転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第125話 村人転生者、お肉屋さんにプレゼンを行う

「へい、いらっしゃい。お客さん方は外から来たって事は買い取りだね?一体どんな獲物を仕留めて来たんだい?」

 

お肉屋さんの店内に入ると、カウンター越しから店主さんの活きのいい声が聞こえて来る。相変わらず快活な魚屋の店主みたいな御方です事。

「お久し振りですオヤジさん、マルセル村のケビンです。前にオークの従魔を連れて来た」

 

「あ~、あの老人と子供連れでオークを売りに来た、憶えてる憶えてる。オークがオークを担いで売りに来たなんて光景初めてだったからね、一生忘れないよ。

それでこの時期って事は、漸く授けの儀に向かうって事かい?確かあの時は授けの儀の前って言ってただろう」

お肉屋の店主は腕組みをしながら“時が経つのは早いな~”と何かウンウン頷いている。俺はそんなオヤジさんにこれから行うある試みを提案するのだった。

 

「オヤジさん、今日はちょっと見て欲しい商品があるんだけどいいですかね?

実はエルセルの街である鍛冶工房の夫婦と知り合いましてね、そこの工房のナイフやら包丁やらがまた凄いんですよ。でもこんな事言葉で言ってもなかなか伝わらないじゃないですか?ですんでミルガルに着くまでに獲物を狩って来たんで、ちょっと解体場でその切れ味を見て欲しいんですよ。

中にお邪魔しちゃってもいいですかね?」

 

俺の提案に始め首を捻ったオヤジさん。だがしばらく後に何か得心が行ったのか、提案を受け入れてくださいました。

 

「こっちだ、今の時期は持ち込みもほとんどなくてね、干し肉の加工もほぼ終わっているから閑散としたものさ。そこの作業台なら使っていいぞ」

そう言いオヤジさんが指差したのは、俺の背丈でも作業しやすいくらいの解体用の作業台。

 

「あ、言い忘れてました。今回の獲物はこれなんですよ、ケイト、ブラッキーをお願い」

 

「ん。」

ケイトが足元をトンッと鳴らす。すると彼女の影からヌルッと一匹の獣が顔を出した。

 

「うおっ、なに?えっ?シャドーウルフだと!?うっそ!」

オヤジさん以下お肉屋さんの従業員方、超ビックリなさっておられます。

シャドーウルフってそんなに珍しいんだろうか。

 

「馬鹿、珍しいなんてもんじゃないっての、俺だって初めて見たわ。冒険者の討伐ランクも影に潜むその厄介さから中級上位に位置する魔物だぞ、影に潜み突然襲って来る魔物なんて金級冒険者でもなければ討伐不可能だっての。

しかも従魔!?聞いた事も無いわ!」

 

「・・・それって不味いっすね。ケイト~、シャドーウルフを護衛にする作戦は無しで。これからはフォレストウルフって事にしよう。

ブラッキー、お前人前で影に潜るの禁止な。緊急時以外はフォレストウルフとして振る舞う様に、いいね」

「ん。」

”ウオンッ”

 

「よし、二人の了承は取れたって事で。あ、お肉屋の従業員の皆様、この件はご内密に願いますね。これからいい物をご覧に入れますんで。

ブラッキー、オーク出して~」

 

”ウオンッ”

俺の呼び掛けにブラッキーが一鳴き。すると彼の影が床に伸び、そこから一匹のオークが姿を現しました。

 

「えっ、なに、えっ!?今床からオークが姿を現したんだけど!?」

 

「あ、シャドーウルフの特殊能力ですね。こいつら影に潜って身を潜めるじゃないですか、獲物を狩った後も影に引き摺り込んで安全に食事するって言う習性があるんですよ。所謂影魔法の影収納と同じ様な能力ですね。あれですよ、勇者物語に出て来た影魔法使いジルバ。彼ほどの収納能力はありませんが、オーク五体分くらいは行けるみたいです。正確な所までは分かりませんけどね」

 

「はぁ~!?えっ、そうなの?まぁシャドーウルフって言うくらいだしそうなのか?いや、でも今までシャドーウルフをテイムした人間なんて聞いた事も無いから詳しい生態って分かってないんだよな。

でも言われてみればそうか、影に引き摺り込むくらいだから当然収納も出来るのか、納得だわ。凄いな、シャドーウルフ」

 

「あの、くれぐれもご内密に。それじゃ早速準備しますね」

俺はそう言うと解体台の上にカバンからナイフやら包丁やらを取り出して並べて行く、その様子に目を丸くするオヤジさん。

 

