転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第142話 村人転生者、領主様との会談に出席する (5)

人は生きる為に他者の命を戴く。麦の命を戴く、野菜の命を戴く、動物や魔物の命を戴きその日の命を繋ぐ。

在りし日の記憶の国の人々はそんな命に感謝を込めて、食事を口にする前に“いただきます”と祈りを捧げていた。

 

「メイド様に御願いが御座います。お城の料理人様に御願いして、こちらのホーンラビットを美味しい料理にして欲しいのです。このホーンラビットの命を奪ったのは僕です。ですが失われた命が誰かを生かす糧になるのならば、このホーンラビットの死は無駄ではなくなるのです。どうかよろしくお願いします」

 

俺が席を立ちメイド様にそうお願いすると、暫く固まっていたメイド様は一礼と共にホーンラビットの入った檻を何処かに運び出して下さいました。

去らばホーンラビット、どうか美味しい料理になるんだよ。今の季節なら根野菜のスープがお勧めです。

 

ホーンラビットが去って行った扉を暫く見詰めていた俺は、心の整理が着いたとばかりに再び椅子に。

 

「「「イヤイヤイヤ、だから違うからね!?」」」

 

なんか皆様すっかり仲良しになられたご様子、仲良き事は美しき事かな。

俺はグロリア辺境伯様の方を向き両膝を突くと、床に手を置き頭を下げます。これは弱点である首筋を晒し、自身の処断をお任せしますと言った最も敬意を示す作法。在りし日の記憶が与えてくれた最高峰の礼節、“土下座”。

そしてその敬意を向ける相手はこのグロリア辺境伯領の最高権力者、俺は只黙って沙汰を待つのみ。

 

「う、うむ、面をあげよ」

 

俺の突然の行動に圧され言葉を詰まらせる辺境伯様、俺は切腹する前の武士の様に静かな心持ちで(かぶり)を上げる。

 

「して、どの様な訳で先程のような行動に出たのか。発言を許す、嘘偽り無く述べよ」

 

「はい、まずはグロリア辺境伯様の寛大なお心に感謝申し上げます。説明申し上げる前に、先程そちらにおられますお嬢様が申し上げました様に、お城の鑑定士様に先程よりメイド様がお持ちになられておりますそちらの箱の中身を鑑定していただきます様、お願い申し上げます」

 

俺がそこまで言うと、辺境伯様は執事様に目配せをなさいました。

さて、これで準備完了、後は出たとこ勝負と言ったところでしょうか。

 

「先ずはご挨拶申し上げます。私はこの度授けの儀を受ける為ここ領都グルセリアに参りました、マルセル村のケビンと申します。そしてお嬢様、お久し振りでございます、無事グロリア辺境伯様の元に身を寄せられたこと、マルセル村の者の一人としてお喜び申し上げます」

 

俺がここまで言ってハッとした表情になるお嬢様。お嬢様、先程まで全く気が付かれておられませんでした。

まぁそれも仕方がないんですけどね、俺氏、完全に雰囲気変えてましたし?しかも気配を徐々に落としてましたし?ドレイク村長代理が変に持ち上げるものだからそのイメージを薄める為に、完全な壁の花となっておりました。

ドレイク村長代理の盛大な演説も相まって上手く行ってたんだけどな~、畜生!

 

「あ、あの、ケビン様、気付きませんで申し訳ありませんでした。そして改めて私をお救いくださり、本当にありがとうございました」

 

そう仰ると頭を下げられるお嬢様、だからそれを止めろそれを。

俺はため息を吐きたくなるのをグッと堪え言葉を続けました。

 

