「皆さん、お出迎えありがとうございます。領都までの道程、よろしくお願いします」
朝のミルガルの教会前、信仰心の篤い人々がすでにちらほらと訪れ聖堂で女神様の像に祈りを捧げる姿が見られる中、司祭様は朗らかな笑みを浮かべ我々に挨拶を述べられました。
司祭様の後ろには幾人かのシスター様が控え、司祭様の出立をお見送りする模様。
俺はそんなシスター様の御一人にこっそりと御声掛けをし、“シスターアマンダにお渡しください”と言って攻撃糸製のエコバックにローポーション軟膏(山茶花みたいな花の香バージョン)を詰めてお渡ししました。
「ところでシスター様、司祭様は昨夜も随分とお酒を召し上がられていた様ですが、二日酔いとかは大丈夫なんでしょうか?
えっ?司祭様、二日酔いになった事が無いんですか?どれだけ飲んでもたとえ朝帰りしようがケロッとしてるんですか?どうなってるんですか一体。
司祭様はお酒の神様の加護を受けられているんですか?えっと、神様って女神様だけじゃないんですか?
ふむふむ、女神様は主神でいらっしゃって、その下に複数の神様がおられると。更に天使様方がいらっしゃって様々なお仕事をなさっておられると。天使様にも上級中級下級の位があるんですか。神様方も大変なんですね。
あ、それとこれ、マルセル村で採れたフォレストビーの蜂蜜です。
ここだけの話ですが、この蜂蜜を温めた聖水に溶かして飲むと凄く美味しいそうです。そこに少量のお酒を加えるとさらにイケるとか。
僕はまだお酒は飲めないんで知らないんですが、村の悪い大人の人がこっそり教えてくれました。昔そうやって楽しんでいて、村長に目茶苦茶怒られたんですって。
これ、内緒ですよ?」
俺とシスター様は良い笑顔で互いに顔を見合わせ、今後ともよろしくと言ってお別れする事といたしました。
「それでは出発します。マルセル村の皆さんは後ろからついて来てください」
ソルトさんが周囲に目を配りながら声を掛けてくれます。
“ハッ”
行商人ギース氏の掛け声の下動き出した二台の荷馬車。前を進むモルガン商会の幌馬車の馭者台にはギース氏と司祭様が座り、何やらおしゃべりに花を咲かせている。
普通これ程の街の教会の司祭様が行商人の荷馬車に乗って街を移動するなどあり得ないのだが、メルビン司祭様はそう言った事は一切気になさらないご様子。
何でもメルビン司祭様、若い頃は修行の一環で冒険者活動をしていたとか。ボビー師匠と知り合ったのもその頃だったらしいです。今回の旅も“荷馬車の旅など懐かしいですね~”と言って大変乗り気だった様です。(ドレイク村長代理情報)
「そうそう、ドレイク村長代理、先程シスター様からお伺いしたんですが、司祭様はお酒の神様の加護をお持ちらしくって、どれだけ飲んでも酔い潰れないどころかますます元気になるらしいですよ」
「ハハハッ、そうだったんですか?道理で朝まで飲んでいたにも拘らずお元気なはずだ。これは後でギースにも教えてあげないといけませんね、司祭様にお付き合いするには交代要員が必要だと」
「ですよね~、こんな特殊能力を持った方とまともに付き合ってたら身体が幾つあっても足りませんての。
その話しをシスター様から聞いた時に教えて頂いたんですが、神様って女神様だけじゃないんですね。俺、てっきり神様って女神様だけで他は天使様がいるだけだと思ってましたよ」
「あぁ、マルセル村には教会がないからね、ケビン君が知らないのも仕方がないのかな。
ケビン君の話し振りだとあまり女神様の事も知らないんじゃないのかな?」
「いや~、食事の前にお祈りするのと女神様がいつでも見守って下さっているってくらいの事しか。他の神様の事なんで聞いた事も無かったです」
「まぁ一般的な農村じゃそんなモノだろうね。農民が信仰するのは大体が女神様、作物の出来不出来に直接関わる天候を司っているのが女神様だからね。女神様はこの大地をお創りになり雨や日差しをお与えになる。この世界をお創りになった創造神、それが女神様なんだよ。お名前は恐れ多いとして秘匿されていてね、教会の大司教様や聖女様などが知っているとされているんだよ。聞いた話では人には発音出来ない言葉だとか、聞き取りも難しい為便宜上女神様と呼んでいるらしい。
私も宗教関係者って訳じゃないから詳しくは知らないんだけどね。
それで他の神様の話だけど私が知っているのは商業の神様、鍛冶の神様、お酒の神様、海運の神様くらいかな。これらは皆補助神と呼ばれる方々だね。
女神様はこの世界をお造りになってはいるけど、この世界の全てを管理する事はとても大変だろ?その為の補助として天使様方がおられるんだけどそれぞれの分野での決済を御一人で行うのでは煩雑に過ぎる。そこでこまごまとした事の決定権を持った神様をお造りになったとされているんだ。
女神様はそれら神様を統括しこの世界を作り上げているとされている。
まぁ私なんかが知っているのはこれ位かな?これ以上の事はそれこそメルビン司祭様に聞いてみると言い、楽しいお話と共に教えてくれるはずだよ。」
へ~、つまり必要に迫られて出来てきた役職みたいなもんなのかな?最初は小さなコミュニティーから始まって、次第に交渉役やら事務役やらって各専門分野に分かれて行くってのと同じ感じ?ドレイク村長代理が上げた神様なんかは人間種が生まれて文明を創り始めてから生まれた神様なんだろうな。商業やら鍛冶やら文明生活以前じゃ考えられないからね。戦の神とかもいるんだろうか、関りになりたくないな~。
それにもっと大きな管轄の海の神とか山の神とか大地の神とか天空の神とかがいてもおかしくないんだけど、話に出て来なかったんだよね。もしかするとそう言った大きな仕事は今も女神様が行っているとか?
