転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第120話 村人転生者、野営地の朝を迎える

野営地の夜が明ける。

旅人達は空が白みだす頃から朝食の準備を始める。

 

“ガサガサガサ”

テントの中から這い出した者は、外気の寒さにブルッと身を震わせる。冬の野営、吐く息は白く手先に冷たさが伝わる。

 

「おはようケビン君、すっかり寝てしまった様で済まなかったね。夜番の交代時間に起こしてくれれば良かったんだが、もしかして何かあったのかい?」

 

ドレイク村長代理はまだ眠気の残る頭を横に振り、訝しげな顔をしながら朝食の準備をする俺に声を掛ける。

昨夜は“ケビン君このテントは一体・・・”とか“このテントは凄い、ギースの奴に言ってモルガン商会から売り出せば・・・”とか大変興奮なさっておられましたが、“こちら、御婆さまからお借りした品でございます”って言ったら言葉を詰まらせ諦めてくださいました。

ドレイク村長代理にご理解いただけた様で、大変宜しゅうございました。冬の野営も快適に過ごせるあったかテント、目覚めも爽やかだったでしょ?

で、目覚めの第一声がこのお言葉。まぁ夜番の交代時間になっても一切声も掛けず、夜通し寝ずの番をすれば疑念の一つや二つ持ってもおかしくないか。

俺は鍋のスープをかき混ぜる手を休め、村長代理に目を合わせる。

 

「色々ありましたけど、どれから話します?」

 

俺の言葉に、力一杯顔を引き攣らせるドレイク村長代理。

俺はそんな村長代理を促す様に、目線を朝日が上る平原の方へと向ける。

 

光射す草原を背景に革鎧を身に付けた人物のシルエット。

凛とした美しい姿勢、一つに束ねられた煌めく金糸。シャープな面立ちと横に伸びる大きな耳が、その光景を一枚の絵画の様に、絵画の様に・・・横に伸びる大きな耳?

 

「あ、ご紹介しますね。こちらフレムさんの奥さんで、セシルさんです。訳あって変装してセージと名乗っておられましたってどうなさいました?そんなにお口をあんぐりとさせて」

 

目の前には時が止まったかの様に動きを止めるドレイク村長代理とザルバさん。その脇ではケイトが、“腹がへった朝食はまだか”とお腹を擦りながら催促の目を向ける。

ケイトさん、ぶれない。周囲に流されず我が道を往くケイトさん、素敵です。

 

「まぁそんな所で突っ立ってても仕方がないので、取り敢えず朝食にしましょう」

俺の言葉に、ノロノロと石組み釜戸を囲む様に席に着く保護者二名。ケイトと言えば“ひゃっほい、ご飯だ~♪”と満面の笑み(顕微鏡レベル)。

器に盛られたスープからは暖かい湯気が(のぼ)り、旨そうな匂いが胃袋を刺激する。今朝は胃にも優しい乾燥野菜のスープ。しっかり天日に干された野菜達は火の通りも良く、朝の働きの鈍い身体にじわっと染み渡ります。

 

「さて、何から話しましょうか。取り敢えず目の前の問題からですね。

こちらの女性、まぁ見ての通りエルフ族の方で名前をセシル・ゾイル、フレムさんの奥さんです。先ほども言いましたが訳あって男性冒険者セージさんとして振る舞って貰っていました。

次にその訳ですが、こちらのフレムさんがエルセルの街で鍛冶工房を開いていた事、何者かに襲われ背中を切られ右腕を負傷した事はすでにお話ししたと思います。今回の同行はミルガルの教会で治療を行う為って事もお話ししましたしね。

 

で、フレムさんが襲われた時襲撃者が奪って行ったモノが二つ。一つはフレムさんが打ち上げた魔鉄製の剣鉈。もう一つが彼の愛する妻セシルさんでした。

襲撃者たちはセシルさんがエルフだと言う事は知らなかった、セシルさんが生活の為に用意した偽りの顔と身体を目当てに寄ってきた蛆虫と言った所だったのでしょう。

襲撃者の話しではセシルさんが用意した豊満な肉体と少し垂れ目の色気漂う容姿は、エルセルの街の男達の羨望だったそうですから」

 

「イヤイヤイヤ、ちょっと待とう。えっ、何でケビン君が襲撃者の話しを知ってるの?って言うかケビン君がフレムさんのところに行ったのって一昨日の夜だよね?昨日の朝にはセージさんは宿に泊まってたよね?

