転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第129話 転生勇者、人の悪意に立ち向かう

枯れ草の広がる草原、遠くフィヨルド山脈から吹き下ろす寒風が身を震わせる、そんな場所。

街道と言えば馬車の轍が残る土の道、いつ草むらに覆われてもおかしくない、そんな通りも(まれ)な一本道に手を付き何やら観察する冒険者風の男性。

 

「お頭、どうやらここ数日以内に重い荷物を載せた荷馬車が通った形跡があります。商人でしたらマジックバックなりを持っているでしょうからここまでの跡は付かないでしょう、恐らくは村の荷馬車で街に野菜でも売りに行ったのではないかと。

それか噂のビッグワーム干し肉ですかね。ビッグワームでしたら一年中取れるでしょうから、これからの時期需要も高まるでしょう。あっしも好奇心で食べてみたんですが、結構美味しかったんですよね。冒険者時代に(かじ)ったビッグワームとは完全に別物、あれなら売れますよ。

それと木札ですか?街で仕入れた情報が確かなら、こんなに美味しい獲物は久し振りなんじゃないですかね」

 

男は背後に控える巨漢にそう告げると、嫌らしい笑みを浮かべ舌舐めずりをする。

 

「村の人間が行商に出ているとなれば、主な戦力はそっちに向かっているはずだ。後は村が自衛の為に冒険者を雇っているかどうかだが、高位冒険者は王都や領都、今の時期なら南の地方かダンジョン都市か。今時こんな辺境の最果てに雇われる様な奴は、録な実力もない連中ばかりだろうさ。どのみち俺らと変わらん破落戸風情、何とでもなるさ」

 

「ではお頭、この後はどう致しますか?夜を待って夜襲を仕掛けますか?」

 

「馬鹿野郎、何の為にこれだけの人数を集めたと思っているんだ、そんなもん数で押し切る為に決まってるだろうが。

野郎共、今夜は宴会だ!爺、婆は要らねぇ、見せしめにぶっ殺せ!女子供は好きにしろ、ただ後で売り払うことも考えて程々にしておけよ。あの奴隷商、人の足元を見やがるからな。

二~三日遊んだらエルセルに引き上げる、他の村はまだ旨味が少ないからほっとけ、丸々と太ったら美味しく頂いてやればいいさ」

 

「「「「応!!」」」」

 

寒風吹きすさぶ草原に響く盗賊どもの下衆な笑い。収穫の時は今、目の前に差し出された美味しい獲物に、男達は気分を高揚させるのであった。

 

 

“シュ~~~”

五徳に掛けられた鉄瓶から白い湯気が上がる。囲炉裏を囲む女性は行商人から手に入れた毛糸玉と鍵棒を使い、最近村の裁縫師ベネットお婆さんから習った編み物に挑戦している。

一編み一編み想いを込めて、愛しの人が冬の寒さに困らぬ様に。

お守り代わりに自身の銀糸を編み込もうとして必死な形相で止められたのはいい思い出だ、照れるあの人の姿も愛おしい。

 

“ピクピクッ”

“キュキュッ”

“ウォンッ”

床板に横になっていた太郎が耳を小刻みに動かし、毛糸玉と戯れていた団子が顔を急に上げたかと思うと同時に声を鳴らす。

 

はぁ~、またお客様ですか。これで四回目、今年になっていったい何回目の襲撃でしょうか。グロリア辺境伯領は私が知らないだけで、かなり物騒な土地柄だったんですね。

いえ、今までは盗賊すら避けて通る最果てであった為の平穏であったと言う事なのでしょうか。貧困に喘ぎ冬の餓死に怯えるか、豊かな生活に群がる人間の悪意と欲望に怯えるか。“真に穏やかな生活を送りたかったら大森林に引き籠るしか方法はない”と言ったケビン君の言葉は、あながち間違ってはいないのかもしれません。

過去に大森林に居を構えた大賢者シルビア・マリーゴールド、彼女も様々な苦労と心痛の末の決断だったのでしょう。

 

女性は寝そべる太郎に声を掛けると、囲炉裏の火を落とし重い腰を上げる。

 

この時間帯なら、多くの村人がいるのはボビー老人の訓練場ですね。

地味顔の女性アナは太郎と共に村人達の元へと向かう、マルセル村に迫る脅威を伝える為に。それが愛しのあの人との約束だから。

家を守るのは妻の役目、あの人がいない今、この村を守る事が私の役割。

村人アナは足早に村外れの訓練場へと向かう、あの人に託された自らの役目を果たす為に。

 

―――――――――――――

 

「なる程の、数に任せて正面からくる様な輩かの。アナさんや、いつもすまないの、助かるわいて」

 

