転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第140話 村人転生者、領主様との会談に出席する (3)

はっ?

イヤイヤイヤ、はっ?

えっと、ここってグロリア辺境伯様の居城だよね?グロリア辺境伯領で最も権威のある場所だよね?

そんでもって目の前にいる方々は政治、経済、宗教の名実共にトップのお方々だよね?

・・・そんなお方々が揃うとんでもなく権威のある場所で、何をブッ込んでるのかな?

ほら、皆様キョトンとしたお顔になられちゃってるじゃないですか。いや、確かに全てお任せしますとは言ったけど、想像の斜め上を天元突破なんですけど?

ストレスでどうにかしちゃったのかな?ケビン君大混乱よ?

 

「先程のグロリア辺境伯様からお話がございましたスカーフは、そんな彼が村の少女の為を思って作り上げたある品が元となっております」

 

そう言いドレイク村長代理がポケットから取り出したもの、それは何時ぞや行商人ギース氏にサンプルとしてお渡しした、光属性魔力マシマシウォーターを素材に混ぜて作った劣化版光属性布。

 

「その少女は他所の村からマルセル村に移り住んだ、所謂“よそ者”と呼ばれる者でした。

辺境の村に移り住む訳アリ、所謂“よそ者”への風当たりは非常に悪い。彼女の家族はその村で劣悪な環境に晒されていたそうです。

そんな彼女はこの辺境の地に移り住む前に喉を酷く痛め言葉を失ってしまっていました。その症状はポーションでも治らなかったそうです。

そんな彼女に諦める事無く手を差し伸べたのがこのケビン少年でした。ご存知の様に勇者病仮性患者の特徴は無駄に自信家である事、そして発想が明後日の方向に行ってしまう事。普通の者なら“ポーションでもどうにもならないのであれば仕方がない”と諦めてしまう。だが彼は違った、“だったら女神様におすがりしよう”、そう考えたそうです。

幸い彼は自分の仮性心の赴くままに、村に住む元魔道具職人の老人の元に通い魔道具について学んでいた。

あ、無論ケビン少年に魔道具作成に関わるスキルの発現はありませんでしたよ?一通り試したようですが」

 

そう言いこっちに慈愛の眼差しを送るドレイク村長代理、それにともないこの部屋にいる方々が皆して生温かい視線を送る。

ふん、良いもん良いもん、どうせ僕ちん勇者病<仮性>だもん。良いじゃんね、楽しいんだから。皆も無理しないでロマンに生きようよ、我が父ヘンリーなんか、ニヒルな顔で道具の手入れをしながら酒が飲めるんだからね。こないだなんか、ご近所の転生勇者様と拳を付き合わせながらニヤリって笑い合ってたんだからね。

 

「そんな彼の発想はこうでした。

魔道具の作成を行う者であれば誰でも知っているのですが、魔道具作成には専用のインクを使用します。その最も基本的な作り方は魔力水とスライム液とインクを混ぜる事、そしてその魔道具作製用インクを使い魔方陣を描き、魔道具職人のスキル“着定”を行う事で魔道具として成立する。

であるならばこの魔道具作製用インクを糸や布に染み込ませて“着定”を行えば、その糸や布を染める事が出来るのではないか?

しかしてその試みは成功しました。その糸や布は見事に染め物の様に染める事が出来た。

しかしそれは始まりに過ぎなかった。彼は今度はインク作製の材料、魔力水を村に備蓄してあった聖水に変える事で女神様の慈悲を布に取り込む事が出来ないかと考えました。聖水にも期限がありますからね。新しい聖水を購入する予定もありましたし、私も興味があったので協力させていただいた事は司祭様には失礼にあたるかもしれません、申し訳ありませんでした」

 

ドレイク村長代理は一旦言葉を遮りメルビン司祭様に頭を下げる、そんな村長代理に気にしなくてよいと手を振る司祭様。

 

「そうして出来上がったのがこの“聖水布”とも呼ぶべき布でした。彼はこの布を少女の首に巻き、村の調薬師から習って自身で作製したローポーションを与える事で、治療を行いました。

