転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第135話 村人転生者、モルガン商会を訪れる

「メルビン司祭様、この度は領都グルセリアにようこそおいで下さいました。領都御滞在中のお世話は当モルガン商会が責任を持って行わせて頂きます、どうぞごゆるりとお過ごしください」

 

「これはこれは、モルガン商会商会長様自らのご挨拶、このメルビン痛み入ります。

明日は御領主グロリア辺境伯様とのご面会があるとか、私がどれ程のお力添えを出来るのかは分かりませんが、どうぞよろしくお願い致します」

 

モルガン商会店舗門前に自ら足を向け、ミルガルの街の教会から訪れたメルビン司祭様を歓迎するモルガン商会商会長。そんな商会長に柔和な笑みを向け、柔らかい態度で接するメルビン司祭様。

短い期間だが共に旅をして来た俺には分かる、あれは“よっしゃ~、今夜は遊ぶぞ~!!”とテンションが上がっている顔だ。隣に立つ行商人ギース氏の顔が若干引き攣っているのが何よりの証拠だろう。

 

あ、ギースさんがこっちを見た。えっと、酔い止め薬が欲しいんですね、了解です。

俺は鞄をポンポンと叩き、“在庫は御座います”と言うサインを送る。

しかしギースさんもドレイク村長代理も大変だな~。今日は領都に無事辿り着いた目出度い日、当然始まる司祭様へのご接待。そしてそれに付き合うのは村の代表と商会の代表、飲みにケーションは社会人の基本ですものね、分かります。

 

「さぁどうぞこちらへ。来賓室へご案内させて頂きます」

 

商会長自ら司祭様をご案内する事で、モルガン商会がメルビン司祭様、ひいては教会そのものを尊重し敬っていますよと言うアピールに繋がる。この国に根差す教会勢力の発言力は、決して侮っていい様な代物ではない。

こうした細かい点でのアピールが、互いに良好な関係を築く為に必要なプロセスなのだ。

 

「メルビン司祭様、ミルガルの教会よりようこそおいで下さいました。そしてドレイク村長代理をはじめとしたマルセル村の皆さん、この度はケビン君、ケイトちゃん、お二人の授けの儀、誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」

 

来賓室に到着して直ぐ、俺たちに対して礼儀ただしく挨拶をするモルガン商会商会長。

 

「これはこれは、ご丁寧なご挨拶、ありがとうございます。商会長自ら正面入口まで足を運んで下さった事は、辺境の地マルセル村の村長代理として感謝の言葉しかありません。それと此度のグロリア辺境伯様とのご面会に関しても大変お骨折り頂いたとか、誠にありがとうございます」

そんな商会長に、礼をしてから挨拶を返すドレイク村長代理。

ここまでの一連の流れがとってもスマート、これが領都の大商会、何と言うか洗練されてると言うか。こうしてグロリア辺境伯領における商人のトップの姿を見せられると、自身がどれほど未熟者なのかがハッキリ分かる。

ミルガルの街でバストール商会商会長をへこませた?イヤイヤイヤ、あんなの雛鳥の囀りですって、モルガン商会の商会長様が見たら鼻で笑っちゃいますっての。

地方商会の(ゆう)ですらこれ程となると王都の商会なんて言ったら化け物しかいないじゃないですか~、いやだ~。やっぱり王都って蟲毒じゃね?結構な歴史のあるオーランド王国王都バルセン、商人も貴族も化け物しかいないって言うね。

明日会うのってそんな化け物の巣窟で長年宰相を務めていらした御方なんでしょ?

ドレイク村長代理、俺お腹痛くなっちゃったから明日の御面会休んでいい?駄目ですか、そうですか。(グスン)

 

「それで君たちが今回授けの儀を受けるケビン君とケイトちゃんかな?話はギースからよく聞いているよ。特にケビン君の事はよくよく話に聞いている。何でもマルセル村を今日の様に豊かな村にした原動力、ビッグワーム農法を作り出したのはケビン君らしいじゃないか。

私はね、一度ケビン君の話しをゆっくり聞いてみたかったんだよ」

 

うわ~、この御方物凄く柔和な笑みを浮かべてるのに目の奥の光が猛禽類のソレじゃん、草原で獲物を見つけた時のビッグクローじゃん。ここで下手を打ったら一気にパクりジャン。面倒事は嫌いなんだよな~。

 

「は、はい。あの、おれ、いえ、僕は、その。美味しいお肉をお腹いっぱい食べたくて・・・その、皆がお腹一杯になったらいいなって。あの、モルガン商会のギースさんはこの遠い領都から多くの品物を売りに来てくれて、本当にありがとうございます。

僕、その、村の外がこんなに危ないだなんて全然知らなくって。その、ギースさんやソルトさん、ベティーさんがいつも命懸けでいろんなものを運んでくれて。

村の野菜や干し肉をいっぱい買ってくれて。お父さんやお母さんが良く笑う様になって。

会長さま、本当にありがとうございます」

 

俺がモルガン商会商会長様に拙い挨拶をし頭を下げると、商会長様は優しく頭を撫でてくださいました。そんな商会長様に照れくさそうに微笑む俺氏。

だからそこ、そんなハトが豆鉄砲を喰らった様な顔をしてこっちを見ない。

ギースさん、宇宙猫って知ってます?今のギースさんの顔がまさにそれですから。

 

「ケビン君、君の感謝の気持ちはよく伝わりました。我々商いをする者にとってお客様に心から喜ばれると言う事は何ものにも代えがたい幸福なのですよ。こちらからもありがとう。

ケビン君、ケイトちゃん、明後日は授けの儀ですね。今日明日とゆっくり休んで明後日の授けの儀に備えてください。君たちならきっと素晴らしい職業を授かると思いますよ」

 

「「はい、ありがとうございます。モルガン商会長様」」

 

「はい、いいお返事です。メルビン司祭様、ドレイク村長代理、お疲れのところ申し訳ございませんが明日のグロリア辺境伯様とのご面会の打ち合わせを行いたいので、今しばらく当商会にお残りになってはいただけませんでしょうか?

