転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第123話 村人転生者、ミルガルの街に到着する

朝靄が漂う早朝のホドマリ村は、多くの人々が旅の支度をして馬車を走らせていく。

彼らの目的は一つ、少しでも早くミルガルの街の門前に辿り着く事。多くの荷馬車が集まるミルガルの街は、油断してのんびりしていればあっと言う間に列の後方に並ばさせられる羽目になるからだ。

ホドマリ村での対応は二つ、少しでも早く起き白み始めた空の下門前まで移動して開門を待つか、明るくなるのを待ち余裕を持って移動するのか。ここまで来て急いで移動するあまり、余計なトラブルに巻き込まれでもしたら目も当てられない。

安全第一マルセル村一行が選ぶのは当然後者、皆が急ぎ宿を出発する中、食堂でゆっくりと朝食を頂き、宿の女将さんにお礼を述べてからホドマリ村村長宅へと向かうのでした。

 

「おはようございます、マルセル村村長代理ドレイク・ブラウンです」

村長宅の玄関前で大きな声で呼び掛けるドレイク村長代理に、急ぎ扉を開けるホドマリ村の村長。昨日は迎えに来るとの約束をしたものの、それが本当に守られるかどうかは分からない。一方的に押し付けられてしまったのではないか、ホドマリ村の村長も気が気ではなかった事だろう。

 

「おぉ、ドレイク殿、よく来てくだされた。昨日はああ言ったものの、正直ドレイク殿が娘さんを迎えに来て下さるのか気が気ではなかったのだ。疑ってしまって申し訳なかった、許していただきたい」

 

「いえいえ、お気持ちはよく分かります。誰だって面倒事は被りたくない、押し付けられるならば押し付けてしまいたいと思うのが人情。それで押し付けられた方は堪ったものではありませんが、そうした事が往々にして起きるのが人の世の常ですから。

それで娘さんは目を覚まされておいでですか?」

 

「あぁ、朝早くにな。どうやらオークに襲われた恐怖に気が動転しておった様でな、初めはここがオークの巣だと思っていた様だ。ここがオークの森の傍にあるホドマリ村だと告げ、ミルガルの街に送ってもらう手筈を取っていると教えると、涙を流して喜んでおったよ。

これは昨日約束した書状だ、オークの森で助けられた事、ホドマリ村からミルガルの街に移送を頼んだことが書いてある。これがどの程度役に立つのかは分からんが、持って行ってくれ」

 

ドレイク村長代理は渡された書状にサッと目を通すと、懐に仕舞い込んで礼を述べる。

 

「お嬢様、このような荷馬車で大変申し訳ありませんが、これよりミルガルの街までご案内させて頂きます。私は遠く辺境の地マルセル村より参りました村長代理ドレイク・ブラウンと申します。

田舎者故ご無礼の段ございましょうが、ご容赦くださいませ」

ドレイク村長代理は無言のお嬢様を荷台に乗せ、自身は馭者台に乗りザルバさんに出発を促しました。

 

“ハッ”

ガタゴト音を鳴らして荷馬車が動き出す。その両脇を俺とゾイル夫妻が付き従いながら警戒をする。日が昇り徐々に温かさが増し始めたホドマリ村。ホドマリ村村長は去っていく彼らを見送りながら、ほっと胸を撫で下ろすのでした。

 

 

ホドマリ村から出発した旅人はマルセル村一行が一番最後であったのか、後ろから追い越す様な馬車は見られず、ゆっくりのんびりと主要街道の合流地点に到着。

ここまでくると急ぎ走る馬車も無く、皆がそれぞれのペースで歩を進める様になる。

冒険者に護衛された商隊や、近くの村から荷車で野菜を運ぶ者、徒歩の旅人や行商人などの姿も見られる。馬に荷車を引かせるのにもそれなりに維持費が掛かる為、背負子一つで行商に向かう商人と言うものも存在するのだ。

尤もそれは危険が伴う商売、それなりに腕に自信が無ければ出来ない行為ではあるのだが。

 

