“ハムハムハムハム”
繰り返される咀嚼音。
“ズズズズズズッ、プハ~”
時々聞こえる飲み物を啜る音。
“ハムハムハムハム”
「ん。」
「はいよ、お代わりね」
カバンから取り出したピタパンの肉野菜包みを差し出すと、再び食らい付き始める欠食児童。
うん、やっぱりお姉さんの所のピタパン最高。
様々な雑用を一通り熟し、漸くミルガルの教会前に到着したマルセル村一行。時刻は結構いい感じに過ぎており、お腹と背中がこんにちはといった状態。
俺はザルバさんとケイトを荷馬車に残し、ピタパン売りのお姉さんの元に直行です。
「お久し振りです、お姉さん。マルセル村のケビン、授けの儀を受ける為再びミルガルにやって来ました。早速ですがピタパンの肉野菜包み四十人前下さい」
「はっ?っていらっしゃい。行き成り誰が何を言うのかと思えば坊やじゃないか。
今回も例のカバンにだね、毎度あり。
早速作って行くからどんどん詰め込んじゃいな。お代は銀貨一枚と銅貨六十枚だよ」
「はい、これ銀貨一枚と銅貨は今積み上げるから待ってください。十枚の山が一、二、三、六つで六十枚。お姉さん、これで合ってる?」
「ちょっと待ってね。坊や、よく見てごらん。ここに枠があるだろ?これが一列十枠、それが五列で五十枠。この板に並べて行って全部埋まると五十枚、六十枚だから一回と一列、確かに頂いたよ」
「えっ、何それ、お姉さん凄い。やっぱり天使様?」
「ハハハ、そんなんじゃないよ。これは昔の賢者様の発明さ。
さっき坊やがやったみたいに積み上げてもいいんだけど、硬貨がすり減ってたり歪んでたりって結構問題があってね。王様が代わる時に厚みが変わる事もあるからね。
でもこれなら確実に数えられるだろ?賢者様は大したもんだよ、お名前は知らないんだけどね」
「ふ~ん、やっぱり賢者様って凄いんだね。僕も賢者様に成れるかな?」
「そう言えば坊やはこれから授けの儀って言ってたね、教会で神様にお願いしたらもしかしたら成れるかもしれないね。はいよ、先ずは一つ目、これからどんどん渡していくよ」
そう言い次々とピタパンにお肉と野菜を挟んで行くお姉さん。俺は出来上がった端から受け取ってカバンの中に(と見せかけて収納の腕輪に)仕舞って行きます。
「はいよ、これで四十個。いっぱい買ってくれた坊やにはおまけで幾つかあげたかったんだけど、肝心のピタパンが無くなっちゃったね。固くなったピタパンならあるけど、おやつに持って行くかい?」
「うわ、本当?お姉さんありがとう。領都に向かう荷馬車の上で食べるね」
「あぁ、気を付けて行っておいで。坊やに女神様のご加護を」
俺は手を振って見送ってくれたお姉さんに礼を言い、教会前の荷馬車へと戻って行くのでした。
荷馬車ではお腹を空かせたケイトがジト目でこちらを見詰めて来ます。
今渡すからそんな目で見るんじゃありません。
でもその前にお茶の用意をば。カバンの中から土瓶を取り出しその中にミランダさんブレンドのハーブをサラサラ、その上から生活魔法のウォーター(熱湯)をチョロチョロ。湯呑を四つに深皿を一つ。
「ケイト~、深皿に闇属性魔力マシマシウォーターをお願い。ブラッキーに飲ませてあげて~」
「ん。」
ブラッキー大喜び、ガブガブいただいております。
で、人間様には湯呑にハーブティー、平皿にピタパンの肉野菜包み。
「さぁ、皆さん、女神様に感謝を捧げましょう」
「「「日々の恵みに感謝を」」」
でまぁ、美味しくいただいてるって訳なんですけどね、やっぱりこの組み合わせ最高。ピタパンの肉野菜包みにはミランダさんのハーブティーでしょう。本当によく合うわ~、俺の見立て通り。
ドレイク村長代理が何やら言いた気な顔でずっとこちらを見ておられますが、そんなものは完全スルー。大変満足行く昼食と相成りました。
「こんにちはシスター、私はマルセル村の村長代理を務めています、ドレイク・ブラウンと申します。メルビン司祭様とのお約束があるのですが、お取次ぎをお願い出来ませんでしょうか」