少女の父はその様な事で長年に渡って患っていた症状が改善するとは思ってはいませんでしたが、少年の心根に感謝し治療を見守りました。

 

女神様は見ておられるのですね。奇跡とは諦めず願う者の元に訪れるものなのでしょう、少女の症状は改善の兆しを示し、少しずつですが言葉を発する事が出来る様になって来ています。

司祭様は既にお会いになられていますが、この度授けの儀を受ける事になっているケイトがその少女です」

 

ドレイク村長代理の言葉に驚きの表情を見せる司祭様、しかし直ぐに納得と言った顔で“あの無口な少女は元々話しが出来なかったのですね。あの挨拶も回復の兆しだったのですか”と言って何度も頷いておられました。

まぁ今のケイトはダミ声ですからね。ダミ声少女、奇跡的な回復、説得力ありまくりですね、うん。

 

「ミルガルのシスター様方やこのお城の方々にお渡しさせていただいた聖水布は、その改良版です。この度我が村では四名の妊婦を迎える事が出来ました。司祭様には女神様の慈悲をお授け戴きましたが、そのお力を布に宿し聖水布と言う形で妊婦達をお守りいただこうとした事がその始まりとなります。

これは司祭様の方がお詳しいと思いますが、治療魔法と言うものは光属性魔法であるとか。先のケイトの話ではないですが、その聖水布にはどうやら癒し効果を助けたりと光属性魔法の効果に近い性質がある様に思われました。

村の調薬師に治癒魔法もしくは治癒効果を高める素材について質問したところ、候補として挙がったのが蜂蜜でした。蜂蜜には光属性系の薬の効果を高める効果があるのだそうです。

結果はご覧の通り、村の妊婦達も女神様の慈悲により無事出産を迎えられる事でしょう」

 

グロリア辺境伯様は何か得心の行ったご様子の顔をなさっておられます。メルビン司祭様は・・・そろそろ飽きて来られましたか?

まぁ話が長いですからね。

 

「ですが問題が発生致しました。ご存知の様に新作の聖水布は大変高い美容効果を発揮してしまいました。これは本来の目的からすれば副次的な効果ではありますが、それに関してはありがたい事ではありました。

問題はこの聖水布そのもの。この様な品を高貴なお方々が放置為さるでしょうか?その様な素晴らしいモノやそれを作り出す技術を野放しに為さるでしょうか。

私達マルセル村の者達はこの様な素晴らしいものを独占するつもりは全くございません。なぜならこの布は女神様の御慈悲なのですから。

ですからその全てをグロリア辺境伯様、メルビン司祭様にお渡しさせていただきたいのです。素材となる攻撃糸繊維を使った布でしたらモルガン商会様を通じお譲りする事が出来ます。流石に私共では収縮糸をご用意する事は出来ませんが、そういったご要望はモルガン商会様の方でご検討いただければと思います。

聖水に関してはそれこそメルビン司祭様の領分、作製に関してはグロリア辺境伯様とモルガン商会様とで話し合われてはいかがでしょう?そして完成したものを名義上一度教会に納め、教会よりの委託販売と言う形でモルガン商会様の方で売り出せば問題は少ないかと。

あるいは全てを教皇様に献上し、教皇様の許可の元に作製なさっても宜しいのではないでしょうか?

この布はあくまでも女神様の慈悲なのですから」

 

ドレイク村長代理、やりきった顔を為されておられます。対して丸投げされたグロリア辺境伯様とメルビン司祭様、“ちょっと待てや~”と言ったお顔ですこと。

でも文句も言えない、だって利益を寄越せと言われている訳ではありませんからね~、その逆、儲け話を押し付けられたって事ですから。にこやかなのはモルガン商会商会長様だけ、どっちに転んでも利益になるお話ですし、面倒な折衝は権力者にお任せ、こんなに美味しい話は早々ありませんからね。

 

あ、メルビン司祭様の表情が笑顔になった。これは“教皇様に押し付けよう”って決心した顔ですね。このお方も面倒事を避けられるのなら利益はいらないってタイプだからな~。

