転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第130話 村人転生者、領都に向け出発する

「ブラッキー君、今朝の食事はいかがだったかな?」

“ウォウオン”

 

「そうか、そう言ってくれると助かるよ。どうしてもこれからの時期は新鮮な生肉が手に入らないからね。特別に塩分少な目の干し肉を仕入れてるんだが、これももうそろそろ仕入れられなくなるんだよ。これから先の季節は煮込み料理などにして塩を抜く形になってしまうんだけど、ブラッキー君は火の入った肉とかは食べれるのかい?」

“クゥウン、ウオン”

 

「そうかい、それなら授けの儀の帰りに寄ってくれた時は頑張って腕を振るわせてもらうよ。それ迄ブラッキー君もお元気で、いい旅路を」

“ウオンッウオン”

 

ミルガルの街の夜が明ける。街は馬車や荷車が動き出し、朝の喧騒を作り出す。

 

昨日教会の司祭様の元を後にしたマルセル村の一行は、その足で“ブラックウルフの尻尾亭”に宿を求め向かう事となった。

宿のご主人は壮健な様子で、“肉屋の店主から話は聞いているよ、彼がフォレストウルフって設定のブラッキー君だね”と満面の笑みで出迎えてくれた。

と言うかご主人テンション高過ぎです。目が爛々としてるじゃないですか、怪しいお薬でも使ってます?ってくらい鼻息荒いですよ?

えっとブラッキーを撫でたいんですか?どうよブラッキー。うん、そう、問題ないみたいです。

宿のご主人は相変わらず従魔愛に溢れており、ブラッキーはすんなり部屋に泊めて貰う事が出来た。ブラッキーの食事に関しては宿のご主人にお任せ、人気のウルフ種は何度も逗留した事がある様で、ご主人が自慢の料理を振る舞わせて頂くと張り切っておられた。大人しくお座りをするブラッキーの頭を撫でながら。

お~い、ご主人~、ブラッキーの頭は撫でてもいいから早く部屋の鍵をくださ~い。

その後宿の女将さんが現れて、ご主人の頭を引っ叩いた後笑顔で鍵を渡してくれたので、この件については触れないでおきたいと思います。

それと女将さんが“ゼノン精肉店からの伝言です”と言ってゾイル夫妻の新しい工房兼新居の場所を示した地図を渡してくれたので、俺はドレイク村長に断りを入れ宿を後にする事にした。

因みにザルバさんはケイトと一緒に領都までの移動中に必要な物資の買い出しに、ドレイク村長代理は明日から一緒するモルガン商会の行商人ギース氏の所に打ち合わせに行くそうです。

 

「こんにちは、フレムさんかセシルさんはおられますか?」

尋ねた先はミルガルの街の職人街と呼ばれる区画の端っこにある小さな鍛冶工房、まぁそれでもエルセルの街にあったゾイル工房より立地的にも良いと言うのだから、これまでどれ程の苦労をして来たのかが伺える。

 

「やぁケビン君、よく来てくれた。さっきはちゃんと礼も言えずすまなかった。君にはどれ程の感謝の言葉を述べたらいいのか。本当にありがとう、今はこんな事しか言えない自分が情けないよ」

そう言い頭を掻くゾイルさん。ゼノン精肉店のご主人とはいい関係が築けたみたいです。

 

「セシルはちょっと夕食の買い出しにね。ご覧の通り何もない所だが先ほど迄掃除をしていてね、今日は出来合いの物で済まそうと思っているんだ。お茶の一杯も出せないのが心苦しいが」

 

「いえいえ、お気になさらずに。それで台所や寝室なんかは、もう綺麗にされたんですか?」

俺の質問に“家中一通り掃除は済ませてある。元々そこまで汚れてもいなかったからね”と答えるフレムさん。そうですか、それじゃ荷物の引き渡しも出来ますね。

俺はフレムさんに案内して貰い、先ずはキッチンへ。調理道具は無く、棚も少ない閑散とした場所です事。

俺は身体から闇属性魔力を吹き出しキッチン全体を覆い尽くすと、腕輪収納に仕舞い込んだゾイル工房の台所用品をセット。魔力を引っ込めるとあら不思議、お皿が綺麗に収納された食器棚に小洒落たテーブルの上には花瓶が一つ、今の今まで暮らしていたかの様な見事な生活空間が現れるじゃないですか。残念ながらフレムさんが一月ほど荒れた生活をしていた為食材らしい食材はありませんが、そこは諦めて頂く方向で。

そんな調子で寝室や店舗部分に次々と生活用品や店の商品を並べて行く俺、その間フレムさんはお口をあんぐりさせて眺めてらっしゃいました。

 