「なぁ坊主、もしかしてそのカバンって」

 

「あぁ、このカバンですか?これはお父さんから貰ったカバンです。これは後から教わったんですけど、ウチのお父さん元金級冒険者なんですよ。”笑うオーガ”って二つ名で呼ばれていたらしいです。

俺って顔が父親似なんですよね、でも身長が母親似で。結果リトルオーガになっちゃいました、アハハハハハ。ここ、笑う所ですから」

解体場の中に広がる微妙な空気、そんな中テキパキと作業を進めるケビン少年。

 

「はい、お待たせ致しました。本日ご紹介いたしますのはこちら、ゾイル工房の刃物類です。

皆さん、解体作業をしていて思った事はありませんか?もっと切れ味のよい刃物が欲しいって。そんなお客様の要望、ドンとお答えしちゃうのがこちらの品々。

先ずはその切れ味を見て頂きたい。

こちらのオークは二日前に仕留めたばかりの一級品、後頭部に打撃を加えて仕留めたから新鮮そのものだよ~。

そんなオークの皮もほれこの通り、スルスルッと切れちゃう。

はいはいはいはい、あっという間にズル剥けだよ~。

でもこのままだと血抜きが終わっていない臭いお肉になっちゃうから水属性魔力を使ってササッと血抜きだ、この際やり過ぎちゃうと干し肉みたいになっちゃうから気を付けてね~。手首足首首の各動脈静脈を切ってそこから血液をほいっとな。

この血は後で使うかもしれないから甕にでも取っておきますかね。

ブラッキー昨日渡した甕出して~」

“ウオンッ”

 

「はい、甕にドバドバッと入れて。ブラッキー、収納よろしく~」

“ウオンッ”

 

「はい、血抜きの終わったオーク肉ですがこのままだとまだまだ大きいよね~、ササッと解体しちゃうよ~って皆さん聞いてます?ここからが重要なんですけど?」

 

「イヤイヤイヤ、ケビン君何やっちゃってるの、水魔法を使っての血抜き?出てきた血を操って甕に収納?そりゃ解体場の皆さんポカンとしちゃうから、血抜きって言ったら梁に吊るして時間を掛けて抜き取るものだから、こんなに短時間じゃ普通出来ないからね?」

 

「え~、やってる事は水魔法使いが材木商で行ってる木材の乾燥と同じなんだけどな~。全体に水属性魔力を染み渡らせて血液を抜くだけなんですけど?水と違って不純物が多いから難しいのと、力を込め過ぎると干物になっちゃう点に注意して何度も練習すれば出来る様になりますよ、多分」

 

「だから前から何度も言うけど、そう言う非常識な事をサラッとやらない。解体場の皆さんも彼の行動は諦めてください。おそらくかなり有効な手段なのだろうと思いますが、真似をしようとしても無駄に時間を費やすだけですから。

一度水魔法使いの方にお話を窺うといいですよ、鼻で笑われると思いますが」

 

なんかドレイク村長代理のツッコミが酷い。マルセル村の皆さんなら出来ると思うんだけどな、獲物に魔力を染み込ませてから抜くだけだし、魔力纏いの応用で・・・。

そうだった、魔力纏いって高等技術だったんだわ。これは俺が失敗だね、うん、これから気を付けよう。

 

「はい、気を取り直して解体の再開だよ。カバンから小さな甕を取り出してオークの内臓を仕舞っちゃうよ。これは旅の途中のブラッキーさんのご飯だね、魔物の内臓は従魔も大喜びだからね~。

はいはいはいっとこれで終了。

それでオヤジさん、ここまでの俺の手並みはいかがでした?かなり手早く行えていたと思いません?」

 

「あ、あぁ、見事なものだったよ。即戦力としてうちに来て欲しいくらいだよ」

「これはこれはありがたいお言葉。でも見て欲しいのは今解体をしていたこのナイフ、この切れ味、中々なものだったと思いません?