「お嬢様、感謝のお言葉は既にミルガルの街で頂いております、これ以上は逆に問題を生み出しかねません、その事は以前お話ししたはずです。ですのでそれ以上は。

グロリア辺境伯様に申し上げます。先程よりお嬢様が仰られる様に街道でお嬢様を発見し、ミルガルの街までお送りしたのは私共マルセル村の者達でございます。

その経緯によりそちらの箱の中身についてある程度分かっている事がございますので、お話しさせていただきます。

先ず初めにお嬢様を発見した場所ですが、エルセルの街とミルガルの街を繋ぐ街道上、俗にオークの森と呼ばれる地での事でございました。周囲は深い森、そんな場所に高級そうな服装の女性が倒れている。初めは盗賊の仕掛けた罠かと疑ったものです。お嬢様は気を失っておられました為、荷馬車ではございましたがお乗りいただき、次の中継地ホドマリ村までお運びした次第でございます。その後街道上に倒れる馬車を発見、その際に護衛のウルフ種の従魔が発見した物がそちらの品となります。

発見の際、私共の従魔は酷く興奮し、自身を見失っている様子でした。私はその品を直ぐに箱に収納、マジックバッグに仕舞い込む事で事なきを得ました。

ご存知の様にウルフ種は大変嗅覚に優れております。そして今回お嬢様一行を襲ったと思われる魔物、オークの森の住民もです」

 

俺の言葉に何か気が付かれた様な表情になる辺境伯様、対して未だ何の事か良く分かっていない顔のお嬢様。

マジかよ、まだ分かんないの?これってハッキリ言わないと駄目って奴?

 

「失礼致します。鑑定士ノーティス・パンタロン、御呼びにより参りました」

 

俺が頭を悩ませていると、タイミング良く鑑定士様が参られました。

 

「おぉ、ノーティス、早速で悪いがその箱の中身を鑑定して貰えるだろうか?鑑定結果はこの場で報告して欲しい」

 

「ハッ、失礼致します。<鑑定>」

鑑定士様は鑑定のスキルを使い、箱の中身を見定められました。

しかめられる鑑定士様の眉、その表情に何かを悟るグロリア辺境伯様。

 

「グロリア辺境伯閣下にご報告申し上げます。こちらの品は“誘魔草”、王国法により所持が禁止されている物にございます。」

 

「ふむ、やはりそうであったか。御苦労であった、下がって良いぞ」

 

「ハッ、失礼致します」

 

鑑定士様が一礼をし下がっていく。残されたグロリア辺境伯様は難しい顔をなさり口を結ぶ。

俺は未だ状況が分かっておられないご様子のお嬢様に言葉を続ける。

 

「お嬢様、私がミルガルの街でお嬢様とお別れする際に申し上げた言葉を覚えておいででしょうか?

私はこう申し上げました、“厳しい現実を直視する事になる”と。

先ほど鑑定士様が仰られたお言葉、“誘魔草”。おそらくは魔物を惹き付け興奮させる効果のある品と言ったところなのでしょう。

これが一体何を意味するのか?

この“誘魔草”を仕掛けた者にとって、今回の騒ぎは手段の一つであったと思われます。確実性があまりにも低過ぎますから。

ただ一つハッキリしている事は、この”誘魔草”を仕掛けた者はお嬢様を害するつもりがあったと言う事です」

 

ここまで来て漸く事態が把握出来て来たのか、どんどん顔色が悪くなるお嬢様。

悪いけど追撃させて貰うね。

 

「私はあの箱をお渡しする際に申し上げた筈です、“従魔や魔物に由来する生き物がいる様でしたらお部屋から離すように”と。それは先ほど暴れ出したホーンラビットの事を思い出していただければ分かると思います。

興奮し自身を見失ったホーンラビット、その姿は“森の悪魔”そのもの、あの場ではああするしかなかったのです」

 

俺は説明は全て終わったとばかりに口を閉ざし頭を下げる。そして再び沙汰を待つ。

そんな俺の姿に再びの動揺を見せるお嬢様。御自身の行動が他者の立場や命を落とす事になりかねない、たとえそこに悪気が無かろうとも関係無い、貴族とはそういうモノなのだから。

未だ世間知らずのお嬢様にそこまでの思慮を見せろと言う方が無茶なのは分からんでもないが、その為に失われる命と言うものがある、今回それは俺氏なんすけどね。

 

せめて幽閉にしてくれないかな~、そうしたらこっそり脱走してほとぼりが冷めるまで大森林にでも籠るのに。

アナさんとケイトには後で手紙でも渡せば大丈夫でしょ。ブー太郎の所のグラスウルフたち超有能だしね、お手紙の配達くらい余裕余裕。

 

へっ?ここは村の為に涙を呑んで処刑される場面じゃないのか?