ドレイク村長代理に声を掛けられたシスター、マルセル村と聞いた途端大変良い笑顔になられました。
見れば血色も良くお肌も艶々、首には蜂蜜色のスカーフが。“すぐに確認してまいります”と大変愛想よく下がって行かれました。
うん、マルセル村の美容商品、大変好評の様です。
「お待たせいたしました、マルセル村の村長代理ドレイク・ブラウン様ですね。お話はモルガン商会のギース様よりお伺いしております。司祭様の元へご案内いたします、どうぞこちらへ」
案内人として来て下さったのは、ミルガルの教会を実質的に取り仕切っているシスターアマンダ。これは相当な歓迎と見ていいでしょう。
「こちらになります」
案内されたのは司祭様の執務室、簡素でありながら品の良い調度品の置かれたそこは、司祭様のセンスの良さを伺わせる。流石は王都で悪童とまで呼ばれた遊び人、“軟派師メルビン”の名は伊達ではありません。
「お初にお目に掛かります。私は辺境の地マルセル村で村長代理の職を預かっております、ドレイク・ブラウンと申します。この度司祭様におかれましてはわが村の子供たちの授けの儀にお付き添いいただけるとの事、大変光栄であり、ありがたく存じ上げます」
そう言い深々と頭を下げ、礼を述べるドレイク村長代理。司祭様はそんな村長代理に柔和な笑みを浮かべお言葉を述べられます。
「いえいえ、此度の事は旧友でもある剣術指南役ボビーの頼みでもあります。それに私も久々の領都行きを楽しみにしていたのですよ。
それとマルセル村の皆様には当教会のシスター達が大変世話になっているとか、私も共に神に仕える彼女達の笑顔を見る事が出来、大変嬉しく思っております。
私に出来る助力などたかが知れておりますが、どうぞよろしくお願い致します」
うん、どうやら“シスターちゃん若返り作戦”は司祭様も大変お気に召されたご様子。聖水スカーフとローポーション軟膏の併用により、シスター様方はお肌の艶どころかお身体の張りもよろしくなった様で、司祭様もご満悦といった所でしょうか。
「はい、実はその事もありまして、司祭様のお力添えがいただきたかったのです。司祭様も既にご承知の様に、あちらのスカーフは教会より賜りました聖水を使用し作られております。
元はと言えば村の子供が友達の怪我の回復を願って作り出した品、そしてこの度司祭様からお分け頂いた聖水を使い、村の妊婦の無事な出産を願い作らせて頂きました。
お届けしたスカーフは、その感謝の
その効果はご覧の通り、村人一同、女神様の慈悲に日々感謝しております。
ですがこの事をマルセル村のみの秘密にする訳には参りません。事が大事になる前に、教会と御領主であるグロリア辺境伯様の判断を仰がねばなりません。
司祭様にはその為の窓口になっていただきたいのです。無論、司祭様が信頼なさっておられるお方に判断を仰がれる事は、一向に構いません。
こうした所謂美容用品に関しては、高貴なる方々のお心が働かれる事でしょうから」
「そうですね、これ程のものとなりますと色々と面倒事もありましょう。グロリア辺境伯様に
私も微力ながら伝を当たってみましょう」
「はい、ありがとうございます。領都への移動及び滞在中は、私共田舎者では不案内でございます。既にお目通りさせていただいておりますモルガン商会のギース氏が御世話をさせていただきますので、何卒よろしくお願い致します」
「はい、その件に付きましては昨夜ギース氏よりお伺いしておりますよ、あの方は中々愉快なお方ですね。実は幌馬車の旅も楽しみの一つなんですよ」
そう言いウインクを一つする司祭様、やっぱり役者が違います。
「それでこちらのお二人が授けの儀を受けられるのですね?」
にこやかに微笑みながら俺とケイトに目を向ける司祭様、観察するとどうも目の辺りに魔力を集めている様です。これは俺がケイトの魔力量を観察するのと同じやり方、スキルだったらそこまでじっくり観察する必要もないでしょうから、完全に技術ですね。
「ふむ、どうやら二人とも頑張って修行をなされている様子、魔力の流れがとても安定していて大変素晴らしい。この魔力の安定というのは一朝一夕で身に付くものではない、地味ですが魔法技術の基礎となる重要なものなのです。
