転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第139話 村人転生者、領主様との会談に出席する (2)

“カチャ”

和やかに進む会談、ドレイク村長代理からの説明に所々質問を挟みながら、真剣に話を聞くグロリア辺境伯様。その立地的条件の為か広大な領地の割に少ない人口、その全てを支える為の食糧確保は、グロリア辺境伯家にとっても長年抱え続けて来た課題であった様であった。

 

テーブルの上にはメイド様が差し出して下さったティーカップが置かれ、温かな湯気を立てながら甘い香りを鼻腔に運んでくれる。

普段であれば直ぐにでも口を付けその豊かな味わいを舌と鼻で確かめる所だが、ここは戦場、少しの油断が命取りになる決戦の地。

目の前の美味しそうな飲み物ですら罠と言うことか!?グヌヌヌ、やるではないかグロリア辺境伯家!

俺は一人“えっと、僕どうしたら良いの?とっても不安です”と言った態度で小物な村の子供を表現し続けます。

 

「はい、私共マルセル村では現在このビッグワーム農法に続く新たな産業の構築に取り組んでおります。それはホーンラビットを村人の手で飼育する“ホーンラビット牧場”と、キャタピラー繊維による繊維製品の作製です。

それではこの二つの事業についてご説明させて頂きますので、先程お配りした資料をご覧になりながらお聞きください」

 

ドレイク村長代理、既に緊張から解放されたのか絶好調で御座います。ビッグワーム農法とビッグワーム干し肉、ホーンラビット牧場、キャタピラー繊維製品の開発については内容が内容だけに口で説明しても理解が及ばない所がありますからね。

ドレイク村長代理とザルバさん、ジェラルドさんのお三方、この日の為に必死に資料を作成しておられました。なんと言ってもワープロもコピー機もないこの世界、只管手書き。俺だったら完成するまでにどれだけ紙をダメにする事か。

尚書籍に関しては活版印刷がございました。銅板に彫り込んでインクを付けてって奴ですね。お貴族様が持っている様な高級品になると、書士と言う職業の方が写本したものになるとか。これもスキルによる力で、完全なコピー本が作れるとの事です。調薬師の例のアレです。

“この職業も熟練度合いが上がると色々出来るらしいんだが、私もそこ迄は詳しくなくってね~”と行商人のギースさんが笑って教えて下さいました。

職業って本当に千差万別。どうやら人々に生きる力を授ける為に始まった職業制度も、文明の発展に従ってそれを助ける形にシフトして行ったみたいです。

 

「このホーンラビット牧場と言うものも、やはりケビン少年の“美味しい肉が食べたい”と言う思いから生まれました。

ご存知の様にホーンラビットと言う魔物はその突進による角の攻撃により“森の悪魔”と呼ばれる危険な魔物です。ですがその肉は領内の食卓を支える程の需要のあるもの。

ケビン少年の発想は単純でした。“角が危ないなら切ってしまえばいい”

幸い彼の父ヘンリーは“笑うオーガ”と呼ばれた元金級冒険者、彼の願いは容易く叶えられる事となりました。

そしてこれは彼がこの角無しホーンラビットを飼育観察する事で判明した事なのですが、ホーンラビットは角を取り除く事で比較的大人しい飼育可能生物に変わるのです。どうやらホーンラビットの角はある種の感覚器官になっており、彼らはその角を通して常に周囲の警戒を行っている様なのです。

すみません、事前にモルガン商会の方から提出してありますホーンラビットをお願いします」

 

ドレイク村長代理がお城の執事様の様な方に声を掛けます。執事様が入口付近の領兵様に目配せをすると、台車に載せられた角無しホーンラビットの入った檻(モルガン商会提供)が持ち込まれました。

俺は隣に座るギースさんの裾をクイクイと引っ張り目を向けて悪戯そうに微笑むと、共に檻へと近付きます。

 

“ガチャ”

取り囲む領兵様が警戒し腰の剣に手を掛ける中、俺はギースさんが鍵を開けた檻から角無しホーンラビット(ホーンラビット牧場産)を取り出し抱き抱えてグロリア辺境伯様に見える様な形で頭を撫でるのでした。

 

 