「いえ、これもケビン君の頼みですから。それではこれで」

 

ボビー老人は話を終え帰って行くアナの後ろ姿を見詰めながら、さてどうしたものかと頭を巡らせる。

ボビー老人の訓練場には冬の畑の準備が終わった多くの村人が、ヨシ棒を手に剣術に励んでいる。

中にはケビン少年の薫陶(くんとう)を受け、常在戦場とばかりに鎌や鍬を振る者もいる。

常に武器を持ち歩くなど村人には不可能、ならば手近な物を武器にする訓練をする方が遥かに現実的であると言うのがケビン少年の主張。それは元冒険者である自身には抵抗のある言葉であったが、言われてみればその通りであり、村のあちこちに準備された積み上げられた石塊(いしくれ)もいざと言う時の備え。

近頃は剣術ばかりでなく、投石の訓練も村人の遊びとして定着しつつあった。

 

「皆の衆、非常事態じゃ、訓練を止め集まってくれるかの」

ボビー老人の言葉に各々得物を収め集合する村人達。

 

「先程アナさんより連絡があった。太郎と団子が村に近付く一団を感知したそうじゃ。アナさんによれば馬車や馬も従えたかなり大規模なものらしい。女衆はキャロルさんを連れて手筈通りヘンリーの家に向かってくれるかの、それとここに来ていない者に声を掛け急ぎ避難をして欲しい。

トーマスの所のマリアさん、ミランダさんの事も頼むぞい。守りには大福と緑、黄色もついてくれる、安心して待っておいて欲しい。

誰かが助けを求めて来ても決して近付けてはならん。盗賊は全て排除、これはマルセル村の掟じゃでな」

 

ボビー老人の言葉に村の女衆は急ぎ動き出す。彼女らにも既にケビン少年の事は伝えてあった。彼が今まで如何にマルセル村を守って来たのかを、彼がマルセル村の発展の為に誰にも知られず戦い続けて来た事を。

女達は涙した、これ迄子供に頼り何も知らず安寧を享受していた自分達を恥じた。そして感謝し決意した、これからは自分達がこのマルセル村を守って行くのだと。

 

自分達の戦いとは何か?男衆と共に武器を持ち盗賊達に立ち向かうことか?

否、自分達の戦いとは何としてでも生き残り、この村の未来を次の世代に託す事。

その為の方策は、既にケビン少年が用意してくれている。

村の各所に集められた石塊しかり、魔の森の避難路しかり、その先にあると言う老木の避難所しかり。

 

ヘンリーの家の回りには既にビッグワームの緑と黄色が待機し、デカスライムの大福がホーンラビットの団子相手に戯れていた。

 

「キャロルさんは家の中へ、マリアさんとミランダさんも到着しています。他の方々は石塊の山を家の周辺から集めて下さい。大福さんは裏手の警戒、緑と黄色は各々家の両脇に待機し近付く者は誰であろうと叩き潰して下さい。太郎と団子は正面で私達の警護をお願いします。

直接戦闘は最後まで避けて下さい、何かが来たら全力での投擲で仕留めます。躊躇だけは決してしないで下さい」

 

村人アナの的確な指示に女衆と魔物達は各々の行動を開始する。

女達の戦いの準備はここに整った。

 

女衆が行動を開始する中、訓練場に残った男衆は手持ちの武器をヨシ棒から木刀に変え、ボビー老人の言葉を待つ。

 

「先ずは状況の確認じゃ、集団、それも馬車や馬を連れてのものとなるとかなり大規模なモノとなる。それを待ち構えて迎え打つなど悪手、わざわざ相手に準備万端で襲って下さいと言っている様なもんじゃからの。

ここは先制攻撃あるのみじゃて。

 

そこで部隊を二つに分ける、ヘンリーを隊長とした古参衆は左翼に展開、グルゴを隊長とした新人衆は右翼に隠れ左右から挟み撃ちにする。儂は街道に立ち連中を足止めしようかの。

討伐方法は各々石塊を用いての投擲で敵を弱らせ、状況次第殲滅。

ジェイク、ジミー、エミリー、お主らは儂の後ろからよく見ておくのじゃ。この村の現実を、ケビンの奴が、この村の大人達が戦い守って来たマルセル村の姿を」

 

「行くぞ!!」

「「「「応!!」」」」

ヘンリーの掛け声と共に動き出すマルセル村の男衆。彼らの顔が真剣なものに変わる、それは戦場へと向かう戦士のもの。

子供たちは思う、自分達が如何に守られて来たのかと、これから始まるのは訓練ではない、命懸けの実践であるのだと。

 

 