残念ながら魔力量は一般的な子供と大差ありませんが、君たちの師匠のボビーも若い頃はそのくらいの魔力量しかなかったんだよ。
彼はそれに負けること無く修行し、白金級冒険者にまで上り詰めた。そんなボビーに剣を習っている君たちなら大丈夫です、自信を持って授けの儀に臨んで下さい」
「「はい、ありがとうございます」」
俺たちはその後何度か言葉を交わし、明日の出発の約束を取り付け教会を後にするのでした。
「ザルバさん、ブラッキー、荷馬車の番、ありがとうございました。
それとザルバさんに嬉しいご報告です」
「お帰りケビン君、司祭様との面会はうまく行った様だね。それで嬉しい報告とは何があったのかな?」
「はい、ケイトの魔力量の件ですが、司祭様に全くバレませんでした。それどころかよく修行しているとお褒めの言葉を頂きました」
「ほう、司祭様の。それで嬉しい報告って事はそれだけじゃないんだろ?詳しく聞かせてくれないかい」
「はい、結論から言います。ケイト、王都の学園行きが無くなりました。一応不安材料はありますんで、授けの儀の当日は魔力過多症薬を服用して貰いますが、行き成り王都行きって事はまず無いでしょう。
前にもお話いたしましたが、こちらの司祭様は人の魔力量を見る事が出来るんです。それどころかその魔力の質や状態も分かる様です。
そこで先程司祭様がどうやって魔力量を計っているのかを観察していたんですが、どうも目に魔力を集中して全体の魔力を観察している様でした。恐らくですが、これは高位の教会関係者に伝わる技術、もしくは授けの儀を取り仕切る部署の者が身に付ける技術なのではないかと思われます。
平民の授けの儀式は年四回、そこに参加する大勢の子供たちの中から有望株を見つけ詳細鑑定を行うには、篩に掛ける必要がある。
詳細鑑定を行う事の出来る鑑定士は少ないですから。
魔力の量は判断材料として最適なんですよ。たとえ低級の職業であっても、魔力量次第では化ける事もありますから。
ケイトは魔力過多症を患った人間ですから魔法職を授かる事はまず間違いないかと、そうなると魔法使いか魔導師か賢者か。
ケイトはボール魔法による属性魔法検査では、闇属性特化型となっています。賢者は三属性以上の魔法適性を必要としますからまず無いかと。
そうなると可能性のあるものは闇属性魔法使いか闇属性魔導師か、いずれにしても魔力量の少ない特化型魔法使いは領都の学園行き決定なんですよ。
グロリア辺境伯領領都グルセリアの学園であれば、集まる貴族は皆様辺境伯様の子飼い。
そして我々は辺境伯様に多大な利益をもたらす可能性大のマルセル村村人。後ろ楯があるって素晴らしいですよね、これでケイトも安泰です」
“ガシッ”
「ケビン君、ありがとう、本当にありがとう。ケビン君には借りが溜まるばかりで申し訳ないけど、この恩は一生忘れないよ。
これからもケイトの事、よろしくお願いします。」
俺の手を掴み、しきりに頭を下げるザルバさん。
いやいや、そこまで感謝しなくてもいいですからね?俺もなんやかんやで学園なんか行きたくない口なんで、一緒に同じ目的に向かって修行する仲間がいるのって楽しかったですから。
それとケイトさんや、頭を下げまくるザルバさんを見ながら何故にそんなに嬉しそうなのかな?
“後は既成事実だけ”って一体何の事なのかな?
ドレイク村長代理によるミルガルの教会での仕込みが終わり、確認作業も順調に進んだケビン少年は、ケイトの態度に一抹の不安を覚えつつもまだ見ぬ領都(で出会う美味しい屋台料理)に思いを馳せるのでした。
本日二話目です。
唐突ですが、この作品、マンガの原作になってます。
カドコミってマンガサイトで「転生勇者の三軒隣んちの俺」で検索してみてください。第六話まで出てるので。
四話と五話は公開終了してましたけど、ご覧の通り一話ずつでも楽しめるような作品ですからご安心を。
いってらっしゃい。
by@aozora