急展開過ぎて話しについて行けないんだけど?」

 

「まぁまぁ、それについてはおいおいって事で。

で、今ドレイク村長代理が仰ったように俺がフレムさんの所を訪れたのは一昨日の夜。工房で飲んだくれて生きる屍の様だったフレムさんに話しを聞いた俺は、彼に残った最後の責任感を強引に刺激してミルガルの教会に行く決断をさせ、翌日の早朝に旅立つ約束をして工房を後にしました。

 

襲撃者が誰であるのかは分からず仕舞い、完全に手詰まりだったんですが幾つか手掛かりはあったんです。

一つは奪われた物が俺がフレムさんに渡したなんちゃってインゴットを使って作られた剣鉈であった事、もう一つが攫われたのがエルフであることを隠して生活していたセシルさんであった事。

俺が作ったなんちゃってインゴットには俺がこれでもかってくらい火属性魔力を注ぎ込んでいるんですよ、つまり俺の魔力波動がたっぷり染み込んでいる。そしてエルフ族は魔術に長けていると言われる様に、セシルさんは普通の普人族よりも魔力量が多い。

取り敢えず俺は、この街の中で魔力量の多い人物を片っ端から当たる事にしました。

まさか一発目から正解を引き当てるとは思いませんでしたが。

まぁよくよく考えれば旨味の少ない辺境側の街に力のある冒険者がいるはずも無いですしね、エルフほどの魔力を持った人物なら領都でも王都でも大活躍でしょうから。

 

早速大きな魔力反応のみられる建物に侵入、セシルさんとは以前この街に来た時に会ってますから、建物内に入れば本人かどうかの確認は容易でした。

後は救出の為の情報収集と敵勢力の無力化、本人の安全の確保って流れでした。

セシルさんに変装して貰ったのは安全にエルセルの街を脱出する為ですね、一応セシルさんが死んだように偽装はしておきましたけど、どこに誰の目があるのかなんて分かりませんから。フレムさんと極力接触させなかったのもその為です。

敵アジトではセシルさんは魔物に襲われて死亡した事になっている筈ですよ?そのための目撃者も残して来ましたから。

 

昨日の朝検問が敷かれていたじゃないですか、あれはその偽装工作の余波ですね、結構派手にやりましたんで。相手側は魔物ではなく盗賊に襲われたって事にしたみたいでしたけど、それはそうですよね、自分たちの支配する街のど真ん中に魔物が現れたなんて言えないですから。

 

で、次の問題なんですが、その偽装工作のどさくさでこんな書類が手に入っちゃいましてね。ドレイク村長代理にお渡ししますんで処分はお任せします。

で最後の問題なんですが・・・」

 

「イヤイヤイヤ、ケビン君何を私に丸投げしてるのかな?こんな物を私に渡されても困るんだけど?

これってエルセルの街の監督官が周辺盗賊と手を組んで上前を貰ってるって証拠書類じゃないか。しかも武具提供をエルセルの街のビクス工房が行っているって連名書類。更には詳細な金額の記録って、ビクス工房の裏帳簿らしき物までって、一体何をどうしたらこんな物が手に入るのさ!」

 

「えっ、詳しく聞きますか?まずは気配を消して敵のアジトに侵入しましてね、破落戸(ごろつき)どもの酒の中に大変気持ちの良くなるお薬を・・・」

 

「はい終わり、その話しはそこまで、セシルさんを救出に行ったら怪しい書類を手に入れた、以上。

この書類はグロリア辺境伯様に差し上げます。理由は偶然手に入ったけど、もて余したからどうにかしてくださいでいいです。余計な画策は無しです、私はまだまだ死にたくありませんから。

皆さんもそれでいいですね!余計な事は口外しないでくださいよ!」

 

ま、それが無難ですよね。

俺も昨夜腕輪収納に取り込んだゴミの整理をしていた時に、この書類を発見して頭抱えたもん。これってなんちゃって魔剣グラトニュートのせいなんですけどね。

あれって魔剣でもなんでもなくって闇属性魔力の塊をそれっぽく見せてただけって言うね。そんでもって空間を削り取ると見せ掛けて腕輪に収納していただけなんですよね。

 

