“ズズズズズズッ”
あ~、お茶が旨い。でも東方の島国なんだよな~、一生縁が無いじゃん。
この世界通販なんてないからな~、大体物流が。甘味だってえらい値段になっちゃうし、昨日お城で戴いたあの激甘クッキーに使われてた砂糖だって相当な値段だったはずだもんな。司祭様、あれ絶対知ってて俺に喰わせたな、立場的に何度か食べた事があったんじゃないか?あの甘さの暴力は俺でもちょっと。
“ズズズズズズッ”
あ~、このお茶の渋みに含まれる旨味が堪らん。これは中々よい茶畑と契約なさっていると見た。それと職人さんの腕がいい、料理の神様、どうぞこのお茶の職人さんにも加護をお与えください。
「ケビン君は随分とその蒸し茶を気に入ってくれた様ですね。良かったらお土産にお持ちしますか?これはこの世界の食べ物と言う訳ではないので何も問題ありませんよ?
実は私の周りの者にはあまり好まれていないのです。特にその音を立てて飲むと言う作法が理解していただけなくて。
それで在庫が・・・。一人で消費するには後百年程掛かりそうでして。よろしければご協力いただけないものかと」
「なんですと!?それはそれはお困りでしょう、私の様な者でよろしければ是非協力させてください。幸い私は収納の腕輪を持っていますので、相当な量でも全く問題なくお引き受け出来るかと」
本部長様太っ腹、このチャンス逃してなるものか!!
「そうですか、それは助かります。ほう、人族が持つ収納の腕輪としては相当に優秀な収納量ですね、魔力拡張型ですか。ですがそろそろ性能限界の様ですね、これ以上は魔力を吸収出来ない様ですよ?良ければ機能拡張しておきましょうか?そうすればまだまだ大量の魔力を注げる様になりますが。」
「えっ、本当ですか?ぜひお願いします。この収納の腕輪にはいつも世話になっていますから、沢山魔力を注いであげたいんですよね」
本当にこのトレーニンググッズには世話になってるもんな~。毎日寝る前には魔力ぶち込んでたけど、限界間近になってたのね。
「ハハハッ、ケビン君は物を大切に使われる方なんですね。でしたら壊れ難くなる様に不壊の祝福を与えておきましょう。これでしたらたとえまた魔力が飽和状態になっても今度は腕輪の状態回復に魔力が使われる様になりますよ。簡単に言うとたとえ壊れようとも魔力さえ注ぎ入れれば修理されると言ったものですね。まぁ壊れる事自体まずありえないとは思いますが。」
「そうなんですか!?良かったな~収納の腕輪、本当にありがとうございます」
俺は左腕の収納の腕輪を摩りながら心からの礼を述べるのであった。
本部長(仮)様は“いえいえ大した事はありませんよ”と仰ってサッと腕を振るうと、“中に先ほどのお茶を入れておきましたので向こうに帰ったら確認してみてください”と仰ってニッコリと微笑まれるのでした。
「さて、休憩はこの辺にして問題を片付けましょう。現在ケビン君は授けの儀を受けていると仰っていましたね」
はい、女神様の像の前で祈りを捧げて、丁度司祭様に祝詞を上げていただいている所でした。
「ふむ、それですとこのままケビン君をお返ししてしまうと職業を授かれないと言う事になってしまいます。偶然ではありますが授けの儀に介入してこちらに呼び込んだ形になっていますから、授けの儀による職業付与システムから外れてしまっているのです」
「えっ、それって不味くないですか?俺ってこのままだと女神様から見捨てられたって事で排斥対象になったりしません?」
「まず間違いなく。過去に異世界よりの転移者が職業が無かったばかりに異端者審問に掛けられた記録があります。その者は自力で脱出しエルフ族の里に身を寄せて余生を過ごされた様ですが、中央大陸の普人族であるケビン君には少し荷が重いでしょう。
ですのでこの場で職業を選んでいただきましょう。
本来であればその人物にあった職業の候補の中から自動で選択されるのですが、今回は手動ですのである程度ケビン君の意向に合ったものを選択する事が出来ると思いますよ?」
「なん、ですと!?それってなんてサプライズ!?
あの、村人でお願いします、村人で。それか農家って職業があったらそれで、次点で調薬師ですかね、テイマーでも可でしょうか」
「えっと、もっといい職業も選べますよ?と言うか本当にそれでいいんですか?」
「はい、私、生涯村人を志しておりますので。全く問題ございません!!」
うっひょ~、超ラッキー♪
こんな所に招かれて一時はどうなる事かと思ったけど、これって九回の裏逆転満塁ホームランじゃね?ここにきて普段積んできた徳が一気に花開いちゃったりしてます?
女神様万歳!!