ザルバさんとケビン君、ケイトちゃんは今日泊まる宿、“小鳥の巣箱亭”に店の者が案内するからそちらに向かって貰えるかな?

ギース、御三方をご案内して。誰か手すきの者に宿までの案内を頼む様に」

 

「畏まりました、商会長。ではザルバさん、ケビン君、ケイトちゃん、案内の者を付けるからついて来てくれるかい?」

ギースさんに退室を促された俺たちは、扉の前でモルガン商会長に頭を下げると、“俺を置いて行かないで~”と言う顔のドレイク村長代理を残しその場を後にするのでした。

 

「ブフォ、ケビン君さっきの何?君、いつもそんな話し方しなかったよね?もっと堂々としてたよね?完全に村の子供が緊張してますって感じだったんだけど、目茶苦茶純朴だったんだけど、ケビン君は私の腹筋を殺しに来てるのかな?」

 

来賓室を出て暫し、モルガン商会の廊下で急にそんな事を聞いて来る駄目な大人ギースさん。

「あのねギースさん、そう言う事は少なくともこの建物を出てから聞いてくれない?声が漏れて商会長様に聞こえたらどうするの?俺の印象最悪になっちゃうって何故思えないかな?」

 

「おっとすまない。それなりに理由があって話し方を変えるのは商人の基本だったな、これは俺が悪かった。ドレイク辺りならその辺心得てるからこんなへまはしないが、俺も領都の本店に帰って来て気が緩んだらしい。本当にすまなかった。

だから小声で“酔い止め薬売るの止めようかな~”って呟くの止めてくれない?

それ本当に死活問題なの、メルビン司祭様って底なしなの」

 

そう言い捨てられた仔犬の様な目でこっちを見るギースさん。飲みにケーションって本気で大変なんだろうな~、俺商人にだけはならない様にしよう。命大事に、肝臓大事に。

「はぁ~、それでメルビン司祭様についての重要な情報があるんですが聞きます?

大声を出されると困るんですけど」

 

「おう、本当にすまなかった。声は抑えるから教えてくれないかな?」

 

「本当に頼みますよ、それでメルビン司祭様なんですが、実はお酒の神様の加護を授かってます。これは本人も認めた上に公言なさってますから、ミルガルの街ではそれなりに知られているのかもしれません。俺は出立前にシスター様から教えて頂いたんですけどね。ですんでまともに付き合ってたらギースさんの身体が持ちません、何人か交代要員を手配して顔繋ぎをしておいた方がいいですよ?

俺が渡す酔い止め薬はあくまで酔い止めであって寝不足による疲れには効きませんし、スタミナポーションを飲んでも集中力は回復しませんから。

やたらにポーションでどうにかしようとして身体を壊してもしょうがないですしね、素直に負けを認め交代してもらう方が得策かと。それとこれ酔い止めです、五本もあれば足りますか?」

俺はそう言いカバンから酔い止め薬を五本取り出し(腕輪収納からサッと移しました)、ギースさんに手渡しました。

 

「そうだったのか~、それじゃどうにもならないよな~。でもそうか、本人が公言してるのならそれを店側に伝えればより司祭様を歓待してくれる、ミルガルの街で有名ならこちらが手配したとしてもご気分を害される事はない、これは良い事を聞いたぞ。ケビン君どうもありがとう。

これ、酔い止め薬の代金と少ないけど情報料。俺もそれほど革袋が大きくなくてすまないんだけど」

 

ギースさんはそう言うと懐から革袋を取り出し大銀貨五枚を渡してくださいました。

ギースさん太っ腹、毎度ありがとうございます。

 

「それで俺が田舎者の純朴少年をやっていた訳でしたよね、そんなものモルガン商会長様がおっかないからに決まってるじゃないですか、何ですかあの猛禽類。

勇者物語に出て来るグリフォンに睨まれたのかと思いましたよ、柔和な笑顔なのに瞳の奥が光りまくってたじゃないですか、大商会の商会長ってあんな御方ばっかりなんですか?だったら王都の商会なんてどうなっちゃうんですか、絶対に行きたくないですよそんな所、髪の毛一本に至るまで契約でむしり取られちゃいますっての」

身震いをさせながら怖い怖いと身体を摩る俺氏。

そんな俺を口をポカンとさせて見詰めるギース氏。

 

「えっとどうなさいました?早く宿屋に案内して下さい?“小鳥の巣箱亭”でしたっけ、楽しみだな~」

 

「なぁケビン君、授けの儀が終わったらウチに奉公に入らないかい?君なら絶対いい商人になれると思うんだが」

 

「何言ってるんですか、さっきの話聞いてました?絶対に嫌ですからね。俺はマルセル村のケビン君ですから、村で美味しいお野菜を作るんです、販売はギースさん達が頑張ってください!」

 

“勿体無いな~、絶対大商人になれると思うんだけどな~”などとふざけた事を抜かすギース氏は無視です、無視。

俺はさっさと思考を切り替え、“小鳥の巣箱亭”で出される食事に思いを馳せるのでした。




本日一話目です。
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