「お頭!村門の前に誰かいます。爺さんと若いの、それと子供の様です」

 

「ほう、爺はどうでもいいが若造と子供は売り先があるからな。お前ら、一旦停止だ。爺の口上でも聞いてやろうじゃないか」

 

破落戸どもの足が止まる、ボビー老人はそんな彼らの前に立ち、鋭い眼光で彼らを見据える。

 

「ハハハ、何だ爺さん、俺達はこの先の村長宅とやらに用があるんだ、そこを退いてくれないか?それとも足がすくんで動けなくなっちまったかな?子供連れの様だがもしかして俺達とやり合おうってのかい?」

 

「「「「ゲッハッハッハッ」」」」

村門前の草原に響く下衆な男達の笑い。少年ジェイクは思う、こんな奴らに村を汚させてなるものかと、悪は討たなければならないと。

 

「ジェイク、ジミー、エミリー。お主らは今“こんな連中なんかにマルセル村を汚させてなるものか、悪は滅ぼす”とか考えてはおらんかの?

その考え方は少し問題があるかの。

前にも言うたが人に出来る事など高が知れておる。自分こそ正義であり何でも出来るなどと言うのは、思い上がり以外の何物でもないんじゃ。

例えばこ奴らをお主達だけで倒したとしよう。その次は?更にその次は?

お主らはいずれ冒険者としてこの村を旅立つのであろう?お主らが旅立った後に残された村人はどうなる?実戦経験のない力のない村人は訪れる脅威に力なく破れ去るだけであろうて。

ケビンの奴はそれを恐れた。あやつは此度の出立に辺り、男衆全員を戦える戦士へと変えて行きおった。統制の取れた女衆の動きもそうじゃ、アナさんと共に女衆のもとに通い、よくよく相談しておったわいて」

 

ボビー老人は上段から見下す目を向ける盗賊どもに向き直り言葉を続ける。

 

「これはケビンの言葉じゃが、“村の防衛に英雄は要らない、正義をかざすのは物語の中だけで十分だ。ゴミの排除は粛々と丁寧に、決して漏れが無い様に”だったかの。

奴の戦いは冒険者や騎士のモノとは全くの別物、それは狩人のもの、農家の収穫。

お主らもこうした戦いがあると言うことを覚えておくがよい」

 

“サッ”

ボビー老人により上げられた右手。途端茂みに身を潜めていた村の男衆が立ち上がる。彼らが手に持つのは握りの良さそうな手頃サイズの石塊。

 

“ビュンッ、ゴンッ、ドサッ”

轟音と共に打ち出された速球は数の有利に油断する盗賊の頭を捉え、致命の一撃を与える。

 

「なっ!」

“ビュンッ、ゴンッ、ビュンッ、ゴンッ”

動揺する盗賊を余所に次々と繰り出される投擲、そのどれもが必殺の一撃。一人、また一人と倒れ付す配下の姿にお頭と呼ばれた者が怒声を上げる。

 

「手前らふざけやがって、構わねえ、皆殺しにしろ!」

お頭の声に散会し攻撃に転じる盗賊達、だが時既に遅し、既に半数以上の者が地に伏し絶命するか唸りを上げるだけとなっている。

 

「糞っ卑怯者が、正々堂々戦う事も出来ねえのか、この臆病者共が!」

盗賊のお頭が上げる声に動揺を見せる子供たち。これが戦闘と呼べるのか?自分達は悪戯に人の命を弄んでいるだけではないのか?

だがそんな声に、ボビー師匠はため息を吐きながら答える。

 

「何を馬鹿な事を言っておる。お主らはここマルセル村を襲いに来た盗賊であろう?であるならばその行為は村を襲う魔物とどう違うのじゃ。

村を襲う魔物であるならば排除する、至極当たり前の事であろう?もしかしてお主は戦いにロマンを求める部類の者であったのかの?であるのならばこんなところで盗賊などせずに、他国にあると言う闘技場へでも出ておれば良かったのにの。

何れにしてもお主らはお仕舞いじゃ、狩りに破れた魔物は亡骸を晒す、これは世の常じゃて」

 

「糞~!」

盗賊の頭はせめて一太刀とばかりにボビー老人に向け刃を向ける。その凶刃がまさにボビー老人の身体を捉えようとした時、「「“一閃”!!」」

 

撃ち抜いたのはジェイクとジミー。エミリーはそれでも倒れない盗賊がいつ襲い掛かって来ても対処出来る様に、木刀の切っ先を盗賊に向け睨みを効かせる。

 

“ドサッ”

白目を剥き、前のめりに倒れ付すお頭。その光景に剣を捨て降伏する盗賊たち。だが・・・。

 