「えっとフレムさん、この後は肝心の鍛冶場なんですが、どうします?炉とかくず鉄とかも持って来てあるんですけど」

 

「あ、あぁ。この店舗にも前の鍛冶師が使っていた炉が残っていてな。ただ肝心の動力球だけが外されているんだよ。あれはかなり高価なもので、引っ越す際なんかは必ず持ち出すものなんだ。」

 

「それでしたら炉の本体はいりませんかね。動力球でしたっけ?それだけ取り出しますね」

そう言って掌に魔力炉に付いていた球の部分だけを取り外して出してみる。

これって簡単な解体的な事が出来て超便利な腕輪収納の機能です。流石にホーンラビットを仕舞って血抜きや皮を剥いだりやらは出来ないけど、仮にダンジョンの様な場所に行って宝箱を発見した場合、宝箱ごと収納して収納空間で蓋を開ける事が出来るって言うね。罠があっても関係なし、毒ガスだろうが毒矢だろうがすべて収納空間に収納されてる状態なので発動せず。中身だけを安全に取り出せるって訳です。

まぁそれでも魔法で鍵が掛かってたら無理ですが、物理的な鍵の場合は複雑なものでなければ行けます。

 

「あぁ、これがあればすぐに仕事に取り掛かれる、本当にありがとう。」

 

「それと材料置き場ですけど」

 

「それなら床の端にでも置いておいてくれないか、まだ仕切りとかは用意していなくてね。」

 

「それじゃ簡単に仕切りだけ作っておきますね」

俺は腕輪収納に仕舞い込んであるレンガを適当に出し、闇属性魔力で覆って簡単にセッティング、表面をこれまた収納から出した粘土でコーティングしブロック魔法を掛けて固定化しておきました。それで仕切りが出来たところにくず鉄を排出、ついでに破砕で粉々にして山にしていきます。

後は必要な工具を一通り床に並べて排出、流石に職人さんにとって使い勝手の良い様なセッティングは素人の俺には無理です。その辺は敢えてフレムさんにお任せする事にしました。

 

「このレンガの仕切りって簡単に壊せるようにしておいたんで、使い勝手で改装してください」

俺の言葉に気を取り戻したフレムさんが“あぁ、助かったよ、ありがとう”と言ってくれたのは良いんですが、その後に“ケビン君だから仕方がない”と唱えるのはなぜなんでしょうか?

便利だからいいじゃんね~。

 

「それじゃ俺は行きますね、フレムさんもこれから大変でしょうが頑張ってください。後セシルさんにもよろしくお伝えください」

一通りの荷物引き渡しが終わった俺はフレムさんにご挨拶、因みに邪魔になった棚やテーブルはケビン引越センターで引き取らせて頂きました。

 

「あぁ、本当に何から何までありがとう。それとケビン君に頼まれたケビン君専用の武具は必ず仕上げてみせるよ」

 

「あ、そうでした、その為の材料を渡していませんでしたね」

そう言い腕輪収納からなんちゃってインゴットを取り出す俺氏。取り敢えず二十個くらいあれば足ります?

 

「あ、えっ?多いからな、こんなに使わないから、大剣だって十個も使わないから。」

 

「そうですか?それじゃ取り敢えず十個にしておきますね」

俺は余分な十個を収納に仕舞う、その間も“ケビン君だから仕方がない”と唱えるフレムさんは見なかったものとしよう。

 

「それじゃフレムさん、俺の武器の件よろしくお願いします。フレムさんが落ち着いて仕事が出来る様になってからだと、今度はいつ来れるんだろう。

三年後の旅立ちの儀の時にでも受け取りに来ますんで、気長に作って下さい。

それに」

 

俺は言葉を止めてカバンの中から一本の剣鉈を取り出すと、鞘から引き抜いて刀身を見せる。武骨でありながら製作者の魂が込められたそれは、見る者の心を惹き付ける。

 

「セシルさんを救出しに盗賊のアジトに忍び込んだ時に、中々良い剣鉈を手に入れたんですよ。無論盗賊の持ち物ですからありがたく使わせてもらうつもりです。

ですんでフレムさんも余り前の剣鉈の事は気にしないでください、奪われた物は仕方が無いですから」

俺はそう言いウインクをすると剣鉈をカバンに仕舞いその場を後にする。

フレムさんはそんな俺の後ろ姿を、いつまでも見詰め続けている様でした。

 

 

