街門前の行列は続く。低かったお日様が天高く昇る頃、車列も進みミルガルの街の街門がどんどんと大きくなって来た。
「ケビン様、それでは閉門時間に間に合わなかった民は、この寒空の中危険な塀の外に締め出されてしまうと言うのですか!?」
「そうですね、ですがそれは民を統制する為の手段、必要な措置と言うものでしょう。少なくとも塀に囲まれた街の民は夜間の安寧を得る事が出来る、魔獣に怯える事なく生活出来る空間と言うものはそれ程に貴重だと言う事です。
人の出来る事には限りがある、その線引きは誰かがしなければならない。例えその事で多くの者に恨まれようとより大局を見据えて判断を下さなければならない、それが為政者足る貴族の役割であるのです。
統治を行うとはそうした事であり、平民とは見ている物事の視点が違うのです。そうした意味においては、貴族と平民が手を取り合う事は難しいでしょう。
例えばある平民の少女が聖女の職を授かったとしましょう。その平民の少女は大変可愛らしく愛らしいものとします。
聖女は希少職であり上級職でもあります。彼女は当然のように王国法に従い王都の学園へと通います。そこで彼女は高位貴族の子弟と出会う。
そこで出会った貴族子弟が私が語った様な道理を理解する者ならいい、まだ年若い彼らが心優しい少女の言葉に従い貧民の救済やら国を上げての魔物討伐やらに乗り出したりしたとしたら、その為の人材は?財源は?
人も金も有限です。逆にそれらが無限であったのなら経済は破綻するでしょう。
物事は急性にして上手く行く事は少ない。何事においても目的に至るまでの道筋が重要であると言う事です。
貧民を救済したいのなら、彼らが自分達の手で仕事を行い自分達の足で歩ける道筋を示さなければなりません。
魔物の脅威と戦いたいのなら、魔物を理解し棲み分けを行わねばなりません。
それらは全て一朝一夕で行えるものではないのです。
この街門の事についてもそうです。街の住民の安心や安全を守る方策を考え出さない者が、現在のやり方を批判してはいけない。文句を言ってもよいのは、より深く考え新しい道を模索した者だけなのです。
決まり事と言うものにはそれを必要とした訳があり、経緯がある。
お嬢様におかれましては、常に考え想像する習慣を付けられる事をお勧め致します。
私達の生きるこの美しくも危うい世界は、酷く残酷なものでございますから」
俺が話を終えるとまたまたポカーンとした顔を為さるお嬢様、この人本当に分かってるのかね。
お貴族様と言えば平民と違って家庭教師なり何なりを雇って専門教育を受けているもんだとばかり思っていたけど、男子と女子だとその辺の教育方針が違うのかね。
あまり出来の良い女子は嫁の貰い手が無くなるとか?一々
やっぱり
女子供は黙って言う事を聞けって奴?貴族と金持ちは近付かないに限るわ。
「ねぇザルバ、さっきからのケビン君の話、言っている事は凄く分かり易くて理解も出来るんだけど、何でケビン君がああした事を考えられるのかが分からない。
あれって為政者の物の考え方だよね、それだけじゃなくてちゃんと
その辺の貴族の中でもあれ程の道理を分かっている者を見た事が無いんだけど?」
「ハハハ、これは耳が痛いですな。私などケビン君の足元にも及ばないと言う事がよく分かりましたよ」
なんか二人して乾いた笑いを浮かべるザルバさんとドレイク村長代理。
「ん。」
「はいそこ、あれはただ遊んでいるだけとか言わない。言っている事はそれ程おかしくないんだから」
「ん、ん?」
「ハイハイどうせ私は勇者病<仮性>ですよ、常日頃から色んな考えを巡らせてますともさ。
あ~、お嬢様?なんか尊敬の眼差しで見てますけど、俺くらいの考えはちゃんと人の話を聞いていれば出来る様になりますからね。と言ってもうちの村って昔王都の令嬢が幽閉地にされちゃったくらいにド辺境な上に、周りの大人って様々な理由で命からがら逃げ延びた訳アリばかりですんで、かなり特殊だと思いますが。
貴族マジで怖い。ですんでお嬢様には頑張ってとしか言えないです。
えっと、俺の事は絶対秘密でお願いしますね。俺の事を従者になんて言われた日には速攻で逃げ出しますんで、冗談じゃなく嫌ですから」
「わ、分かりました。でも、その、ケビン様は王都の学園には・・・。」
「行く訳ないじゃないですか。俺は村人ケビン君ですよ?親もド平民ですよ?
昔王都のスラム街から聖騎士の職を授かって騎士にまで上り詰めた人間がいるって話があったけど、あれってどう考えても貴族様の私生児だからね。親の職業の影響を受けただけだから。
よっぽど特殊な環境下でもない限りそんな事はないから。因みに俺が授かれる特殊な職業ってテイマーとか調薬師じゃないかな?領都の学園すらないと思います」
なんか酷くがっかり顔のお嬢様。お嬢様既に旅立ちの儀を終えられてるでしょうに、何をガッカリなさっておられるのでしょうか?