「本当にこんな事があるのだな」

あの(のち)好奇心に駆られたメルビン司祭様がやって来て、角無しホーンラビットをモフモフ。

“これは堪りませんね”と言って顔を蕩けさせておられました。

次いで警戒を行っていた領兵様、メイド様が執事様の目配せによりモフモフチャレンジ。領兵様は仏頂面ながらも口元のニヤケを必死に堪え、メイド様に至っては角無しホーンラビットがコテンッと首を傾げた仕草に陥落。執事様の咳払いにより静止が掛かるまでモフリ続けられると言う事態に。

流石“森の悪魔”、その攻撃力は角無しになろうとも健在の様です。

グロリア辺境伯様は触られたのか?イヤイヤイヤ、そんな危険な事させられる訳無いじゃないですか。物凄く触りたがっておられましたが、執事様により制止させられておられました。当然の措置で御座います。

 

「こうして我が村では比較的安全且つ繁殖力のある家畜を手に入れる事が出来ました。この試みはまだ始まったばかり、未だその事による弊害や成果は未知数でありますが、御配りした資料の様に適切な管理と適切な処理さえ行えれば、このグロリア辺境伯を大きく変える事の出来る食材になる事が期待出来るかと。

ですがこの試みは“森の悪魔”の飼育、誤った管理やいい加減な処理を行えばその地は森の悪魔により滅ぼされる危険性がある事を忘れては行けません。であればこそ、いい加減な情報が広まる前にグロリア辺境伯様によりこの情報を管理して頂きたかったのです。

ではすみませんがお三方様にホーンラビット料理をお願いします。」

 

ドレイク村長代理は再びお城の執事様にお声掛け致します。すると今度はメイド様方が、美味しそうな匂いを漂わせたホーンラビットの丸焼きをお持ち下さいました。

 

「ふむ、これは?」

グロリア辺境伯様が訝し気に言葉を発すると、ドレイク村長代理が説明を始めました。

 

「これは先程のホーンラビット牧場で飼育した角無しホーンラビットを、お城の料理人様に頼み丸焼きにして岩塩で味付けしていただいたものです。

既に毒味を済まされているものですので、どうぞお試し下さい」

 

辺境伯様、司祭様、商会長様の前にはメイド様により平皿に切り分けられ盛られたホーンラビット肉が置かれ、旨そうな匂いを漂わせています。

ゆっくりと向けられるフォーク、スッと刺さるそれにやや目を見開くも、それを大きく開いた口へと運ぶ。

 

“!?”

“カチャカチャカチャカチャ”

静まり帰った来賓室に鳴り響き続けるのは、皿と食器の当たる音。そして彼らの口は言葉を発する事無く、唯々(ただただ)咀嚼音だけが続いて行く。

 

試食が終わるも言葉を発する事無く何も載っていない皿を悲しげに見詰める三人。そんな彼らにドレイク村長代理は言葉を続ける。

 

「今お試しいただいたホーンラビット肉は特別な料理でも何でもありません。素材の味を知っていただきたく敢えて岩塩だけの味付けでお出しさせていただきました。

その飼育に関しても特別な餌を与えたものでもありません。行った事は只角を切り取っただけ、そしてそれを村の中で飼育しただけ。

ホーンラビットを生け捕りにして角を切り取る事さえ出来れば誰でも行うことが出来る新たなる産業、グロリア辺境伯領の冬場の食糧不足を劇的に改善する可能性のある救世主。それがこのホーンラビットなのです。

 

ですがこれは諸刃の剣、まかり間違えればグロリア辺境伯領を“森の悪魔”蔓延る無人の荒野に変えかねない。

であればこそ、グロリア辺境伯領として正しい情報の共有と、牧場経営者の管理を行っていただきたいのです。

具体的にはホーンラビット牧場経営に関しては許可制とし、個人でのホーンラビット飼育に関しても村長や街長と言った各行政機関に申請を出すと言ったものでしょうか」

 

ドレイク村長代理の言葉に呆けた顔から真剣な表情に変わるお三方。これでドレイク村長代理の目的である“グロリア辺境伯領から飢えをなくす”と言う目的は大きく前進した事となる。

彼らは知ってしまった、そのやり方も、そのメリットも。最早これは逃れる事の出来ぬ誘惑、後はこの方法をどう正確に広めるか。

必要と為るのは教養と道徳、さぁグロリア辺境伯様、今度は貴方様が試される番ですよ?

貴方様がこれ迄どれ程ちゃんと人を育てられて来たのか。無視するのも結構、握り潰すのも一つのやり方です。ですが貴方様はそのお肉の味を諦めきれますか?

そしてそんなグロリア辺境伯様を楽しげにご覧に為られているメルビン司祭様、今度は貴方様の番ですからね?

