転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第127話 村人転生者、商談の席につく

「お久し振りですな、ドレイク村長。すっかり痩せられて、始め誰だか分かりませんでしたよ。ドラゴから話しには聞いていたが、瘦せたと言うより若返った様な。

肌艶も良いし壮健だ、その辺の話を詳しくお聞きしたいのだが」

 

「ハハハハ、アベル会長はお口が上手いですな、すっかり本気にしてしまう所ですよ。まぁしいて言えば美味しい野菜と多過ぎない肉、それと適度な運動でしょうか。

我がマルセル村では健康促進運動を推奨していましてね、農閑期のこの時期はどうしても身体の動きが鈍くなってしまう。そこで早朝村の広場に集まって皆で体操をしているんですよ。

それと村に住む剣術指南役ボビー老人の元に集まっての剣術の稽古、これがなかなか楽しくてですね、私もすっかりこんな身体に。

それもこれも冬場の食糧を気にしなくて良くなった事に起因するもの、ビッグワーム農法様々ですよ」

 

相手を気遣い、また褒めそやしながらも探りを入れるバストール商会商会長アベル・バストール。対して嘘は一切言わず肝心な事も一切言わないと言う高等技術で矛先を変える、マルセル村村長代理ドレイク・ブラウン。

何気ない会話に見せ掛けての静かで激しい攻防戦、大物同士の頂上決戦、これは見ごたえがある。

 

二人の会話を目を爛々とさせながら聞く俺に、顔を引き攣らせる行商人ドラゴ氏とザルバさん。はて、俺何かおかしなことでもしてるんだろうか?

 

「話しは変わるが、先だってはマルセル村の皆さんに大変失礼な事をしてしまった。改めて謝罪しよう、本当に申し訳ない」

 

「いえ、その話しは既にこちらのケビン君とアベル会長の下で和解された事、改めての謝罪は不要です。互いに行き違いがあった事は確か、これを教訓により良い関係を築く事が出来れば、その事自体意味があったと言うもの。

今後ともマルセル村をよろしくお願いします」

 

く~、これは痺れる会話、アベル会長は“トップである俺自ら頭を下げたんだから全て水に流せよ”と迫り、対してドレイク村長代理は“何馬鹿言ってんだ、こっちには破棄された契約書と新たに結んだ契約書があるんだ、絶対忘れないからな!”と返すこのやり取り。

表の穏やかな言葉に含まれる大変物騒な本音の応酬、やっぱ商人の会話はこうじゃないと。こんなスリル、マルセル村じゃ味わえないもんな~。しかも第三者、こっちの胃に全く負担なし!誰かポップコーンとコーラ頂戴!!

 

えっと、なんでお二人してこちらをジト目で見詰めておられるのでしょうか?

早く続きは?ファイト、ファイト!!

 

「んん、えっと、何かうちのケビン君が申し訳ない。彼は基本こんな感じなものでして」

 

「イヤイヤ、これはこれで面白いものが見れたよ。ある意味子供らしいと言うか子供らしくないと言うか。まさか商談を行う者同士の言葉の応酬を見ながら興奮する子供がいるとは思わなかったよ。

それでケビン君から見て今のところどういった様子だったのかね」

 

「えっ、いいんですか?あ、今日は俺交渉役じゃないんで言葉を崩させて頂きますね。

そうですね、まだまだ序盤の様子見って感じでしたけど、アベル会長からは隙あらば一気にって言う迫力を感じてなかなか手に汗握らせて頂きました。

片やドレイク村長代理の鉄壁の防御と相手の力を利用しての反撃は見事の一言。

これぞ頂上決戦、集団の頭同士の戦いはこうでないと、堪りませんな~。

えっと、どうなさいました、お二人して頭を押さえられて?」

 

「ハハハハ、これがケビン君か。いやはや凄まじいものだな。私はまだまだ君を過小評価していた様だよ。君が敵でなくて本当に良かった。いや、一度は敵対する所だったね、購入価格三倍の和解金がこれほど安く感じたのは初めてだよ。

うん、これからも程よい距離でよろしく頼むよ。

それとドレイク村長代理、心中お察しする。身体にだけは気を付けてくれ」

 

「ハハッ、お言葉ありがとうございます。幸い妻が調薬師でしてね、私に合った胃薬を処方してくれるんですよ。ただこの旅で在庫が無くならないかが心配で。

消費の方が加速度的なものですから」

 

「「・・・ハハハハハハ」」

 

何故か互いに目を見合わせて笑い合うお二人、そんで固い握手と。

まぁ仲良き事は美しき事かな、雨降って地固まると申します。結果オーライと言う事で。

 

マルセル村から持ち込んだ根菜類とビッグワーム干し肉は大変喜んでいただけました。ビッグワーム干し肉、ここミルガルでも需要が高まっているとか。特にこれからの時期は魔物肉が取れませんからね、干し肉による保存も限界がありますし。現在マルセル村のビッグワーム倉庫には冬の出荷用ビッグワーム干し肉がうず高く積まれており、これの商談も引き続き行われる模様。トップ同士が直接交渉の場に揃うのって難しいですからね、かなり大きな商談になったようです。

 

「それではドレイク村長代理、これからもよろしくお願いします」

 

「こちらこそマルセル村をよろしくお願いします、アベル会長」

 

交わされる堅い握手、哀れドラゴさん、寒風吹きすさむ草原を幌馬車に乗ってマルセル村まで仕入れとは。

俺の向ける憐みの視線に気づいたドラゴ氏、これも仕事と気丈に振る舞っておられます。男だね~。

 

「うむ、やはりケビン君は特殊なのだな。ドレイク村長代理、どの様な教育を施せばあの様な傑物に育つのだろうか。後学の為に教えて欲しいのだが」

 