しないよそんな事、どこのナルシストよ、どこの。

お前が脱走したらマルセル村に迷惑が掛かるんじゃないのか?

掛かる訳ないじゃん、マルセル村目茶苦茶利益供与してるのよ?俺っちの処刑云々とは別問題よ?それに俺って誰かを害した訳じゃないしね、食材を絞めただけだし?

幾ら大貴族でもそんな事で殺されんし、殺しそうな奴なら釈明なんかさせないで今頃切り掛られてるっての。

問題はここで捕まったら授けの儀を受けれないって事なんだけど、司祭様がいい事を教えてくれたんだよね。

“十二歳を迎えていて教会で司祭様に祝詞を上げて貰えれば、領都以外でも授けの儀が出来る”

って事はですよ、中には金の力で授けの儀をしてくれるところがあったりなかったり?例えばエルセルの街とか?

やっててよかった人助け、エルセルの街で手に入れたゴミの山がこんな所で役に立つとは、全ては女神様の思し召しでございます。

 

「いや、相分かった。その方が危険を察知し手元のホーンラビットを無力化した事は英断である。その事に関しては不問とする」

 

「グロリア辺境伯様の寛大な御心に感謝を」

 

俺は頭を下げたままお返事を返す。どうやら即処刑は回避できた模様、危ない危ない。

 

「してケビンと申したな、その方に少し聞きたい事があるのだがいいだろうか?」

 

「はい、何なりと」

 

「うむ、この場にいる者すべてが疑問に思っておる事なのだが、その方、ちと態度が変わり過ぎではないかの?先ほど迄純朴な村の少年と言った態度であったであろう?

面を上げ詳しく聞かせては貰えんだろうか?」

 

ウグッ、そこはスルーして欲しかった。

辺境伯様に言われるまま顔を上げる。目が点になるモルガン商会商会長様に、面白そうなおもちゃを見る様な目をしたメルビン司祭様。困惑顔のグロリア辺境伯様に警戒の段階を数段引き上げた様な目をした執事様。

だから嫌だったんだよな~。ドレイク村長代理は“俺に振られても無理、何とか頑張って”って顔をしてるし、パトリシアお嬢様は目をキラキラさせちゃってるし。

って言うかお嬢様はもう少し反省していてください。

 

「グロリア辺境伯様に発言の許可を頂きましたこと、感謝申し上げます。そしてこれからお話しする事は決して辺境伯様や高貴なる身分の方々、ひいてはこの国の身分制度を批判するモノではないと言う事を予め申し上げておきます。

私が先ほど迄“純朴な村の子供”と言った態度を取っていた事は、弱い自身を守る為の行為でございます。

“有用な平民は道具になるか殺される”

私の生まれ育った辺境の地マルセル村は、ここオーランド王国ではある意味で大変名の知られた場所だとか。“オーランド王国の最果て”、“貴族令嬢の幽閉の地”、実際過去において幾人かの貴族令嬢がマルセル村に移り住まわれた事や、そんな貴族令嬢の下に高貴なる身分の方が御救いに現れた事もあったとか。

そうした事情を抱えた我が村には、様々な理由で逃げ延びて来た所謂訳アリと呼ばれる者が住み暮らしております。

そんな方々のお話しを聞き、この世の中の仕組みを学んで行った私は思ったのです。“弱者には弱者の戦いがある、生き延びてこその勝利である”と。

 

ここオーランド王国において身分制度は絶対、何故ならこの国の根幹であり社会秩序を生み出す枠組みそのものであるからです。

その様な社会で仮に平民が突出した才を発揮したのならどうなるのでしょう?そしてその事を高貴な御方に認められたとしたら?それが年端も行かない子供だとしたら?

