不意に耳に聞こえ始める喧騒、シスター様の“はい、皆さん目を開けて案内に従って移動をお願いします”の声に自分があの不思議な場所から戻って来た事を実感する。
目を開け隣を見れば、地味顔の少女が死んだような眼差しでこちらの方を見詰めている。
「ケイト、移動しようか?」
“コクコク”
周りで祈りを捧げていた少年少女たちがそれぞれシスター様や神官様の案内に従い移動を開始する中、俺たちも立ち上がりその後に続いて行く。どうやら俺たちの組の中からは詳細鑑定行きの子供は現れなかった様だ。
移動しながら
“私聖女様の職業を授かったらどうしよう”
“ケイティーなら授かってるかも、だってとっても綺麗でいかにも聖女様って雰囲気だもの”
”え~、それを言ったらキャッシーもじゃない”
とおしゃべりを楽しんでおられるお二人さん、残念ながらそれはなさそうですよ?
これから頂く鑑定結果が何であれそれは女神様が与えて下さった御慈悲、がっかりなさらないでくださいね?
大聖堂から移動すること暫し、広い中庭の様な場所に設けられた簡易ブースの様なところ、ここで各々の鑑定を行う様だ。
「はい皆さん、こちらでそれぞれの列に割り振りますので、自分の順番が来るまで騒がず大人しく待っていてください」
広場では担当の神官様がそれぞれのブース前に子供たちを整列させています。それはまるでインフルエンザワクチンの集団予防接種会場の様相、鑑定が終わった子供はそのまま後方に送られ、シスター様の案内のもと保護者の待つ大聖堂前に移動するようです。
「はい次、こちらに入って来てください」
呼ばれて向かった鑑定ブースには鑑定士らしいシスター様とその助手の様な方。
シスター様は俺を椅子に座らせると、丸い水晶の様なものに両手を置きながら「<鑑定>」と唱えられました。
するとシスター様の手の置かれた水晶球が淡く光り、その隣で控えていた助手の方が水晶から繋がっているであろう石板の様なものを見ながら、何やら凄い速さで文字を書き写し始めました。
「<転写>」
助手の方は文字を書き写した紙に手を翳し何やら唱えられます。すると助手の方の隣に置かれていたノートに文字が浮かび上がりました。
これって一体?
「あぁ、今のは書士のスキルで<転写>って言うんだよ。僕は教会と契約している書士でね、定期的にこの仕事を受けてるんだ。無論君の鑑定結果は教会との契約で話せない様になってるから心配しなくてもいいよ。これは女神様の下で行った契約だから絶対なんだ」
あ、こちらは外注の業者さんなんですね、そうですよね、いくら教会でもこれほど大勢の書士の方を抱え続けるほどの余裕はないですもんね。なんか凄く納得出来る。
俺は書士さんから鑑定結果の書かれた用紙を頂き、鑑定師のシスター様に一礼をしてからその場を後にするのでした。
「よっ、お疲れ様」
鑑定ブースから少し出た所、俺がおそらく少し遅れて出て来るだろうケイトの事を待っていると、案の定暫く時間を置いてから何か鑑定書とは別の用紙を持ったケイトがテトテトとやって来ました。
「ん。」
ケイトが差し出して来たのは鑑定書と“領都学園入学説明会のお知らせ”と書かれた用紙。ケイトさん、無事に王都行きを回避出来た様です。
「取り敢えずザルバさんの所に行こうか」
「ん。」
この結果を持ちまして“ケイトの王都学園回避ミッション”終了です。ザルバさんには大手を振って報告出来ると言うもの、良かった良かった。
「ん。」
「えっ?俺は学園に行かないのか?行く訳無いじゃん、俺っち只の村人よ?そんな大層な職業を授かる訳無いじゃん」
「ん?ん!」
「“おかしい、そんな筈はない”なんて言われましてもね。どんなペテンを使った!?って失礼な、女神様がお与え下さる職業に俺ごときが何か出来る訳ないでしょうが。
それに鑑定書の偽造は犯罪よ?しかも鑑定記録が教会に残ってるのよ?そんな危ない橋は渡りませんっての」
「ん~。」
ケイトさんは何か納得されておられないご様子ですが、全ては女神様の思し召しでございます。
俺は未だ不信がるケイトに“早く行くぞ”と声を掛け、ザルバさんの元へと向かうのでした。
「二人ともお疲れ様、どうやら望んだ様な職業を授かれた様だね。」