そんでグロリア辺境伯様は、瞑目なさっておられますな。高位貴族足るものこれだけの利益をタダで貰う訳にはいかないからな~、そんな事をすればどんな噂が立つのか分かったものじゃないですからね~。

 

「ドレイク村長代理、貴殿は周辺五箇村の農業重要地区入りを目指しておったな。そうなれば貴殿は実質的に村の支配権を失う事になる。これ迄の何もない寒村であればそれは救いであったのだろうが、今の様な様々な産業を抱えた村の実態を考えればそれは貴殿に何の利益も齎さないのではないかな?」

 

それは当然の疑問、事実このグロリア辺境伯領で農業重要地区の制度が上手く働かないのもそれが原因。農業重要地区入りを果たす程の農村であれば下手にその様な制度に頼らなくとも十分食べて行けるし、その村の村長一族はよい暮らしと強い権力を発揮する事が出来る。はっきり言えば旨味がないどころかマイナスの制度なのだから。

そんなグロリア辺境伯様からの問い掛けに、ドレイク村長代理は俺の方に顔を向け柔らかく微笑まれた後、お返事を返されました。

 

「はい、確かにグロリア辺境伯様の仰る様に農業重要地区入りの制度を受ける事による私自身の利益は、現在の村の状況を考えれば無いに等しいでしょう。ですがそれは始めから分かっていた事なのです。

先程までの我がマルセル村における様々な事業展開は、その元をたどればすべてケビン少年の美味しい肉をお腹いっぱい食べたいと言う思いに行き着きます。言うなればこの功績はすべてケビン少年により齎されたもの。

その彼が言うのです、“僕はこのマルセル村でのんびりと農業をして暮らせれば十分、それが一番の望みです”と。

であるのなら私がどうして自己の利益を求められるでしょうか。

 

私は元々男爵家の四男として生まれました。私の生家ブラウン男爵家は貴族とは名ばかりの農家に毛の生えた程度の貧乏男爵家、私自身畑を耕し家族総出で農作業に勤しむ、そんな貧しくも温かい家でした。

成人した私はいつまでも領地に居残る訳にもいかず冒険者の道へ進み、その後様々な出会いの末モルガン商会に拾っていただき商人の道へと進んだ。そして行商人として独立し、各地に足を運んだ。

マルセル村村長の娘シンディー・マルセルに捕まったのは、行商人としてある程度の成果を出し始めていた頃でした。

そこに至る経緯はどうであれマルセル家に婿入りした私は、マルセル村の村長家の人間として村の現状を把握しようとし愕然とした。毎年のように出る冬の餓死者、劣悪な労働環境。そして村人を顧みないマルセル一族。

そうした村が多く存在する事はこの目で見てきた以上知っています、だがそれを自身が許容出来るかと言われれば否定の言葉しか出ない。

“領主にとって領民とは宝”、これは亡くなった父の教えであり、ブラウン男爵家の家訓であった。

私は行動した、自身がどう思われようとかまわない、結果として村人を救う事が出来るのなら。言動を変え、行動を変え、姿を変え。マルセル家の者が望む支配者としての村長を演じ、結果的に冬の餓死者を無くすことに成功した」

 

ドレイク村長代理はそこで言葉を止めると一度瞑目し、目を開けた後再び話を続けました。

 

「私の願いはこのグロリア辺境伯領から冬の餓死者を無くす事。全ての人々を救い豊かにするなどと言った烏滸がましい事じゃない、春の挨拶から“生き残れてよかった”と言った言葉を無くしたい、それだけなのです。

それがどれ程困難な事なのかは自身が良く知っています。ですが可能性はある、その方法はケビン少年が教えてくれた、マルセル村の村人たちが具体的な形に育ててくれた。 

その夢の為にはこれらの事業をグロリア辺境伯様に管理していただき、正しく広めていただく必要があるのです。五箇村の農業重要地区入りはその為に絶対に必要な一手、それが私にとっての願いなのです」

 

ドレイク村長代理はその視線をグロリア辺境伯様に向け、己の真意をさらけ出す。その願いが私利私欲を挟んでいては決して叶えられないものである事など明白なのだと。

俺はそんなドレイク村長代理に目を向ける、尊敬すべき大人の姿をその瞳に焼き付ける為に。

 