高貴なる御方は仰るでしょう、“私の為に力を振るってくれないか”と。

ですがその高貴な御方に長年付き従っていた者はどのように考えるでしょう。

高貴なる御方は仰います、“私の配下や友人にその様な心根の狭い者はいない”と。

しかしそれが理想であり儚い幻であることを、我が村に命からがら逃げ延びた虐げられし者たちが教えてくれた。

 

私の望みはマルセル村でお腹いっぱいにお肉を食べてのんびり暮らす事。

それだけなのです」

 

俺はそこまで語ると再び頭を下げ慇懃に礼をする。

なんか偉い方々や執事様までもが難しそうな顔をなされていたご様子だったけど、大丈夫だよね?

お願い、俺を解放して。

早く宿に帰ってお布団の中でゴロゴロしたいっす。

 

「ドレイク村長代理、彼は一体・・・」

俺の言葉を聞き俺の出自について問いただすグロリア辺境伯様。ドレイク村長代理めっちゃ困ってるんだろうな~。俺の言葉使いやものの考え方って、村の子供のそれじゃないもんな~。

 

「グロリア辺境伯様に申し上げます。先ほどお話しさせて頂きました通り、我がマルセル村でこちらのケビン少年の事を知らぬ者はおりません。その呼び名は“勇者病<仮性>重症患者、ケビン少年”、彼は様々な逸話を残している“村の勇者様”なのです。

あれは彼が四歳の頃でしたでしょうか、魔法使いになると称し属性魔法の初級魔法であるボール魔法の詠唱呪文を両親に強請(ねだ)り、まったく発動せず挫折したり、それでも諦めきる事が出来ずに生活魔法の“ウォーター”の呪文を教わり一日中魔法の練習に励んだり。

彼は四歳にして魔力枯渇を経験しているんですよ。

生活魔法の“ブロック”の魔法を覚えた時は、“土属性魔導士ケビン、ここに推参”と申して村中の建物を父親のヘンリーと共に直して回っていた事もありました。

そしてケビン少年が先ほども申しましたように彼は村の大人の話を良く聞きます。何もない辺境の寒村において、多くの経験をしてきた老人や大人たちの話は、彼にとっては掛け替えのない宝だったのでしょう。

その話を聞く中で言葉を学び、思考し、村では経験する事の出来ない世の中の仕組みを学んで行った。こちらにいるモルガン商会の行商人ギース氏は、行商に訪れる度に商談の席に顔を出す幼い頃のケビン少年の事をよく覚えている筈です」

 

ドレイク村長代理はそこで一旦言葉を切ると、未だ頭を下げ続ける俺の方に顔を向けられました。

 

「私はてっきり商人に憧れていると思っていたのですが、彼はその会話の中から世の中の仕組みやこの国の在り方、身分制度や自分の置かれた現状を学んでいたのですね。

村の若者は皆外の世界に憧れ村を去っていく。それは寂しくもあるが致し方のない事、それが何もない辺境の寒村であれば尚の事。

彼はミルガルの街バストール商会の商会長アベル・バストール氏との会談の際にこう申したそうです。

“これ迄のマルセル村は若者が出て行く一方の寂れ行く村でした。私はドレイク村長代理に協力し、子供たちが村に住み続けたいと思える場所にしたいと願っているのですよ。私の生きる場所は、自然豊かなあの場所しか考えられませんから”

私はこの報告を村の者から聞いた時、不覚にも涙が止まらなくなりました。

これまで自身が取り組んで来た事が全て肯定された、我が村の少年がこれほどまでに村の事を思ってくれている。村を預かる村長としてこれほどうれしい事はない。

村の者は皆彼の事が大好きです、そして敬愛の念を込めてこう呼んでいます。

“干し肉の勇者、ケビン君”と。」

 

“ブホッ”

あ、メルビン司祭様が吹いた。笑いをめっちゃ我慢なさってる。後ギースさんがプルプルしてる。

そして何故かお嬢様が尊敬の眼差しで“干し肉の勇者様”と呟いておられる。

って言うかドレイク村長代理、何をぶっ込んでくれるねん。

定着したらどうするんじゃ~、そんな二つ名は嫌だ~!!

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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