ザルバさんは無事に大聖堂から戻って来た俺たちを満面の笑みで出迎えてくれました。
ザルバさんからのご依頼、ここに完了でございます。
俺は先程ケイトから渡された鑑定書をザルバさんに手渡します。
名前 ケイト
年齢 十二歳
種族 普人族
職業 闇魔導師
スキル
魔力制御 魔力操作 魔力回復 魔力障壁 魔力視 魔力耐性 魔力枯渇耐性 魔力感知 魔力状態異常耐性 魔力隠蔽 飢餓耐性 歌唱
魔法適性
闇
「・・・・・何か凄い数のスキルだね、これで良く王都の学園行きを回避出来たものだよ。実は結構危なかったんじゃないのかい?」
何か鑑定結果にビビるザルバさん。
「大丈夫ですよ?俺もケイトも魔力の制御は完璧ですから。
そんな人前で魔力の多さをひけらかすなんて馬鹿な真似はしませんっての。どうやら学園での価値基準は職業と魔力の多寡ですから、領都の学園では特化型魔導師として多少は注目されるかも知れませんが、魔力量の少なさからそこまで問題にされないと思います。
後は魔法回数とかの練習ですかね、現在の魔力量と言う設定でいかに魔法を制御するのか。村に帰ったら暫くは魔法漬けの日々ですよ」
俺がそこまで言うと少しホッとした表情になるザルバさん。娘さんを持つお父さんは大変です。うちなんか基本“お前なら大丈夫だろう”ですからね、信頼されているんだか放置されているんだか。
俺が悪いと言われると否定のしようも無いんですが。
でも飢餓耐性ね、やっぱりヨーク村はろくでもなかったって事なのね。これってスラム街出身者には結構あるんだろうな、世知辛いよな。
後気になるのは歌唱ってスキル。これってあれだよね、例の天使の歌声だよね、スキルって事は歌で色々と出来ちゃうって感じ?森で魔物を従えてたし、俺の体調も整えてくれたし、かなり有効なスキルなのかも知れない。
王都で天使って言われた歌声って事は、多分先天的なスキルだね。そりゃ騒ぎになるっての。
「ところでケビン君はどう言った職業を授かったのかな?別に秘密にしたかったら構わないんだが。基本的にスキルや魔法適性に関しては、家族以外には秘密にするし聞き出さないと言うのがマナーとされているんだ。」
「ん?別に構わないですけど、それだったらどうしてケイトは俺に鑑定書を渡したの?ザルバさんに直接渡せば良くない?」
「ん、ケビン、家族。」
おお?ケイトが自分の言葉で主張した。これは中々レアじゃね?それだけ気持ちが籠っているって事?俺が家族ね~、嬉しい事を言ってくれるじゃない。
それじゃ家族には鑑定結果をお教えしないといけませんな。
俺はおもむろに鑑定書を広げてみせるのでした。
「お疲れ様でした、ケビン君、ケイトちゃん。それぞれ良い職業を授かったご様子、おめでとうございます。」
「ロイドさん、どうもありがとう。それとケイトが特化型魔導師の職業を授かってね、春から領都の学園に通う事となったんだ。そう言う訳で明日は学園の入学説明会に行かなければならないんだよ。」
「左様でございますか、これは重ねてお祝い申し上げます。そう言う事でしたら明日はまた宿の方へお迎えに上がりますので、よろしくお願い致します。
それとケビン君にお城の方からお迎えが参られております。何でも色々とご相談したい事があるとか。あとドレイク村長代理様より御言付けがございます。
“ケビン君、申し訳ない。でも限界なんだ、助けて”だそうです。どう言う事だかは分かりかねますが、確かにお伝え致しました」
案内人さんがそう仰ってとある方向を指し示されます。そこには昨日お会いしたばかりの執事様が、笑顔で馬車にご案内してくださる姿が見えるのでした。
“ガタガタガタガタ”
馬車は走る、領都の石畳の上を一路領主グロリア辺境伯様の居城を目指して。
俺は窓辺に顔を近付け、流れ行く街並みに目をやりながら独り言ちる。“どうしてこうなった”と。
授けの儀が終わり、鑑定結果をザルバさんに報告して後は仲良く宿に帰ろうとしていた俺たちに告げられた衝撃の言葉。
ドレイク村長代理~、もう少し頑張ろうよ~。まぁ授けの儀も終わったし、最悪逃げ出せば良いけどさ~、一生に一度の晴れの日よ?ケイトちゃん一緒に屋台巡りするの目茶苦茶楽しみにしてたんよ?