もっと色々お話ししたかった?勘弁して下さい。そうした事が平民の命を縮めると言う事を自覚なさって下さい。
「お嬢様がどの程度の地位の方の子弟なのかは分かりませんが、街道沿いに横倒しになっていた馬車やその身なりから推察するに高位の方とお見受けいたします。
その様な方から気に入られた平民、周囲の嫉妬や嫌がらせ、同じ貴族間でも上位貴族に気に入られた下位貴族に対する嫌がらせや圧力があると言うのに、それがたかが平民であったのなら。
毒殺、暗殺、見せしめの為の惨殺。お貴族様は我慢と言う言葉を知りませんから。
辺境の最果てには、そんな状況から逃げ出した者達がひっそりと身を寄せ合って暮らしているのですよ」
俺の言葉にショックを受けた顔になるお嬢様。対して苦い顔をするザルバさんやドレイク村長代理。これが現実、晒された者と理解出来ぬ者との差。
俺は大きなため息を一つ吐いてから、カバンの中から土属性魔力で作った四角い箱を取り出す。
「これはおそらくお嬢様が乗っていたであろう馬車の中から回収した品です。お嬢様が最も信頼する方で権力もあり鑑定士を雇うだけの伝手もある御方にオークの森で起きた事の顛末をお話しし、この箱の中の品を旅の者が回収し渡してくれたとお伝えください。それまでは決して蓋を開け中身を確認しようとなさらないでください。
それと確認の場に従魔や魔物に由来する生き物がいる様でしたらお部屋から離すようにしてください、理由は鑑定士の方が教えてくださいます」
俺は箱を攻撃糸の風呂敷で包みお嬢様に渡すと、“絶対ですからね”と念を押すのであった。
「次、身分と目的を告げよ」
「はい、私はマルセル村の村長代理ドレイク・ブラウン、こちらは村人のザルバ、隣の子供たちは冬の授けの儀を受ける者達となります。こちらが村民証になります。
それと隣の男女は旅の共連れで、途中エルセルの街で鍛冶工房を営んでいらしたゾイル夫妻となります。ゾイルさん、街民証をこちらに。
そしてこちらのお嬢さんはオークの森の一つ手前、ホドマリ村の村長様よりお届けを頼まれましたオーク襲撃被害者の方となります。こちらがホドマリ村村長様よりの書状となります」
「ふむ、相分かった。それでこの荷物はなんだ」
「はい、こちらはここミルガルのバストール商会様に卸す予定の野菜と、我が村の特産品ビッグワーム干し肉になります」
「あぁ、あの干し肉か。あれはいい、酒の摘みに持って来いだ。そうかお前たちの村の特産品だったのか。いい物を作ってくれた、感謝する。これからも頑張ってくれ。
それとゾイル夫妻だったな。男物の装備で身を隠すのはいいが、顔はもう少し汚しておいた方がいいぞ?その方がバレにくい。奥さんも大変だったな。
でだ、そちらのお嬢さんだが、何か身元を証明する様なものはお持ちかな?」
門番さんの質問が飛び、お嬢様が一瞬ビクッとするも、胸元から何やら掘り込みのされたペンダントを取り出しこう告げた。
「このペンダントは我が家の家紋が入ったもの、詳しい名乗りは互いに面倒を引き起こしかねないので避けさせていただきます。この場はただ、ミルガルの街まで無事に私を送り届けて下さったマルセル村の者たちに感謝を。皆様を足止めする訳にも行きません、私を門番詰め所まで案内してください。
それとこのペンダントをもって監督官公館に連絡を。“孫娘が助けを求めて来た”と言えば通じるでしょうから」
ペンダントを見た途端サッと青ざめた顔をし、姿勢を正す門番さん。
お嬢様はそんな彼らに笑みを送った後、こちらを振り返りお言葉を述べられました。
「マルセル村の皆さん、ゾイル夫妻、短い時間でありましたが大変世話になりました、礼を言います。
ケビン様、あなたの言葉、大変勉強になりました。
貴族の役割、平民の生き方、観察し考える事。私は理想と言う言葉に踊らされ、現実が見えていなかったのですね」
そう言い軽く腰を曲げるお嬢様。そんな彼女の瞳をじっと見詰め、口を開く。
「お嬢様、これからあなた様はより厳しい現実を直視する事となるでしょう。ですがあなたは決して一人ではない。
この世は理不尽です、あなた様の周りが全て敵に見えてしまう事もあるやもしれません。ですがそれはこの世の一面にしか過ぎない。
どんな状況にあろうともあなたの事を思い救いの手を差し伸べようとする者はいる、それは私が多くの者達から教えて頂いた事実なのです。
戦えとは言いません、私ならすぐにでも逃げだしますから。ですからよく考え、多くの者に頼って下さい。道は決して一つなどではないのですから」
俺はそれだけを述べると慇懃に礼をする。
お嬢様はそんな俺に優しい笑みを送り、攻撃糸製の風呂敷の包を抱え門番と共に門番詰め所へと去っていくのでした。
その後門番の検閲は特に問題なく終わり、マルセル村一行は無事にミルガルの街に入る事が出来た。これもホドマリ村村長の書状があったお陰だろう。
・・・終わった~、ドッと疲れたわ。
やっぱあの人いい所のお嬢様じゃないですか、しかもこの土地の領主グロリア辺境伯様絡みの。もうね、どうなる事かと思って気が気じゃなかったわ。
「あ、ドレイク村長代理、肉屋さんに行きましょう、肉屋さんに。ちょいとこの後もう一仕事ありましてね」
俺の言葉に“まだ何かあるのかよ”と言った疲れた顔になる保護者二名。
何情けない顔をなさっているんですか、ケイトを見習ってください。一切緊張も疲れもしていないじゃないですか。彼女今、“人ってこんなに一杯居るんだ~、どこから湧いて来るんだろう”くらいの事しか考えていませんからね?
これから始まるはケビンプレゼンツ・マグロの解体ショー営業。気合入れて行くぞ~!
マルセル村一行の荷馬車の先頭に立ち、街門近くのお肉屋さんに向けて意気揚々と歩を進めるケビン少年なのでありました。
本日二話目です。
UA数が最初より伸びました。1日500くらい?
トップ層からすれば鼻で笑われそうだけど結果が出るのって嬉しいものですね。
のんびりコツコツ、頑張ってUPしていくぞ~。
いってらっしゃい。
by@aozora