闇属性魔力の物体指定効果と魔力纏いの切断効果、収納の腕輪の合わせ技。我ながら大したもんだ。

お陰で中ボスクラスの魔物って勘違いさせる事が出来ましたし!(どや顔)

でも何を取り込んだのかは後から確認しないといけないって言うね、夜の森から帰って来てもまだ二人の世界を作ってる熱愛夫婦がいたんで、邪魔をしない様に隅っこで作業していたら発見しちゃったって訳です。

 

「えっと皆さん、取り敢えずスープ飲んじゃいましょうよ、身体が温まりますよ?」

俺は一旦小休止を提案、朝食を頂く事と致しました。

あ、セシルさんは新しい地味顔になっておいて下さいね。何処と無く愛嬌のある地味顔のおばさん、フレムさんも早い事慣れて下さいよ。

 

「あぁ、俺はセシルと一緒にいられれば他はどうだっていい、周りの男どもが色目を使わないのなら尚の事。地味顔セシル、最高じゃないか。」

そう言いセシルさんの手をギュッと握り締めるフレムさん。もう絶対離さないと言う決意の現れなんだろうな~。

 

「・・・何ですかケイト。お代わりなら自分でよそって下さい?」

 

“プイッ”

何か拗ねてますね。でも手は握りませんからね!

そう言う演出はどこかの転生勇者様辺りのお仕事ですから、辺境の村人に過度の期待をしてはいけません、これ重要。

 

そんなこんなでやいのやいのと朝食が食べ終わった頃には、ドレイク村長代理も大分復活なされたご様子。

それじゃ続きと行きますね。

 

「前の村の宿屋兼食堂で女将さんが言っていた事って覚えてますか?

この野営地に俺たち以外利用者がいない理由、この野営地には追い剥ぎ村の村人達の亡霊が出るって話。

あれ、本当でした。結構な人数がおられましたんで皆さんを誘って近くの森に行きましてねってどうなさいました?”何でもない”と、”ケビン君だから仕方がない”と。

 

何か納得いきませんが続けますね。

俺は村人の亡霊達を森の奥、ボビー師匠達が襲われた辺りまで連れて行きました。

連中が何で素直に従ったのかは簡単です、そこには追い剥ぎ村の村長達男衆の亡霊がいるからです。

何でそんな事が分かったのか。村長達を始末したのが俺だからです。

 

ボビー師匠には襲って来た子供たちは森に放置して逃げて来たって話しましたが、そんな事をすれば今頃ボビー師匠達はお尋ね者になっていたと思いますよ。

あの村が魔獣に襲われて男衆と子供たちが殺された。実際はボビー師匠達を襲う為に森に向かっていた男衆を俺が始末して、ボビー師匠達を逃がした後に魔獣を誘い込んで死体を処理させたってのが本当です。

子供たちは誘い込んだ魔獣達に襲われただけですね。

だから彼らは俺に対して恨み山積なんですよ。

 

でもあの森ってそんな村人の亡霊に対して恨み辛みを持つ怨霊がわんさかおられるんですよね~。

自業自得。連中、俺に襲い掛かる前に大量の怨霊に連れ拐われちゃいました。

で、後に残ったのが闇属性の魔物が生まれる寸前の呪われた森って奴なんですよね~。ですんでそこでちょっとお話し出来ない方法(腕輪掃除機&光属性魔力マシマシミスト)を使って対処しておきました。上手く行って良かったです。

結果大変爽やかな清浄の森に生まれ変わっております」

 

「「・・・・・」」

 

うわ~、ドレイク村長代理とザルバさんがなんて事を話しやがるって顔をなさっておられます。

まぁここで話が終わるなら俺も誰かに話をするつもりもなかったんですけどね。

 

「出ておいで」

 

“ニュッ”

俺の影から顔を出したモノ。黒い毛並み、精悍な顔つき、大型犬サイズのそれは・・・。

 

「いや~、何か森が清浄化しちゃったら住み心地が悪くなっちゃったみたいでして。ケイトの護衛にどうかなって思いまして」

森の暗殺者、“シャドーウルフ”の姿なのでありました。




本日二話目です。
潮干狩りって行かなくなったな。子供の頃両親に連れて行って貰って以来?自分の子供らを連れて行った記憶がない。
テレビのニュース映像を見てそんな事を思ったダメ親な私でした。
いってらっしゃい。
by@aozora
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