転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第136話 村人転生者、領都グルセリアにのぞむ

“ガタガタガタガタ”

馬車は走る、領都の石畳の街道を今夜宿泊する宿“小鳥の巣箱亭”に向けて。

よく整備された街道は馬車の振動も少なく、領都に至るまでの疲れからうつらうつらとした眠気を誘う。・・・って寝てる場合じゃないですっての、馬車ですよ馬車。

荷馬車や幌馬車じゃないですよ?在りし日の絵本に出て来たアレですよ。

いや、見た事はありますよ?ここまでの道すがら沢山拝見させて頂きましたともさ。護衛付きのお貴族様の馬車からオークの森にひっくり返った馬車迄。あれ勿体無かったな~、一人旅だったら絶対パクッてたよな~。

でもお貴族様絡みだろ?後が怖いから放置一択?皆さん考える事は一緒だからか車内は荒らされているのに馬車はそのままと、うん、納得。

リスクに対してリターンが見合わない、焚き付けにするくらいしか使い道が無いですね、残念。

 

って言うか馬車ですよ馬車、人生初馬車!なんか凄い感動、こう言うのが都会って奴なんですかね~。これって辻馬車って奴らしいです、要はタクシーですね。

なんかこう旅行をした時に現地の独特の乗り物に乗るとテンション上がりません?トロッコ電車とかトゥクトゥクとか人力車とか。辺境の村だとこうした箱馬車なんて需要が無いですからね、軽トラ一択って感じですからね。

マルセル村の移動手段、荷馬車、当然の帰結ですね。あれだって馬の世話とか本体の整備とか大変なんだからな!村の財産、個人で維持するような代物ではございません。そうした意味で行商人様方って大変、利益を出さないと荷馬車も維持できない。

やっぱり俺って商人向かないわ、胃に穴が開きそう。

ケビン少年の思考は行ったり来たり。領都の景色を移動する辻馬車の窓から眺め興奮する姿に、商会の案内人からは微笑ましい表情で見られるも、頭の中では“やっぱり俺は村人だな、都会は向かないわ”などと考えるケビン少年なのでありました。

 

「こちらが本日皆様がご宿泊になられる宿、“小鳥の巣箱亭”でございます。」

モルガン商会の案内人に従い宿の中に入る。玄関扉の前に立つドアマン、開け放たれた扉の向こうに広がるエントランスホール。・・・ホテルじゃん。

えっ、ごめん、何この世界観ぶち壊しの状況。えっと今までずっと宿屋だったよね?

エルセルでもミルガルでも“宿屋“だったよね?

何でホテルがあるのよ、どう見ても海外のセレブ御用達のホテルじゃん!

「えっとこちらは一体?」

 

「はい、こちらは領都でも五本の指に入ります老舗の宿、“小鳥の巣箱亭”になります。なんでも東の国より来られた賢者様に教えを乞うて建築された建物とか。玄関前のこの広い空間は今までにない斬新な発想と言う事で多くのお客様の心を掴んだと言われています。お泊りになったお貴族様などは“王都の王宮の別館に来たのかと思った”と言って絶賛なされたとか。我が商会でも特別大切なお客様にはこの“小鳥の巣箱亭”にお泊り頂いている次第です。」

 

「いらっしゃいませ、ようこそおいで下さいました、マルセル村御一行様ですね。お部屋までご案内させて頂きます。」

 

そう言い丁寧なお辞儀をする“ホテルマン”。そう、きちんとした制服を着て帽子を被った“ホテルマン”が俺たちを部屋まで案内してくれるのでした。

・・・これ絶対転生者が絡んでるよね?賢者様って絶対転生者だよね?剣の勇者と言い東方から来た賢者と言い何をやってるかな、自由だなおい。

 

「それではこちらがお部屋になります、何かありましたら一階受付かこの服装の従業員にお声掛けください。」

 

「あぁ、どうもありがとう。それと何か身体を拭く物を頼めるかな?あと軽食を頼む。旅の疲れが出た様なのでね、軽く摘まんだら少し休む事にしたいんだ」

 

「畏まりました。それとお夕食はいかがなさいますか?一階に食事処がございますが、お部屋でお取りになられますか?」

 

