。

 

宿屋のご主人から盥を受け取りお湯を使ってスッキリサッパリ。まぁやろうと思えば自分で出来るんですけどね、郷に入りては郷に従えじゃないですが、余計な軋轢は作らないに限りますからね。

 

「・・・ケイトは俺の顔をじっと見ない。言外に”お湯でさっぱりしたいんだけど?お湯玉は出してくれないのかな~?”って顔をしない。

冬場にそんな事をしたら風邪を引いちゃうでしょう、あれは夏場の汗だくだくの状態だったからやっただけなの、辺境の村人は普通湯浴みなんてしないの。

このお湯の入った盥桶だって村人にとっては結構な贅沢なのよ?お湯を沸かして準備するのって普通は大変なのよ?顔と手足だけでもサッパリするからさっさと拭いちゃいなさい」

俺がそう言うと渋々顔を拭くケイト。

 

えっとザルバさん、何温かい目でこちらを見てるんですか?何か兄弟みたいで微笑ましいと、そうですか。

何故かザルバさんに“ケイトの事をよろしく頼むよ、お兄ちゃん”と言われてしまいました。

 

「ケイトさんや、そこでなぜザルバさんを睨む。お父さんを睨むのは止めなさいっての、表情筋が仕事してないからどうせザルバさんには分らないだろうけどあまり良くないよ?

ドレイク村長代理が、なんかさっきから不思議なものでも見る様な顔をしていらっしゃるじゃないですか。えっ?不思議なものは俺ですか?

何かおかしいですかね?」

 

「イヤイヤイヤ、今ケイトちゃん一切しゃべっていなかったよね?表情もずっと一緒だったよね?なんでそれで会話が成立してるんだい?」

 

「何故って言われましても、慣れ?

それにケイトってこう見えても表情豊かなんですよ?喜んでる時なんか凄いんですから。ってザルバさん迄どうしました?」

 

「あ、いや、ケビン君は凄いなと思ってね。本当にケイトの事をよく見ていてくれてるんだなとね。情けない話だが私はケビン君程ケイトの表情を読み取れなくてね、ケビン君、本当にケイトの事よろしく頼むよ。」

 

「はぁ、まぁいいですけど。ケイトの事は任されました。

ってどうしたケイト、顔真っ赤にして喜びまくってるじゃん、行き成りでびっくりしたわ」

 

「なぁザルバ、今ケイトちゃんってそんなに喜んでいるのか?ケビン君は顔が赤くなってるって言ってたけど、私の目には変化が分からないんだが。」

 

「喜んでるなってのはなんとなく、顔色の変化までは流石に。ケビン君は本当に凄いですね。」

 

宿屋に到着してテンションの上がる?子供たち。そんな彼らを、不思議そうな顔をして見守る保護者二名なのでありました。

 

――――――――――――

 

宿屋の夕食は根菜とホーンラビットの煮込み。寒さが増して魔獣も冬眠期に入る今の時期は干し肉の需要が高まります。

どこのご家庭も鮮度のいい生肉は姿を消し、干し肉のしょっぱさを生かした煮込みが中心。食事処でも肉料理は基本干し肉の炙り焼きか煮込みになります。

 

流石宿屋、旨いわ~。このスープがまた堅パンによく合う。千切った堅パンにスープをひたひたになる迄染み込ませて頂くとこれがまた。スライスして表面をカリッとなる迄炙った堅パンをスープに付けながら食べても行けるかも、これはマルセル村に帰ったらやってみないとですね。

具材はデーコンとキャロル、マッシュとホーンラビット干し肉。後香辛料の代わりに香草を混ぜてるって所かな?

胡椒、胡椒が欲しい~。一摘み加えるだけでグンと旨味が増しそう、まぁ見た事ないんですけど。

 

領都に行ったら取扱店があるんだろうか?ラノベ展開の様にやたら高額とか?

