転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第119話 村人転生者、廃村の野営地で夜を明かす

“パチンッ、パチンッ”

石を組んで作られた釜戸の真ん中で、音を立てて弾ける薪。

乾燥した冬の空気は光を遮る水気が少なく、夜空の星がやけに近くに感じる。

夕食に出した香草ビッグワーム干し肉のスープは、乾燥野菜との相性も抜群で中々の一品であった。

これからグロリア辺境伯領でビッグワーム農法が広がれば冬の餓死者は激減する。ビッグワーム肥料によって増産された秋野菜を貯蔵し、本格的な冬になってから乾燥野菜を作れば食糧事情は激変する。

俺は白い吐息を吐きながら、天上に輝く星々に目を向ける。美しく輝くこの夜空に飢えによって苦しみ亡くなる者が少しでも減ってくれる事を祈りながら。

 

「フレムさん、セージさん、今日はお疲れ様でした。お二人共身体の方は大丈夫ですか?」

俺は隣で焚き火を囲む共連れに声を掛ける。

フレムさんは燃え盛る火をジッと見詰め、何かこれ迄の事、これからの事を考えている様だ。

セージさんはそんなフレムさんの横顔をどこか寂しそうに見詰めている。

 

エルセルの街で起きた様々な出来事、辛い事も、悲しい事も、苦しい事も。楽しかった日常が、嬉しかったあの日が、歓び充実したあの生活が、砂上の楼閣の様に崩れ去りその全てが反転してしまったあの日。

時計の針は止まらない、動き出した二人の運命は、破滅に向かって突き進む。

 

“パチンッ、パチンッ”

燃える釜戸に薪をくべ、俺は鞄から取り出したビッグワーム干し肉に鉄串を刺し焚き火の火で炙って行く。

 

焚き火の直ぐ脇には荷馬車が止まり、昼間の疲れを癒す引き馬が時々(いなな)きを鳴らす。

その向かい側にはアナさんから借り受けたテントが立ち、中でケイトとザルバさん、ドレイク村長代理の三人が寝息を立てる。

 

ここは廃村の野営地。周辺は旅人が煮炊きが出来る様に釜戸が組まれ、やたらに火を焚いて山火事を起こさない様に工夫されている。

元村跡と言う事もあり回りは森から離れており、野獣の危険性も少ない。

人の世は移ろい易い、十年、二十年と言う月日が経った時、この場所に再び村が作られる未来もあるのだろうか?

 

「あ、干し肉が焼けましたよ」

俺は鞄から皿とフォークを取り出し、鉄串に刺さった干し肉を解し取って二人の前へと差し出した。

 

「野営の夜は長い、夜番は干し肉でも齧りながら勤めるに限りますよ」

俺の言葉に、二人も笑みを浮かべ干し肉を頬張る。

 

「「#♭$%¥&@$=!?」」

カッと見開かれた両の目、俺の顔と干し肉とを交互に見やるも、動かす口は止まらない。

食べる、食す、喰らう。やる事は同じ、只々咀嚼を繰り返す。

 

俺はそんな二人を眺めながら、“やっぱりそうなるよね~、美味しい肉は正義だよね~”と、どこか他人事の様な顔をする。

 

「旨かった、あれは一体?」

最初に口を開いたのはフレムさんであった。

この二人、食べ終わった後あまりの美味しさに余韻に浸って無反応でしたから。

夜番としてそれでいいのかと思わなくもありませんが、そこはビッグワーム干し肉に免じて許してあげましょう。だってあれって美味しいし。

俺は“ここだけの話ですよ?”と前置きをして先程のビッグワーム干し肉の来歴を語る。マルセル村に訪れた流浪の賢者様の事、その際頂いたビッグワーム干し肉である事。

 

「で、このビックワーム干し肉なんですけどね、賢者様の従魔であるフェンリルにとっては美味しい餌でしかないらしいんですが、普通の人間には嬉しい効果があるらしいんですよ」