ミルガルの門前に到着した時分にはすでに街門は開かれており、多くの馬車や荷馬車が列をなしていた。

そんな車列を悠々と追い抜いて門に向かう一台の馬車。見るからに高級そうなそれは脇に家紋を設えた貴族専用の馬車であり、前後には護衛の騎士が馬に乗って警戒を行っている。

彼らはそのまま貴族専用の通路へと向かうと、簡単な問答の後街の中へと消えて行った。

 

「あれはいつ見ても貴族の特権って感じがして嫌なもんだな」

その様子にボソリと呟くフレムさん。

「まぁ確かに特権ではあるんですけどね。

でもフレムさん、考えてみてください。この車列にお貴族様がお並びになっていたとして大人しく待っていてくれると思いますか?」

 

「うむ、まず無理だろうな。それだったらとっとと街に向かってくれと言いたい。」

「でしょ?それを考えればお貴族様が専用通路を使われるのは大歓迎って思いません?あれは特権と言うより単なる棲み分け。高貴なる血の御方にはそれなりの生活がある、ただそれだけなんですよ」

 

「なるほど、そう言う考え方もあるんだな。俺はどうも偏屈でつい喧嘩腰に物を見ていた様だ。ケビン君ありがとう、勉強になったよ。」

「いえいえ、それほどでも」

 

「あの、それでは貴族と平民は共に手を取り合う事は出来ないのでしょうか?」

声がした方を振り向けば、それは荷台に乗り俯いた顔をしていたはずのお嬢様でした。

 

「あ、これはお耳汚しを申しました。平民の田舎者故下らぬ事を申しました、どうぞお忘れください」

俺は急ぎ頭を下げ謝罪の言葉を述べる。こちらのお嬢様がどう言ったご身分の御方かは分からないが、貴族批判と取られかねない発言を聞かれては後でどの様な報復が来るのか分からない。貴族とはそれほどにしつこく厄介な存在なのだ。

 

「いえ、決してあなた様の言葉を批判しようなどと思っての言葉ではありません。ただ私は知りたいのです。貴族の事を、領民の事を」

 

ウゲッ、このお嬢様領地持ちのお家柄だよ。ドレイク村長代理なんか顔を青くしちゃったよ。ここで答えなければ何を言い出すのか分からないし、答えたら答えたでどんな面倒事が起きるのか分からない、厄介だな~。

 

俺は大きなため息を吐きたい気持ちをグッと堪え、お嬢様のご質問に答える事にした。

 

「お嬢様に申し上げます。大前提として、身分とはそれぞれが持つ役割の違いとお考え下さい。王様とは国を治め国を導く者。貴族とはその国を王家と共に運営し、維持する者。民とは国に所属し国を成す根幹たる者。

民は作物を作ります。民は衣類や生活全般の物を作ります。民は武器や防具を作り魔物と戦います。

国を形造る基礎の部分、それが民なのです。

では貴族とは何か。民だけでは国は成り立たない。この世界には多くの脅威が存在する、それは魔物であったり、他国の侵略であったり、盗賊などの犯罪者であったり。

そうした脅威から民を守り国を守るのも貴族の役割です。それは何も剣を持って戦うばかりじゃない、人を手配し必要な資金をやり繰りし、貴族の仕事は多種多様です。

そしてその仕事の違いは貴族の中でも階級を作り出す。

下位貴族がより民に近い判断や仕事を求められるのに対し、上位貴族はより大きな仕事、地域全体や国と言った単位での判断を迫られる。

それはとても大変な仕事です。上位者の判断一つでその地域や国の在り方が決定してしまうんですから。

 

先程のお嬢様のご質問は貴族と民は共に手を取り合う事が出来ないのかと言った物でしたね?それはある意味出来るとも言えるし出来ないとも言える。

人は己の経験した事しか理解し想像する事が出来ないし、同じ経験をしたからと言って同じ感想を持つとは限らないからです。

役割が違い、生まれ育った環境が違う多くの者が真に理解し合う事など、不可能なのです。ですが人は想像する事が出来る、人を思いやる事が出来る。人は平等でも同質でもなんでもなく、全てが違う個人である。互いの違いを認め合う事が出来れば、あるいは手を取り合う事も出来るやもしれません。

先ずは身近な者、家族や家の者を観察する事から始めてはいかがでしょうか?