もうね、去り際めっちゃ不機嫌。
“私と仕事とどっちが大事なのよ~!!”とでも言い出しそうな勢い。無口なケイトは言わないけど、目がね、マジなんだもん。
村に帰ったら何か埋め合わせしておかないと駄目なんだろうな~。
何かため息出そう。
「ケビン君、本当にごめん。私じゃどうにもならなくてね。問題が問題だけにグロリア辺境伯様もメルビン司祭様も頭を抱えられてしまって堂々巡りになってしまったんだよ。
そこでこんな晴れの日に申し訳ないんだけど、ケビン君の意見が聞きたくてね」
お城に着いた私を出迎えてくださったのは、ちょっと見ない間にひどく疲れ切ったご様子の我が村の英雄。ドレイク村長代理、目の下に立派な隈を作っておられます。その向こうのお三方も似た様なご様子。
ここは昨日会談を行った来賓の間、皆様あれからずっと会議を行っておられたんですか?それはそれはお疲れ様でございます。
でもそんなに難しく考えなくても良いと思うんだけどな~。
まぁぶっちゃけどうでも良いんですけどね、無責任な子供の意見でよろしければお話させていただきますかね。
俺は“あくまでも子供の戯言、頭を休める為の余興程度と思ってお聞き下さいませ”と前置きをして、話を始めるのでした。
―――――――――
彼は嵐のような少年であった。初めてあった時はオドオドとした本当に子供らしい“純朴な村の少年”と言った雰囲気の少年であった。
私達は皆そんな彼の姿にすっかり騙されてしまっていたのだが。
我々が頭を悩ませていた問題は二つ、一つは“聖水布”、もう一つは“エルセルの腐敗”。そのどちらもがここグロリア辺境伯領を揺るがしかねない大問題であった。
「一体何について悩まれる必要があるのでしょうか?物事は複数の事柄を同時に行おうとすればする程、些細な事が酷く難しい問題の様に感じるものです。」
彼はそう言うと我々に具体策を話始めるのでした。
「まず“聖水布”ですね、こちらは当初の計画の通りに教皇様にお任せ致しましょう。そしてグロリア辺境伯領からの使者として領都グルセリアの教会の司祭様を立てます。メルビン司祭様のお話ではこちらの司祭様は王都の枢機卿の座を狙っておいでとか。グロリア辺境伯様とメルビン司祭様の連名で、教皇様に推薦状を御出しください。そして教皇様にはこう付け加えるのです。“聖水布に関する王宮とのやり取りは新枢機卿にお任せすれば良い”と。女性の美に対する欲求は止まる事を知りません。王宮と言う権威の象徴との折衝であれば、出世欲の強い領都の司祭様も満足されるのではないですか?
ですが人間とは面白いもので”うまい話には裏がある”と勘ぐるものです。そこで領都の司祭様には、“事がなり枢機卿様にご出世なされたさいには領都教会司祭の後釜に推薦して欲しい、領都の女性は素晴らしいですから”くらいの事を言って置けば上手く踊ってくれるでしょう。
ですがそうなると今度は供給量についての問題をこちらに丸投げされかねません。そこで王都の商会を巻き込みます。
ですが“聖水布”はあくまでも女神様の慈悲です、その選定は教皇様の采配次第。教皇様の発言力と財力は更に高まる事でしょう。
こうした内容をうまく文章にして教皇様にお伝えください。
詳しい内容は教皇様を交えてご相談ください。
次に“エルセルの腐敗”ですね。あそこは現在犯罪の巣窟です。その中心は監督官、冒険者ギルド、教会になります。
考えて見てください、エルセルの手前にあった追い剥ぎ村、あの村は奪った盗品、時には女子供を何処に売り飛ばしていたのか?たかが村の人間が大規模な盗品販路を持ってる訳がない。
既に明確な証拠があるというのに、この様なところで話し合いと称して時間を費やす意味が分からない。
あの街には今も奴隷として囚われた者がいるかも知れないと言うのに。
今年に入ってから我がマルセル村が盗賊の襲撃にあった回数をお教え致します。十七回です。
今月は既に三回ありましたが、今もまた襲われているやもしれません。何せこの時期は一番獲物が肥太っていますから。そして我がマルセル村が狙われる理由ですが、エルセルの行政府から情報が漏れているのですから当たり前です。ビッグワーム農法による税収の増加、あの周辺では一番美味しい獲物に見えるのではないですか?うちは誤魔化す事なくちゃんと納税していますから。
これで話は終わりです。後は為政者の問題、領民は畑を耕し麦を納める。ドレイク村長代理、早くマルセル村に帰りましょう。我々には“害獣駆除の仕事”が待っています。全く魔物より厄介ですよ」
彼はそこまで語ると踵を返す、それは“お前たちはこれ迄一体何をやっていたのだ?”と心底呆れているかの様な後ろ姿であった。
本日一話目です。