ドレイク村長代理は悩めるお三方様に更なる爆弾を落とす為(面倒事の押し付けとも言う)、仕込み作業を開始するのでした。

 

 

「先程私はビッグワーム農法に続く事業として二つの試みと言いました。一つはこのホーンラビット牧場と言う試み、もう一つはキャタピラー繊維製品の開発と言う試みです」

 

ドレイク村長代理はここで言葉を一度切るとこの場で強い力を持つお三方様、グロリア辺境伯さま、メルビン司祭様、モルガン商会商会長様の顔をゆっくりと見回しました。

 

「このキャタピラー繊維製品の開発と言う試みは全くの偶然から始まりました。

これは私とこちらのケビン少年が周辺四箇村にビッグワーム農法を広める為、近隣の村であるヨーク村に訪れた時の事でした。

キャタピラーと言う魔物はスライム、ビッグワームと共に最底辺魔物と呼ばれる子供でも狩る事の出来る魔物です。ですが生存地域ははじめの二種族に比べると限定的であり、我がマルセル村周辺地域では見る事の出来ない魔物でした。

ですがそれはマルセル村に限った話であり、ヨーク村周辺では季節関係なく見る事の出来る魔物であった。そしてこの魔物はビッグクローやグラスウルフ、ゴブリンやオークなど多くの魔物の生存を助ける食糧としての一面も見られます。

つまり毒もなく食べることが出来るのではないか?

発想はこれ迄と何も変わりません。生き残る為、食糧を確保する為。

この国の繊維産業を支えるキャタピラーの繁殖力は、どれだけ狩りとろうとも絶滅する事はないと言われる程のもの。そのキャタピラーが食糧として有用であれば冬場の食糧不足にどれ程の助けとなるのか。

 

私達は早速ヨーク村のキャタピラーを貰い受け、マルセル村周辺で繁殖させる事が出来ないか試みました。結果は上々、現在マルセル村周辺一帯の草原では順調にキャタピラーが繁殖し始めています。

マルセル村のキャタピラー繊維産業はその副産物なのです。

これはいずれ何処からか漏れ聞こえてしまうだろう事ですのでお話しいたしますが、このキャタピラー、とあるモノに対し攻撃行動を取る性質があります。私達はこの性質を利用し、大切なキャタピラーを殺す事無く貴重な攻撃糸繊維を手にする事に成功致しました」

 

“ゴクリッ”

それは誰が鳴らした音であったのか、モルガン商会商会長様か、グロリア辺境伯様か、はたまたその両方か。何れにしろこれからドレイク村長代理の話す内容は、金の卵を産むガチョウをタダで引き渡す行為に他ならなかったからだ。

 

「ゴブリンの腰巻きです。これは村の畑を襲う魔獣や獣を遠ざける試みで、モルガン商会の行商人ギース氏に頼み仕入れていたものでした。これにキャタピラーが反応した。

一体のキャタピラーが吐き出す攻撃糸繊維の量はそこまで多いものではありません。しかしその量はキャタピラーを殺して手に入れる糸袋を加工して取り出す繊維の量と差程変わらないとか。であるならば、何れまた糸を吐き出す生きた状態のキャタピラーの方が繊維製品を作る為には有用なのではないのか。

こうして生まれたのがマルセル村産の攻撃糸繊維製品、お城の女性方がお使いになっておられますスカーフなのです」

 

グロリア辺境伯様が“お城の女性方がお使いになっておられますスカーフ”と言う言葉に反応し、眉をピクリと動かします。

あ、これは相当色々言われてますね。今の今まで忘れてましたね?後ろに控えるメイド様からの圧力が凄い事になっておられますよ?

 

「あ、うん、その節は世話になっている。美容クリームだったか?それも含めてあのスカーフには感謝している。

その事についても話を聞きたいのだが」

 

グロリア辺境伯様の言葉に、慇懃に頭を下げるドレイク村長代理。

 

「勿体無いお言葉、マルセル村を代表致しまして感謝申し上げます。

その話を申し上げる前にこちらに控えますケビン少年についてお話しさせていただきます。彼はこのような晴れの場で緊張しておりますが、マルセル村においては大変元気な子供らしい子供なのです。

そして彼は村人達からはこう呼ばれているのです。」

 

ドレイク村長代理は一拍置き、ゆっくりと口を開きました。

 

「“勇者病<仮性>重症患者、ケビン少年”と」




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