「ですがこのような言葉は貴族社会では通用しない事も分かっています。下級貴族の四男とは言え元はその世界に身を置いていましたから。ですので私的なお願いがございますがよろしいでしょうか?」

 

「うむ、発言を許す、なんなりと申すがいい」

 

「はい、ありがとうございます。ここ領都グルセリアでも金級冒険者シンディー・マルセルの名は知られているとか、マルセル村にいた際も辺境伯様に拝謁の栄誉を賜った話は噂として聞き及んでおります」

 

「あの者は領都ばかりでなく各地に足を運び領民の為に剣を振るってくれている。その業績は決して冒険者如きと無視してよい物ではないからの。領民からの評判も非常に良い者であるしの」

 

「はい、そのシンディー・マルセルにこれまでの冒険者としての業績、そしてこの度のマルセル村の業績を以って騎士の地位をお与えになって頂きたいのです。そしてその地位を息子マイケル・マルセルにも引き継げるようにして頂きたい。

いまシンディーは母親としてマイケルに冒険者としての力を与えています。ですが私は父親として息子に何も残してあげる事が出来なかった。せめて息子に何かを残してあげたい。これが不遜な願いである事とは分かってはおりますが、どうかご検討を頂けないでしょうか?」

 

ドレイク村長代理の願い、それは息子マイケル・マルセルに騎士の地位を与えてあげて欲しいと言うもの。それが何もない一介の村長が口にするのなら不遜であり不敬となるだろう。だが今回は話が違う。マイケルの母親であるシンディー・マルセルは領内の魔物被害を精力的に解決し、領民に絶大な人気を誇る金級冒険者。彼女にいつまでもこのグロリア辺境伯領で活躍して貰いたいと言う事は辺境伯家の願いであり、その為の叙爵には何ら問題はない。これが男爵などと言った貴族籍であれば問題も生じようが、準貴族である騎士爵であれば自身の裁量でどうとでもなる。

そしてその爵位を息子に継がせることも問題ない、これは言うなれば人質にほかならず、息子のマイケル・マルセルが騎士である以上、金級冒険者シンディー・マルセルがこの地を離れる心配はないだろう。

そしてこれはマルセル村から齎された利益に対する正当な報酬であると周囲に謳う事が出来る。準貴族とは言え貴族に連なる者になると言う事は、平民にとってはそれほどの大事であり、貴族からしてもそこまでしているのならと納得が得られるからだ。

マルセル村村長代理ドレイク・ブラウンの提案は、グロリア辺境伯にとっても大変都合のいいものであったのだ。

 

「うむ、そうか。貴殿も息子の事を思う一人の父親であったと言う事なのだな。今この場で即答は出来ぬが悪いようにはしないと言っておこう」

 

「はい、ありがとうございます。ですが息子マイケルはこれまで貴族の教育を受けて来た者ではありません。彼を支えてくれる様な強い伴侶がいれば何かと心強いのですが・・・いえ、これは贅沢を申しました、今の言葉はお忘れください」

 

「ハハハハ、構わんよ、貴殿の子息への思い、同じ子を持つ親として分からんでもない。いつまでたっても子供の事は心配になってしまうものだ。

我が領の騎士団には強さと賢さを兼ね備えた女性騎士も在籍しておる。それこそ貴殿の前妻シンディー・マルセル殿と親しい者も何人もおるでな、安心して任せるがいい」

 

「はい、何から何まで本当にありがとうございます」

 

ドレイク村長代理はグロリア辺境伯様に深々と頭を下げる。その姿にこの場にいる偉い人たちは優し気な視線を送るのでした。

って言うかドレイク村長代理、それが目的だったでしょ!

これまでの一連の交渉もすべて伏線、一番の目的はマルセル一族の完全排除。

流石“相手に悟られずにいつの間にか要求を通す”と言われた男、ドレイク・ブラウン、半端ないです。

心底ありがとうと言った雰囲気で礼をし続けるドレイク村長代理に、俺は唯々尊敬の眼差しを送るのでした。

 




本日二話目です。
もうね、いってらっしゃい。
by@aozora
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