実際に手に取ってこの続きをしてみてはくれませんか?」

 

俺はナイフを手渡してその場を譲ります。

流石は本職、その腕は見事の一言。オークまるまる一匹がスルスルッと各部位に分かれて行くではないですか。

その間もオヤジさんの表情は驚きに固まっていましたが、身体と心は別モノなんですね。その身に沁み込んだ技術、流石です。

 

「どうですおやじさん。それはあくまで一般使いとして作られたナイフ、これがオヤジさん達が使う専用の刃物の形状で作られていたとしたら。

本日お勧めする商品、それはこのナイフの作製を行ったゾイル工房、ゾイルさん夫妻です。

彼らはエルセルの街で小さな工房を開いていたんですけどね、あの周辺はエルセルの二大工房デビット工房とビクス工房の支配下でして。ゾイル工房は相当の嫌がらせを受けていた様です。その苦難を乗り越えて生み出されたのが先ほどのナイフ、切る、その一点を追求したゾイル工房の答えです。

ただその特殊性ゆえ一般的な刀剣に比べ脆い、激しい戦闘向けの剣は作れない。但しそれは激しい戦闘と言う環境下における話、解体場と言う動かない獲物を捌く場所においては無類の力を発揮するのです。

無論それは解体場ばかりではありません、宿屋や食堂など、この刃物を必要とする人々は多く存在するでしょう。そんなゾイル工房をこのミルガルの街に作ってみませんかと言う提案と、その後ろ盾になって頂きたいと言うお願いです。

以前お伺いしましたがオヤジさんは冒険者ギルドにもかなり顔が利くとか、そんな人物が後ろ盾、しかも台所の刃物を専門にするとなれば他の鍛冶工房もやたらな嫌がらせはしないと思うんですよ。

やはり鍛冶工房の華と言えば刀剣武器類ですから、台所の刃物を一段下に見ている所がありますんで。本当はそんな区別なんてないんですけどね、刃物は刃物ですし」

 

う~ん、と言って唸りを上げるオヤジさん。これは真剣に考えてくれている証拠、ここで下手に返事一発だったら逆に不安になる所だったわ。

 

「よし、分かった。後ろ盾の件、このゼノン精肉店が引き受けよう。それと工房を開くって話だったな、だったら引退した鍛冶師の残した工房があるから後で商業ギルドに話しを通してやろう。あそこの爺さんはうちで使ってる刃物の手入れや修繕も請け負ってくれていて便利だったんだがいかんせん年でな。かと言って他の工房はさっき坊主が言った様に解体の道具を一段下に見ているきらいがあるのか、台所の刃物や解体の道具は弟子たちの仕事とか言いやがる。

自分たちは命懸けで戦う戦士の武器を作る誇りある仕事をしてるとかなんとか。

そんな戦士の生活を支えてるのは俺たちだっていうのにな。

それで坊主、いや、ケビンと言ったか。そのゾイルさんとやらはどなたなんだい?」

 

「はい、こちらのお二方がゾイル夫妻になられます。フレムさん、ご挨拶を」

俺の言葉に、ドレイク村長代理達と一緒になって見学者になっていたフレムさんが一歩前へ出る。

 

「初めまして。鍛冶師のフレム・ゾイル、こっちが妻のセシル・ゾイルと言う。どうかよろしく頼む」

そう言い頭を下げる二人。そんな二人の姿に、“ほほう、ドワーフか、なら納得だ。これからよろしく頼む”と手を差し出すオヤジさん。

うん、なんとかなりそう。

 

「あ、おやじさん、このオーク、買取お願い出来ますか?売り上げはゾイル夫妻の生活資金に充ててください。それとこれ、家賃の分で金貨五枚が入ってます。

引っ越し先が決まったら荷物をお持ちしますんで、ブラックウルフの尻尾亭にお知らせ下さい」

 

「な、ケビン君、こんなにたくさんのお金は受けとれないよ。君には借りしかないというのに」

何か恐縮するフレムさん。でもフレムさん、あなたお金なんて持ってないでしょうに。

 

「フレムさん、何も僕は差し上げるだなんて言ってませんよ?これは“貸し”です。

フレムさんには僕専用の武器を作って貰う、そう言う約束でしょ?

その為には確りとした工房が必要、違いますか?

お預かりしている材料は後でお届けに参りますので、フレムさんはその分仕事で返してください。作る武器はお任せします、どんなものが出来るのか楽しみにしてますから。

それと一番初めの仕事はこちらゼノン精肉店さんの仕事にしてくださいね、僕の武器作製に夢中になって仕事をおろそかにするなんて事をしたら許しませんよ?」

 

「わ、分かった。何から何まで本当にありがとう。」

そう言い大粒の涙を流しながら頭を下げるフレムさん、そんな彼の横から肩を抱き共に涙するセシルさん。

俺はそんなゾイル夫妻をオヤジさんに任せると、ゼノン精肉店を後にするのでした。




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