「そうだな、娘は余り人前が得意ではなくてね、部屋に持って来て貰おうか」

 

「畏まりました。お食事を持ち致しましたらお知らせさせて頂きます」

 

ザルバさんとホテルマンの流れるような会話、その間にさり気なくチップを渡すザルバさん。流石元部下持ちの騎士様、こなれていらっしゃる。

ホテルマンは軽く礼をし部屋を出て行きました。

ブラッキーはどうしたのか?流石に領都のお宿には泊められませんからね、モルガン商会の厩でマルセル村のお馬さんとご一緒です。商会の方には驚かれましたが、“物凄く大人しいウルフですね”とお褒めの言葉を頂きました。

ブラッキーの食事は馬番さんが出してくれるとの事、モルガン商会ならマルセル村の従魔を粗略に扱う事もないでしょう。

 

ケイト、眠いのは分かるけどもう少し我慢しようか、今身体を拭く物が届くからね。

ケイトさん、馬車に揺られうっつらうっつら、既に限界の様です。

その後盥と手拭いが届き(流石にタオルはない模様、何故かホッとする俺氏)、身体をざっと拭き顔を洗ってスッキリ爽やか。ケイトはそのままご就寝なされました。

「ザルバさんはこの後どうしますか?」

 

「うん、私も結構疲れが出ている様でね、ケイトも寝てしまったし横にならせてもらうよ。それよりケビン君こそどこか出かけるのかい?」

 

「あ、俺ですか?さっき馬車の中で商会の方に剣の鞘や拵えを作ってくれる武器工房についてお伺いしましてね、ちょっとそこまでお話しを聞きに。領都滞在中に出来る様なら注文しようかと思いまして」

 

「ん?ケビン君は刀剣類なんか持っていたのかな?普段使っている所は見た事が無いんだが」

 

「あぁ、あれですよ?夜の清掃活動で手に入れた奴じゃないですからね?ちゃんと買った奴ですよ?

前に飛び込みの行商人が来た事があったじゃないですか、その時ガラクタばっかりだったのを俺がまとめ買いした奴、あの時の剣ですね。あの中に中々な掘り出し物があったんですよ、他は(ほとん)どガラクタでしたけどね。後でギースさんに聞いたら領都にはガラクタ市って奴があるらしいですね、今はその時期じゃないからやってないらしいんですけど、一度行ってみたいな~。

それじゃ行って来ます」

俺はザルバさんに後を任せると、意気揚々と領都の街に出掛けて行くのでした。

 

――――――――

 

「ごめん下さい」

そこは多くの工房が軒を連ね、あちこちからハンマーの音や(のこぎり)で木材を切る音、木槌でノミを打つ音などが聞こえる職人街。

そんな中に紛れる様に佇む武器装具工房ヘンドリック武具店。俺はモルガン商会の案内人さんがオススメしてくれたこのお店に、剣の鞘の作製をお願いしに訪れていた。

 

「すみませ~ん、何方(どなた)かおられませんか~」

 

「はいよ~。なんだい坊主、ウチは武器装具工房だぞ?剣や槍がほしかったら表通りの武器屋に行ってくんな。それか鍛冶屋だな、ウチは剣を打つんじゃなくてその剣に必要な装備を作る工房なんだよ」

 

奥から出て来たのは、前掛けエプロンをしたいかにも職人といった雰囲気を纏った親父さん。

 

「いえ、俺は剣の鞘をお願い出来ないかと思いまして。明後日の授けの儀を受ける為に領都に来たんですが、滞在中に出来上がる様であればお願い出来ないかと。

製作に時間が掛かる様なら無理なんですが」

 

「ん?剣の鞘なら一日も掛からず出来上がるぞ?これでも武具作製スキル持ちだからな。これから授けの儀を受けるんなら知らないかもしれないが、道具職人って職業があってな、スキルを使って短時間で仕事を行う事が出来るんだよ。

あれだ、調薬師の道具版みたいなもんだな。

それで坊主、モノはどんなもんなんだい」

 

「あぁ、これなんですが」

俺はカバンから取り出すと見せ掛けて腕輪収納から黒鞘の魔剣“黒鴉”を取り出しました。

 