甘味が高額商品だってのは行商人様から聞いてるんだけど、香辛料に関してはあまり聞いてないんだよね。

ビッグワーム干し肉のピリ辛味は香草を利かせてるんだけど、あれって辛味菜草って気付け薬の原材料になる香草を使ってます。マルセル村周辺にも自生している割とポピュラーな野草で、そこに数種類の薬草をブレンドしたものを岩塩に混ぜて干し肉原液を作り、漬け込んでから干してます。

基本香辛料も薬草も似た様なもんだけど使用目的が違う?身近な所で採れるのが薬草って扱いなのかな?その辺はよく分かりません。

 

食事の後ケイトは旅の疲れが出たのかすぐに就寝、ドレイク村長代理とザルバさんは軽く一杯ひっかける模様。

(わたくし)はと言いますと、剣鉈を受け取りにゾイル工房にですね。

明日日が昇ってからでもいいんじゃないのか?うん、その通りではあるんですけどね、エルセルの街に着いてしまった以上胸に宿るワクワクがですね。

翌日なんて待ちきれんとです!

 

大人二人には呆れた顔をされましたが、止める事の出来ない仮性心と言うものがですね~。って事で一言お断りを入れて夜の街にGOでございます。

普通の子供だったらいくら授けの儀の前の年齢でもこんな事許されないんでしょうが、そこは信頼と実績のケビン少年、夜の清掃員の名は伊達ではないのですよ。

頭に光属性魔力を送って目に魔力を込めるとあら不思議、なんちゃって暗視が出来ちゃうんですね~。少ない光を集めて脳内で変換しちゃってるんでしょうね、昼間の様な視界でございます。

 

街の大通りを街外れに向かうこと暫し、やって参りましたゾイル工房。入り口に大きく掲げられた“低級魔物用武器専門ゾイル工房”の看板はそのままなんですね。

まぁ長年これでやって来ちゃったからすぐには代えられないんでしょうが。

 

「こんばんは、夜分にすみません、以前剣鉈を注文したケビンです」

“ガタッ”

 

暗い店内から聞こえる物音。はて?人がいるのになぜ暗い?

店の扉を開けて「お邪魔しま~す」

うん、暗くてよく見えん。(注:なんちゃって暗視は切ってます)

俺はカバンから手持ち用照明の魔道具を取り出して店の中を明るく照らします。ってなんじゃこりゃ?店内ぐっちゃんぐっちゃん。

アレだけ綺麗に陳列されていた生活雑貨や刃物類が床にぶちまけられ、棚から何からが倒れまくってるじゃないですか。店内で冒険者が大暴れしたとか?

“ガタガタッ”

 

物音がするのは工房の方ですかね。

「失礼しま~す。ってフレムさん、何やってるんですか?」

 

照明の魔道具に照らし出されたもの、それは真っ暗な工房の床に座り込み、右腕をだらりと下げ左手で酒瓶を煽るフレムさんの姿でした。

 

「イヤイヤイヤ、本当にどうしちゃったんですか?お店の方は荒れまくってるし、フレムさんは神聖な工房で飲んだくれてるしって、意味解らないんですけど?」

 

「ん?誰だお前?」

「誰だお前じゃないですよ、マルセル村のケビンですよ。以前剣鉈の作製を依頼した。

ちょっと待ってくださいね」

俺はカバンから照明の魔道具カンテラバージョンを幾つか取り出し、部屋全体を明るくしてから再びフレムさんに話し掛けました。

 

「これで分かりますかね?マルセル村のケビンです。持ち込みのインゴット擬きで剣鉈の作製をお願いしたケビンですよ、フレムさんが”魔鉄”とか言ってた奴ですよ」

 

「剣鉈、魔鉄、ケビン・・・!?マルセル村のケビン君!すまない、あの剣鉈は、本当にすまない!」

そう言い酒瓶を投げ捨て頭を下げ始めたフレムさん。

いや本当に何があったし!?

 

ワクワクした気持ちでゾイル工房を訪れれば、荒れ放題のお店に飲んだくれのフレムさん。状況に全く付いて行けず、只管困惑するケビン少年なのでありました。




本日一話目です。
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