「ん?ごめんなさい。ケビン君は村人にはなれません。と言うか職業候補の選択肢に村人がありません。こんな事もあるんですね。」
「はっ?えっ、はっ?どういうことですか?勇者や聖騎士と言った所謂上級職が選べないのは分かりますが、村人が選べないって一体!?」
「う~ん、そうですね。今モニターに職業候補を表示します。本来であればこの候補の中でも特に適性の強い候補が優先的に選択されるのですが、ご自分で気に入った職業があれば選んでいただいても構いませんよ?」
本部長(仮)様はそう仰ると壁側に向かい手を振るわれました。
名前 ケビン
年齢 十二歳
種族 普人族
職業
職業候補
大賢者 マスターテイマー 武神 魔導戦士 破壊神 大商人 最上級調薬師 最上級調理人 最上級魔道具職人 最上級暗殺者 聖人 隠者 干し肉の勇者 魔王(天然)神級バーテンダーetc
はっ?イヤイヤイヤ、候補がおかしいから、候補が。
大賢者ってなに?何でそんなのが候補筆頭なの!?マスターテイマーって普通にテイマーでいいじゃん、何でマスターってのが付くのさ、どんな職業なのさ。それに武神とか破壊神とかって既に職業じゃないじゃん、しかもしれっと魔王を候補に入れるな!神級バーテンダーってあれか、光属性マシマシウォーターの蜂蜜割りカクテルがまずかったのか!?あれって何気に功績扱いだったのか!?
聖人に隠者ってどんな職業なのよ、大商人がかわいく見えるってどこのファンタジー!?
「隠者と言うのは隠れ住む大賢者みたいな職業ですね、聖人は男性版聖女と言った所でしょうか。聖女を数倍強力にしたような職業になります。歴史上でも二人しか確認されていないと思いますよ?
魔王(天然)は初めて見ました。こちら側が与えなくてもシステム上の魔王って存在したんですね、これは資料として記録に残させて頂きます。」
「イヤイヤイヤ、ならないからね!?俺まだ死にたくないから、これから大鑑定大会が待ってるのよ!?速攻で捕縛されちゃうよ!?
はいそこ、“またまた、実は行っちゃうんでしょ?”とか言わない、こっちはただの人間なの、簡単に死んじゃうの!」
いや、まだだ、この候補には希望があるじゃないか、etc、つまり続きがある!
・・・なんでだよ!何で残ってる候補が<賢者>とか<聖騎士>とか<剣聖?>なんだよ!全部上級職じゃないか、王都の学園行き決定じゃないか!あと剣聖の後ろの<?>ってなんだよ、<?>って!
<覇王>とか<拳王>とか<美食王>とか、<王>の付く職業はいらないんだよ!
それだけで不敬罪だよ、お貴族様は怖いんだよ!
それと<教祖>は止めろ、教会の異端審問会に掛けられるわ!あれか、肉か、タンパク質の信奉者ってのが悪いのか!?この<伝道師>ってのも同じ理由なのか!?干し肉の勇者~~!!
嫌~、職業が俺を殺しに来てるよ~。
諦めるものか、俺はマルセル村でのほほんとお気楽極楽生活を送るんだ、その為の準備は十分して来たじゃないか。防衛戦力の大福と太郎、警戒レーダーの団子、いざとなったら森のグラスウルフ軍団だっている。畑は緑と黄色が手伝ってくれるし服だって紬が繊維を分けてくれる。
しかもビッグワームプールとホーンラビット牧場のお陰で肉には困らない。
甘味が欲しければフォレストビーや隊長さんやB子さんがいる。
マイベストプレイス、魂の揺り籠、我が故郷マルセル村、絶対帰ってみせる!
