転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第121話 村人転生者、養蜂家を訪ねる

「ケイト、この器に闇属性魔力マシマシウォーターを出してくれる?」

 

「ん。」

 

「じゃあ、それをシャドーウルフにあげてみて」

 

「ん。」

 

“コトッ”

“クンクン、ペロッ。!?ガブガブガブガブ”

「おうおうおう、凄い勢い、尻尾ブンブン振りまくりじゃないですか。

それでどうよ、こちらのケイトさんの護衛任務、引き受けてくれるか?」

 

“バウッ、クウ~ン”

「ケイトの前でお座りして尻尾ブンブン振ってるって事は、交渉成立って事ですな。

ケイトはどうよ、嫌ならやめるけど」

 

「ん。」

ケイトさん、シャドーウルフの頭撫で撫でしながら超ご機嫌じゃん。でも何か手から闇属性魔力が漏れてない?大丈夫なの、それって。

 

“クウ~ン”

めっちゃ気持ちいいんだ、ならいいけど。

 

「ドレイク村長代理、ミルガルの街に着いたらケイトを主とした従魔登録をしちゃいましょう。ザルバさんも心配そうな顔をしてますけど、こう見えてケイトってシャドーウルフよりも強いですからね、全く心配ありませんよ。

それよりも余計な虫に絡まれた時に、シャドーウルフに助けてもらう事で実力を隠せるんですから、かなりお得かと。二つ名は“シャドーウルフ使いのケイト”って所ですかね」

俺の言葉に乾いた笑いを浮かべる保護者二名。いいと思うんだけどな~、“シャドーウルフ使いのケイト”。

 

「さて、それじゃそろそろ次の村に向かおうか。確かラッセル村だったかな?」

 

「はい、ラッセル村です!

養蜂家のジニーさんがおられる村、伝説のスライムマスターに会えるんですね、ひゃっほい♪」

俺が一人浮かれる中、荷馬車は一路ラッセル村に向かって走り出すのでした。

そこ、またケビン君の勇者病が始まったとか言わない。

 

 

「すみません、こちらの村に養蜂家のジニーさんがおられると聞いて来たのですが」

 

早朝に野営地を出発したマルセル村一行は、日が昇り暖かくなる頃にはラッセル村に到着、既に働きだしていた村人に無事ジニーさんの情報を聞く事が出来ました。

何でもジニーさん家族は村外れの森に近い場所で養蜂を行っているとか。どうやらフォレストビーの成育には、フォレストビーの生息地でもある森に近い方がいいとの事。俺、力一杯畑の小屋脇で飼ってますけど、夏の日射しとか気温とか全く考えて無かったわ。

フォレストビーに必要な最適な環境、森に流れる涼しい風、木々に遮られる事で木漏れ日に変わる日射し。

マルセル村に帰ったらその辺改善してやらないと、本当に知らない事って多いよな~。

 

「すみません、こちら養蜂家のジニーさんのお宅でしょうか?」

 

「あぁ、ジニーはうちの親父だけど。どう言ったご用件かな?」

声を掛けたのはしっかりした身体付きの男性、もしかしたら養蜂業を継がれたロイさんのお兄さんかな?

 

「はい、私は今度領都で行われます授けの儀を受ける為、マルセル村から参りましたケビンと申します。途中エルセルの街で蜂蜜売りの屋台を出されていたロイさんと知り合いまして、こちらラッセル村でご家族が養蜂業を営んでおられるとか。

その話の中でお父上のジニーさんが昔“スライム使い”と呼ばれていたお話しをお伺い致しまして、是非お話しをお聞かせ願いたく参った次第です。

あ、無論蜂蜜も購入させて下さい」

 

「はっ?えっとごめん、親父にスライムの話を聞きたくって来たの?それとも蜂蜜を買いに来たついでにスライムの話を聞きたいの?」

 

「はい、ジニーさんの“スライム使い”時代のお話しをお聞かせ願いたく参った次第です!

蜂蜜は売っていただけるのでしたら購入させて下さい、この時期はあまり量が取れないのは知っていますから。

儲けに走って蜂を弱らせてしまっては大変ですからね」

 

「えっと、ケビン君だったかな?君はもしかしたら養蜂を?」

 

「はい、巣箱一つですがフォレストビーを飼っています。ロイさんの所で頂いた蜂蜜は大変美味しかったです。やっぱり専門家は違うと教えて頂いた気分でした」

そう言い頭を下げる俺に、嬉し気に笑顔を向けるお兄さん。

 

「そうか、美味しかったか。親父だったら家でお茶でも飲んでるだろうから案内しよう。他の皆さんは」

お兄さんは俺の後ろに立つマルセル村一行に目を向けました。

 

「私達は蜂蜜の購入をさせて下さい。スライムの話しは・・・。ケビン君はこの手の話しになると長いので」

 

「えっともしかしてケビン君は・・・」

 

「はい、<仮性>症状です。かなり重度の。」

ドレイク村長代理とお兄さん、互いに目と目で会話した後俺に目を向けるのは何故なんでしょうか?

俺の顔に何か付いてます?