てことがあった翌朝なんですけどね、昨晩は宿屋のベッドで熟睡されたケイトさん、目覚めもよろしい様で朝食をしっかり摂られておりました。

ブラッキーもご主人の用意した生肉料理にご満悦、これってカルパッチョとかそう言った料理の親戚になるんだろうか?俺って料理の事とかっててんで詳しくないからちょっと分らないっす。

 

で、出立の為に荷物を持って皆で宿屋のフロントに行くと、長椅子に腰掛けてぐったりしている屍が一体。

こんな光景前にも見たな~。あの時は確か老人だったんだよな~。

「おはようございます、ドレイク村長代理。もしかして朝まで捕まってました?」

 

「うぅ、ケビン君おはよう。司祭様が遊び人と言う話はケビン君から聞いてはいたんだけど、あの活力は凄まじいね。昨日はギースと今日からの行程の打ち合わせをしていたんだけどね、そこに司祭様が現れてお酒でも飲みながら話をしようって事になって。

話に聞いていた様にとても気さくな方で楽しくはあったんだけど、逃がしてくれなくてね。ギースも今頃同じ様な状態だと思うよ」

 

うわ~、司祭様、今日からの旅が楽しみ過ぎてテンション上がっちゃったのかよ、超迷惑。取り敢えず行商人様と合流しないといけないですね。

俺は腰に下げたポーチから酔い止め薬の小瓶を取り出してドレイク村長代理に進呈、“ブラックウルフの尻尾亭”のご主人に良くお礼を言い、ブラッキーを引き取って荷馬車で教会へと向かいました。

 

「いや~、ケビン君すまなかったね~。それにしてもこの酔い止め薬凄い効き目だね、今までこれ程スッキリする酔い止め薬を飲んだことが無いよ。

これってケビン君のお手製だろ?ミランダが手放しでケビン君を褒める訳だよ。

既に調薬師の職業スキル無しで作る事の出来る薬は全て習得しているそうじゃないか、しかもポーション迄作れる。これならどんな職を授かろうとも薬師ギルドに加盟出来るし、仕事に困る事も無い。最もケビン君なら石工としても食べて行けるんだけどね」

そう言い荷台の上でニコニコ顔になるドレイク村長代理、俺には分りませんが二日酔いの苦しみは相当なものらしいですからね。それでもお酒を止める事が出来ない大人って業が深いな~。俺、大きな街に行く事になったら酔い止め薬だけで食べて行ける自信があります。

 

「おはようございます、ドレイク村長代理。これから領都までの区間、よろしくお願いします。それとケビン君、ケイトちゃん、授けの儀おめでとう。暫くの間だけどよろしくな」

教会に到着した俺達マルセル村一行に声を掛けて来たのは、モルガン商会の護衛任務に就いている冒険者パーティー“草原の風”のソルトさん。

ここから領都までの移動は冒険者の護衛付き、なんて贅沢なんだ。ソルトさん、頼もしいです。

俺がキラキラした目を向けてると、どうだとばかりに胸を張るソルトさん。そんなソルトさんの頭を“調子に乗らない”と言って小突くベティーさん。

 

「そうそう、ギースさんはどうしてます?何か朝までおじさん三人で飲んでいたみたいなんですけど」

 

「あ~、何か司祭様に捕まってたって奴だろ?今も馭者台の上で唸ってるよ。あんな調子で大丈夫なのか心配だよ。駄目な様なら俺かベティーで馭者を代わるつもりだから安心してくれ」

そう言い苦笑いをするソルトさん。そりゃそうか、ドレイク村長代理が屍になってるくらいだもん、ギースさんもただじゃ済まないよね。

俺は腰のポーチから陶器の小瓶を取り出し、“特別製の酔い止めです”と言ってギースさんに渡すようにお願いするのでした。

 

「いや、凄いね。これってケビン君が作ったんだろ?領都に行ったらすぐに薬師ギルドで登録しよう。あ、授けの儀がまだだったね、それじゃそれが終わったらで構わないから加盟の方を頼むよ。

この酔い止めは売れる、私が保証する。マルセル村に行商に行った際は必ず買わせて貰うよ」

ギースさんテンション高い。どうも酔い止め薬は飲んでいた様ですが、それでも苦しんでいた模様。“この酔い止め薬は凄い!”と言って銀貨二枚も下さいました。

・・・薬師ケビン、頑張ります!!ビバッ、副業!!

 

思わぬ臨時収入に、“将来は農業と調薬の兼業農家だ~!!”とテンションの上がるケビン少年なのでありました。




本日二話目です。
副業っていいよね、生活を支えてくれるし。
本業が厳しい昨今、決して無視できないのが副業。
物書きが副業に届くように頑張らねば。
いってらっしゃい。
by@aozora
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