「ほう、黒鞘の直刀ね。って言うかそのカバンマジックバッグかよ、羨ましいなおい。その見た目なら余計なちょっかいも掛けられないだろうし、良い物を持ってるな。大事にしろよ」

 

オヤジさんはそう言うと黒鴉の柄を掴み、「あ、ちょっと待って下さい。

黒鴉、いいか、これからこちらの職人さんがお前を掴むけど大人しくしてるんだぞ?こちらの職人さんはお前に新しい鞘を作ってくださるんだからな。

鞘と言えば住まいも同じ、言うなれば新居、お前にしてみれば別荘と言ってもいいかも知れない。

しかもだ、今度の鞘には封印を刻みません。完全にただの鞘!

更に更にその素材を見ていただきたい!」

 

俺はカバンから材料になる材木を取り出し、机に並べます。

「あ、オヤジさん、鞘の材料って持ち込みアリですか?」

 

「あ、あぁ、ちゃんと乾燥していて使える物ならなってなんだこれ!?

おい坊主、この材木をどこで手に入れた!!」

 

「あ、これですか?両方共大森林産ですね。うちの父親これでも元金級冒険者ですんで、このカバンもお父さんから頂いたんですよ。来歴は知らないんですけどね」

 

「本当かよ、まさか大森林の素材を扱えるとはな。あの場所は金級冒険者でも厳しいって話だが、坊主のオヤジさんはなの有る冒険者だったんだろうな」

 

「う~んどうだろう。でも二つ名って言う奴はあったらしいです。“笑うオーガ”って言うんですけど、オヤジさん知ってます?」

 

「ブホッ、マジか!笑うオーガって言ったら十五年程前に活躍していたバーサーカーじゃないか。

ピタッと聞かなくなってたからてっきり亡くなったと思っていたんだが、そうか、引退して家庭を持ってたのか。

でもあのオーガの息子が授けの儀ね~、俺も歳を取る訳だ。

まぁそう言う事なら納得だ、坊主のオヤジさんは本当に強かったからな。いいオヤジさんを持ったな」

 

「はい、お父さんは最強です。でもお母さんはそんなお父さんを尻に敷いているんですよね。どっちが強いと思います?」

 

「いいか坊主、家庭を持つとな、嫁さんと娘には逆らえなくなるんだ。これはこの世の真理だ、よく覚えておけよ?」

 

「そ、そうなんだ。覚えておくよ」

何故か黄昏るオヤジさんの横顔に、頑張れとエールをおくるケビン少年なのでありました。

 

「って違うよオヤジさん、“黒鴉”の鞘だよ鞘。えっと“黒鴉”ってのはこの刀の名前ね。ちゃんと名前で呼んであげないと機嫌が悪くなるから気を付けてね。

あ、俺勇者病<仮性>です、もしかしてって顔をしなくてもいいですから、自覚してますんで。

それで刀は預けておかないとダメですかね?」

 

「あ、いや、一回手に取って状態を見させて貰えれば大丈夫だ。

これも職業スキルって奴でな、形状と状態を完全に記憶出来るのさ。ただそれ程長い間記憶できる訳じゃないから記録しておくんだがな。こうして記録しておけばどんな状態のどんな剣かって事が直ぐに分かるのさ。

それじゃ見させて貰うぞ?」

 

“黒鴉”、頼むぞ!新しい鞘の為だからな!

 

掴まれた黒鞘の直刀、それはオヤジさんの手によりゆっくりと引き抜かれる。鈍色(にびいろ)の刀身は刃先に美しい波紋が広がり、よく研ぎ澄まされた刃先は光を反射し妖しい輝きを放っている。

 

よし、“黒鴉”さんよく耐えた、後でたっぷり魔力をあげるからそのまま我慢していてね。

 

「うん、素晴らしい刀だ、よく手入れされていて渋さと言うか味があると言うか。見ているだけでも人を惹き付けて止まない妖しい輝きがあるな。

坊主、良いものを見させて貰った、感謝する」

 

オヤジさんは“黒鴉”をゆっくり黒鞘に納めると、フウッとため息を一つ吐いて俺に手渡してくれた。

 

「この刀は本当に良い品だ。坊主はオヤジさんに愛されているんだな、大事にしろよ。鞘は明日の昼過ぎには出来上がる、それで鞘の塗装だが何か色の指定はあるのか?」

 

「そうですね、あまり派手で無い物で渋めの物がいいかな?何か色見本の様なものはありますか?」

俺がそう言うとオヤジさんは“ちょっと待っていろ”と言って幾つか色の塗られた木板を持って来てくれました。“今はこれ位だな”と言って見せてくれた数種類の色見本、これ何か良さ気じゃない?