 

「ケビン君、君はもしかしたらスライムを」

 

「はい、四歳の頃から飼ってます。他にビッグワームが二匹に、キャタピラーとホーンラビットがいますよ」

 

「はぁ!?ホーンラビット?えっ、それって大丈夫なのか?刺されたらただじゃ済まないぞ?」

 

「はい、だから角は切り落としました。ふかふかの毛並みでかわいいですよ」

 

「えっ、角を切ったの?どうやって?ごめん、話に付いていけない。親父は基本暇人だからゆっくりしていってくれ。

他の方々は蜂蜜だったな、丁度精製作業の終わった商品があるんだ、作業小屋に案内しよう」

そう言い俺以外を連れて作業小屋へと向かうお兄さん。

俺、何か変な事でも言ったんだろうか?まぁいいや。

俺はウキウキ気分でジニーさんのおられるお宅へと向かうのでした。

 

 

「ほうほう、“スライム使い”と呼ばれた儂の話が聞きたいと。」

 

「はい、突然の訪問失礼かと存じますが、“スライム使い”の先達としてのジニーさんのお話しをお聞かせ願いたく、お伺いさせていただきました」

 

ジニー師匠は俺の言葉に満足気に頷くと、スライムについての話を始めてくださいました。

 

「ケビン君と言ったか。君は身近で不思議なスライムと言うものをどれだけ知っているかな?

一般の農家辺りだとトイレのスライム、水辺のスライム、草原のスライム、林のスライムと言ったところかな?

これら様々に呼ばれるスライムだが、各々色々な特徴があることは分かるかな?

トイレのスライムは糞尿を消化吸収し分解、それを糧に分裂増殖を行う。

水辺のスライムは水中の栄養素を吸収し、水を浄化する作用がある。

草原のスライムは草むらの増殖を押さえ、林のスライムは森の管理を行う。

 

我々が暮らすグロリア辺境伯領が人口の割に荒れる事もなく過ごしやすい環境を保つ事が出来るのも、全てスライムやビッグワームといった最下層魔物のお陰と言えるんじゃよ。

 

そこでこのスライムだが、あらゆる環境に生息していると言うことは知っているかな?雪吹き荒ぶ雪原であろうと深い海の底であろうと、ほんにありとあらゆる場所に生息しておる。そしてそれらの環境に合わせ適合進化を行い様々な特徴を会得する。

酸性の液体を吐き出すものや毒を吐き出すモノもおるし、火を吹き出すものや各種魔法を使うスライムもおる程じゃ。

だがこれらスライムはあくまで環境に適応し進化した結果様々な変化を見せているだけで、元は同じスライムなんじゃよ。

 

つまりスライムとは無限の可能性を秘めた魔物なんじゃ。

儂が“スライム使い”と呼ばれた所以は、このスライムの可能性を引き出し、あらゆる依頼に対処して行ったからじゃな。

じゃが最下層魔物しか使役出来ない儂が困難な依頼をこなす事にやっかまない者はおらんでな、冒険者をする事が馬鹿馬鹿しくなってしもうて養蜂家に転身したと言う訳じゃな。流石に冒険者ギルドの職員からも不当な扱いを受けるとは思わんかったからの、当時の儂は若かったと言うことじゃな」

 

どこか懐かしくも寂しそうな顔をするジニー師匠、その影のある表情からは当時のやるせない思いが伝わって来る。

その後もジニー師匠はスライムの様々な話を教えて下さいました。

中でもトイレスライムや下水道スライムが雑菌の繁殖を押さえ環境を綺麗に整えてくれると言う話しは勉強になったな~。トイレスライムが出すスライム液が殺菌消臭剤に成るなんて、自分一人じゃ思い付かないっての。トイレスライムなんか雑菌や病原菌の塊みたいなものだと思ってたもんな~。

でも言われてみればトイレに行っても全く臭くないんだよね。ボットン便所でこれってあり得ない事だよね。やっぱりスライムって凄い!

 

以前気になっていたトイレのスライムや下水道のスライムを食べたビッグワームは臭くなるのかといった疑問も、ジニー師匠曰く捕獲してから半日経った個体なら問題ないじゃろうとの事。スライムは約半日で体内に取り込んだ物質を完全に吸収分解してしまうので、臭みの原因となる物質が残って無いはずとの事でした。

 

「そう言えばケビン君は授けの儀を受ける為に領都に向かうんだったかな?だったらまだ職業は授かっていないと言うことか。

もしテイマーの職業を授かったら、今ケビン君が飼っているスライムを鑑定してみるといい。テイマーは自分がテイムした魔物の状態を把握する事が出来るんじゃよ。

簡単に言えばテイムした魔物に関しては鑑定をする事が出来る。これは病気や怪我の状態を知るばかりでなく、その個体のスキルや魔法適性までをも知ることが出来る。教会で行われている詳細鑑定の魔物版と言ったところかの。

 

長年人に飼われている魔物、しかも低級魔物、環境に合わせてどんな進化を果たしているのか楽しみで仕方がないのう」

ジニー師匠はそう言うとにっこり微笑むのでした。

 

「色んなお話しをお聞かせ頂き、どうもありがとうございました。

授けの儀が終わって帰路に付きましたら、必ず立ち寄らせていただきます。

その際テイマーの職業を授かっておりましたら、ご指導、よろしくお願いします」

 

玄関先に立ち見送りに出てくれたジニー師匠とお兄さん。

俺たちマルセル村一行は養蜂家ジニー師匠一家に心からの礼を述べると、ミルガルの街へ向かう為、ラッセル村を後にするのでした。

 

「ケイト、さっきから超ご機嫌だけどどうしたの?

何処と無く上機嫌なケイト、って言うか皆さん揃って頬が緩んでいらっしゃるような?

 

フォレストビーの蜜の詰まった蜂の巣の欠片を食べさせてもらったの?

なにそれ、目茶苦茶羨ましいんですけど。えっ、皆さんも頂いたんですか?食べてないの俺だけ?なんだそりゃ!

さっきからニヤニヤしてたのはそれが原因か!

くっ、優越感に浸りおって、悔しくなんか、悔しくなんか、くっ、悔しい~、めっちゃ羨ましい~」

 

ガタゴト進む荷馬車の旅路。

少年ケビンの魂の叫びは、冬の淡い青空広がる街道沿いの草原に、何時までも響き渡るのでした。

 

「チックショ~!」




本日一話目です。
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