俺の話しに耳を向ける二人、よしよし完全に信じたな。流石賢者様のネームバリュー、凄い便利、今度魔力マシマシ蜂蜜ウォーターでもお渡ししておこう。

 

「フレムさん、ちょっと右腕を上げてみて貰えますか?上がるところまでで結構です」

“スーッ”

 

「はい、結構です。そう言う事ですね。こんな事、ヤバ過ぎて誰にも話せないでしょ?村でも第一級秘密事項に指定されましたから。と言ってもさっきの一切れで最後なんですけどね。いや~、いい処分先があって良かった良かった」

 

「あっ、えっ、あっ」

口をパクパクさせて混乱の真っ只中のフレムさん。そんなフレムさんに更なる爆弾をプレゼントしましょうか。

 

「それでさっきの干し肉にはもう一つ効果がありまして。フレムさん、お隣のセージさんをご覧になって貰えますか?」

そこには先ほどから干し肉を食べる為にフードを外したセージさんが、金色の長い髪を後ろに束ね、長い耳を澄ませながらフレムさんの事を見詰めているのでした。

 

「この干し肉、簡単な呪いなら解けちゃうんですよね。って訳で積もる話しもあるでしょうから僕は席を外しますね。

夜は長いですから、ごゆっくり」

 

「あっ、あっ、あっ」

俺の言葉に自分の耳を触りハッとするセージさん改めてセシルさん。そんな彼女の姿に息を詰まらせ、滂沱(ぼうだ)の涙を流すフレムさん。

 

「セシル」

「フレム」

見詰め合い互いに涙する二人。決して届かぬ思い、人生を掛けて探し当てると誓った相手が、今目の前にいる。

フレムとセシルの人生の針は再び重なり合い時を刻み始める。今度こそ決して離れないと、固く心に誓って。

 

――――――――――――

 

「いや~、良いわ~、感動モノだよね。離れ離れになった愛する二人が再び巡り合い、互いの想いを確かめ合う。

最近かなり恋愛脳になりつつあるアナさん辺りなら涙を流して感動に打ち震えるんじゃないかなって思うんだけど、その辺どう思う?いつぞやのナイフ少年」

 

俺が声を掛けた方向、そこにはこちらを恨めしそうに見詰める子供の姿。その背後が透けている事からも、彼がこの世の者では無い事が伺える。

 

“殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す”

「うーわ、恨み山積って感じ?他にも結構な人数の方々がいらっしゃるじゃないですか。

でもどうせなら場所を変えません?少年なら分かるよね、俺たちの思い出の地、例の森に参りましょうか。

あそこには他の皆さんも集まっているんでしょ?一々単発で来られても面倒なんですよね、お話しはそれからって事で」

 

俺はそれだけを告げると一人森に向かって歩きだす、そんな俺の後ろからは多くの村人?が押し寄せる。それはまるでお祭りの行列の様にとても賑やかなものであったことだろう、聞こえる声が怨嗟と罵詈雑言、その表情が恨みと怒りに染まっている事を除けば。

 

「うわ~、いくら夜とは言え集まっちゃってますね~。この森は既に呪われた森と化しちゃってますからね、闇属性魔力マシマシ?今にもその手の魔物が発生しやすい状態の所に新鮮な恨みの魂、そりゃこう言う事にもなりますか」

 

目の前に立ち並ぶ怒りの形相をした追い剥ぎ村の男衆。彼らは各々武器を持ちこちらをじっと睨みつける。

そしてそんな彼らの負の感情に誘われる様に、森の奥から闇の気配が集まって来る。

それは怒り、それは恨み。生者に対する妬ましさ、羨ましさ、自分たちを殺した者に対する恨み辛み。それらがすべて混じり合い、大きな呪いへと成長しようとしている。その結果生み出されるモノ、それらが俗に言うアンデッドモンスター。レイスやリッチ、ゾンビやグールと言われる物なのであろう。