「・・・あのすみません、この<*>の印が付いた職業って何ですか?」
「ん?あぁこれですか、初期の試験導入型の職業ですね。所謂ハズレ職業です。こちらのモノは内容が他の職業と被ってる上に汎用性が広すぎてあまり特徴が無かったんですよ。導入自体はされているんですが一般にはあまり好まれる職業ではないですね。
それとこの職業を授かる方は変わり者が多かったと記憶しています。
珍しくはありますが全くないと言うものではありません。
ただこの職業に上級職があったんですね、これも記録させて頂きます」
「あの、俺これにします。と言うかこれ以外無理です。他の職業を選んだら大森林に引き籠り決定です。なんだって<最上級死霊使い>なんて職業が出て来たんだか」
「分かりました、ではこちらの職業に決定いたします。
”管理者権限、ステータスオープン、モニター表示”」
名前 ケビン
年齢 十二歳
種族 普人族
職業 田舎者(辺境)
スキル
棒 自然児 田舎暮らし(*)
魔法適性 無し
称号
魔物の親友 食のチャレンジャー 通貨を創りし者 新薬を創りし者 生活魔法を創りし者 魔力を理解せし者 小さな賢者 大森林の住人 導く者 進化を促せし者 呪いを解きし者 厄災の討伐者 発明家 魔物を飼育せし者 辺境の隠者 森の聖者 闇に潜む者 交渉人 魂の救済者 干し肉の勇者
加護
未収得加護(申請中)
調薬神の加護 調教神の加護 魔法神の加護 食料神の加護 商業神の加護
「おぉ~、スキル欄から未収得スキルってのが消えてかなりスッキリ。
すみません、スキル欄の<田舎暮らし>ってスキルの後ろの(*)ってなんですか?」
「あれは統合系スキルと呼ばれるモノですね、そのスキルは複数のスキルを内包しているんですよ。田舎者と言う職業の特徴なのですが、様々な職業の劣化版の様なスキル構成をしているんです。“詳細表示、<田舎暮らし>”」
田舎暮らし
・田舎暮らし(魔法)・・・魔力支配(統合済み)
・田舎暮らし(戦闘)・・・刀術、体術、斧術、弓術、槍術、盾術、索敵、身体支配(統合済み)
・田舎暮らし(生産)・・・調薬術、鍛冶、錬金術、魔道具作成、農業全般
・田舎暮らし(生活)・・・解体、調理、清掃、建築、生存術、魔物の雇用主
「流石上級職ですね、本来なら調薬術や鍛冶、錬金術、魔道具作成などは劣化版のものが付与されるのですが、通常のモノが付与された様です。それと身体支配ですね、これは無音行動や気配察知、思考加速と言った自身の身体に関わるスキルが統合された様です。よりスムーズに様々な事が出来る様になっている筈ですよ?」
おぉ~、でもこれって鑑定で分かっちゃうじゃん、バレたらまずいじゃん。
「あぁ、鑑定では分かりませんよ?上級の人物鑑定でも<田舎暮らし(魔法)>や<田舎暮らし(生産)>までは分かりますがその詳しい内容までは分かりません。
因みにケビン君は魔力適性がないので所謂残念スキル扱いをされると思います。たまにいるんですよ、魔法適性が無いのに魔力操作や魔力回復を持っている者が。皆魔法を諦めずに努力された方なので言われるほど残念でもないのですが、周りには理解していただけない様です」
「あぁ、俺の同類ですね、了解です。
それとこれは質問なんですが、この称号ってスキルみたいに統合とかって出来ます?
もしくは統合系スキルみたいに中に仕舞い込むとか」
「出来ますよ?称号は我々側にとっての目印、要は付箋ですから。ですが何か題名になる称号が必要になります。それと加護に関してはどれか一つを選んでいただかなければなりません」
「でしたら称号は<辺境の勇者病仮性患者>で。それと加護は<食料神の加護>でお願いします」
「分かりました。それと今後何か新しいスキルが発生した場合でも、そのほとんどが田舎暮らしに統合されてしまいますのでご注意ください。おそらく自身のスキルがよく分からないといった弊害が生じますので、<自己診断>と言うスキルを付与しておきます。これは自身の事についてのみ鑑定できるスキルです。それなりに便利なスキルだと思うのですが、鑑定と比べると汎用性に欠ける為か不人気スキルの一つとされています」
「えっ、マジっすか、これって所謂ステータス確認じゃん。通知表じゃないけど偶に確認すると面白いかも」
「ではこれよりケビン君を授けの儀の場所にお戻しします。時間は刹那の間しか経っていませんので日常生活に支障は無いはずです。この現象は特に光ったりしませんので周りから気付かれる心配もありません」
「はい、何から何までありがとうございます。
あ、忘れる所だった。前にそちらの御方様が教会にお忘れになったお酒とグラスをお預かりしているんですが、どういたしましょうか?
化け物から救い出した賢者の亡霊に飲ませてしまったのと、呪いの森に囚われた魂の安寧を願って使用してしまったんですが」
そう言い収納の腕輪から取り出した酒瓶とコップに、”ヤベッ、完全に忘れてた!”と言った顔になる”あなた様”。
「そちらの品はケビン君に差し上げます。まだそれなりに中身も残っているようですし、その酒瓶自体液体専用のマジックバックのようなものなのですよ。
それと”$$%&”あなたは後で私の執務室に来る様に、少々お話があります」
本部長(仮)様からのお言葉に、顔色を悪くなされる“あなた様”。こんなヤバい物を忘れて行った“あなた様”が悪いと思います。十分反省なさってください。
「それでは皆様お世話になりました。
授けの儀に戻らせて頂きます」
俺は全ての御方様方に感謝を込めて礼をする。すると徐々に光に包まれて行く身体、これで漸くこの事態から解放されるんだとホッと胸を撫で下ろす。
「こちらこそいろいろご迷惑をお掛けしてすみませんでした。何か困った事がありましたら教会の女神様の像の前で祈りを捧げてください。“本部長”と呼んでくださればお応えいたしますから」
そう言い柔和な笑みを浮かべられる“本部長”様。
・・・全部筒抜けだったのね。
背中に冷たい汗を感じながらも、乾いた笑みを浮かべるケビン少年なのでありました。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora