転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第143話 村人転生者、注文の品を受け取る

いや~、疲れたわ~。

領都のお城で辺境伯様と会談、村の子供がやる事じゃないから、どこのラノベって展開だから。しかもお言葉を賜るどころかお話をする事になるなんて、誰が考えるのさ。想定外もいい所だから、精々二言三言話をする程度だと思うじゃん、ガッツリお話って俺死んじゃうよ?

それとパトリシアお嬢様、“お城でならゆっくりお話が出来ますね♪”って顔をするんじゃない、お前は一体何を聞いとったんじゃ!

それをやってたら死んじゃうのよ、俺が!元気に別れてお城を退いた後、街の裏路地でバッサリか街道で周囲から近付いて来た暗殺者にブッスリか。

貴族の嫉妬はマジ怖いの、暗殺者ギルドって全国どこにでもあるのよ?(村人ギースさん情報。彼は狙われて返り討ちにしていた御方です)

 

あの後来賓の間を後にしたドレイク村長代理とモルガン商会行商人ギース氏と俺氏。お嬢様は“漸くお話しが出来ますわ♪”とばかりに近寄って来ようとしましたが、そこは執事様とメイド様がナイスインターセプト、お二方のありがたい配慮により無事脱出に成功いたしました。

ごめんねお嬢様、“僕何かやっちゃいました系転生者様”ならお貴族様のお誘いもひょいひょい乗るんだろうけど、俺っち只の平民なのよ、吹けば飛ぶ様な人生なのよ。

 

でもよくよく考えるとそんな無謀な奴なんていないでしょ、そんな事してたら首から上がいないいないば~よ?

 

でもでも、お嬢様の発言を思い出すとものすごく怪しいんだよね。

“ケビン様は王都の学園には”って発言からお嬢様が王都の学園に通われてる事は明白、そんでご身分が伯爵令嬢であらせられるって事は中級下級貴族の子弟が見栄で通う二大学園とは違う上級学園、選ばれし精鋭が御通いになられる青田買い会場。

そんで転生勇者様の定番と言えば驚くべき量の魔力とチートと呼ぶべきスキルの数々。

司祭様が仰っていたけど魔力量が多い子供は詳細鑑定の対象で職業次第で王都行き、

勇者とか賢者とか聖女とか?近頃の定番だと魔導士もあり?

 

自己顕示欲の強い連中なら自分が()も優秀と言わんばかりに前世知識を披露するんだろうな~、考えなしに。

“人を身分で差別するなんて間違ってる、身分に関係なく人は人なんだよ”とかね?

そんでもって下手に実力があるから始末に負えないってね。

でもそんな事してたらヤバい未来しかないと思うんだけどな~。

ラノベの定番奴隷契約ってのは聞いた事が無いけど、アナさん曰く呪いで似た様な事をしてるらしいし、実際奴隷商もいるし。魔道具で奴隷の首輪って作れそうなんだよね、闇魔法と他に幾つか組み合わせて。

普人族の貴族辺りが開発していそうなんだよね~、怖い怖い。

 

ま、そう言う難しい話は偉い方々にお任せです。

お任せと言えばドレイク村長代理、“そうそう、こちらの品をお渡ししておきます”とか言ってしれっと例のヤバい書類をグロリア辺境伯様に渡してやんの。

“私も偶然手にしたものでして、これを託された方はもう・・・”とか言って俯いちゃって、ドレイク村長代理役者だわ~、託した本人(俺)隣で目が点になりそうだったわ~。

そんでもってこれで終わりかって時に司祭様に向かって“先ほど聖水布のお話の時、ケイトの症状がポーションでは治らなかったと言ったと思いますが憶えておいででしょうか?”って話を振って、“実はその傷、所謂<呪いの傷>と呼ばれる部類のものであったそうです。私は呪いについてよく知らないのですが、呪いが掛かっているとポーションでも傷が完治しないとか。ケイトが少しでも声が出せるようになったのは、女神様がお与えになってくださった奇跡なのですね。女神様の御慈悲に感謝申し上げます”って言って呪いの件も丸投げしちゃうってね。村長代理満面の笑み、女神様万歳ってお顔。

 

去り際に(とど)めを刺すスタイルってドレイク村長代理の得意技か何かなのかな?

あの後残された偉い人たちがどうなったのかは分からないけど、ドレイク村長代理の事は生涯忘れないだろうな~、そして俺の事はそのおまけって扱い。

これって庇われた?しかもその事について一切触れずに?

う~わ、めっちゃ格好いい、何この出来る大人。

小鳥の巣箱亭の客室ベッドで“ケビン君、私もう限界だから、夕食まで寝かせて貰うね”って言ってぶっ倒れたままになってるドレイク村長代理。俺はこれまでこの方にどれだけ庇われて来たんだろう。俺がやった事と言えば好き勝手に気の赴くままに行動しただけ。その結果を村の利益に変えたのも、村人の生活改善に持って行ったのもすべてドレイク村長代理。

今は疲れた心と身体を休め、ゆっくりお休みください。

俺は英雄の眠る部屋の扉を静かに閉め、受付の従業員(執事みたいな恰好の方)さんに出掛ける事を告げ、小鳥の巣箱亭を後にするのでした。

 

―――――――――――

 

「ごめんくださ~い、オヤジさ~ん、鞘出来た~?」

向かった先は昨日“黒鴉”と剣鉈の鞘とベルトを注文した武器装具工房、ヘンドリック武具店。

 

“ちょっと待ってくれ~。”

店の奥から聞こえるオヤジさんの声に、どんな鞘が出来上がったのかワクワクの止まらない俺氏。

 

「おう、坊主待たせたな。両方とも出来上がっているぞ」

そう言いオヤジさんが木箱の中から取り出した物、濃紺色の艶光(つやびか)りをした直刀の鞘と深緑色の落ち着いた雰囲気を醸し出した直刀の鞘。

 

“おぉ~”

思わず口から零れる感嘆の声、これは見事、凄く格好いい。あまり派手で無い物と言う注文を受けて金具の部分は皆落ち着いた黒い地金。それでこの脇に付いてる輪っかはベルトに装着するって奴ですか?

 

「おうよ、先ずはこの部品をベルトの装着部にはめ込む、そんで斜め掛けにしてから長さの調整をして完成だな。先ずは装着してみてくれ。」

 

俺はオヤジさんに言われるまま鞘をベルトに装着し肩掛けカバンの要領で背中に背負います。うん、中々のフィット感。これなら動きを邪魔しません。

 

「おう、悪くない出来みたいだな。それで今度はこっちなんだが。」

 

そう言いオヤジさんが取り出したのは剣鉈の鞘が二つと腰巻用のベルト。

 

「こっちはオーガの革を使った物だから肩掛けベルトよりもやや硬いが、そこまで気にならない出来に仕上がっているはずだ。それでこいつは勝手しちまったんだが、坊主は山仕事の普段使いって言ってただろう?だからどうせならと思って反対側にポーチを付けてみたんだ。坊主が腰に巻いてる奴を参考にさせて貰ったかたちだな、これも着けて見てくれ」

 

一度直刀のベルトを外し、腰の剣鉈用のベルトを装着。気分は山の管理人、こんなベルトワーク〇ンで売ってそう。色々動いてみるも硬さなんて全く気になりません。

「オヤジさん、これ良いわ、このポーチも凄く便利そう。気に入りました」

 

オヤジさんが“実際に得物を鞘に仕舞ってみてくれるか?”と言うのでカバンから(出すと見せ掛けて腕輪収納から)剣鉈を取り出し腰に装着。軽く動いたり跳ねたりして見ますがそんなに邪魔って感じがしない、これって凄くない?

 

「うん、ベルト位置と装着部分の重心に問題はなさそうだな。この重心位置がズレると同じ重さなのに邪魔に感じたりするんだよ。その辺は職人の腕の見せ所だな。

今度は直刀を試してもらえるか?」

 

スゲ~、プロの職人って半端ね~。今までなんか適当に紐で縛って腰に巻いてただけだもんな、こんなにも違うんだって感動しちゃってるんですけど?

お次は“黒鴉”さんですね。

俺はやはりカバン(以下略)から黒鞘の直刀を取り出し、その柄に手を掛けます。

 

「“黒鴉”さん、別荘が完成いたしました。その使い心地を見ていただきたいので、大人しくしていただきます様お願いいたします」

俺は“黒鴉”に語り掛けながら鞘から引き抜きます。鈍色(にびいろ)に光る刀身は相変わらず妖しい美しさを放っておられます。

 

“チンッ”

先ずは濃紺の鞘に収まった“黒鴉”・・・うん、お気に召したようですね。凄く大人しい。何度か抜いたりしてみても全く暴れません。

次に深緑色の鞘。

 

“チンッ”

・・・こちらも問題なさそう。特に暴れる様子もって軽!?

はっ?“黒鴉”さん、無茶苦茶軽いんですけど?ほぼ風船よ?

えっ?もしかして超ご機嫌とか?そんなにこの鞘が気に入ったの?

確か“黒鴉”の特殊能力って重さを変えられるって奴だった様な。試しに元の重さに戻ってくれる?

おっ、ちゃんと刀の重さ。それじゃ今度は倍くらいの重さで。

むっ、ずっしり重い、これは中々。特訓に弾みがついたって感じ?

 

「オヤジさん、ちょっと聞きたいんだけどこのベルトの金具ってどれくらいの重さまで耐えられるの?」

 

「ん?何だ坊主、変な事を聞くな?まぁそうだな、素材的には頑丈だからな、オーガが全力で引っ張っても壊れないと思うぞ?オーク換算だと十頭分くらいは耐えられるんじゃないか?」

 

「何それ、ミノタウロスの革ってスゲ~。それとこの金具か、これって特殊なものかなんかなの?」

 

「あぁ、希少金属ほどじゃないがな、黒鉄っていってこう言った装飾にはよくつかわれる金属だぞ。魔鉄のように特殊な効果はないが丈夫さなら負けないんじゃないか?

全体的な出来からしても見る者が見れば分かる中々渋い一品に仕上がっているはずだ」

 

く~、良いね良いねそう言うの。ケビン君そう言う所謂“職人の仕事が生きてる一品”って大好きです。

剣鉈の付いた腰のベルトを外し、“黒鴉”を装着した肩掛けベルトを装備します。

先ずは通常の重さって全く重くないじゃん。刀の重さが無理なく身体に伝わってるって感じ?職人技スゲ~。

そんじゃ一気に五倍で。

お~、この重さでもこの程度、半端ないわ~。黒鴉さんもう戻してくれていいよ~。

・・・お~い、“黒鴉”さ~ん。・・・もしかして気に入ったからしばらくこの鞘に入っていたいとか?

“スッ”

マジかよ、重さが戻ったよ。まぁいいんですけどね。

 

「オヤジさん、これ残りの支払い、金貨二枚です。それとこれはいい仕事をしてくれたオヤジさんに感謝の気持ち、これでうまい酒でも飲んでください」

俺はそう言うと金貨二枚と大銀貨一枚をお渡しします。

オヤジさんは“こんなにいいのか?”と言って恐縮なさっていますが、いい仕事には気持で応えないと。それにこれあぶく銭ですんで気にしないでください、人には言えませんが。

 

 

「オヤジ、いるか?ちょっと邪魔するぞ」

 

俺が気持ちよく支払いを済ませヘンドリック武具店を後にしようとした時、その声の主は入り口の扉を豪快に開け放ち入って来られました。

あ、お客さんですね、すぐに片して退散いたしますんで。

俺がそそくさと剣鉈をカバンに仕舞おうとした時です。

 

「ん?ちょっと待て、坊主、その剣鉈を見せて見ろ」

 

はっ?何か訳の分からない事を仰る御方です事。この手の手合いは関わらないに限りますねって何勝手に剣鉈を抜いてるんですか!?

 

「ふむ、悪くない品だ。俺が貰ってやろう。」

そう言いこちらに大銀貨を投げてよこすよく分からない人。

床に落ちた大銀貨が虚しく音を立てて転がります。

 

「・・・えっとオヤジさん、俺領都って初めてで良く分からないんだけど、今一体何が起きてるの?」

 

「坊主すまん、こちらは領都の大手鍛冶工房のご子息だ。剣鉈は俺が取り返すからちょっと待っていてくれ」

 

そう言いご子息様に向かう親父さん、何やら説得なさっておられますが、“ドカッ”