彼らが生み出す闇属性魔力、そこに彼らの思いが混じり合った時、それはモンスターと言う形でこの世を蝕む、そう言う事なのだろう。

 

「えっとこの集団の代表の方はおられますか?皆さん同時にお話しされても何が何だか分からないんですが?」

俺は全体を見渡し、それらしき人物が現れるのを待つ。

 

“貴様が我らを殺し、私の大事な息子を殺したクソガキか”

地の底から響く様な声音、それは言葉を発する者の恨みの深さを表していた。

 

「えっと、どちら様かお伺いしても?」

“儂はここシャイン村の村長、グレート・シャイン。貴様の愚劣な行為によって我が村は滅ぼされた。この恨み、貴様の身一つで済むと思うなよ。貴様の親も、貴様の住む村も、全て滅ぼしてくれる。貴様自身、簡単に死ねると思うなよ。呪われ、地獄の苦しみを味わいながら死ぬといい”

 

シャイン村村長の亡霊はそう言うと歪んだ笑みを浮かべ、周りの男衆も同様に醜い笑みを浮かべる。俺が村から引き連れて来た女衆はと言えば、これまたおっかない笑いを浮かべておられます事。

 

「でもみなさん、そうは仰いますけど皆さんも同様の、それこそ俺以上の事をなさっておられましたよね?その辺どう思っていらっしゃるんです?」

俺の問い掛けに村長の亡霊はくだらないウジ虫でも見る様な顔で言葉を返す。

 

“ふん、何を言うかと思えば。連中はただの獲物、儂らに狩られるだけの存在。

儂らが一体何をした?ただ狩りを行っただけではないか。

ならば聞こう。貴様は森で狩りを行わないのか?肉を喰らわず野菜だけで生きて来たとでもいうのか?”

 

「まぁ言われてみればそうですよね、狩人が獲物を狩るのは道理。であるのならばあなた方は狩りに失敗し命を落とした、それだけの事。変に恨みなど持たず天に召されてはいかがですか?

今ならまだ間に合いますよ?」

 

“何を馬鹿な事を、そんな詭弁で貴様を見逃すとでも思ったか!貴様のその身、指先に至るまで苦しみに悶えさせてくれようぞ!”

 

「はぁ~、やっぱり駄目でしたか。最後のチャンスだったんですけどね。

お気付きになられていない様なのでお教えいたしますね。

この森にはあなた方が長い年月を掛けて狩り続けて来た旅人や村人、行商人のご遺体が埋葬されて来たそうじゃないですか。その彼らの恨みの魂が、深い怨念となってこの地に大量の闇属性魔力を生み出していた。この土地は既に呪われた森と呼ばれるそれになりつつあったんです。

で、そんな森に恨みの対象、つまり自分たちを殺した村の人間の魂が集まった。

さぁ、彼らは一体どうするでしょう」

 

”ブワッ”

ケビン少年の身体から突如噴き出した濃厚な闇属性魔力、それはこの広大な暗闇の森を覆い尽くし、一つの強大な結界を作り上げる。

 

長い年月ですり減り自我を失った魂、そうした傷付いた魂も、大量の闇属性魔力により補完され己の目的の為に動き出す。自分たちは本当に生きとし生ける全ての者を恨み呪っていたのか?否。

ではその恨みの源泉は?

 

「シャイン村村長グレート・シャインさん、そしてシャイン村の皆さん。清算の時が来ました。

自分たちの罪を認め、その死を受け入れた数少ない村人はここにはいないでしょう。彼らは既に死出の旅路に立たれた。皆さんがその後を追えるかどうかは運次第でしょうが、ご冥福をお祈りいたします」

 

深く暗い闇深き森。

大地に蠢く亡霊は、膨大な闇属性魔力を与えられ動き出す。それぞれが思い思いの姿を形作り、目標に向かい突き進む。

 

”ええい、戯言を。その様な言葉で儂らが止まると思ってか!