“ビュンッ、ドサッ、ビュンッ、ドサッ”

村の男衆は決して攻撃の手を止めない、只管繰り返される正確な投擲。盗賊たちは唯々(ただただ)怯え、その数を減らしていく。

 

「よし、そこ迄じゃ、攻撃を止めよ」

 

ボビー老人の言葉を聞き、投擲を止める男衆。そこに残るのは呻き声を上げ転がる者、只黙って倒れ付す者。

ボビー老人はその倒れる者の一人一人に(とど)めの一撃を加えていく。何の感傷もなく、ただ淡々と。

 

「た、頼む、助けてくれ。俺はただ冒険者ギルドで仕事を受けただけなんだ、それが盗賊行為だなんて知らなかったんだ!」

 

それは偶然であった。ボビー師匠の後ろに付き従い、師匠が盗賊の一人一人の生死を確認している中、不意に向けた視線の先に見えた馬車の下に隠れる一人の男性。

彼は完全に戦意を失い怯えている様に見えた。

男性はゆっくりと四つん這いになりながら子供たちに近付いた、その間も必死に命乞いを行い、助命を願い続けた。

 

子供たちは迷った、迷ってしまった。己の行動を反省し、命乞いをする者を無下にしても良いのか。自分たちの一言でこの男性は儚くなる、そんな決断を本当に自分たちが行ってもよいのか。

男性はその間も“ありがとう、ありがとう”と感謝の言葉を並べ目の前へとやって来ていた。

 

「君たちは本当に優しい良い子供たちだ、さぞや立派な親御さんに育てられたんだろうね。私はそんな親御さんにも感謝しなければ、本当にありがとう“ゴンッ、ドサッ”」

 

「「「・・・・」」」

倒れ付す男性、そのこめかみから流れる赤い鮮血。

投げられた石塊が飛んで来た方を向けば、投擲し終わった姿勢で佇むジェイクの父トーマス。

 

「トーマスお父さん、何で・・・、この人は・・・」

言葉を詰まらせるジェイク少年に、父トーマスは静かに語り掛ける。

 

「お父さんが昔冒険者をしていた事は話した事があったな。お父さんはそれ程才能のある方じゃなかったから銀級止まりだったけどな。銀級冒険者になると、魔物討伐や採取の他に、護衛依頼やら盗賊の討伐依頼なんかも入ってくる。お父さんも仕事とはいえ何度となく対人戦を行い依頼をこなして来た。

言い方を変えればお父さんの手は人殺しの血濡れた手ってことさ。

そんな人との戦いの中で多くの仲間を失い多くの盗賊達を見て来た。

中にはさっきジェイクが見た様に命乞いをしてくる者もいたよ、そしてそんな者を受け入れ殺されていった仲間もね」

 

トーマスは一旦言葉を区切ると、倒れ付す盗賊を指さしながら言葉を続けた。

 

「ジェイク、その男の左手を見てごらん。」

 

ジェイクは父トーマスに言われるまま男の左手を見る。しかしてそこには・・・。

 

「隠しナイフ。恐らくソイツはお前たちの誰かを人質にして逃げる気だったんだろう、ここには馬もいるからな。この場から逃げ出せればなんとかなる、そう思っていたんだろうな。

逃げ出す間もソイツはずっと謝り続けたことだろうさ。それが最善の選択だからね。

同情を引き、自分の本来の目的を達成する為にね」

 

“ガスッ”

トーマスによって叩き付けられた木刀、男は一瞬ビクンと身体を震わせそのまま物言わぬ屍へと姿を変える。

 

「冒険者の思考は単純だ。何が大切で自分は何をしているのか、明確な目的を持つこと、それを基準に物事を判断する」

トーマスは再び子供たちの目を見ながら言葉を紡ぐ。

 

「目的を見失ってはならない。一番大事な事は村を守る事。ボビー師匠は戦闘の前になんと言った?殲滅と言わなかったかな?

このマルセル村で盗賊を捕らえ領兵に付き出すのにどれ程の時間が掛かるか、それがどれだけ村を危険に晒す行為に他ならないのか。

お前たちは強い、それは盗賊のお頭を一撃で倒した事からも明らか。後は覚悟、守ると決めたものは何をおいても守る。それが例え残酷な行為であろうとも、必要とあれば実行し、目的を果たす。

“村の防衛に英雄は要らない”、この言葉の意味をよくよく噛み締めて欲しい。それは君たちが冒険者として生きる上で必ず力となるはずだから」

 

そう言い三人の頭をくしゃくしゃと撫でるトーマス、その目は何か眩しいものでも見るかの様に、優しく細められているのでした。




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