それと商業の神様がいて何で農業の神様はいないんだろう?分母の大きい信仰は女神様の総取りとか?うん、よく分からん。
あと気になるのは“あなた様”の階級だよな。魔王選定なんて大仕事を下級天使に任せるはずもないし、少なくとも中級?何か新しい闇属性魔力回収システムを提案して会議に掛ける的な事を言ってたし、上司がいる事は間違いないんだよね。それにかなりストレスを溜めてたみたいだし、あれは中間管理職で間違いないね。
「そうそう、話の
あの国の主要産業は林業だからね、国全体が森に囲まれている。無論魔物も多いんだけど、あの国の人達は精霊魔法で対抗しているんだよ。
隣接するバルカン帝国がヨークシャー森林国に攻め入らないのもその為なんだ。過去に痛い目に遭わされているからね」
へ~、精霊魔法ですか、これまた仮性心を擽るお言葉。“この身に宿りし精霊の力よ~!!”とかやっちゃうのかな?すっごい見たいんだけど。
って言うか隣国ってだけでそんなに文化が違うの?精霊文化圏、気になる~!!
ジミーやジェイク君が冒険者になって世界を回りたくなる訳だわ、この世界ワクワクに満ち溢れてるじゃないですか。
でもな~、リスクとリターンが合わないんだよな~。
絶対命懸けの厄介事が待ち受けてるでしょ、それって。精霊と言えば精霊王、超恐い。あれかね、聖獣とか呼ばれる存在もいるのかね?
「ん?聖獣?なんだいそれは。人々を守護する力を持った魔物の事?私は聞いた事が無いが要は地域を契約主とした従魔みたいなものかな?
テイムみたいなスキルによる契約ではなくてケビン君と大福たちみたいな関係。
う~ん、少なくともオーランド王国では聞いた事はないかな。ただ地域によってはドラゴンを信仰する所もあると聞いた事があるし、もしかしたらその場合のドラゴンが聖獣って事になるのかな?
ただあの話のドラゴンは別に地域の人達を守ってる訳ではないらしいけどね。」
そっか~、聖獣って文化はこの国には無いのか~。でも外国だったら分からないぞ~、ドラゴン騎士とかワイバーンライダーとかがいるかもしれないし。
ジミーの土産話が今から楽しみだね。
・・・アイツちゃんと帰って来るんだろうか。街に出て行った村の若者って全然帰って来ないんだけど?
「ドレイク村長代理、つかぬ事をお伺いしますが、マルセル村を出て行った若者で村に戻って来た人間ってマルコお爺さんのところとうちの家族以外にいるんですか?」
「・・・いないね」
はっ?イヤイヤイヤ、えっとそれって結構な人数いましたよね?皆出て行ったきりなんですか?村としてそれって大丈夫なんですか?
俺の質問に乾いた笑いを浮かべるドレイク村長代理、駄目って事ですね、分かります。
「私の前の代までは、村長が村の中で婚姻を決めちゃって夫婦にするって事が行われていたんだよ。先代村長はよそ者が嫌いだったけどその前まではよそ者大歓迎だったからね、そうでもしないと村が滅びるって言う理由もあったしね。
辺境の村での村長命令は絶対、夫婦にして子供が出来れば下手に他所に行く事も出来ないだろう?授けの儀の終わった若者は歳の近い異性がいれば結びつける、そうして村を維持してきた歴史があるんだよ。
私が村長になってからはそうした事を取りやめさせたんだ、私自身シンディーに囚われた身でもあったし、あまりにもむごいと思ったからね。
そうしたらまぁ、見事に皆出て行ってしまってね~。マルセル村存亡の危機だったんだよ。
私がザルバやケイトちゃんを引き取ったのも、そんな心の焦りがあった事は否定できないかな。
それが今では多くの村人が明るい未来に向かって頑張る村になった。これもすべてケビン君のお陰だよ、本当にありがとう。
それに新しい命が四人も誕生する。更に二組の夫婦が結ばれた。
マルセル村は賑やかになるよ」
そう言い笑顔になるドレイク村長代理につられ、俺も笑顔になる。
ビッグワーム干し肉やビッグワーム農法の野菜たち、角無しホーンラビットやキャタピラー繊維による繊維産業。大好きなマルセル村が今後も続いて行く希望が持てた、それだけで十分だろう。
荷馬車は街道を進む、カタコト音を立てて。
荷台から見上げる青空には、天高く薄雲が浮かんでいる。
これから向かうは領都グルセリア。そこで行われる授けの儀でどんな職業を授かるのかは分からない、だが必ず帰ろう、我が故郷マルセル村へ。
そして畑を耕し、のんびり暮らすのだ。
この世界にスローライフなどと言うものは存在しない、お気楽極楽な田舎暮らしなどファンタジーの世界の出来事だ。だがその事を踏まえて準備すれば、肉も野菜も甘味までも手に入れた、やって来るゴミは資源を剥がして分別処理だ。
かなり殺伐とした田舎暮らしではあるけれど、都会のそれに比べたら百倍マシなほのぼの生活。
少年ケビンは改めてマルセル村に骨を埋める決心をするのであった。
貴族怖い、金持ち怖い、冒険者怖い、魔物怖い。王都、駄目、絶対!!
本日一話目です。