クソガキが、儂らの恨みを思い知れ!!”

 

シャイン村村長グレート・シャインの号令が飛ぶ。

ケビン少年を取り囲んでいた亡者が、怨霊が、一斉に彼に取り憑こうとした。

だが。

 

「残念、ちょっと遅かったみたいです」

 

ナイフ少年がケビンの脇腹にナイフを突きつけた形で固まっている。それは彼がナイフを寸でで(とど)めたからではない。彼の身体を無数の血濡れた腕が絡め取っていたから。

 

“あ、あ、あ、あ、うわ~~~~~!!”

“ズズズズズズッ”

深く暗い闇の様になった地面に引き摺り込まれるナイフ少年、その絶望に染まった目は、助けを求めてケビン少年を見上げる。

だがケビンはそんな彼に目を向ける事無く、目の前の光景を見詰め続ける。

無数の腕に絡め取られ助けを求めながら地に沈むシャイン村の亡霊たち。ケビンに向けられた怨嗟の声は救いを求める悲鳴に変わり、恨みの視線は恐怖と怯えの目に変わる。男も、女も、老人も、子供も。性別年齢問わず彼ら全てが恨みの対象。

 

“トプンッ”

闇夜の森に静寂が帰る。

怨嗟と怨念にまみれた呪われた森は、暗く重い気配を漂わせながらこの世の全てを拒絶するかの様に静かに佇んでいる。

俺は収納の腕輪から一本の瓶を取り出し蓋を開ける。

 

“ドバドバドバドバ”

古来から酒には大地を清める力があるとされている。荒ぶる魂を鎮め、呪われた大地を浄化する。

鎮魂の儀式、大地に豊穣を祈る儀式、人々は様々な儀式において酒を振る舞い大地に祈りを捧げてきた。

俺は祈る、願わくばこの地において無残に亡くなった人々の魂が鎮まり、新たなる旅路に立たれる事を。俺は願う、シャイン村の人々がこの世の執着を捨て、来世に向かい歩を進める事を。

死なば仏、そこに善人も悪人も無い。

人生とはその人の魂を運ぶ船。これまでどの様な人生を歩んで来ようとも、その魂は来世へと向かうべきであろう。

“善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人おや”

天は全ての魂を救い給う。

 

「あなた様が飲まれていたお酒なら、少しは想いも伝わるでしょう」

俺は腕輪に酒瓶を仕舞うと、手を合わせ祈りを捧げる。

全ての魂に安らぎが訪れる事を願って。

 

“ポワッ、ポワッ”

大地から浮かび上がる光の球。それはゆっくりと浮かび上がり、上空へと昇って行く。

 

“ありがとう、勇気ある者よ”

“ありがとう、心優しき少年”

“お兄ちゃん、ありがとう”

 

木霊する声、それはこの森に囚われていた被害者たちの感謝の思い。

 

“少年、色々迷惑を掛けたな。私達はどうやら欲望に囚われていた様だよ。本当にすまなかった。

これは我々にはもう要らない物だ、済まないが処分を頼めるかな?”

“ドサドサドサッ”

 

そこに落とされた無数の刀剣。以前の物はこっちで収納してあったのに、まだ隠し持っていたのね。

 

“ドンッ”

脇腹に走る衝撃、そこにあったのはナイフの柄?

 

“よっしゃ~、一矢報いてやったぜ~♪お前ら見てたか~、俺はやったぞ!”

“流石若様、あの化け物から一本取るなんて、俺には無理でしたよ”

“若様、凄い!”

“アッハッハッハッ”

 

楽し気な笑い声をあげ昇って行く子供たち。

地面にはナイフ少年の愛用のナイフ。これ、森に投げ捨てた奴じゃん。

あいつ等最後にやりやがって、痣になったらどうするんだ。

 

幻想的な蛍の様に、光の球は昇って行く。

俺はその光景を見詰めながら、彼らの冥福を祈るのだった。

 




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