「ハハッ、本当にどうすればケビン君のような人物に育つんでしょうね。ケビン君ばかりはマルセル村の不思議としか言い様が無いのですよ。

それとこれはいずれお耳に入る事なのでお教えいたします。現在マルセル村では新たなる商材の開発が進んでいます。今回の授けの儀に私自ら付き添うのは、ご領主グロリア辺境伯様との面会があるからです。その会談の進み具合如何(いかん)で今後どうなるのかが決定いたしますが、バストール商会様にもいいお話しが出来るやもしれません。

その時は是非よろしくお願いいたします」

 

最後の最後にブッ込んできたドレイク村長代理、グロリア辺境伯様と言うビッグネームの登場に生唾を飲むアベル・バストール会長。

この勝負寄り切りでドレイク村長代理の勝ちと言った所でしょうか。

いや~、枡席で観戦させて頂きありがとうございました。

手に汗握る本気の大人のぶつかり合い、第三者と言う安全な位置で過ごす楽しい時間に、大変満足なケビン少年なのでありました。

 

バストール商会店舗前、空荷になった荷馬車はカラカラと軽快な音を立てて次なる目的地に向け走り去って行く。

 

「行ってしまいましたね」

バストール商会行商人ドラゴは、授けの儀を受ける為に領都に向かう途中で立ち寄ったマルセル村一行を見送りながら、ボツリと言葉を溢す。

 

「ああ、あれがマルセル村、どうやらドレイク村長代理は鋭い牙を隠していた様だな」

同様に店の前に立ち彼らを見送っていたバストール商会商会長アベル・バストールが、その呟きに応える。

彼らは嵐の様な存在であった。半年前に起きたマルセル村との衝突、完全に想定を越えた話の展開に翻弄された自分達。

それは一人の少年により齎された特殊な事象である、そう自分達に言い聞かせてきた。

 

「あれは、起こるべくして起きた事態だったのですね。まさかドレイク村長代理があれ程の傑物だったとは。

相手を油断させ自らに取り込みいつの間にか要求を通す。以前からただ者ではないと思ってはいましたが、深淵な計画を立てグロリア辺境伯様にまで食い込んでいるとは。

あの村長のこと、既に事が成った次の展開も考えている事でしょう」

 

ケビン少年が語った“全ては我がマルセル村村長代理ドレイク・ブラウンよりの教えで身に付けた”との言葉が真実であった事がはっきりと分かる商談であった。

先のマルセル村との決裂は、五箇村の農業重要地区入りに伴う公共事業ばかりでなく、周辺地域全体を巻き込む大事業への参入を全て無くしてしまうかもしれない大失態であったのだ。

 

「ドラゴ、お前の判断は英断であった。今後ともマルセル村との繋ぎを頼みたい。

それと王都に送ったガルバスの件だが・・・」

 

「はい、若は名代のザンザに付き従う形で各商会への顔出し及び顔繋ぎを行っているところです。ただ、どうしても相手様の建物や外観で判断するきらいがあるとか。

実際の取り引き帳簿を見せたり扱う商品とその希少性を示して説得するのが大変だと、報告書でぼやいておりました」

 

「「はぁ~」」

互いに目を合わせため息を吐く両者、後継者教育の問題はどこの世界でも深刻な様である。

 

「修業に出していたビートを呼び戻す必要があるかも知れないな。ビートにはこのグロリア辺境伯領を、ガルバスには王都商会窓口になって貰いたいと言えばあやつも嫌とは言うまい。あいつはこのグロリア辺境伯領を田舎と言って嫌っていたからな。

修業の為と思い王都の学園に送ったのは失敗だったやも知れん」

 

いつの時代も若者は都会に憧れ故郷を去って行く。それが茨の道と知りながら、親は彼らを止める事が出来ない。なぜならそれはかつて自らが通った道だから。

バストール商会商会長アベル・バストールは寒空に浮かぶ鱗雲を見上げ、再び大きなため息を吐くのでした。

 

 

カタカタ揺れる荷馬車は進む、ミルガルの街の大通りを一路教会に向けて。

揺れる荷馬車の空の荷台の上では、これ迄徒歩で並走していたケビン少年が足を伸ばして(くつろ)いでいた。

 

いや~、やっぱり都会の街道は作りが違いますね、荷台で横になっていても程よい揺れにしか感じない。ブラッキーを枕にボーッと空を眺めていると、思わず眠りに落ちそうですよ。

 

「はぁ、ケビン君は余裕だね。私はこれから司祭様に会うと思うと、身体の奥がズンと重くてね。

早く宿に行ってゆっくりしたいって言うのが本音だよ」

 

「え~、何を仰っているんですか、先程はバストール商会商会長のアベル・バストールさんと激しくやり合っていたじゃないですか。

最後の最後に放ったあの思わせ振りなセリフ、格好よかったな~。

あの一言でバストール商会におけるマルセル村の扱いが決定したと言ってもいい、今後マルセル村が粗雑に扱われる事は無いでしょう。ドレイク村長代理の完全勝利、本当に見事でしたよ。

 

あ、教会に着いたら周りにある屋台に寄ってもいいですか?一軒美味しいピタパンの肉野菜包みを出す店がありましてね、これがまた絶品で。村のチビッ子軍団大絶賛、ドレイク村長代理にも是非味わって頂きたい」

 

「ん!?」

 

「そうそう、そのピタパン。ケイトも楽しみだろ?

“コクコクコク”

って事でよろしくお願いします」

 

荷馬車は進む、大通りを教会を目指して。

今日のお昼はピタパンの肉野菜包みだ~!!

“ク~ッ”

お腹は鳴る、美味しい屋台メシを求めて。

マルセル村一行の思いは、今一つとなるのであった。




本日一話目です。
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