相手の考えを理解出来ないと否定するのではなく、どうしてそのように考えるのか、その考えにはどう言った意味があるのか。理解出来なくとも想像する事は出来る。それは相手を知る事に繋がる。

ただ愛したい、愛されたいと思う以前に他者を知り己を知る事こそ、お嬢様の望む道への一歩やもしれません」

 

俺が一通りの回答を終えると、こちらを見て目を丸くするマルセル村一同とお嬢様。

えっと皆さんどうかなさいました?

 

「ケビン君、何度も言って申し訳ないんだけど、君って何者?いや、分かってるよ、“マルセル村のケビン君です、これから授けの儀を受けに行きます♪”って事は言わなくてもいいからね。

私が言いたい事はその博識と言うか知性と言うか。とても辺境の村の村人の言葉じゃないよね?村の子供ってこうもっとお馬鹿だよね?

こう言っては何だが、私の息子のマイケルが授けの儀を受ける時なんかは“俺は聖騎士の職業を授かって王都で大活躍するんだ”って大騒ぎしていたんだよ?

これ迄見て来た村の子供たちも、大なり小なり似た様なもんだったよ?

さっきのケビン君の話なんかは、それこそ王都の学園の教職員と大差ない程高度な内容だったんだけど?」

 

「イヤイヤイヤ、そんな事ある訳ないじゃないですか。お嬢様、田舎者故言葉使いを崩す事をお許しください」

 

「は、はい。気に為さらないで下さい。」

「お許し頂き、ありがとうございます。

では失礼します。さっきの話って要は“貴族や平民って役割が違うからなあなあの関係は作れないよ、節度を持って接しましょう”ってだけの話だからね。

本当はこんな感じで話するのだって許されないんだからね。だから絶対身分は名乗らないでね、俺たちの命の為に、これ絶対ね。

今はオークの森に倒れていた女性をホドマリ村の村長さんに頼まれてミルガル迄連れていっているってだけの関係だから許されてるだけで、これもかなり怪しい所なのよ?一度でも名乗られたら知らぬ存ぜぬが効かないって事を覚えておいてね。

後聞いた話だと王都の学園では身分関係なく学ぶって話だけど、あれって完全な建前だから。才能のある平民を自分達の勢力に取り込む為の方便、身分が邪魔で勧誘出来なかったら折角学園に子供たちを通わせても意味がなくなっちゃうからね。

その辺を勘違いしない様に。

少なくともこの国の身分制度は絶対であって、それがあるからこその安定なんだよ。良し悪しじゃなく、国を維持する為に必要な事なんだよ。

もしそれが失くなるとしたらそれに伴い多くの血が流れる。俺はそんなのは御免だから、そんな事になったら一番に逃げ出すから」

 

俺の言葉に再び固まるマルセル村一行とお嬢様。

「えっと、今度はいつも通りの言葉使いだったんだけど?

ドレイク村長代理、頭抱えてどうしちゃったの?俺変な事言った?」

 

「いや、やっぱりケビン君はケビン君なんだなって思っただけだよ。

お嬢様もお気になさらないで下さい、ケビン君はこんな子供ですから。

我がマルセル村にはこんな言葉がございます。“ケビン君だから仕方がない”」

 

「成る程、“ケビン君だから仕方がない”、名言だな」

フレムさんの呟きに頷きで応える皆さん。だからなんなのよ。

 

人は己の経験した事しか理解し想像する事が出来ないし、同じ経験をしたからと言って同じ感想を持つとは限らない。共感性の解離。

一人周りの話に付いていけず、とってもモヤモヤした気持ちになるケビン少年なのでありました。




本日一話目です。
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