俺が選んだのは深緑色をした板と濃紺色の板。

 

「ふむ、この深緑色の方はこっちのやや白みがかった素材に似合うかもな。濃紺はこっちの黒みがかった素材だな。」

材質の目利きはプロのお仕事、その辺はオヤジさんにお任せです。

 

「それでこの鞘が出来たらベルトで背中に背負える様にしたいんですけど出来ますか?

腰位置だと走り回ったりする時邪魔で。後追加でこの剣鉈用の腰ベルトも作って貰えませんかね?こっちは普段使いですかね、山仕事の時は腰にぶら下げてた方が何かと便利なんで」

そう言いカバンから取り出した剣鉈を抜いて見せると、またまた感嘆のため息を吐くオヤジさん。

 

「坊主、お前のオヤジさんは凄いな、流石“笑うオーガ”。お前さんも実はものすごく強かったりするのか?この得物はどちらも一流の冒険者が持っていてもおかしくない品だ、手入れを怠らず大事に使ってやってくれ。それと剣鉈の方の鞘はいいのか?素材が多いから両方とも作れるぞ?」

 

「そうですか?だったらやっちゃってください。鞘とベルトの製作費でお幾らになります?」

 

「そうだな、鞘は素材持ち込みだからそれほど掛からんがベルトはピンキリだからな。何か要望とかあるのか?」

 

「そうですね、直刀の方は動き回るのを前提で丈夫で邪魔にならないもので。剣鉈の方はそこまで気を使わなくてもいいんですがやはり丈夫な方がいいですね」

 

「ふむ、そうか。丈夫さで言えばオーガの革なんかは丈夫だな、あとはちと値が張るがミノタウロスの革などは動きの邪魔もせず丈夫で使い易いぞ。ただモノがモノだけに金貨の値段になっちまうがな。全てをミノタウロスの革で仕上げた場合金貨五枚、剣鉈の腰ベルトをオーガの革にした場合は金貨三枚と大銀貨六枚って所かな?無論鞘の工賃込みの値段だがな」

 

「オーガの革ってそんなに人気が無いんですか?」

 

「まぁ丈夫でいい革なんだが、いかんせん硬さがな。革鎧向きの革なんだよ。その点ミノタウロスの革は丈夫で柔らかさもある、貴族や上位冒険者なんかも良く使う素材だな。」

 

「き、貴族に上位冒険者、それはまずいですね。それじゃ剣鉈の方はオーガの革で、直刀の方はミノタウロスの革でお願いします。それとお支払いは金貨四枚出しますんで工夫して動き易い装備に仕上げて頂けますか?山仕事は動きが阻害されると危ないんですよ」

 

「おっ、いいのか坊主?それならオーガの革は良く部位を吟味して、なるべく動き易い物になるよう頑張ってみようか。仕上がりは明日の昼過ぎになる。日が落ちるまでに取りに来てくれれば引き渡せるぞ」

 

「はい、よろしくお願いします。それとこれ、前金の金貨二枚です」

俺がそう言ってお金を渡すとオヤジさんは“ちょっと待ってくれ”と言って何やら棚から木札の様なものを取り出しました。

 

「これは受取証になる木札だ。今日の明日だからなくとも問題はないが、念のために持って行ってくれ。この木札があれば代理の者でも取りに来れるからな」

 

「はい、分かりました。ありがとうございます」

やっぱり領都、村の暮らしじゃこうは行かないわ~。

俺は鞘とベルトの注文を済ませると、ルンルン気分で本日の宿“小鳥の巣箱亭”へと戻って行くのでした。




本日二話目です。
夏アニメが気になります。
特に第七王子がですね。
いってらっしゃい。
by@aozora
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