あ~、突き飛ばされちゃった。

これ面倒だな~、“黒鴉”~、あのバカやっちゃって。

俺の呟きが聞こえたのでしょうか、背中に背負った直刀の重さがフッと軽くなりました。

“ドサッ”

行き成り床に崩れ落ちるご子息様、俺はそんなご子息様の下に向かうと落ちていた大銀貨をその手に握らせ剣鉈を回収、突き飛ばされたオヤジさんに声を掛けます。

 

「大丈夫ですか?怪我とかしてませんか?念のためポーション飲んどきます?」

床に手を突いた時に手首を痛められたのでしょう、苦痛の表情をなさっていたオヤジさんですが、ポーションでスッキリ。ローポーションでも大丈夫だったのでしょうが、他にどこか痛められていたら大変ですからね。職人の腕は宝です。

 

「で、この馬鹿どうします?ウチの父なら“細切れにして魔獣にでも食わせろ”って言いますけど?何ならその工房に引き摺って行って工房ごと細切れにします?」

俺がそう言ってニッコリ微笑むと首を横に振りながら、“後はこっちで何とかするから”と言って遠慮なさるオヤジさん。

 

「え~、こいつ人の得物を奪おうとしたんだよ?そんなの強盗と変わらないよ?強盗は細切れだよ?

でもまぁそこまでおっしゃるのなら今回は引いておきますが、こちらの方の保護者によくよく伝えておいてくださいね、“何かあったらリトルオーガが遊びに行きますね”って」

俺の言葉に今度は縦に首を振りまくるオヤジさん。思いが伝わった様で良かったです。

 

なんだこいつ、腰に立派な剣を差してるじゃん。そんなものがあって強奪行為だと?許せん!千切りじゃ~。

俺は剣鉈に魔力を纏わせってめっちゃ楽、何これ?魔鉄製の武器ってこんなに魔力の通りがいいんだ、知らなかったな~。村に帰ったら魔鉄で棍棒でも作ろうかな?

それは置いといてコイツは千切り沢庵の刑です。剣鉈から薄い魔力の刃を伸ばしサクサク切れ目を入れて行きます。ポイントはちゃんと繋がっている様にする事、パッと見細かい線が入った剣ですね。

これで良し、ちょっとすっきりした。

俺はオヤジさんに挨拶をしてから小鳥の巣箱亭へと戻って行くのでした。

 

 

「あの坊主何者だ!?」

思わず零れる呟き。ヘンドリック武具店店主デリル・ヘンドリックは先程起きた一連の騒ぎに頭を抱える。

彼は飛び込みの客であった。明日行われる授けの儀を受ける為にやって来たと言う少年。材料の持ち込みで注文されたのは直刀と剣鉈の鞘、それと肩掛けと腰巻のベルト。注文内容もはっきりしており明確な使用用途もある品、その上金払いもいい。聞けば父親はあの金級冒険者“笑うオーガ”、久々の上客、存分に腕を振るわせてもらった気持ちのいい仕事だった。

そんな気分をぶち壊しにしやがったのが大手鍛冶工房テンペスト工房の馬鹿息子、言うに事欠いて“ふむ、悪くない品だ。俺が貰ってやろう”って馬鹿か!?

あれ魔鉄製だぞ、魔鉄製。いい品に決まってるだろうが!

それを大銀貨一枚ってそんなもんその剣鉈の鞘の代金にも届かんわ、本当にお前は鍛冶工房の息子なのか!?

お前のせいで“笑うオーガ”の息子がブチ切れちまったじゃねぇか、さっきのセリフ、“何かあったらリトルオーガが遊びに行きますね”ってあいつマジでやるぞ、工房ごと細切れにされるぞ!

 

デリル・ヘンドリックは床に無造作に転がされた剣を見る。それはこの馬鹿息子がいつも自慢していたミスリル入りの逸品、そんな名剣が形を保ったまま千切りにされている。こんな真似、どこの誰が出来ると言うのか。

デリル・ヘンドリックは工房の若手に一言声を掛けると、その剣を鞘に仕舞い軽く支度を済ませてからテンペスト工房へと向かった。

馬鹿息子と彼を溺愛する親馬鹿が余計な事をして彼を怒らせない為に。

この領都でリトルオーガによる惨劇を引き起こさない為に。

 




本日一話目です。
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